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アメリカAI行動計画(トランプアクションプラン) / Winning the AI Race: America’s AI Action Plan雑感



 先日から日本のAI推進法、EU AI Actと取り上げているので今回はアメリカのトランプアクションプランを取り上げる。


 出たのは今年7月であり、深夜のホワイトハウスの公表同時にキャッチして読みその内容に驚いたのは未だ記憶に新しい。
 今回は以下で記載したものよりもう少しだけ踏み込んでまとめることを試みる。


0 概要

 2025年7月、米国のAIガバナンスは極めて対照的な二つの顔を持つ新たなフェーズへと移行した。トランプ大統領が公表した「Winning the AI Race: America’s AI Action Plan」(以下、AI行動計画)と、それに付随する三つの大統領令(データセンター・インフラ許可加速、AIスタック輸出促進、連邦政府における「目覚めたAI」防止)は、一見するとバイデン政権期に築かれた「安全・安心」のナラティブを全否定するかのようなレトリックに彩られている。

 しかし、その実態を仔細に読み解くと、単なる「規制撤廃」や「反Woke」のイデオロギー闘争にとどまらない、より実利的かつハードな産業政策への転換が見て取れる。すなわち、AIを「管理すべきリスク」から「国力としてのインフラ」へと再定義しつつ、バイデン政権下で整備されたNIST(国立標準技術研究所)を中心とする評価・安全保障の枠組みについては、その矛先を社会的害悪から国家安全保障へと絞り込んだうえで、むしろ強化・温存しようとするしたたかな戦略であるとも理解できそうである。

 本記事は、AI行動計画の全体像を俯瞰しつつ、バイデン政権からの「断絶と連続」の構造、そしてAI政策がエネルギー政策や通商政策といかに融合しつつあるかについて整理する。


「Removing Red Tape and Onerous Regulation Ensure that Frontier AI Protects Free Speech and American Values」


❶3つの柱:①イノベーション、②インフラ(データセンター等)、③輸出・外交・安全保障(米国の技術スタックを世界標準に)

❷絶対条件:①アメリカの労働者をAIによって生み出される繁栄の中心に、②政府が調達するAIモデルは、偏見がないものに、③悪意ある行為者による誤用や盗難の防止)


(3つの柱の概要)

①イノベーション
 ・煩雑な規制の撤廃
 ・AIの解釈可能性、制御、堅牢性におけるブレークスルーへの投資
 ・AI評価エコシステムの構築
 ・法制度における合成メディアのリスクへの対抗

②インフラ
 ・データセンター、半導体製造施設、エネルギーインフラの許認可を合理化
・軍および諜報機関向け高セキュリティデータセンターの構築
・重要インフラのサイバーセキュリティ強化
・AIインシデント対応における連邦政府の能力の促進

③輸出・外交・安全保障
・国際的なガバナンス機関における中国の影響力への対抗
・輸出管理
・国家安全保障リスク評価の最前線に立つことの保証
・バイオセキュリティへの投資


1 AI行動計画の全体像 ―「イノベーション・インフラ・外交」の三本柱

 AI行動計画は、従来の「リスクベース・アプローチ」とは異なり、明確に「AIレースへの勝利」を目的とした産業政策の色彩を帯びている。その骨格は以下の三本柱から成る。

 第一は「AIイノベーションの加速(Pillar I)」である。ここでは、バイデン政権の大統領令(EO 14110)の撤回や、FTC(連邦取引委員会)・FCC(連邦通信委員会)による規制の見直しといった「レッドテープの除去」が掲げられる一方で、AI導入を促進するためのサンドボックス制度や「AI Center of Excellence」の設置、さらにはNAIRR(国家AI研究リソース)を通じた計算資源へのアクセス拡大といった支援策が並ぶ。

 第二は「米国のAIインフラの構築(Pillar II)」である。AIを単なるソフトウェアではなく、電力と物理インフラを要する産業として捉え直し、データセンターや半導体工場、電力網の整備に対する環境許認可(NEPA等)の大幅な緩和を打ち出した。これは、AI政策が環境・エネルギー政策と不可分になったことを意味する。

 第三は「国際AI外交・安全保障(Pillar III)」である。ここでは、AIを同盟国との連携強化と対中競争のツールとして位置づける。具体的には、チップからモデル、アプリケーションに至る「フルスタック」のAI技術を同盟国へ輸出するコンソーシアムを形成する一方で、対中輸出管理の執行強化や、国際標準化機関における影響力確保を目指すものである。


2 インフラ政策としてのAI

 AI行動計画を実効あらしめる法的ツールとして署名されたのが、「データセンターインフラの連邦許可を加速する大統領令」である。これは、AI開発のボトルネックが「計算資源と電力」にあることを的確に捉えた産業政策といえる。

 同命令は、AI推論・学習等に100MW超の負荷を要する施設を「データセンタープロジェクト」と定義し、その建設に必要な送電線、発電所(天然ガス、原子力等を含む)、半導体製造施設等を対象コンポーネントとして指定した。

 特筆すべきは、これらのプロジェクトに対し、NEPA等の環境規制における「カテゴリカル・エクスクルージョン(包括的適用除外)」の適用拡大を命じた点である。さらに、連邦政府による財政支援が総事業費の50%未満であれば「主要な連邦行為(major federal action)」には該当しないと推定する解釈指針も盛り込まれており、環境影響評価の手続きを事実上バイパスさせることで、インフラ構築のスピードを劇的に上げる狙いがある。

 これは、欧州がAI法(EU AI Act)等の「規制」によって市場を形成しようとしているのに対し、米国は「物理インフラとエネルギー」の供給能力によって覇権を握ろうとしていることを示唆している。


3 「価値観」の転換とNIST/CAISIの役割変容

 AI行動計画および「連邦政府における目覚めたAI(Woke AI)の防止」に関する大統領令は、AIガバナンスに文化面の要素を持ち込んだ点で特異である。しかし、ここで注目すべきは、バイデン政権下で構築された技術的評価の枠組み自体は維持・強化されているという点である。

(1)NIST AI RMFの「政治的中立化」と安全性の再定義

 行動計画は、NISTに対し、技術標準であるAIリスク管理フレームワーク(AI RMF)から、「誤情報(misinformation)」「DEI(多様性・公平性・包摂性)」「気候変動」に関する記述を削除するよう求めているようである。

 これは単なる用語の削除にとどまらない。これまで開発者に求められてきた「社会的公正への配慮」という非技術的な要件を取り払い、AIガバナンスにおける「安全性」の定義を、「社会的害悪の防止」から「国家安全保障上のリスク管理(サイバー攻撃や兵器転用の防止)」へと、狭く、深く再定義する意図がある。政権のロジックでは、DEI等の要素をリスク管理に含めることこそが、AIの客観的な真実探求(truth-seeking)を歪め、イデオロギー的なバイアスを埋め込む行為であると見なされている。

(2)CAISIによる国家安全保障リスク評価の継続

 重要なのは、こうした反DEIのレトリックの一方で、NIST傘下のCAISI(Center for AI Standards and Innovation:旧AI Safety Instituteの機能を継承・改組したものと推察される)が、引き続きフロンティアモデルのリスク評価の中核機関として位置づけられていることである。

 AI行動計画は、CAISIに対し、フロンティアモデルのサイバーセキュリティリスクやCBRNE(化学・生物・放射性物質・核・爆発物)リスクの評価、さらには他国製モデルの検閲機能に関する評価を行うよう求めている。つまり、AIの安全性評価(Safety Evaluation)という機能自体は、バイデン政権から断絶することなく、むしろ競争や軍事・諜報における「実利的なツール」として強化され、存続しているのである。


4 輸出管理と技術外交の融合

 三つ目の柱に関連して署名された「米国AIテクノロジースタックの輸出を促進する大統領令」は、AIを外交カードとして利用する姿勢を鮮明にしている。

 ここでは、半導体からクラウド、モデル、アプリケーションに至るフルスタックをパッケージ化し、同盟国への輸出を促進する構想が描かれている。商務省に対し、産業コンソーシアムから輸出パッケージの提案を募り、輸出入銀行(EXIM)や国際開発金融公社(DFC)等の金融ツールを総動員して支援することを命じている。

 これは、デジタル主権を掲げて独自規制に動く国々に対し、米国規格のAIインフラを物理的に埋め込むことで、事実上の標準化を達成し、同時に他国製AIの浸透を阻止しようとする陣取り合戦の様相を呈している。


5 日本への含意

 トランプ政権のAI行動計画は、「規制撤廃」と「インフラ構築」を車の両輪とする強力な産業政策である。日本のAIガバナンスにとっても、以下の点は示唆を含んでいる。

 第一に、「安全性評価」の質的転換である。米国は、AIの安全性を「公平性やバイアス」といった社会的価値の問題から切り離し、「国家安全保障上の物理的脅威(サイバー、CBRNE)」の検知・評価へと純化させつつある。日本が今後AISI(AIセーフティ・インスティテュート)等の活動を通じて国際連携を進める際、このスコープのズレをどう調整するかが課題となるだろう。

 第二に、エネルギー・インフラ政策との連動である。米国が環境規制を緩和してまでデータセンターと電力網の拡充に走る中、計算資源の確保は純粋なパワーゲームの様相を呈している。日本においても、AI政策を単なるソフトローや原則論に留めず、電力供給や立地計画を含むハードなインフラ政策として再定義する必要性が高まっている。

 EUが包括的規制によるルールの輸出を目指す一方で、米国は圧倒的な計算資源とインフラによる実力の輸出、ビッグテックによる強力な推進へと舵を切っている。この二極化するグローバル・ガバナンスの中で、日本がどのような立ち位置を確保するのか、極めて現実的な戦略が問われている。

(参考)


6 さいごに(留意点)

 世界のAIガバナンスを見るにあたって一番注意すべきは、”アメリカは推進、EUは規制”というバイアスである。
 これは、今年の夏、ワシントン大に行った際に法学教授と二人で話す中でハッとさせられた視点である。カリフォルニア等州法レベルまで目をやるとかなり厳格な規制が準備されていることが多い。アメリカについては州法まで目を配りつつ検討することが不可欠であるといえる。

(参考)

【最新動向】 トランプ「ONE RULE」大統領令 / トランプ政権のAI国家戦略と州規制への対抗措置

【最新動向】 エド・マーキー上院議員他、州AI規制法をブロックするトランプ大統領令をブロックする法案

(参考)ホワイトハウスAI最新動向


【参考文献】

· The White House, Winning the Race: America’s AI Action Plan, July 2025.

· Executive Order, “Accelerating Federal Permitting of Data Center Infrastructure,” 23 July 2025.

· Executive Order, “Promoting the Export of the American AI Technology Stack,” 23 July 2025.

· Executive Order, “Preventing Woke AI in the Federal Government,” 23 July 2025.


(マガジン)「AIと法-雑感」

 ※目次は以下を参照

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