ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)報告書『Trump Administration Science & Technology Highlights: Year One』 / 第2次トランプ政権「1年目の科学技術ハイライト」に見るAI法政策の転換
0 はじめに
2026年1月、ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)は第2次トランプ政権の1年目を総括する報告書『Trump Administration Science & Technology Highlights: Year One』を公表した。他方、Center for AI and Digital Policy(CAIDP)は同報告書が民主的統治・人権保障の観点が希薄であり、被害救済や独立監督の議論が乏しいと指摘する。本稿では両者の視点から米国AI法政策の現状を分析する。
1 問題の所在 リスク管理から「勝利」へ
バイデン政権下のAI政策は安全性・信頼性を最優先とし、権利侵害リスクを未然に防ぐガードレール構築を目指していた。トランプ政権はこれを根本から否定した。
報告書は、2025年1月の就任初週に署名された大統領令14179号によりバイデン政権のAI大統領令が撤回されたことを成果の筆頭に挙げる。これに代わる「米国AIアクションプラン」では、90以上の連邦政府アクションを通じてAI採用促進、レッドテープ撤廃、インフラ構築を推進する姿勢が示された。法学的に見れば、AI規制の目的が「市民的自由の保護」から「国家競争力の最大化」へと書き換えられた。
2 連邦統一と「Woke AI」排除
米国AI規制の懸念材料として議論されてきたのが、連邦レベルの包括的法制の不在と州法規制の乱立である。2025年12月の大統領令14365号は、州による独自の規制強化を事実上無効化する方向性を打ち出している。企業にとってはコスト削減のメリットがある一方、地域住民がAIリスクから自身を守る権利を制限する側面を持つ。
さらに注目すべきは2025年7月の大統領令14319号「連邦政府におけるWoke AIの防止」である。関連するOMB覚書M-26-04は、連邦政府が調達するAIモデルにイデオロギー的バイアスから自由であることを求める。政府が特定の視点を「中立」と定義しそれ以外を排除することが言論の自由といかに整合するかは法的争点となりうる。
3 インフラ構築と環境法の変容
報告書においてAI政策は実質的にエネルギー政策と同義である。大統領令14318号に基づき環境アセスメントが劇的に短縮された。「スターゲート」プロジェクトは4年間で5000億ドルを投資し最大20のデータセンターを建設する計画であり、7ギガワット以上の電力需要が見込まれている。AI開発という国益の前では環境保護法制の手続き的保障は劣後するという価値判断が下されている。
4 統治の空白
CAIDPの批判の核心は、報告書が「勝利の目録」に徹するほど統治の論点がこぼれ落ちている点にある。AI政策が国家競争・産業政策に吸収されると、人権影響評価、独立監督、被害救済といった民主主義の摩擦材が障害物として処理されやすい。影響評価は影響の可視化、説明責任の根拠、争訟・救済の入口を束ねる「結節点」であるが、これが欠けると問題発生時に「何が起きたのか」を確定できない。
5 国際戦略と児童保護
国際的には大統領令14320号に基づく「American AI Exports Program」が立ち上げられた。米国のAI技術標準を世界に広め敵対国のシステムへの依存を減らす「攻めの経済安全保障」である。日本や英国など8カ国が署名した「Pax Silica」宣言は、半導体や重要鉱物のサプライチェーン確保のためのブロック経済的枠組みを示唆する。
他方、規制緩和を基調とする中で例外的に規制強化が進められた分野が児童保護である。「TAKE IT DOWN Act」(2025年5月署名)は、非合意的な親密画像やディープフェイクポルノの拡散に対し罰則強化とプラットフォーム事業者への削除義務を課す。
6 日本への含意
日本のAI政策は米国型の競争フレームを参照しつつ、人権・民主主義・法の支配を掲げる枠組とも整合させる必要がある。制度を「速くする」政策と「正当化する」政策を同じ設計図に描き込む技術が問われている。影響評価・独立監督・救済を、社会実装の持続可能性や国際取引における信頼資本を生むインフラとして再定義することが重要である。
報告書は、米国がAIを「管理すべきリスク」から「国家の命運を握る力」へと再定義したことを物語る。連邦法による州法の無力化、環境アセスメントの省略、政府調達を通じたイデオロギー介入といった強権的手法がためらいなく行使されている。2026年のAI法学は、アルゴリズムの公平性を問うだけでは不十分である。それを動かすための土地と電力、サプライチェーン、国家の意思決定プロセス全体を射程に収める必要がある。
(参考)アメリカAI行動計画関係
参考資料
The White House, Office of Science and Technology Policy, "Trump Administration Science & Technology Highlights: Year One" (Jan. 2026)
https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2026/01/WHOSTP-2025-Wins.pdf(最終閲覧日2026年1月25日)
Center for AI and Digital Policy, "White House OSTP Report on U.S. Science & Technology Leaves Key Gaps in AI Policy" (Jan. 2026)
https://www.linkedin.com/posts/center-for-ai-and-digital-policy_science-and-technology-ostp-2026-activity-7420843633416859649-7gGb(最終閲覧日2026年1月25日)
The White House, "Removing Barriers to American Leadership in Artificial Intelligence" (Jan. 23, 2025)
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/01/removing-barriers-to-american-leadership-in-artificial-intelligence/(最終閲覧日2026年1月25日)
(マガジン)「AIと法-雑感」
※目次は以下を参照
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