英国データ(利用とアクセス)法135-137条に基づくAI著作権法見直し作業の状況雑感
0 はじめに
人工知能(AI)による大規模なデータ解析・生成技術の発展は、著作権法の枠組みに大きな課題を投げかけている。とりわけ、生成AIの開発にはインターネット上の大量のテキスト・画像・音楽など著作物が無断で学習データとして取り込まれる場合が多く、これが著作権侵害に当たるのか否かという根本問題が国際的に議論されている。著作権者(クリエイター)からは、自らの作品が無断でAIの訓練に使われることで経済的・精神的利益が損なわれるとの懸念が示される一方、AI開発者や利用者の側からは、データ収集や機械学習の過度な規制は革新的技術の発展を阻害しかねないとの声がある。こうした「創作者の保護」と「AI産業の振興」という相反する利益の調和が、AI時代の著作権法における主要な論点となっている。
イギリスでは、近年の生成AIブームに対応してこの問題に対処すべく、2025年データ(利用とアクセス)法(Data (Use and Access) Act 2025、以下「DUAA」)が制定された。この法律自体は著作権法の実体規定を直接変更するものではないが、AIと著作権の交錯領域に関する将来的な法改正のためのロードマップを提示するものとなっている。具体的には、同法135~137条において政府に対し①AIモデルの開発に著作物を用いることの経済的影響評価、②著作物のAI開発用途に関する実態調査報告書の作成、③上記作業の進捗状況の議会報告、という三つの義務を課している。本稿では、英国におけるこのAI著作権法見直し作業の現状とその法的論点について事実に基づき概観し、併せて欧州連合(EU)や日本の状況との簡単な比較を行う。なお、本文は筆者の私見ではなくあくまで動向整理に留め、可能な限り中立的な記述を心掛ける。
1 問題の所在:AIと著作権の衝突
AIの開発と利用のプロセスにおいては、大きく二つの局面で著作権法上の問題が生じる。第一は「学習段階」における問題である。生成AIは高品質な創作物を大量に学習することで初めて高度な出力を行えるようになるため、開発者はウェブ上の文章・画像・音声など膨大な既存コンテンツを収集して機械学習モデルに投入する。しかしこれらコンテンツの多くは著作権で保護されており、本来であれば利用には権利者の許諾が必要となるはずである。AIによる無断データ収集・解析が著作権法上の複製権侵害等に該当しうるとの指摘は当然であり、近年では日本やドイツで、学習データとしての無断コピー行為が許されるか争点となった裁判例も現れ始めている。AI企業側は「学習行為は人間による鑑賞・享受を目的としない非表示利用であり、市場を代替しないから適法」と主張する一方、権利者側は「AIによる大量無断コピーは将来的に創作者の利益を大きく損なう」として強く反発しており、この点に関するルール整備の要請が高まっている。
第二は「生成物(アウトプット)に関する問題」である。生成AIが作り出す文章・画像・音楽などのアウトプットが既存の著作物に依拠または類似している場合、著作権侵害(翻案権侵害など)の問題が生じる可能性がある。また、仮にアウトプットそれ自体が完全な独創物であったとしても、それを創作したのが人間ではなくAIである場合、その成果物に著作権を認めるべきか(認めるとして誰に帰属させるか)という著作権の帰属主体の問題も重要である。現行の日本法やEU法では「著作物の創作者」は人間に限られるとの解釈が一般的であり、AIが自律的に生み出した作品は原則として著作物として保護されない。米英法でも同様で、米国では近時AIが描いた画像の著作権登録が却下され話題となった。一方で英国には従来から、人間の関与なしに作られたコンピュータ生成物について特別に50年間の著作権保護を与える規定がある1988年著作権・意匠・特許法(CDPA)9条(3)及び12条(7))点は特筆される。しかしいずれにせよ、純粋なAI創作物の保護の有無や、生成物が他人の著作物に依拠している場合の権利侵害の判断基準など、AI時代における著作権の在り方について各国で法的整理が進んでいないのが現状である。英国の「AIと著作権」見直し作業も主に前者の学習段階の問題(著作物利用の是非)にフォーカスしたものであるが、これと生成物の保護・利用の問題は表裏一体と言えるため、今後の検討では包括的な議論が求められるだろう。
2 英国の対応:Data (Use and Access) Act 2025
2.1 立法の背景
英国政府は当初、生成AIの開発のための大規模データ利用を促進すべくテキスト・データマイニング(TDM)の包括的例外規定を導入する意向を示していた。しかしこの案(いわゆるオプトアウト付き包括的TDM例外)に対しては、国内外のクリエイターや出版社から「権利者の許諾無しに商用目的まで含め著作物を使えるようにするのは行き過ぎだ」という強い反発が寄せられた経緯がある。2023年にはエルトン・ジョンやポール・マッカートニーら著名アーティストが連名で反対意見を表明するなど大きな議論となり、政府は一旦この方針を白紙撤回して改めて慎重に検討する姿勢を示した。こうした経緯を踏まえ、2024年末に議会に提出されたのがデータ(利用とアクセス)法案である。同法案の審議過程では、まず貴族院(上院)が2025年2月に「AI開発者に対し訓練データとして使用した著作物の開示義務を課し、既存の著作権法遵守を明確に要求する」修正条項を付加した。これは事実上、AI企業に対する透明性義務とライセンス取得義務を先取り的に法定しようとする試みであった。しかし庶民院(下院)は同年3月、この修正を全面的に削除する代わりに、政府に対して実態調査と影響評価を行わせる条項(135~137条)を盛り込む修正案を可決した。最終的に上院もこの妥協案を受け入れ、同年6月に法案は成立している。このようにDUAA成立の背景には、「拙速に規制を導入すればAI分野の発展を阻害しかねないが、だからといって何もしなければ権利者保護に欠け今度は創作産業が冷え込む」というジレンマがあった。立法者はまず十分なエビデンス収集と検証を行った上で最適解を探るという手続的アプローチを選択したのである。その意味で、DUAAのAI著作権関連条項(135~137条)はきわめて異例な「立法による調査指示」と言える。
2.2 135条・136条:経済影響評価と実態調査報告
DUAA第135条は、「著作物をAIモデル訓練に利用することに関する政策オプション別の経済的影響評価」を行うよう政府(デジタル・科学・イノベーション担当相)に義務付けている。具体的には、2024年に政府が実施した「AIと著作権」に関する公開諮問(Consultation)の設問で提示された4つの選択肢、すなわち「Option 0:現行法維持」「Option 1:著作物利用は常にライセンス許諾を要するよう法強化」「Option 2:あらゆる目的での包括的TDM例外を導入(許諾不要)」「Option 3:権利者にオプトアウト権を付与した上でTDM例外を導入(※政府優先案)」について、それぞれが権利者(著作権者)・AI開発者・ユーザに与える経済的影響を分析することとされている。特に中小企業等への影響にも配慮し、最適な政策を判断する材料とする狙いがある。提出期限は法案成立(2025年6月19日)から9か月以内と定められており、2026年3月18日までに議会提出される見通しである。
第136条は、「AIシステムの開発における著作物利用の実態に関する報告書」の作成を義務付ける。こちらも提出期限は2026年3月18日までであり、上記経済評価と同時に議会に提出される予定だ。報告書では、AI開発のために既存の著作物がどの程度・どのように利用されているか(利用実態の範囲と態様)を明らかにし、それに対する法政策上の対応策について提言を行うものとされている。136条は報告書の検討事項として技術標準(technical standards)やデータへのアクセス、テキスト・データマイニング(TDM)、情報提供(透明性)義務、ライセンス制度、エンフォースメント(執行)等の観点を具体的に挙げているのが特徴的である。また英国国外で開発されたAIシステムにおける著作物利用の実情についても考慮することが求められており、各国の状況を踏まえた包括的な提言となる見込みである。こうした広範な検討項目からも、この報告書が単なる実態調査に留まらず、今後の著作権法改正の具体案を示す役割を期待されていることが分かる。政府は関係業界や専門家を交えたワーキンググループを組成し、この報告書作成に向けた議論を進めている段階である。
2.3 137条:進捗報告書(プログレス・ステートメント)の公表
DUAA第137条は、上記の経済影響評価(135条)および実態報告書(136条)の作業について6か月以内の進捗状況報告(Statement of Progress)を議会に提出するよう義務付けた規定である。これに基づき政府は2025年12月15日、所管官庁であるデジタル・科学・イノベーション省(DSIT)、文化・メディア・スポーツ省(DCMS)および知的財産庁(IPO)の連名で「著作権と人工知能に関する進捗報告」を公表した。同報告書はまず、前述の経済評価および実態報告書が2026年3月18日までに議会提出予定であることを改めて確認し(これは法定期限の遵守宣言である)、併せて直近で実施された「AIと著作権」公開諮問の結果概要、および現在稼働中の4つのワーキンググループの活動内容を紹介する内容となっている。以下、進捗報告書の主なポイントを整理する。
まず、2024年実施の「AIと著作権」公開諮問の結果として興味深い統計が明らかにされた。諮問では前述の4つの政策オプションに関して幅広いステークホルダーから意見募集が行われたが、「全ての場合においてライセンス許諾を要求すべき(Option1相当)」との回答が全体の88%に達したことが報告されている。反対に「現行法を維持すべき(Option0)」との回答は7%しかなく、さらに「権利者の許諾不要とする包括的例外を導入すべき(Option 2)」はわずか0.5%という極端に低い支持しか得られなかった。政府が優先案として提案していた「オプトアウト付き例外(Option 3)」ですら支持率3%に留まったことから、諮問回答者の大多数は「AI訓練用途であっても著作物利用には基本的に許諾(ライセンス)が必要」という立場を強く求めている実態が浮き彫りとなった。もっとも、この数字は回答者層の偏りも反映している可能性がある。進捗報告書によれば、創作産業(クリエイター側)からは著作物利用の透明性確保や許諾制維持を求める意見が特に強かった一方、技術産業(AI企業側)はコスト増や事務負担を懸念して自主的・緩やかな措置を好む傾向が見られたという。回答者の中には、中間的な折衷策として限定的な例外の導入(用途や分野を限ったTDM許容など)を提案する声もあった。こうした意見の幅も踏まえ、政府は現在「データの統制と技術基準」「情報提供と透明性」「ライセンス制度」「クリエイター支援」の4分野に焦点を当てたワーキンググループを設置し、実務的かつ衡平な解決策を検討している。進捗報告書は「最終的な政策方針(経済評価や報告書の内容)を予断するものではない」と断りつつも、諮問結果において政府原案(オプトアウト例外)が支持を得られなかった事実や、現在の議論が「実効的かつ過度に事業負担とならない透明性・ライセンシングの実現」に向けて進んでいることを示唆している。これらから総合すれば、英国においては将来的に何らかの形でAI開発時のライセンス許諾義務や訓練データの開示義務等が導入される可能性が高まっていると言えるだろう。もっとも現時点ではあくまで検討段階であり、新たな法的義務はまだ何も発生していない。進捗報告書は主としてコンサルテーション結果の概要とワーキンググループの設置状況を報告するものであり、具体的な政策方針を示すものではない。なお、実務家の間では、現行法上AI開発者に訓練データ公開義務や著作物利用許諾義務が課されていないことを前提に、将来の規制強化に備えてデータ使用実態を記録・管理しておくこと、また権利者側においてはサイトの利用規約でスクレイピング禁止を明示したり、許諾を要する旨のメタタグを埋め込むといった自衛策が有効であるとの指摘がなされている。このように英国政府は、証拠に基づく立法を進める一方で、過渡期における当事者の自主的対応も促している。以上が進捗報告書の概要である。
3 強調すべき法的論点:権利者保護と利活用のバランス
以上の英国における取り組みを踏まえ、AIと著作権を巡る主要な法的論点を整理する。まず第一に「著作権の帰属」である。前述の通り、AIが生成したアウトプットの著作権を誰に帰属させるか(あるいは保護の対象とすべきか)は各国で議論が始まったばかりの新しい問題だ。英国法は1980年代からコンピュータ生成物の特例を設けているが、世界的にはむしろ例外的な存在であり、現在は日本やEUを含め「人間以外には著作物を創作する法的能力はない」とする立場が一般的である。もっともAIが関与して生み出された成果物についても、何らかの形で法的保護や創作者への報酬還元策を設けるべきだとの主張もある。英国の検討課題にも「クリエイターへの対価支援」が含まれており、AI時代における新たな権利帰属・報酬配分スキーム(例えば「AI学習適正使用料」のような制度)の可能性にも注目しておく必要がある。
第二に「テキスト・データマイニング(TDM)例外の在り方」が大きな論点となる。AI開発時のデータ収集・解析行為をどこまで著作権侵害から免除するか、各国で対応が分かれている。日本は2018年の著作権法改正で営利・非営利を問わず広範なTDM目的の無許諾利用を認める包括的例外規定(30条の4)を導入しており、必要な範囲であれば著作物を自由に解析利用できる「機械学習の楽園」と称される大胆な制度を敷いた。ただしこの規定にも「著作権者の利益を不当に害さないこと」「作品の鑑賞を目的としないこと」といった条件は付されており、著しく権利者利益を侵害する態様のデータ利用は適用外となる。他方EUは2019年のデジタル単一市場(DSM)著作権指令で研究目的のTDMに関する例外を導入し、研究機関等による非営利のデータ分析については権利者の許諾なしで可能とした。さらに商業目的でのTDMについても別途例外規定(DSM指令第4条)を設けたが、こちらは権利者が事前にオプトアウト(利用拒否)を表明した場合には適用されない仕組みとなっている。つまりEUでは「非営利研究TDMはフリー、それ以外は権利者が許可しない意思表示を行わなければフリー」という折衷案で、権利者の統制権にも一定の配慮を残した形だ。一方米国にはTDM専用の法定例外はないものの、著作権の一般原則であるフェアユースによって相当程度の無許諾解析が許容されてきた(大規模検索エンジンによる全文コピーがフェアユースと認められた判例などがある)。このように各国で温度差がある中、英国が将来どのようなTDM例外(あるいはライセンス義務)を採用するかは国際的にも大きな注目を集めている。前述の諮問結果を見る限り英国では権利者側の保護を重視する意見が多数派であり、少なくとも日本のような包括的無許諾例外が導入される可能性は低いと考えられる。むしろライセンス許諾制を基本としつつ、EUのように用途限定の例外(例えば非営利目的に限り許容)や、一定の透明性措置と組み合わせた新たな仕組みが検討される可能性が高い。実際、英国政府は訓練データの開示義務(透明性)やライセンス仲介プラットフォームの整備などを含む「各関係者にとって実行可能かつ均衡の取れた解決策」を模索中である。最終的な結論次第では、英国は「クリエイターの権利保護を優先する欧州型モデル」へ回帰する可能性も、「イノベーション優先の日本型モデル」に近づく可能性も残されている。もっとも英国政府自身は「拙速な立法は行わない」と明言しており、十分な調査と証拠に基づいて慎重に方針を定めるとしている。これはある意味で利用者保護(AI産業育成)の観点も反映した態度と言え、世界的にも一種のエビデンス主義的アプローチとして評価できるだろう。
第三に「利用者保護・責任分担」の論点がある。AI開発・利用に新たな規制や権利主張が導入された場合、そのコストやリスクは最終的にサービス利用者や社会全体に及ぶ。例えば、今後ライセンス義務が課されればAIサービスの提供価格が上昇したり、利用者が生成物の権利クリアランスを気に掛けねばならない場面も増えるかもしれない。英国の進捗報告書でも、将来的な規制強化は「AI開発者・権利者・利用者の三者間のリスク配分や費用負担に影響を与える」可能性があると指摘し、企業ユーザに対し現行契約の見直し(生成物に関する保証や補償条項の整備など)を検討するよう助言している。要するに、著作権法制の変更はAIエコシステム全体の在り方に波及するため、権利者の正当な利益を守りつつイノベーションを阻害しないバランスを如何に取るかが肝要となる。この点、英国政府も「創作者が正当な対価を得られつつ、英国が引き続きAI開発・活用に魅力的な拠点であり続けること」が目標だと述べており、まさに両者のバランス追求が政策課題に据えられている。利用者保護の観点からは、AI提供者だけでなく最終利用者が不測の法的リスクを負わないようにする仕組みも重要である。例えば生成物に潜在的な権利侵害があれば事前に警告するといった技術的措置や、万一紛争が発生した際の責任分担ルール(生成物利用者とAI提供者のどちらがどの程度責任を負うか)なども、本格的なAI社会に向けて検討すべき論点だろう。英国ではこの点について現時点で明確な指針は示されていないが、欧州ではAI法(AI Act)やAI責任指令案などを通じてAI提供者の説明責任強化や被害者救済の枠組みが議論されている。英国も将来的にEUに近い路線を採るのか、それとも独自のコモンロー的な柔軟対応に委ねるのか、利用者保護の観点からも今後の動向に注目が集まる。
4 他国(EU・日本)との比較
上述のように、AIと著作権を巡る法政策は各国で手探りの状況にあるが、そのアプローチには差異がみられる。EUは既に2019年の指令でTDM例外を導入し一定の方向性を示した上で、2024年に成立したAI規制法(Regulation (EU) 2024/1689、AI Act)において生成AIの訓練データの透明性確保や著作権順守義務をプロバイダに課す条項を盛り込んでいる。これは、AI開発段階では限定的に権利者の利益を犠牲にする余地を認めつつ、提供段階では企業に対し情報開示や安全管理を義務付けるという、権利保護と技術促進のバランスを取る発想と評価できる。一方、日本は前述のように著作権法30条の4によって情報解析目的であれば広範な無許諾利用を認める大胆な制度を採用した。その結果、AI開発者にとって日本は非常に寛容な環境となったが、その反動で近年はクリエイター側から現行法を批判する声も強まっている。文化庁は2024年度に有識者検討会を開催し、生成AIと著作権の在り方について基本的考え方を整理した上で、必要に応じて追加的な法対応を検討する方針を示したところである(※例えば違法アップロード素材の学習利用の扱いなどが議題となっている)。このように欧州型(許諾制寄り)・日本型(例外拡大)・米国型(フェアユース)と各モデルが存在する中、国がどの方向に舵を切るかは各国にとって他山の石となろう。現時点では、英国は証拠重視の慎重路線を採っており、諸外国より一歩立ち止まって熟考している段階と言える。最終報告書と経済評価が2026年3月に公表されれば、そこで提案される方策次第で英国も具体的行動に移るだろう。
5 おわりに
英国のAIと著作権を巡る一連の検討作業は、世界的にもユニークなアプローチとして注目に値する。法律をいきなり改正するのではなく、まず期限を区切って実態把握と影響分析を行うことで、拙速な制度設計による副作用を避けつつ最適解を模索しようとしているからである。この背景には、AI技術の発展速度の速さと不確実性がある。政策立案者にとって未知の要素が多い中で性急な立法を行えば、後になって産業競争力を損ねたり権利者救済に不備が出たりするリスクが高い。英国政府はそうした事態を避けるため、まずはエビデンスを蓄積しオプションを比較検討することを選んだと言える。もっとも最終的には何らかの立法措置が必要となるのは確実であり、進捗報告書が示唆するようにライセンス許諾と透明性確保を軸とした制度改革が想定される。重要なのは、その制度設計がクリエイターに正当な報酬と安心を与えると同時に、AI開発者やユーザにも過度な負担を課さずイノベーションを促進する絶妙なバランスを実現できるかどうかである。英国の今後数か月の議論と2026年春の報告書の内容は、この難題に対する一つの解答を提示するものとなるだろう。他方で、日本を含む各国もまたこの問題から逃れられない。英国の動向を注視しつつ、自国の産業構造や文化的背景に即した最適解を模索していくことが、今後のAI時代における法政策の大きな課題となっている。各プレイヤーが協調しつつ知恵を絞り、より良いルール形成に繋げていくことが強く期待される。
(参考)
参考資料
英国政府(DSIT・DCMS・IPO)「Copyright and artificial intelligence: progress report」 (2025年12月15日)
https://www.gov.uk/government/publications/copyright-and-artificial-intelligence-progress-report
Jonathan Bywater "AI and Copyright: Updates from the Data (Use and Access) Act 2025 progress statement" (VWV, 05 Jan 2026)
https://www.vwv.co.uk/insights/articles/ai-and-copyright-updates-from-the-data-use-and-access-act-2025-progress-statement/
Rebecca Pakenham-Walsh "Data (Use and Access) Act 2025 copyright and AI aspects" (Fieldfisher, 02 Jul 2025)
https://www.fieldfisher.com/en/services/intellectual-property/intellectual-property-blog/data-use-and-access-act-2025-copyright-and-ai-aspects
一般社団法人中小企業AI活用協会 「生成AIの著作権・プライバシー・責任を国際比較:日本・米国・EUの最新動向と課題」 (2025年4月9日)
https://smeai.org/index/ai-legal-framework/
稲村宥人「AIと著作権: 開発・利用時に留意すべき法的リスクと最新動向」(早稲田リーガルコモンズ法律事務所コラム, 2025年3月3日)
https://legalcommons.jp/column/inamura_20250303
Peter Schoppert "Japan will not enforce copyright on data used for AI training" (AI and Copyright Newsletter, 06 Jun 2023)
https://aicopyright.substack.com/p/japan-will-not-enforce-copyright
(参考)
(マガジン)「AIと法雑感」
※目次は以下を参照
note総則規約3条2項前段
3.2 クリエイターが制作したデジタルコンテンツの著作権は、クリエイターに帰属します。
