見出し画像

PdMが一人で事業をやるとき、AIに何を任せたか(星取表つき)

BASE株式会社執行役員の柳川です。金融事業の事業責任者をしています。エンジニア→PdM→事業責任者というキャリアを歩んできました。

僕は本業の傍ら、AIと二人で「複眼道場」という自己理解の事業を丸ごと作ってきました。無料の診断ツール18種、解説記事104本、教本、研修、月額課金つきのアプリ。今日はその制作の裏側を、「事業に必要な要素のうち、何をAIに任せたか」という切り口で全部書きます。

ところでみなさん、事業をゼロから作ったことはありますか。課題を見つけて、値段を決めて、売るところまで全部。多くのPdMにとって、これらは分業の向こう側にあります。僕も事業責任者になるまでほとんど触ったことがなかったし、もっと言うと、事業責任者になった今でも、課題からゼロの番はなかなか回ってきません。会社の事業は、もう走っているので。だから自分でやってみて、初めて分かったことだらけでした。

今回は事業をやるときに必要な要素を端から洗い出して、一個ずつ「AIに任せられたか」を星取表にしました。
全部で15要素、全部、僕が実際にやった実例つきです。かなり長いです。でも、読み終わったときに「自分だったらここはこうできそう」が具体的にイメージできる状態を目指して書くので、付き合ってください。

先に星取の凡例です。

  • ◎ ほぼ任せた: 9割AI。僕は指示と確認だけ

  • ◯ 二人三脚: AIと行ったり来たりしながら作った

  • △ 補助だけ: AIは壁打ち相手。作ったのは僕

  • ✕ 渡さない: 任せられないし、任せてはいけないと思っているところ

前提: 僕の事業(複眼道場)は「時間を売る商売」です

星取表の前に、構造の話を一つだけ。

複眼道場の対価をいただく主商品は、研修と1on1セッションです。つまり僕の時間を売っている。労働集約の極みです。

この形の副業、昔は成立が難しかった。
時間を売る商売の辛いところは、売り物の周りに巨大な「売り物じゃない仕事」が付いてくることです。そしてレバレッジも効かない、集客のためのコンテンツ。信頼してもらうための体系。申し込みから決済までの動線。日々の運用。セッション1時間を売るために、その何十倍もの時間を周辺に投資しないといけない。副業サイズだと、この投資にリターンが見合いません。事業の計算としても合わないし、単純にロジとしても回らない。

AIが変えたのはここです。売り物(僕の時間)はそのままで、周辺の巨大な仕事のコストが桁で下がった。だから「個人が時間を売る商売」が、初めて計算の合う事業になった。正確にはなる可能性があるのではないかと考えてチャレンジしています。

この構造が頭に入ると、線の引き方は自動で決まります。売り物と、決めることは、渡さない。それ以外の周辺は、任せられるだけ任せる。では、要素ごとに見ていきましょう。

1. 課題発見・コンセプト設計【△ 補助だけ】

「何の事業をやるか」。ここはAIには決められません。当たり前ですね。

僕の場合、出発点は自分の中にありました。昔から人間について、興味があって、その延長で事業責任者になりました。そしてエニアグラムという自己理解の道具にうまく活用できた感覚があり、これを「当たってる〜」で消費されて終わらせたくない、という気持ちです。この「気持ち」の部分は、AIがどれだけ賢くなっても外から持ってこられません。

ただし、気持ちをコンセプトに固める工程では、AIは優秀な壁打ち相手でした。「それは誰のどんな課題なのか」「既存の類似サービスと何が違うのか」を、しつこく聞き返してもらう。反論させる。ここで大事なのは、AIに「いいですね」と言わせないことです。賛成してくれるAIは壁打ち相手として役に立ちません。「前提も疑って」と指示に足すだけで、返ってくるものが変わります。

ちなみにサービスの定義は、作りながら3回変わりました。最初は「カルテを配信するアプリ」のつもりが、途中で「これ自体が道場なのでは?」になり、最後は「複眼道場のトレーニング」に落ち着いた。頭の中だけで企画していたら、最初の定義のまま作りきって、あとで違和感に気づいていたと思います。コンセプトは決めるものというより、作りながら見えてくるものでした。

そしてこの変化は、事業全体を運営していく中で起こっていきました。ここで一番大事なことを言います。アジャイルなんです。最初から全部見通すなんて不可能です。やりながら育てていく、まずは見切り発車していく、これが大切です。

実際始めた時点では、これを事業だとも思っていなかったし、対価をもらえるようなものになるとも思っていませんでした。
少しずつ手応えを得ながら育てていく。これが大事なんです。

読者へのヒント: 「何をやるか」を探している段階なら、AIに案を出させるより、自分の過去の「これは許せない」「これは広めたい」をAIに話して整理してもらう方が早いです。種は自分の中にしかありません。

2. ドメイン知識の学習【◯ 二人三脚】

事業の題材にするなら、そのドメインを深く知らないといけません。僕の場合はエニアグラムと成人発達理論(インテグラル)。ちゃんと学ぼうとすると、本当に奥が深い領域です。

ここはAIで学習速度が別物になりました。書籍を読む。読んだ内容をAIと議論する。「この解釈で合ってるか」「この理論とこの理論の関係は」を壁打ちする。腹落ちしたら自分の言葉に直して記事にする。このループです。

ポイントは、AIに教えてもらうのではなく、自分の理解をAIにぶつけて反証してもらう使い方をすることです。AIの説明を読むだけだと分かった気になって終わります(なりますよね?僕はなります)。自分の言葉で説明して、穴を指摘させる。これは学習というより筋トレに近い。

新しいドメインに参入するコストが下がっている。実装より先に、まずここが効いてきます。

読者へのヒント: 参入したい領域の本を1冊読んで、章ごとに「自分の言葉での要約」をAIに投げて添削させてみてください。1冊でかなりの解像度になります。

3. 事業計画・収支の見立て【◯ 二人三脚】

価格をいくらにすると、何人で、いくらになるのか。キャパシティはどこで詰まるのか。この計算はAIとやりました。シミュレーション自体は得意分野です。

ただ、正直に言うと、僕は最初、お金をもらうところまで考えきれていませんでした。作りたいから作っていた。事業計画が先にあったわけじゃないんです。小さく出して検証しているうちに、売り物と値段が後から見えてきた。計画は、走りながらAIと更新していくものでした。

そして事業計画には前提が大事です。Space Xみたいな事業を作りたいのか、上場したいのか、上場しなくても従業員を雇えるくらいの規模にしたいのか。この前提によってやり方は全く変わります。

僕は以下のようのことを前提に考えていきました。
こだわりを手放さずにどこまでできるのかをチャレンジしてみたい。
事業規模だけを追うことはしない。でも一種の証明として、やれるところまでやる。
エクイティとかじゃない、かつ本業がある状態で無理なくやる。
売り上げの中身もto Cとto Bのミックスでやる。

読者へのヒント: 最初から完璧な事業計画を作ろうとしなくていいです。ただし「月に自分の時間を何時間まで売れるか」だけは最初に計算しておくと、あとで商品設計が楽になります。時間を売る商売はキャパの上限が最初から見えているので。

なんだかんだ役に立つ以下の記事。


4. プロダクト実装【◎ ほぼ任せた】

一番分かりやすいところです。診断ツール18種、解説記事104本を載せるポータルサイト、交換日記と月1セッションのアプリ、月額課金。全部AIとの二人三脚ですが、実装に関しては正直、二人三脚ですらない。9割AIです。

象徴的なのはアプリです。設計の議論からモック、実装、DB、決済連携、ドメイン設定まで、ほぼ1日で本番リリースでした。僕はエンジニア出身なので出てきたコードは読めますが、書いた量でいえば僕はほぼゼロです。

僕がやったのは、何を作るかを決めること、出てきたものを触って「違う」と言うこと、リリース前に自分で通しで動かすことです。特に最後のやつは省略しないでください。AIは「動くはず」のものを量産しますが、「動くはず」と「動く」の間には毎回何かがいます。

ただし妥当な設計を決定する、的な意味だとかなりやってます。
どこを自前のWebアプリケーションとして作るかや、DB使うか使わないかレベルの技術選定などなど。自分がWebエンジニアとして積んできた知見はかなり役に立ちました。

読者へのヒント: エンジニア出身じゃなくても、いまは小さいWebツール1個なら本当に作れます。大事なのは実装力より「何を作らないか」を決める力で、それはPdMの本業のはずです。

5. デザイン・LP【◯ 二人三脚】

LPは2回作り直しました。1回目は情報を詰め込みすぎて、誰向けか分からないものになった。ペルソナの議論からAIとやり直して、構成を組み直しました。

面白かった失敗を一つ。自分で書いたヒーローコピーを翌日見て「胡散臭いかも」と気づいたことがあります。時代語りと断言をページの一番上に置くと、情報商材の顔になるんですよ。気をつけましょう。このときAIに「このLP、怪しく見える要素を全部挙げて」と頼んだら、容赦なく挙げてくれました。自分のコピーを疑う目としてのAIは優秀です。書いた本人には見えないので。

ちなみにまだ全然胡散臭いと思っています。

読者へのヒント: 作ったLPをAIに見せて「初見の人が抱く不信感を列挙して」と頼んでみてください。褒めさせるより百倍役に立ちます。

6. ネーミング・ブランドの言葉【△ 補助だけ】

「複眼道場」という名前と、「矛盾を感じ、抱え、進む、力。」というコピー。ここは最終的に、自分の腹落ちで決めました。

名前は事業の思想の圧縮です。何を大事にする事業なのかが、一語に畳まれている。だからここを外注すると、あとで全部の意思決定がぶれます。「この施策、うちらしいんだっけ?」を判定する物差しが、名前とコピーだからです。

とはいえAIの出番はありました。候補を大量に出させる。出てきた候補が変な意味に読めないか、既存のサービスとかぶっていないかを確認させる。そして一番役に立ったのは、大量の候補を全部捨てる過程で、自分の基準が言語化されることです。「これは違う、なぜなら」を100回やると、自分が何にこだわっているのかが嫌でも見えてきます。

読者へのヒント: AIに名前を決めさせるのではなく、「候補100連発→全部に却下理由を付ける」をやってみてください。最後に残るのは名前ではなく、あなたの基準です。名前はその後で勝手に決まります。

7. コンテンツ制作【◯ 中身は人、体制はAI】

解説記事104本、全19章の教本、研修資料。物量だけ見ると「AIに書かせたんでしょ」と思われそうですが、ここの分担は少し複雑です。

考えと言葉は僕、体制はAI。何を面白いと思うか、どこに引っかかるか、どういう言葉で言うか。ここを渡すと、なめらかで誰のものでもない文章が量産されます。読めば分かるやつです(みなさんも見たことありますよね)。だから中身は渡しません。

一方で、構成の壁打ち、書いた原稿の矛盾チェック、記事同士の内部リンク張り、表記の統一、OGP画像の生成、サイトマップの更新。この周辺作業は全部AIです。104本の記事を一人で管理するのは、体制なしでは無理でした。コンテンツの「中身」ではなく「工場」を任せた、という感覚です。

読者へのヒント: 文章をAIに書かせるかどうかで悩んでいる人は、「初稿を書かせる」のではなく「自分の初稿を批判させる」から始めると、書き味を失わずに質が上がります。

8. 価格・商品設計【✕ 渡さない。ただし検証はAI】

値段を決める。商品の構成を決める。ここは渡しませんでした。渡せなかった、が正確かもしれません。決めた結果を浴びるのが自分である以上、決断だけは移譲のしようがない。

白状すると、最初はお金をもらうところまで考えていませんでした。小さく出して検証しているうちに、売り物と値段が後から見えてきた。だから僕の値付けは、理屈で組んだ数字というより、ユーザーと話してきた体感から置いた数字です。「この人たちに、この価格を、どういう顔で言えるか」。この感覚だけは、AIに聞いても出てきません。

AIの出番は、決めたあとの検証です。価格表を渡して、矛盾がないか、意図していない「得な買い方」が生まれていないかをレビューさせる。設計者の頭の中にはない最適行動を探させるのは、AIの得意分野です。決めるのは人間、決めたものの整合性チェックはAI。この分担が一番安全だと思っています。

読者へのヒント: 価格表を作ったら、AIに「この価格設定で損する順・得する順に顧客行動を並べて」と頼んでみてください。設計者の意図と違う最適行動が見つかったら、それは直しどころです。

9. 商品を増やす判断【✕ 決めるのは人、立ち上げはAI】

事業を続けていると、「次の商品を作るか」という判断が定期的にやってきます。僕の場合、最近だとキャリア相談という新しい入口を作りました。

増やすかどうかの判断は、渡せません。新商品は既存の商品との関係で決まるからです。僕は「入口は増やすが、中身は共用する」という方針にしました。キャリアの悩みから入ってきた人も、奥にあるのは同じ自己理解のトレーニングです。玄関を増やして、部屋は増やさない。この設計思想は、事業を何のためにやっているかと直結しているので、人の仕事です。

一方で、決めたあとの立ち上げは速い。事前の問診フォーム、既存の診断結果とつなぐ画面、決済まわり。既存の仕組みの相似形で作れるものは、AIとやると本当にすぐ形になります。「作るのが重いから商品を増やせない」という制約は、ほぼ消えました。だからこそ、増やさない理由を思想で持っていないと、際限なく増えます。作れてしまうことが新しいリスクになる、というのは、やってみて初めて分かった感覚です。

読者へのヒント: 2個目の商品を考えるときは、「1個目と何を共有するか」を先に決めてください。共有するものがない2個目は、事業がもう1個増えるのと同じコストがかかります。

10. 決済・規約まわり【◎ ほぼ任せた】

Stripeの組み込み、月額課金の仕組み、解約の動線。この辺は実装の一部なのでほぼAIです。特定商取引法の表記やプライバシーポリシーの叩き台もAIに作らせました。

ただし、最終確認は自分でやります。ここは「間違っていたときに謝る相手がいる」領域なので、叩き台はAI、責任は人、の典型です。

読者へのヒント: 個人事業だと決済と規約は「怖いから後回し」になりがちですが、いまは叩き台が一瞬で出るので、怖さの正体はほぼ消えています。着手の心理コストが一番高いところこそ、AIに最初の一歩を出させてください。

11. 集客・ファネル設計【◯ 二人三脚】

無料の診断ツールで見つけてもらい、解説記事で深く知ってもらい、教本と研修で信頼してもらい、アプリとセッションに来てもらう。この階段の設計は僕の仕事です。どの順番で何を差し出すかは、商売の思想そのものなので。

一方で、階段の各段を磨く作業はAIだらけです。診断結果のシェア画像の設計、記事から次の記事への導線、検索やSNSでどう見えるか。地味な作業の塊で、一人だと確実に力尽きるところでした。

AIとの振り返りも欠かせない工程です。

読者へのヒント: ファネルを考えるとき、「無料で何をどこまで出すか」を先に決めると設計が楽です。僕は「診断も記事も教本の試し読みも無料、人の時間が動くものだけ有料」で線を引きました。この線引き自体をAIと議論するのはおすすめです。

12. 発信【◯ 書くのは自分、回すのはAI】

noteの記事は、この事業の集客装置そのものです。診断ツールで見つけてくれる人と同じくらい、記事から来てくれる人がいます。

書くのは自分です。前にも書いた通り、書き味は信頼の源泉なので渡しません。発信のスタンスも自分で決めています。売り込みではなく、解像度の提供。「こういう見方がありますよ、みんなはどう?」のノリです。宣伝っぽい発信は自分が書いていて楽しくないし、読む方はもっと楽しくないので。

AIに任せたのは、発信の「回し」の部分です。書いた記事の構成チェック、公開後にどの記事とつなぐか、告知文の変奏。あと、書きかけで止まっている下書きを「この記事、何が言いたかったんだっけ」と一緒に発掘してもらうのは、地味に効きます(下書きって溜まりますよね)。

読者へのヒント: 発信が苦手な人は、宣伝を書こうとするから苦手なんだと思います。「作ったものの制作記」から始めてください。宣伝より読まれるし、嘘がないし、この記事のように、それ自体がコンテンツになります。

13. ユーザーインタビュー・セッション【✕ 絶対に渡さない】

星取表の中で一番大事な行です。

診断のユーザーテストやセッションで、100人以上と直接話してきました。この時間だけは、AIに奪われません。そして、ここで得たものが一番大きかった。

診断の精度をどう上げるか。記事で何を書くべきか。商品をどう定義し直すか。値付けの感覚。ぜんぶ、元をたどるとユーザーとの対話に行き着きます。データやログでは代わりになりません。人が言葉に詰まる瞬間、想定と違う使い方、こちらが恥ずかしくなるような褒め方。ああいうものは会いに行かないと取れない。

もう一つ、やってみて気づいた構造があります。僕のインタビューには二つの顔がありました。一つは、Web診断を育てるための対話。もう一つは、研修やセッションを届ける時間そのものが、研修の開発工程になっていることです。同じ内容を話しても、どこで頷かれて、どこで空気が固まるかは毎回違う。その反応を浴びて、次の回では構成が変わっている。つまり研修コンテンツは「作ってから売る」商品ではなくて、売りながら作る商品なんです。デリバリーと開発が、同じ時間の中で起きる。ソフトウェアで言えば、本番環境がそのまま開発環境みたいな話で、これが怖くて、面白い。

そもそも僕の事業では、ここが売り物です。売り物を外注したら何も残りません。でも、これは僕の事業に限った話でもないと思っています。AIで何でも作れるようになるほど、「何を作るべきか」を教えてくれる生の反応の価値は上がる。PdMの仕事の核は、なくなるどころか強くなっている。やってみての実感です。

読者へのヒント: 小さいツールを無料で出す最大の理由は、実はインタビューの口実ができることです。「使ってみてどうでした?」から始まる会話は、何もない状態で「お話聞かせてください」と頼むより百倍成立しやすいです。

14. CS・日々の運用【◎ ほぼ任せた】

月額会員への月次案内は、決済のタイミングで自動で届きます。セッションの日程調整リンクも自動で飛びます。リマインドも仕組み側でやる。人がやらなくていいことは人がやらないを徹底しました。

一人でやる事業は、こういう小さい運用が積もると死にます。本業がありますからね!しかも運用の辛さは、始める前には見えません。「これ毎回手でやるの?」に気づいた瞬間に自動化を検討する、を習慣にしました。

ただし、会員との交換日記へのコメント返信は僕が書いています。あれは運用ではなく売り物なので。この区別だけは間違えないようにしています。

この辺りの細かい工夫、無限にかけることがあるのでリクエストあれば今度書きたいです!Skillsを組みまくっています。

読者へのヒント: 運用を設計するとき、「これは売り物か、周辺か」と一個ずつ聞いてください。周辺なら自動化候補、売り物なら自分の時間を張る。判断基準はこれ一本で足ります。

15. データ分析・検証【◯ 二人三脚】

診断ツールの判定ロジックが正しく動いているか、結果の分布が偏っていないか。この検証はAIと一緒にやりました。テスト用のスクリプトを書かせて、全パターンを流して、矛盾が出る組み合わせを探す。人力では絶対にやらない物量の検証が回せます。

ただし、出てきた数字をどう解釈するかは人の仕事です。「この診断結果に違和感がある」という感覚は、ユーザーと100人話した体感から来るもので、ログからは出てきません。

読者へのヒント: 「検証はAIに、違和感は自分に」。逆にすると事故ります。AIに「この数字をどう解釈すべきですか」と聞き始めたら、一回ユーザーに会いに戻るサインです。

星取表まとめ

ここまでを一覧にします。

眺めると、線の引き方は一言にまとまります。渡すのは作業。残すのは「なぜ」と、人と向き合う時間。

「なぜこの事業をやるのか」「なぜこの値段なのか」を握っている限り、作業をどれだけ任せても事業は自分のものです。そして、ユーザーと向き合う時間は、任せられないのではなく、任せたら事業の栄養源が絶たれる。この2つ以外は、思っているより任せられます。

おまけ: 一人のPDCAは、鬼のように速い

星取表の外側で、書いておきたい発見が一つあります。一人でやると、PDCAが鬼のように速く回るんです。そしてこれが、想像以上に楽しい。

会社のプロダクト開発では、一つの改善を出すまでに、関係者への説明があり、合意形成があり、リリース調整があります。あれは必要なプロセスです。守っているものがあるので。でも一人の事業には、それが全部ありません。朝、ユーザーの反応を見て違和感に気づく。昼、AIと直して出す。夜には次の反応が返ってくる。サイクルが日単位、下手すると時間単位で回る。

この回転の速さは、単に効率がいいという話ではなくて、学びの密度が変わります。仮説を立ててから結果を浴びるまでが短いほど、因果が生々しいうちに次の手を打てる。プロダクトマネジメントの教科書に書いてあることが、早回しで体に入ってくる感覚です。

そして単純に、楽しい。自分の判断がすぐ世界に反映されて、すぐ返事が来る。この手応えは、会社の分業の中ではなかなか味わえないものでした。

読者へのヒント: この回転の感覚は、本業に持ち帰れます。一度速い回転を体験すると、「うちのサイクルは、どこで一番時間が溶けてるんだっけ」という目が勝手に育ちます。副業の一番のリターンは、お金より先にこれかもしれません。

一番嬉しい変化は、理想にこだわれること

最後に、この星取表の先にある話をします。周辺のコストがここまで下がると、何が起きるか。スケールや儲けで自分を説得しなくてよくなるんです。

昔の個人事業は、周辺コストが重いぶん、回収の計算が先に来ました。儲かる見込みがないと始められない。だから、やりたいことより売れそうなことに寄っていく。こだわりは、計算の邪魔だったんです。

一昔前なら、事業を作るのは、エクイティで調達して期限の中で作り上げるやり方がほぼ一択でした。僕自身、そのやり方がなかったら生まれていない会社の中で働いています。だからこそ、これからは個人のこだわりが入った事業が、世の中に溢れてくる可能性があると思っていて、僕のはその一例の、小さい実験です。

正論だけでは商売として成り立たない、というのも分かります。その上で、やるべきことが、ちゃんと商売として成り立つ範囲をどこまで広げられるか。僕の関心はここにあります。僕の事業は小さいし、まだ始まったばかりだし、スケールもしていません。でも、売り物も値段も思想も、全部自分のこだわりのまま立っています。個人的には、これが一番大きな変化だと思っています。

ついでに気づいた、円環の話

最後にもう一つだけ。この事業が売っているのは「AI時代の自己理解」です。AIに悩みを相談したとき、返ってくる答えの質は、自分をどれだけ言語化できるかで頭打ちになる。自分の解像度が、AIの出力の上限になる。だから自己理解が、AI時代の実務スキルになる。そういう主張の事業です。

もう少し言うと、AIが作業をどんどん引き受けるほど、人間に残る仕事は「判断して決めること」に寄っていきます。「お前はどうするんだ」が突きつけられ続ける、タフな世界です。そして、AIに取られて残ったところは、もう時間がかかるところしかない。自分と向き合うことは、遅かれ早かれ避けて通れなくなる。だからこの事業は、AIの時代にこそ要るものだと思って売っています。

一方で、ここまで書いてきた通り、この事業自体がAIなしでは作れませんでした。つまり、AIの時代だから一人で作れた事業が、AIの時代に必要なものを売っていた。この円環は狙って設計したものではなく、作りながら見えてきたものです。だから面白い。

あなたが作る事業にも、たぶん同じ種類の円環が眠っています。AIで作れるようになったものと、AI時代に必要になるものは、同じ地殻変動の裏表なので。

あなたの星取表を書いてみてください

長々と書いてきましたが、この記事で一番やってほしいことは一つです。上の15要素のリストをコピーして、自分がやるとしたら、の星取表を書いてみてください。

埋め方のコツは、✕から埋めることです。あなたの事業で「売り物」になるのはどこか。あなたが「決める人」でいたいのはどこか。✕が決まれば、残りは全部、任せ方を考えればいいだけの周辺です。そして周辺は、この1年で驚くほど安くなっています。

僕の実例が参考になりそうなら、複眼道場を触ってみてください。無料の診断ツールから全部見られます。

まだまだ事業のフェーズとしては、立ち上がり始めたかなー、ぐらいです。ここからどうなっていくかわかりません。ピボットもするでしょう。
生暖かく見守ってくださると幸いですし、事業内容に興味持っていただけたら、ぜひ試してみてもらえますと非常に嬉しいです。


ちなみに本件は以下の記事で話したサブプロジェクトの実例です。

とりあえず何か作ってみたいそこのあなた!

スタートするのにぴったりなイベントをやりますのでぜひ!!ご参加ください!!


いいなと思ったら応援しよう!