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【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四十九話 光が消えた夜

抜け道を抜けた先は、 森の外へ続く細い峡谷だった。見上げれば、そこに透き通った空。輝く月や星がある。

黒に染まる森ネロレイン・フォレストでは決して見られない、淡く優しい光。

「これが、外の世界……なんて、綺麗なんだ」

「そうでしょ。森じゃ絶対に見れない光景よね。さぁ、上に出れば、自由よ!」

シャバルはリィナの手を握りしめた。

(森を出れば僕らは自由だ。自分らしく生きられる。やっと……)

2人が壁面に手を掛けた瞬間だった。

——ガラガラガラガラッ!!

「……!?」

峡谷の上から、巨大な岩が転がり落ちてきた。

「危ない!リィナ!」

「きゃぁ!」

シャバルがリィナを庇い被さる。

岩が地面を砕き、砂煙が舞い上がる。

「ゴホッ、コホッ……リィナ、大丈夫?」

「えぇ、ありがとうシャバル。今のは……」

その瞬間、峡谷の両側に黒い影が現れた。

「フハハハハッ!待っていたぞ、シャバル……」

「……ッ!?せ、戦士長!どうやってここに……さっきまで後ろに居たんじゃ……」

(まずい……先回りされてたなんて……)

「よく見ていなかったようだな……我ら数名があの場から居なくなっていたことに気づかんとは。それとも、殺しに夢中で、周りが見えなかったのか?」

——ドキンッ……

(な、なんで……今心臓がドキッと……した?)

シャバルは周りを観察しながら、リィナを背に庇う。

(相手は、40人余り……どうする?)

長老は心の中で冷たく笑う。

(フフッ、あいつ、こちらの動きを探っているな……よし、いいぞ。いい傾向だ……)

「全員、シャバルを囲むように配置につけ。後、奴に近づいたらこれを付けろ、どこでもいい……」

——ササササッ……

(僕らは今、囲まれている。一斉に襲われたら、勝てない……)

「リィナ、この峡谷に狭いスペースってある?」

「それなら、反対側のあの右上に……」

リィナが指さす方へ、視線を向ける。

(立てて、5人。ここから横に40m、上に20mくらいか……)

「ねぇ、シャバル。何するの?」

「この人数が一斉に攻撃してきたら、勝てない……だから、せめて、1対3になる状況を作りたいんだ……」

「なるほど……」

「行くよ……走って!」

——ヒュバッ!カンカン……シュバッ!

「……!?」

(あいつら……)

「おい、次の岩を落とせ!」

「し、しかし……他の者たちが……」

「そんな者たちは、捨ておけ!今は、とにかくシャバルだ!あいつを絶対に捕らえろ!」

「か、畏まりました……」

——ガラガラガラガラッ!!ゴォン!

「シャバル!また、落石よ!」

「大丈夫!このまま走れ!」

——ドォン!

「はぁ……はぁ……よし、着いた……リィナ、大丈夫?」

「えぇ、何とかね……それより、今からどうするの?」

「……リィナ、ごめん。僕は今から、またあいつらを殺そうと思う」

「シャバル、お願い……このまま殺しを続けたら、あなた本当に……」

「ありがとう、心配してくれて。でも、君を守れるなら、僕は、怪物でもいいんだ……少し下がってて……」

(シャバル……あなた……)

「はぁぁぁぁ!」

——シュッシュッシュッ!ダァン!ザシュッ!

「くはっ!」

「ぐわぁぁぁ!」

「くっ……くそっ……」

戦士たちが死ぬたびに、シャバルは、血に染まる。血を浴びるたびに、その眼がより輝き、その動きが洗練されていく。

「フハハハハッ!素晴らしい、素晴らしいぞシャバル!もう戦士たちが、数人しか残っておらん」

——グルルルルルゥ……

シャバルが戦士長マヌエルを睨みつける。

「シャバル、なぜ私がお前に、黒豹ネロパルドの血にこだわるか、分かるか?」

「……」

「我らの住む森を見ろ!陽光も月光もわずかしか届かぬ、暗い森……神がここへ、我らを閉じ込めて数万年。悔しいと思わぬか?陽の元で生きたいとは、思わぬか?」

「生きたい……とは思う……」

「ならば、力を貸せ……その力で神に、一泡吹かせてやろうではないか。こんな場所へ我らを閉じ込めた、神に復讐をしてやろうではないか!」

「……」

(神に復讐……)

シャバルの動きが止まる。

——グッ、ガシッ!

「きゃぁ!」

「……!?リィナ!」

(まずい、油断した。リィナが……)

「お前が力を貸せば、リィナは助けてやろう……さぁ、どうする?」

「聞いちゃダメよ!シャバル!要は、神殺しの為にあなたの力を利用するって話よ!あなたは、誰かを殺して、喜べる人じゃない!そうでしょ!」

「フフフッ、違うなリィナ。シャバルは、もう肉を裂き、血を浴びる、命を狩り取る快感に目覚めている。そうだろ、シャバル?」

「……」

「隠さなくてもよい。歴代のその血の持ち主は、例外なくそれを悦とした。お前も例外ではないはずだ」

「シャバル!大丈夫よ、あなたはそんな人じゃない。私を見て!」

——グルルルルルゥ……グルルルルルゥ……

「シャ……バル……」

血を浴びたシャバルの顔は、笑っていた。息は上がっているが、その視線は、しっかりと獲物を見据える狩人の眼をしていた。

「フハハハハハッ!これが現実だ、リィナ。シャバルも、血には抗えん。さぁ、話は終わりだ、どうするシャバル?我らと来るか、リィナを殺すか、決めるのは、お前だ」

——スゥ……フゥ……

「確かに、僕は殺しに快感を覚え始めた……もう前とは違う、怪物だ……」

「シャバル……そんな……」

「でも、それでも、僕は、リィナと外の世界で生きたいんだ!神様のことなんて知らない!」

——ズドォッ!!

「かはっ!」

シャバルの鉤爪が戦士の脳天を貫く。

「ごめんね、リィナ……」

リィナは首を横に振る。

「どうしても、我らに力を貸さぬなら、仕方ない……無理にでも、協力してもらうぞ!まずは、リィナを殺してからだ!」

シャバルが、これまでよりも一段と身を低くかがめる。

「そんなことは、させない!はぁぁぁぁ!黒豹の裂爪ネロパルド・コルタール!」

(来た!今だ!)

——シュルゥゥゥゥ……ズシャ!

「かはっ……シャ……バル……」

「えっ……」

シャバルの鉤爪が心臓を抉り裂く。しかし、それは戦士長マヌエルではなく、リィナのものだった。

「リ、リィナァァァァァ!」

「フハハハハハッ!リィナ結んだ糸に気づかんとは……いいか、シャバル、リィナを殺したのは、お前だ。お前の中の血がリィナを殺したのだ!」

「違う……違う……リィナ!しっかり……ねぇ……お願いだから!」

崩れるリィナの身体を抱きかかえる。目の前の光景に思考が追いつかない。

リィナは涙を流しながら、シャバルの頬を撫でた。

「大丈夫、シャバル。大丈夫……あなたのせいじゃないから……」

シャバルの瞳から、 涙が止めどなく溢れた。

「ごめん……ごめん、リィナ……大丈夫、今傷を……」

「もう私は、助からない……いい、シャバル。あなたは、あなたらしく……優しいままで……い……」

——ドサッ……

リィナの身体が、シャバルの腕の中で冷たく固まる。

「リィナァァァァァァァァァァァ!!」

その叫びは、峡谷に響き渡る。

その瞬間、シャバルの世界から、音が消えた。希望が消えた。リィナという光を失い絶望の淵に落とされた。


👈第四十八話 黒豹の血

👉第五十話 誕生、最速の狩人

👇目次・あらすじ
目次・あらすじ


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