【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四十八話 黒豹の血
——ヒュュュュュ……ザシュッ!ダァン!
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
風切り音が森を裂いた瞬間、シャバルを押さえつけようとした戦士たちが、まるで見えない刃に切り裂かれたかのように吹き飛ぶ。
血飛沫が闇に散り、 木々が悲鳴を上げるように揺れた。
リィナは目を見開いた。
「シャバル……あなた……」
暗闇の中、 黄金色の瞳が妖しく輝いていた。
「グルルルルルゥ……リィナは、僕が守る。その手を放せ!」
(さっきのシャバルの速度……見えなかった……)
「フフフッ……ハッハッハッ!地面を抉るほどの踏み込み。周りの戦士たちの動きが止まって見えるほどの速度……いいぞ、ついに目覚めたか!」
(これが、シャバルの中に眠る黒豹の血の力……凄い)
シャバルはゆっくりと顔を上げた。
その瞳は、もう幼い子供のものではなかった。
「リィナに……触るな……」
「なるほど……リィナを殺せば、お前はもっと強くなるのか?血は記憶を呼び起こすのか?」
戦士長は、リィナを押さえる戦士たちに目で指示を出す。
(お前達、今だ!早く、そいつを殺せ!)
(はっ!)
「リィナは……殺させない!」
——ヒュゥン……ザザザッ、ザシュッ!
「かはっ……」
「素晴らしい、シャバル……的確に頸動脈、脳天、仕留めきれないと判断した者には、脚の腱を抉り機動力を奪う……まさに狩人の理想ではないか!」
「リィナ、もう大丈夫だよ……」
「シャバル、ありがとう……」
「ちょっと待ってて、すぐに終わるから……」
(顔は、優しい。けど、どこか変?目が私を見てない……)
マヌエルは鼻で笑う。
「戦士達よ!今ここに、黒豹の血が目覚めた!我ら、豹族の復興、発展の為、シャバルを何としてでも捕らえろ!」
「うぉぉぉぉぉ!」
戦士たちが再びシャバルに襲いかかる。
——バサッ!ビュビュゥ……ザザァ!
「シャバル!逃げましょう!いくらあなたでも、この数は多すぎる!ねぇ、聞いてるの!シャバル!」
(あぁ、リィナの声だ。心が落ち着く……皆の動きすごくゆっくりに見える。なんでだろう?今まで、あんなに怖かったのに……)
シャバルの姿が消えた。
「なっ……!?」
——ザシュッ!!
「ぐあああああ!!」
次の瞬間、 戦士の一人の胸に深い爪痕が刻まれる。
「おい、こっちだ!」
「ぐはっ!」
「どこだ!? どこに……」
シャバルの声が背後から響いた。
「……ここだ」
——スパン……ドサッ……
シャバルの鉤爪が、戦士たちの心臓を抉り、脳天を貫き、首をはね飛ばす。
リィナは震えながらも、 その光景から目を離せなかった。
(シャバル……やっぱり、変。あんなに、躊躇なく同族を殺すなんて……)
「うむ……黒豹の血……やはり規格外ではあるな。仕方ない。おい……」
「はっ!」
「あれの準備をしておけ……」
「かしこまりました……行くぞ!」
シャバルはリィナの前に立ち、 両手の鉤爪を構えた。
「はぁ……はぁ……リィナ、走れるか?」
「えぇ……」
「僕が合図したら、あの抜け道に……」
「あなたは?」
「もちろん、僕も行くさ。外の世界を見る準備はできてるかい?」
(シャバル、よかった。いつもの顔に……)
「えぇ、もちろん!」
「それじゃあ、行くよ……走れ!」
——ザシュッ!ミシミシ……ギィィィィ、バァン!
「……何ッ!?」
「戦士長!」
「シャバルの奴め……戦いながら、周りの木々に切れ込みを……くっ!追え!絶対に逃がすな!」
——ザザザザッ、ガサガサッ、パキッ!
「リィナ、大丈夫?」
「はぁ……はぁ……大丈夫。それより、戦いながら、木に切れ込み入れるなんて、よくできたわね?」
「さすがに、1人であの人数は勝てないと持ったからね……それに僕の目的は、皆を殺すことじゃない、君と外の世界へ行くことだから……」
(シャバル……)
——ヒュオオオッ……ババババババッ!
(くそっ……何人かは、もう追ってきたのか……)
「リィナ、先に行って。この先で待ってて……」
「シャバル、あなたは?」
「あいつらを殺ったら、すぐに……」
リィナが、シャバルを抱き寄せる。
「リィナ……どうしたの?急に……」
「シャバル、今のあなたは、とても強いと思う。黒豹の血が目を覚ましたって、戦士長も言ってたし……でも……」
(リィナ?)
「でもね、そんなに直ぐに誰かを殺そうなんて思わないで……お願い……」
「……リィナ。分かった。ごめんね……あいつらは、殺しはしない。追いかけられないように、するだけ……約束する」
「……分かった。この先で待ってる」
(シャバル……信じてるからね……)
シャバルはリィナの背中を守るように、 戦士たちの前に立ちはだかった。
「行かせない!!」
——ヒュッ!バキッ!
「なっ……!? 武器が……!」
「黒豹の血……怪物め!」
「怪物でいいさ……リィナを守れるなら!」
「怯むな!! 黒豹の血とはいえ、まだ覚醒したばかりの子供だ!恐れるな!! 捕らえるぞ!!」
戦士たちが再び襲いかかる。
——ドンッ!!
地面が砕け、 シャバルの姿が消える。
「やばい!」
——ズバァッ!!
「ぐああああ!!」
戦士の足に深い爪痕が刻まれる。
「はぁ……はぁ……よし」
シャバルは息を荒げながらも、 リィナの元へ急ぐ。
(リィナ、待ってて!)
「はぁ……はぁ……時間は、稼げただろうか?」
「多分な……」
「あとは、マヌエル様に任せよう……」
——ヒュオオオッ……ババババババッ!
「……!?シャバル?」
「リィナ!お待たせ!」
「全然待ってないわ……速すぎよ。大丈夫……だった?」
「あぁ、約束通り、足を少し怪我させただけ。殺してないよ」
「そう……良かった。さぁ、この先を抜けたら、もう外の世界よ」
「いよいよだね……」
(やっと、自由な世界へ……でも、何だろうこの感じ。さっきの戦いの感覚……楽しい……と思った?)
黒豹の血が目覚めたシャバル。圧倒的なその力に、彼は今まで感じたことのない感覚を味わっていた……
👇目次・あらすじ
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