見出し画像

【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第四十七話 血の記憶

黒に染まる森ネロレイン・フォレストは、 昼でも夜のように暗い。

木々は空を覆い隠し、 湿った土の匂いが常に漂い、豹族レオパルドたちの怒声が鳴り響く。

「そこ!右足を下げろっ!」

「狙いは、首か脳天だ!」

「いいか!弱者は、獲物。ただ死あるのみ……死にたくなければ、強者であれ!」

(はぁ……はぁ……苦しい、外の世界に行きたい……今日の夜もあの木の上に行こう。きっとリィナも来るはず……)

「おい、シャバル。今日は何を仕留めた……何人殺った……」

「は、はい、戦士長。今日は、カエルを3匹、狒狒を2頭仕留めました……」

「……」

——バキッ!

「うわぁ!腕がっ!」

「マヌエル様……何を……」

「騒ぐな……よく見ろ。このカエルも狒狒も数回に分けて、切りつけられている……」

「その様ですが……」

「此奴が、まだ甘さを捨てきれていない証拠!殺すことをためらったな……そこの木に吊るしておけ!頭が冷えるまでな……」

(うぅ……うぅ……)

そのまま、気を失ったシャバル。

(んっ……あ、あれ?ぼく、どうしたんだっけ?)

「シャバル、やっと目を覚ました……」

「リ、リィナ。あれ、なんで……痛っ!」

「じっとして、傷が癒えてないんだから……」

(そ、そうか……ぼくは、戦士長に腕を折られて……)

「シャバル……この森から出ましょう!」

「え、この森から?」

リィナは頷く。

「この森にいたら……あなたは壊れてしまう。身体も……心も……」

「で、でも……ぼくは、“黒豹ネロパルドの血”を持ってる。戦士長たちが見逃してはくれない……」

「そうかもしれない。なぜかは、知らないけど、戦士長は、あなたに殺しを強要してる。それは、今後も続くわ……そんなの嫌でしょ?」

「……」

リィナはシャバルの頬に手を当てた。

「だから逃げるのよ。あなたが、ありのままで生きられる他の場所へ」

(外の世界……無駄に命を奪わなくてもいい場所……)

「分かったリィナ……2人で一緒に逃げよう!」

リィナは微笑んだ。

「えぇ。その腕が治ったら、またこの木の上で会いましょう。それまでは、目立たないようにいつも通りに過ごすのよ……」

「分かった……」

(怖いけど……リィナと一緒なら……)

数日後、シャバルの腕が完治する。

——グッグッ、パンパンパンッ……

(よし!治った!)

「リィナ、リィナ。来たよ」

「待ってたわ。腕大丈夫そうね」

「うん、待たせたね。さぁ、どうやって逃げる?闇雲に走るだけじゃ、絶対に追いつかれる……」

「任せて、これを見て」

(この地図は……)

「私、実は小さいころから、ちょくちょく森の外に出てたの」

「……えっ!?」

「だから、ほとんど誰も知らない道を知ってる。森の北側に、古い抜け道があるの。ここから逃げましょう」

——コクンッ

(もし見つかれば、殺される……リィナだけは、守らなきゃ……)

——ザザザザッ、ガサガサッ、パキッ!

「マヌエル様!シャバルとリィナが……」

「ん?どうした?何があった?」

「見張りのものから、森の外へ走っていく2人を見たと報告が!」

(くっ……小僧どもが!)

「すぐに追え!子供の足だ、すぐに追いつける!絶対にシャバルを逃がすな!リィナは見つけ次第……殺せ!」

「はっ!」

——ヒュオオオッ……ババババババッ!

「ふぅ……もうすぐよ、シャバル」

「うん。大丈夫?リィナ……」

「全然平気よ!ほら、話してる内に着いたわよ」

「こ、これが……」

古い木の根の下に隠されていた。リィナが石をどけると、細い穴が現れる。

シャバルは驚いた。

「こんな場所があったなんて……」

「フフッ、さぁ行きましょ!」

——ヒュオオオッ……ババババババッ!

(……っ!?何か聞こえた……まさか……)

「リィナ、早く!」

——ドンッ!

「どこへ行くつもりだ、シャバル……」

その低い声が、シャバルの心臓をギュッと握りつぶすように響く。

「戦士……長……」

木々の影から、豹族レオパルドの戦士たちが姿を現した。

「……!?」

(完全に囲まれてる!)

マヌエルは冷たい目で二人を見下ろす。

「森を出るか…… 愚か者め……」

リィナはシャバルの前に立った。

「戦士長!シャバルは、狩りや殺しをしたいとは、思っていません!シャバルを解放してあげて下さい!」

「フンッ、解放? “黒豹ネロパルドの血”を持つ者をか?」

「リィナ、下がって……あの目、危険だ……」

——シュン……ガシッ、ダァン!

「かはっ!」

マヌエルはシャバルの首を掴み、地面に叩きつけた。

「シャバル!きゃぁ!」

「リィナも押さえつけておけ……」

「リィナ!……戦士長!お願いです、リィナは何も……ぼくが唆したんです!悪いのは、ぼくなんです!だから、リィナを……」

「黙れ……リィナ、お前が甘やかしたせいで、シャバルは狩人になりきれていない……弱者のままだ」

「狩人なんて、ならなくていい……シャバルに殺しを強要しないで!」

(リィナの声、震えてる……本当は怖いんだ……)

「もういい、お前は死ね……」

マヌエルは戦士たちに命じた。

「リィナを殺せ。シャバルは……再教育だ。連れてこい……」

戦士たちの刃がリィナに迫る。

リィナは涙を流しながら、穏やかに微笑む。

「シャバル……ごめんね。あなたは、悪くないからね……あなたは、あなたらしく生きてね。私の分まで……」

「嫌だ!リィナ……リィナぁぁぁぁぁ!!」

——ヒュュュュュ……ザシュッ!

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「なんだ!?何が起きた?」

風切り音と同時に、シャバルを押さえようとしていた戦士たちが悲鳴を上げる。

「シャバル……あなた……」

暗闇の中輝く黄金色の瞳、肩を揺らす荒々しい息。

(リィナは、ぼくが守る!)

その思いが、シャバルの中の “黒豹ネロパルドの血” 、その力を呼び覚ますのであった。


👈第四十六話 黒に染まる森

👉第四十八話 黒豹の血

👇目次・あらすじ
目次・あらすじ

いいなと思ったら応援しよう!