【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第十六話 太陽の化身
——ガサッ……ガサッ……
森の静寂を背に、飛龍とミラは再び歩き出していた。暗闇と靄が森を包む。湿った土の匂いと、濡れた葉の感触が、2人の足元を優しく撫でていく。
「少しはマシになったか、ミラ?」
ミラは肩を回し、軽く拳を握ってみせた。
「うん。まだちょっと痛むけど、動けるわ。あんたの薬草、効いたみたい。」
「それはよかった。」
「でも、あんた、薬の知識もあるんだね。見た目に似合わず、器用じゃない。」
「長く生きていれば、嫌でも覚える。」
「ふーん。じゃあ、今度は料理もお願いしようかな。」
「……それは期待するな。」
ミラはくすりと笑った。森の中を進む2人の間に、少しずつだが、確かな信頼が芽生え始めていた。
やがて、木々の密度が薄れ、視界が開けていく。森を抜けた先には、広大な荒野が広がっていた。
赤茶けた大地に、風が砂を巻き上げる。遠くには岩山が連なり、空には雲ひとつない。
「森を抜けたはいいが……今度は一面に広がる荒野か。」
飛龍が呟く。ミラもその光景に目を細めた。
「なんか、嫌な感じがする……。」
その時だった。
「おい、そこの2人ッ!!」
突如、空から響く声。ミラが顔を上げると、太陽のように輝く何かが、猛突進してきた。
「何か、来る!?」
飛龍が即座に構える。正面から土煙を上げながらむってくるそれは、赤い羽根を持つ獣戦士。鋭い嘴と猛禽のような目、筋肉質な体に、腕には巨大な翼が生えている。
「おいらの名はテトラ!テトラ・ガルダだ!酉族の誇りを背負い、自称だが、太陽の化身を名乗っている!」
「……また、面倒くさそうなのが来たわね。」
「お前たちか?熊族のガロンを倒したのは!あいつはおいらのライバルだった!その仇、俺が取る!」
「仇って……これは、サバイバルよ!襲われたら、迎え撃つのは当たり前じゃない!」
「うるせぇ!俺は……あいつと決着をつけたかった!それを奪ったお前たちを、許すわけにはいかん!」
「来るぞ、ミラ。」
「わかってる!」
テトラが両腕を広げる。翼のような羽根が大きく広がり、空気を震わせる。だが、彼は飛ばない。翼はあくまで“音”を操るための共鳴器官、彼の真の武器は、その喉に宿る“咆哮”だった。
「喰らえッ!『暁の咆哮ッ!!』」
テトラが咆哮を放つ。その瞬間、耳をつんざく不協和音が2人を襲う。
「何なのこの音ッ!」
「音だけではないッ!やつの攻撃はまだ何かある!」
飛龍の予想は的中している。暁の咆哮は不協和音で相手を怯ませた後、円錐状に放たれる不可視の衝撃波が真の攻撃。
超高周波の振動が空気を加熱し、岩石をも粉々砕く破壊力となり、敵に大ダメージを与えるのだ。
「仕方ないッ。ミラ、少し離れてろ!」
―—————ドォォォォォン!!
飛龍が2つ目の雷鼓を轟かせる。
「第二鼓———『地拳……』」
飛龍が静かに呟いた瞬間、彼の足元の地面が隆起し始めた。大地が龍の形を成し、彼の前に巨大な岩の壁を形成する。
「うわっ!?地面が……なんだ、ありゃ!」
テトラの咆哮が岩壁にぶつかる。轟音と共に衝撃波が荒れ狂うが、地拳の壁はびくともしない。音の波が岩に吸収され、周囲の被害を最小限に抑えていた。
「やるじゃねぇか、おっさん!だが……まだまだこれからだぜ!」
テトラの攻撃は止まな。
「ミラ、俺があいつの隙を一瞬作る。その瞬間にやつを仕留めろ。できるか
?」
「任せて!」
その返事を聞き、飛龍は防御を解く。そして、体に雷を纏わせ、テトラに威嚇する。
「うぉッ!」
テトラが怯んだ隙をミラは見逃さなかった。
(いくよ。ルガ……トルン……。)
「銀狼・爆閃撃!」
ミラは双剣を重ね合わせて、テトラに向かって振りぬく。それは、月の光のごとき速度で、地面を真っ二つに割るほどの凄まじい威力となって、テトラを襲う。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ハァッ…………ハァッ…………そっちのお嬢ちゃんもやるじゃねぇか。2対1でも関係ねぇ、やってやるぜ!」
ミラと飛龍は、テトラとの戦いにどこか清々しい気持ちになっていた。
3人が構え直し、再びぶつかり合う機会を伺っている最中、その地中深くでターゲットを仕留める機会を狙っている黒い影が一つあるのであった……
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