【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第三十八話 折れない魂
夢幻喰の奥義、虚夢獣王の雄叫びが、 空間全体を揺るがした。
その咆哮は、 苦しみ、悲しみ、嘆き、絶望…… あらゆる負の感情を凝縮した“悪夢の音”だった。
ミラは頭を抱え、地面に膝をつく。
「いやぁぁぁぁぁ……やめてぇぇぇぇぇ!!」
飛龍は歯を食いしばり、 拳を握りしめたまま叫ぶ。
「うぉぉぉぉぉ……やめろぉぉぉぉぉ!!」
テトラは頭を押さえながら転げ回る。
「おいらの……頭が……あぁぁぁぁぁぁ!!」
夢幻喰は巨大な獣王の姿で、冷たい視線を3人に送る。
「これが……本当の悪夢というモノだ。3人なら、勝てる?そんな儚い希望……“本物の悪夢”の前では無意味だ!」
(視界が揺れる……頭がズキズキして、また嫌な記憶を思い出す……)
「やめて……やめてっ!」
「“ミラ、立て……お前なら勝てる、さぁ俺たちを驚かせてくれ……”」
「“そうだぜ、ミラ!選抜試練の時みたいに、お前の全力ぶつけてやれ!”」
「“君なら出来るさ、ミラ。狼族の力を解放させた君なら……”」
(兄さん……トルン……ルガ……そうよ、私は……)
「はぁ……はぁ……夢幻喰、あなたの悪夢の叫びはその程度?」
「何だと?」
「私たちがこれまで、どれだけの悪夢を乗り越えたと思ってるの……」
「……」
「こんな事じゃ、折れないわよ……」
「……ほう?」
(この技を喰らってなお、立つか……流石は狼族……神に背く一族……)
ミラは震える足で立ち上がる。
「はぁぁぁぁ!」
——ヒュュュッ……パァン!
「その光!この空間にの支配されない、月光……現実の純粋な輝きか!」
ミラは剣を構え、叫ぶ。
「私は、もう二度と揺れ動かない!苦しみ、悲しみ、嘆き、絶望……全部まとめて、私の強さよ!」
「なるほど……それも繋がり、絆の力というものか……しかし、私もおとなしく喰らいはしないぞ!」
「夢界侵蝕奥義・虚夢獣王の雄叫びッ!」
——ズズズ……ギャリギャリ……キィィィ!!!
(うぅっ!集中するのよ……力を一点に……)
「これが想いの力……仲間や絆の力よ!」
——ヒュュュッ……パリパリパリパリ!
「月光冷華・氷閃!!」
冷気を帯びた光の刃が、夢幻喰の腕を斬り裂いた。と同時に、傷口が凍り付く。
「……っく!」
(この傷はまずい……塞がらない!?凍った傷口が焼けるように痛む……)
飛龍は、ミラの心に呼応するように立ち上がった。
「ミラ…… お前……強くなったな……俺も負けてはおれん。はぁぁぁぁ!」
雷鼓が震え、 飛龍の背中に龍が再び浮かび上がる。
「おい、飛龍ッ!! 背中から、龍が浮かび上がってるぞ!」
(俺の中の龍の血よ……神獣の力があるのなら、俺の中に駆け巡れ!)
——グググッ……ミシミシッ!
「はぁぁぁぁ!突き抜けろ、俺の中の龍よ!」
飛龍が力を込めた瞬間、右腕が内側からはぜるように膨張した。指先から鋼をも凌ぐ鋭利な爪が突き出す。
皮膚を突き破って現れたのは、濃い翡翠色に光る無数の鱗。ひじからは荒々しい龍鱗が逆立っている。
「それは! バカな……まさか……神獣形態っ!お前にそんなことが!?」
—————ドォォォォォン!!
「真・第一鼓———『神獣雷拳』!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」
(体の深部に入る雷撃……こ、これはまずい!)
「はぁ……はぁ……俺は、弱いままじゃない!! 仲間を守るためなら…… 龍の力だって引き出せる!!」
「おっしゃぁ!おいらも負けてられねぇ!はぁぁぁぁ!」
太陽の光がテトラの身体から溢れ出す。
「おいらは…… 光を失わねぇ!! 仲間を照らすために…… 生まれてきたんだ!!おいらは……おいらは……太陽の化身だぁぁぁぁ!日輪爆閃ッ!」
——ゴォォォ……バァァァァァン!!!
太陽のような光が、熱が、テトラの咆哮に乗り、夢幻喰の顔面を直撃した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
(くそっ!ミラ、飛龍に続いてテトラまで……どこまでも癪に障る……絆が何だというのだ?仲間がなんだというのだ?)
「どう?夢幻喰。これが私たちの力よ!」
「私が……私が……負けるはずがないだろぉぉぉぉぉ!」
(この感じ……今までの余裕は無いみたいね。次で仕留めに来る……直感で何となくわかる。きっと2人も分かってる……)
「飛龍、テトラ……これで、最後よ!絶対に……絶対に勝つわよ!」
ミラの声に2人はニヤリと笑みを浮かべ、声を合わせる。
「当たり前だ!」
「当たりめぇだろぉ!」
3人は揺るがぬ覚悟を持って、烈火のごとき怒り狂う夢幻喰との最後の戦いに挑むのであった。
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