【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第三十九話 悪夢からの解放
夢幻喰の神獣形態が、 怒りと焦りを混ぜた咆哮を上げた。
「私が……! この私が……!お前らごときに負けるはずがないだろぉぉぉ!!」
その声と同時に、現実夢境が崩壊を始める。
空は裂け、 地面は浮かび、 森は逆さに揺れ、 世界そのものが悲鳴を上げていた。
「やべぇ……!この世界が……この空間が……壊れていく!!」
「これは、まずい!夢幻喰の力が暴走している……このままでは……現実世界ごと消し飛ぶ!!」
「だったら……その前に倒すしかない!!」
夢幻喰は四本の腕と翼を広げ、空間を震わせる。
「来い……! 来いぃぃぃ!! 貴様らを……喰らい尽くしてやる!!」
——ドクンッドクンッドクンッ!!ドクンッドクンッドクンッ!!
夢幻喰の無数の眼が一斉に開く。
(この技は、私の身体にも堪えるが、仕方ない……これで仕留める!)
「最終奥義夢界侵蝕—— 虚夢獣王・終滅の咆哮ァ!!」
「……ッ!?」
(黒い衝撃波が!)
「これは、防ぎきれん!?俺たちの攻撃で、相殺すしかない!」
「おいら達の全部をぶつけるんだ!!」
「はぁぁぁぁ!」
3人の力が覚醒の時を迎える。
「世界の理を凍てつかせる一撃!月光冷華ッ!!」
「突き抜けろ、龍の力よ!真・第一鼓———『神獣雷拳』!」
「爆発しろ、太陽の煌めき!日輪煌天衝!!」
3つの光が一直線に夢幻喰へ向かう。
「無駄だぁぁぁぁ!! 私の作る悪夢は……決して……消えない!!」
夢幻喰が見つめる先で、3人の声が重なる。
「悪夢は……!」
「乗り越えるために……!」
「あるんだろぉぉぉ!!」
「……!?」
「だから……私たちは負けない!!」
3つの光が夢幻喰の胸を貫いた。
雷が走り、 氷が咲き、 太陽が燃え上がる。
「ば……かな……私の身体が……崩れ……私が…… 悪夢の王である……この私が……負ける……はず……が……」
(な、なぜ?なぜ、あんな奴らに、そんな力が……)
「夢幻喰、これはあなたを倒すための力じゃない!私たちが前に進むために……その為に覚醒させた力よ!」
夢幻喰の身体が光に飲まれ、 黒い靄が霧散していく。
最後に残った夢幻喰の声は、 どこか安らいでいた。
「前に進む……力か…… 」
飛龍が一歩前に出る。その表情には、戦いの勝者としての誇りではなく、どこか複雑な痛みが浮かんでいた。
「夢幻喰……お前、最後に何を見ていた?」
—スゥ……
夢幻喰はゆっくりと目を閉じた。
「……夢だよ。私が……ずっと思い焦がれた、夢だ」
「なんだ、これ!?夢幻喰の身体から、何か出てきやがった!こいつ、まだ……」
「違うわ、テトラ……これは……」
「夢幻喰の記憶だ……」
果てのない闇の世界。そこに夢幻喰は、夢の管理者として生まれた。
しかし、夢を喰らう力を持つがゆえに、誰からも恐れられ、近づかれることもない。
夢幻喰は未来永劫、孤独だった。そのはずだった。
そんな彼の前に小さな影が現れた。
「なぁ、あんた……なんでそんなとこで1人なんだ?」
幼い龍族の子供。まだ体は小さく、尻尾を振りながら夢幻喰に近づいてくる。
「……近づくな。私は夢を喰らう怪物。お前の存在も……」
「へーきへーき! 俺は、強いもん!」
(なんだ、こいつ。見たところ、龍族のようだが。あいつが残した命が、これか?似ても似つかんな……)
だが、その子供飛龍は毎日のように夢幻喰のもとへ来た。
「夢幻喰! 今日も遊ぼうぜ!」
「私は遊び相手ではない……」
「じゃあ話そ! おいら、話すのも好き!」
「……勝手にしろ」
最初は鬱陶しかった。だが、いつしか夢幻喰はその声を待つようになっていた。
飛龍は夢幻喰にとって、初めての“友”だった。
時が流れ、飛龍は立派な青年へと成長した。夢幻喰のもとを訪れる頻度は減り、やがてあの日が訪れた。
「夢幻喰、紹介するよ。俺の妻のアストラ。それと……娘の龍華だ」
小さな龍の子供が、夢幻喰の足にしがみつく。
「おじちゃん、だぁれ?」
——ドックン……
夢幻喰は答えられなかった。
(なんだ、この胸の痛み……)
飛龍は家族を作った。他者との繋がりでき、愛を知った。
それは、夢幻喰が永遠に手に入れられないもの。
夢幻喰は笑顔を作ろうとしたが、うまくいかなかった。
「……そうか。お前は……幸せそうだな」
「あぁ。これ以上ない幸福を感じている」
飛龍は気づかなかった。 夢幻喰の声が震えていたことに。
夢幻喰は気づけば、神の前に立っていた。
「飛龍とその一家は……天空のはずれにある、“幻界園” に居ります」
夢幻喰は飛龍が隠れ住む場所を神々に密告した。
「お、おい。これが夢幻喰の記憶だとしたらよぉ……」
「夢幻喰……あなた……」
「フッフッフッ、飛龍……すまなかったね」
神は飛龍の娘を捕らえるため、動いた。 そして、飛龍は神と戦い、敗れ、娘は連れ去られ、妻は殺された。
夢幻喰と飛龍はそれから一度も会うことは無かった。
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