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土中の水の流れに着目した登山道整備

登山道を崩して荒らすのは、「踏圧」と「水の流れ」

今、いたるところで登山道が荒れていると聞きます。荒れた登山道の整備が間に合わず、立ち入り禁止になる登山道も増えているようです。

登山道整備が追いつかない要因のひとつは、水によって荒れていくスピードが直すスピードよりも速いため。登山道は広範囲にあり、直すには人手と費用が必要です。

その対策として、登山道が荒れるスピードを抑えて、なおかつ興味のあるひとに参加してもらって整備をしたらどうかと考えました。
実際に関わってみてわかったのは、地権者との交渉や法の不備などがあって、思うようには進まないこと。それでも、将来的には多くの人が関われる作業として、登山道整備には可能性があると思っています。

わたし自身は、登山道整備が多くの人が土中の水を考える機会を持てるコンテンツなのではないか?と思い、興味をもちました。

約1年の間、登山道整備に関わって、土中の水の動きから感じたことがあったので、まとめてみました。


水の流れに着目する

登山道はなぜ荒れるのか。そのメカニズムがわかると対処できることが見つかります。

荒れる原因として大きいのが、道を踏みしめて土を硬くする「踏圧」と、水の流れ「水流」のふたつです。

集中して踏みつけられると、水がしみこまなくなる

多くの人が同じ場所を集中して歩くと、地面が踏みかたまり、水がしみこまなくなります。踏み均されて凸凹も少なくなっていくので、水の流れを速めやすくなります。

踏みしめられていくうちに植物もなくなっていくので、土が流れ出しやすくもなります。その結果、
 土の表面を水が走る
 水が軽い泥や土を運び去る
 水が流れ続けるうちに細かな粒子がすきまを塞ぎ、水がしみこみにくくなる
 重たい岩や根が残る
 土がどんどん削れていく
 泥が堆積している場所では、泥が流れ続けてツルツルの路面になる
といった登山道の「荒れ」がすすんでいきます。

登山道の周辺から考える

目の前の荒れた道に対して対症療法的に向き合うのではなく、全体を眺めて、どんなストックとフローの関係があるのかを見ていきます。登山道周辺の水の流れや人の流れを見ていくと、違った打ち手を考えられます。

登山道の荒れをおさめるための、登山道への介入点は、
 ① 流れが速まらないようにゆっくり動かす
 ② 入る水の量を減らす
 ③ 水が出ていく量を増やす
 ④ 歩く人の意識を変える

主に4つだと考えました。

① 水の動きをゆっくりにする

そもそも水の動きが速いから、道が荒れます。
流速があるところは早めに対処して、できるだけ水がゆっくりと動くようににしていきます。
水の動きをゆっくりにするには、①角度を水平にする、②硬いものにぶつける、③分散させる、の三つの方法があります。

線形を変える

可能であれば、道筋を変えるのが長い目で見ていちばん効果的です。

昔から残っている生活道や作業道を観察すると、斜面に対してまっすぐに登っていく(=直登する)道はありません。ほとんどが水平に近い角度で蛇行しながらゆっくりと登っていくか、なだらかな尾根沿いを通る道筋になっています。
長く移動しても身体に負担がかからないような、ゆるやかなのぼり坂です。
山の斜面に対してまっすぐに登る急な坂では、踏圧が強まり、水が集まりやすく、土が削られていきます。直登の角度に近くなるほど、上り下りも大変で体に負担がかかりますし、道も荒れやすくなります。
昔つくられた直登の道は、大雨や大雪で道が崩れてしまって、現在まで残らずに消滅してしまっているとも考えられます。

わたしの勝手な憶測ですが、今のような直登の道ができたのは、登山がレジャーとして楽しまれるようになってからだと思います。余暇で山登りをするので、体に負荷がかかってもよしとする文化が、荒れやすい直登の道を作ったのではないかと。それと、雪道を歩く感覚で土の道を登るから、とも考えられます。

段差をつくりながら蛇行させる

道筋を変えられないのであれば、可能な範囲の中で水が蛇行する方法を考えるといいです。
木の段をつくるときに丸太をハの字に組む工法は、段差で水の勢いをゆるめながら蛇行させます。並行に丸太を置くよりも水の動きをコントロールをしやすいです。
ちなみにハの字の段差は、歩く場所によって幅が変化しますので、誰にでも歩きやすい歩幅で登れるので、疲れにくい道にもなります。

平行ではなく、斜めに木段を設置すると、水が蛇行するので、水の勢いをゆるめやすい

硬いものにぶつける

水が落ちて当たるところには、硬いものを設置します。
落差があるほど、土を削ってしまいます。滝つぼが深いのと同じ理由で、水が勢いよく落ち続けている場所は、時間がたつにしたがって深く掘れて行きます。
木段の場合、段のすぐ下が削れやすいので、土がむき出しのままにならないように、石などを置きます。
また、排水するための水切りは、水が流れ出るあたりに岩や木の根などを配置します。

段切りする

土がむき出しになった斜面は、どんどん削られていきます。特に40〜45°の角度がもっとも崩れやすいとされています。38°以下の平坦な面、もしくは直角に切り立った角度にしたほうが、崩れにくいです。
斜めになった土の面に雨があたると、その勢いで斜面が崩れていきます。特に高い木から落ちる水滴は、粒が大きく、土を削る力も強いです。

垂直になるように斜面を切り取ることで、崩れにくく、土を安定させやすくなります。

段切りした斜面。土質にもよるが、このような目の詰まった泥は、斜面の状態よりも直角に切ったほうが崩れにくかった。

安定しやすい地質の場所は、しばらくすると表面に苔がついてコーティングしてくれます。そうなると、垂直の面がより安定しやすくなります。

地質にもよりますが、林業の作業道では、150センチメートル以下の高さで斜面を垂直に切り取って安定させます。垂直に切り取ると、雨滴が斜面に当たらないので崩れにくいです。

(参考)土質による対応のしかたの違い

https://www.rinya.maff.go.jp/j/seibi/sagyoudo/pdf/1gaidorain.pdf

②入る水の量を減らす

流れが集まるほど、水の勢いは増します。できるだけ分散させるように、水の動きを設計していきます。
水を分散させるには、段差を作る、水切りを配置する、植物が生える環境をつくってしみこませる、などの方法があります。

段差を作って減らす、分散させる

道に向かって流れ込む場所に、段差をつくります。

段差は、水の流れが強いところでは石積みを、土や植物の多いところでは柵(シガラミ)を作ります。
段差をつくることで水が水平方向に分散されます。平らな面で土が安定するので、植物も根づきやすくなります。

道に入ってこようとする水の流れをせき止めるイメージで柵(シガラミ)を作る。配置は、一列に並ばないように、ランダムに散らすとよい。

柵や石積は、小さくても水の勢いを弱められます。
柵は、ペグハンマーなどを使って杭を打って枝を並べ、スコップで平らな面を作ってもいいです。力のない子どもでもできる作業です。また周辺の小枝などを使ってできるので、材料の調達もラクです。(材料調達の際には、周辺の地権者に許可をとる必要があります)

介入する手間を少なくする

できるだけ人の手をかけずに再生させるといいです。

手間がかかるほど、整備できる距離は短くなります。できるだけ小さな作業で、自然の力が働くことで時間の経過に応じて安定していくように設計するといいです。

症状が軽いうちに対処する

わたしたちは、体調が悪くなったら体調を整えるように生活改善をします。睡眠時間を多くとるとか、食事に気をつけるなどすると、回復します。体調不良をそのまま放置すると、重病につながります。
道も同様で、荒れ始める前に早めに対処するほど、簡単な作業ですみます。重病になると大掛かりな手術が必要になるのと一緒で、対処が遅れるほど回復までに大きな力が必要になります。

道が荒れそうであれば、早めに手を打つ。深く掘れたあとに作業するよりも、ずっと手間もコストもかかりません。

たとえば、水が集まって深く掘れる前に、枝や細丸太を道に横たえる。木の根が浮きそうであれば、すき間を埋めて土がかぶるようにする。複線化しそうなら、枝を横たえるなどして通りにくくする、などです。

早めの対処作業は、重いものを運んだりしなくてもいいので、力がない女性や子供でも整備できます。また特別な道具も必要がないので、通りがかりに作業することもできます。

削られてから作業するのではなく、こまめな手入れを心がけると、登山道の安定を小さな力で保ちやすくなります。

自然に働いてもらう

作業した時が完成ではなく、作業のあとに、自然の力によってよりよく変化していくように、計画するといいです。

時間の経過とともにゆっくりと変化していく「全体の流れ」を意識するのです。すぐには効果が見えないのですが、半年後、一年後、年を追うごとに作業した場所の環境がよりよくなるように長い目で考えていきます。

主に意識したいのは、水のチカラと植物のチカラです。

水に働いてもらう

人間がすべての作業をするのではなく、時間の経過で働く水の力を利用します。水の流れを読んで、水が土砂を運ぶのを見越して計画します。

水に土砂を運んでもらうコツは、「段差のすき間を埋める」です。隙間が空いていると、水と空気が流れてしまうので、時間がたっても土砂が堆積しません。細かく詰めて転圧するのがポイントになります。

植物や菌に働いてもらう
道の周辺に植物が根付くことで、根が土をつかんで流れ出しにくくなります。また、根の周辺につく菌根菌が、土の中に細かなすき間を作ります。
このすき間によって水が土中にしみこみやすくなり、その結果、地表を流れる流量を減らすことになります。

そのためには、土が流れない環境を作ること。
柵などによって平らな面を作る。
法面と路面の間に溝を掘る、水を止めるものを置く、などが有効です。

まとめ

庭がない集合住宅に住んでいると、土をいじれる機会はなかなかありません。登山道整備は、多くのひとが土に触れ、かかわりを持てると考えました。
可能であれば、小さな子供から参加できるワークショップなどを開催して、いろんなひとが土に親しめる機会を作れたらいいなと思っています。
土をいじる体験は、他のものには変え難い特別なものです。

いろんな地域で登山道整備、トレイル整備が進められています。山に登るだけではなく、登山道整備を通じて自然のメカニズムなどを学ぶ機会になるといいなと思っています。

参考となる本

登山道整備に関する本。

システム思考の本。いろんな仕組みが組み合わさって、現状となっている。要素を分解し、つながりをみて介入することで、どんな変化が生まれるのか。

登山道整備と同じ考え方で、土中の水の動きを考える里山の整備をおこなっています。お好きな日時・場所でのリクエスト開催も可。


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