【企画SS#片想い文芸部】聖夜(クリスマス)
(約2,000字)
「クリスマスにイルミネーションを見に行く?」
「いえ、行くと決まったわけでは。行きたいか、と訊かれただけで」
「行きたいって答えたんでしょ?」
「…………」
「え?……え? 行かないとかあるの……?」
上司は愕然と言葉を失う。
「いや、行かないと言ったわけでは……」
「なに、なんて答えたの?」
ぎゅっと眉を寄せての詰問。仕事では見ない顔だ。
……冷静に考えると、それもどうなのか。
わたしは渋々、その日の出来事を話した。
上司が帰った後の木戸さんとの会話。
言われたこと。
「人間関係は職場だけじゃない」
「……はい」
「間宮さんとこれまで以上の関係になりたい。仕事じゃなくても」
「……はい」
「で、極めつけが、『イルミネーションと花火、今年も見に行きたいですか』?」
聞き終えた上司がテーブルに突っ伏す。
東向きのミーティング室には朝日が満ちて、上司の腕時計の文字盤が銀色に陽を弾いた。
「それ、どこに迷う余地があるの……」
「迷う、というか……どう受け止めればいいのかわからず……」
「いや告白じゃん!? それ以外ないでしょ、木戸さんの言葉には裏も比喩も含みもないよ、俺と違ってそのまんまの意味だよ!」
「そんな怒ります!? 仕事でも怒られたことないのに!」
激昂する上司に、思わず某ニュータイプのような返し方をしてしまった。
いろいろとおかしい。
「ごめん、落ち着く。で、間宮さんはなんて答えたわけ?」
「ええ……わ、わかりません、と……」
「わかりません!!?」
「落ち着くって言ったのに!」
自分でもわかっている。明らかに返し方を間違えた。
でも。
だって。
「急にそんな展開になられても……!」
ずっとあの人を見てきた。部下として、ずっと背中を追ってきた。
あの人はずっと仕事に夢中で、仕事に恋をしているその瞳に、わたしは惹かれていて。
あくまでも仕事の関係でしかなくて。
「……でも間宮さんだって気づいてたでしょ、木戸さんにとって、自分が特別だって」
「………とくべつ………」
そう思っていいんだろうか。
わたしの思い上がりじゃないかと、今までずっと……
「当たり前だよ、共同プロジェクトを引き受けたのは担当者が間宮さんだったから。それに、経企がプロジェクトから降りた時に木戸さんがウチだけ続行するって決めたのだって、たぶん間宮さんのため」
「わたしの?」
どういうことだ。
戸惑うわたしに、上司は「やっぱり気づいてなかった」とため息を吐いた。
「間宮さんが『ここまでやってきたのに』って悔しがったから、間宮さんの努力を無駄にしたくないから、木戸さんは揉めるってわかってて続行を決めたんだよ。完全な管理職マターだったら中止も検討したかもしれない。でも間宮さんが関わってたから、木戸さんは退きたくなかったんだと思う」
「それは……わたしじゃなくても、他の部下でも同じでは」
「かもね。でも、木戸さんがそこまで仕事を共有できる部下自体が、そもそも他にいないんじゃない」
知らない?
間宮さんが係替えになってから、あのチームの主要施策は、ほとんど木戸さんが自分で回してるんだよ。
上司の言葉が、耳に刺さる気がした。
「部長からはもっと部下に落とせって言われてるみたいだけど、木戸さんの期待値に届かないから結局手を出しちゃう、って感じかな。そんなあの人にとって、任せられて共有できる部下って、それだけできっと特別な存在」
楽しいですね。
こうして、また一緒に、同じものを目指すのは。
照れたように笑いながら言われた言葉。
わたしは背中を追っていて、
あの瞳は仕事だけを見ていて、
自分はただの、部下のひとりでしかなくて……
心臓が痛い。
「……それに、初めてじゃないんじゃない? 木戸さんから踏み込んできたの」
「……どうして、そう……」
「あの人がいきなりそんな詰め方すると思えないし。俺から見ても、踏み込もうとして失敗してることあったしね」
「失敗?」
「鈍感な誰かさんが、推し語りに変換しちゃったり?」
「え……え?」
「まぁそれはいいよ。問題はイルミネーション。わかりません、に木戸さんはなんて言ったの?」
思い出した言葉に、全身が熱くなる。
……もし行きたくなったら、教えてくれると嬉しいです。
「………紳士………!」
「ですよね……」
「もう俺が惚れそう」
「ええ!?」
「だってかっこいいもん。ほんと、敵わないよなぁ」
で、どうするの。
上司の目線が刺さる。
心臓が暴れている。
どうする?
どうするって、それは。
それは……
「……どうせ決まってるなら、早く言ってあげたら、とは思うけど」
呆れつつも、上司はどこか楽しそうだ。
やっぱり悪い。
そして、やさしい。
イルミネーションと花火。
望んでも、いいんだろうか。
ワーカホリックなあの人には、少し物足りないかもしれない、……そんな、クリスマス。
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片想い文芸部さん期間限定復活!!!
前回のお題からとんでもないジャンプをした木戸マネ、これは本家復活に合わせて決めにきたか!? と思いつつ、決まらないっていうね。
さすが間宮さん……!! やっぱりラスボスでした。
間宮さん「展開が急すぎる!!」
木戸さん「え?? だってさっき間宮さんから……」
香山さん「ウチの子がほんと拗らせててすみません。よく言っときます」
イルミネーション行くの? ねぇ行くの??(※作者)
前回のこの人たち↓
木戸マネジャンプ回
共同PJ引き受け経緯はこちら↓
ウチだけ続行、はこちら↓
これまでの話はこちらからどうぞ☆
TALESでも公開してます!このシリーズだけならそっちのほうが読みやすいかも。
ぜひぜひ覗いてやってください(*´∀`*)
note版はこちら↓
※他の企画参加作もあります
