【企画短編#noteでBL】5月の日曜日にはいつもバラを
企画参加作品②
毎月恒例、BL祭りに今回も参加いたします。
なみさん、いつもありがとうございます!!
参加作①はこちら↓
(本作について)
内容は独立してますが、この子たちの話です↓
お題の「爪切り」から急に出てきた…。
よろしければこちらもどうぞ☆(1,000字SS)
※※BL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください※※
【テーマ】3つのお題でBL(3,000~5,000字)
【お題】 花・爪切り・「大嫌い!…でも好き」
【タイトル】5月の日曜日にはいつもバラを(スペース除き約3,100字)
「爪切りある?」
トキは自分の爪を見ながら言った。
俺はキッチンカウンターのボックスから爪切りを取って渡す。ありがとう、と小さく呟いて、トキは爪を切り出した。
「深爪すぎない?」
白い部分が全くない切り方に、自分の眉が寄るのがわかる。トキは小さく笑った。
「そうかな。いつもこんなだから、もうなんとも思わないかな」
そうかもしれない。
いつもどおり。慣れ。それはどんな形でも、きっとどこか心地良いのだろう。だからトキの爪はいつも短すぎるし、俺の筆圧はいつも高すぎる。
ほんとは少しだけ変えたほうがいいのかもしれなくても。気がつけばいつもどおりに落ち着く。
トキは使い終わった爪切りを片付けて、俺のPC画面を覗き込んだ。
「…花?」
「うん」
画面には大小さまざまなフラワーアレンジメントが並んでいる。ピンクや赤の色味も鮮やかだ。だが、トップページに俺が求める花はない。
当然だ。5月初旬に注文する花なんて、相場はカーネーションと決まっている。
「これとか可愛いじゃん」
ピンクと赤、丸いフォルムにちょこんとマスコットが乗ったポット。たしかに可愛い。
でもダメなのだ。
「カーネーション嫌いなんだよ、母さん」
「え?」
「だからカーネーションが入ってるのはダメなんだ。…バラ限定じゃないと」
しかもNGはそれだけではない。
「ピンクは可愛すぎるからダメ、青いバラとか生花に着色したものもイヤ、大きすぎると飾る場所に困る、…注文が多すぎる」
まずカーネーションが一輪も入っていないもの、という時点で時節柄検索がめんどうなのに。毎年画面を見てはげんなりする。
「でもちゃんと贈るんだ?」
トキは楽しそうに俺とPCを交互に見る。
「…去年飛ばしたら余計めんどうなことになった」
「だろうな」
ついに吹き出すと、トキはソファに移動してスマホをいじり出した。楽しそうに小さく歌いながら。
なんの曲だったろう。…よくピアノで耳にする…
「初めて母の日に花あげたのっていつ?」
「…小3だったかな、たぶん」
思い出す。母の日にはカーネーションを贈るらしいと認識し、「母の日の花を買うから小遣いをくれ」と母に言った。今にして思えば、プレゼントを贈る相手に代金を要求している時点で残念極まりない。
母は笑って代金をくれた。そして言ったのだ。
カーネーションは嫌いなの。だからくれるならバラにしてちょうだい。
…真っ赤なのを、一輪だけ。
「…なんだそれ、超エロくない?」
「他人の母親にエロいはやめろ」
エロいかはともかく、変なこと言うなぁとは思った。だが本人がバラがいいと言うのだからバラを買うしかない。
花屋でバラがほしいと言うと、見るからに優しそうな店員は非常に困惑し、何度もカーネーションじゃなくていいのかと訊いてきた。おそらく彼女にとって、俺は母の日に贈るべき花も知らない、愚かな子どもと映ったのだろう。都度「バラがいい」と答えながら、花一輪買うだけでこんなにも手間取ることに、俺自身極めて困惑していた。
苦いような愛しいような、遠い思い出。けれどその日買ったバラの、角度によっては黒くさえ見えた深紅の花弁を、今でも鮮やかに思い出せる。
スマホを操作する手を止めて、トキの瞳が真っ直ぐに俺を見た。
「なにそれ、…やっぱ超エロい」
「他人の思い出にエロいはやめろ」
真紅のバラね…と、トキは小さく呟いている。
楽しげにスマホを操作しているその姿を横目に、俺は悩みに悩んで、小さな壁掛けのプリザーブドフラワーを注文した。これで今日のメインタスクは完了だ。なんだかどっと疲れてしまった。
「お疲れ。メシどうする?」
隣に座ると髪を撫でられた。爪が短すぎる、長い指。…俺の好きな指。
「…なんでもいい。食べなくてもいい…」
なんだか眠くなった気がして、身体を倒してトキの膝を枕にしてみる。見上げた綺麗な顔は呆れたように笑っていて、ああ好きだな、と思った。
この顔が好きだ。…こうしているのが、とても好きだ。でも。
「…この状況でダメなの?」
口を手で塞いでキスを拒んだ俺に、トキはふふ、とおかしそうに笑う。残念そうでも悲しそうでもない、いつもどおりの、楽しそうな笑顔。
「いつになったらいいわけ?…俺、客観的に見て超エラいと思うんだけど」
そう言われると、ほんの少しだけ胸が痛い、けれど。
「…どうしても嫌なんだ。ごめん」
「ふぅん?…それ以外ならいいのに?」
そう。それ以外なら、どうふれられたって平気なのに。
「キスだけは嫌だ」
ふふ、と楽しそうにトキは笑う。
「いいよ、別に。おまえがここにいるなら、なんだって」
キスが大嫌いな、でも俺のことは大好きな、…可愛い可愛い、俺の恋人。
まるで映画のセリフのように囁いて、トキは俺の髪を撫でる。爪の短い、長い指。髪を梳くその動きが気持ちよくて、俺は自然と目を閉じる。
ああそうだ。…こうしているのが、とても好きだ。
日曜日、母から花を受け取ったという短いメッセージが届いた。
でもあれはちょっと綺麗すぎるんじゃないの。
あんたの恋人に嫉妬されるのは嫌だから、
次はもっとシンプルなやつにしてね。
「何言ってんだまじで…」
カーネーションは嫌い。
ピンクもダメ。
生花に着色したのもイヤ。
大きすぎるのは飾る場所に困る。
…綺麗すぎず、シンプルに。
「何選べばいいんだよほんとに…」
めんどくさすぎる。来年を思うと、早くも気が重い。
「わがままってのもエロくていいな」
「やめろっつの。…くそ、まじでめんどい」
「でも来年も贈るんだろ」
それはそうだ。贈らないのはさらにめんどくさいことになる。
「それだけ?」
トキの黒い瞳が真っ直ぐに俺を射る。それだけ?めんどくさいだけ?
…きっと違う。どんな形でも、いつもどおりだというだけで、それはきっと心地良い。
ああそうだ、こうだった。あれは嫌い。それが好き。そっちはダメ。これならいい。…そう思い出しながら、俺は俺の輪郭をなぞる。爪の短すぎる長い指や、思い出の奥の深紅のバラ。そんなひとつひとつで、俺は俺の形を思い出す。だから、…
ピンポーン。
思考はインターホンの音に中断された。
「頼むよ。…手が離せない」
フライパンを見つめたまま、トキが言う。口元には薄く笑みが浮かんで、とても楽しそうに見えた。
その顔を見て、不意に先日の記憶が蘇る。あの日、トキが口ずさんでいた曲。
カノンだ。
そんなことを思いながら、俺は素直に玄関に向かった、が。
「…なんだこれ」
配達人から手渡されたものに、俺は大いに困惑して立ち尽くした。配達人は完璧な営業スマイルではきはきと注文の礼を述べ、颯爽と去って行く。
「思ったより大きかったな」
配達ミスを真剣に疑う俺に、トキはあっさりと言い放った。
「え、これおまえが注文したの?なんで?」
深紅のバラの花束。それも、俺が両手で抱えるほどの大きさだ。
もしかして、100本近くあるんじゃないか。俺の困惑はますます深まる。
「なんだこれ。どうすんのこれ。なんなのこれ?」
「プレゼントだけど」
「はぁ?」
トキが花束を抱えた俺の正面に立つ。花束ごと抱きしめるように、その手が俺の腰に回された。…俺の困惑はどこまでも深まる。
何が起こってるんだ。
「やっぱ似合うな。…エロくていい」
「はぁあ?」
深紅のバラの向こうで、トキの瞳が漆黒にきらめく。挑むように。脳裏に母のメッセージが過る。
次はもっと、シンプルなものに。
あんたの恋人に、…
まさか。ウソだろ?
「深紅のバラなんてエロい記憶、いつまでも他人に持たせてられるかよ」
「…なに言って…あれは子どもの頃の…」
「それでもダメ」
これで俺に上書きな?
深紅のバラの向こうで、漆黒の瞳がきらりと光る。俺の身体は、射ぬかれたように動けない。
薄く笑った唇が、バラの花びらをそっと咬んだ。
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