【企画短編#noteでBL※R18】雨が降りやむまでは
毎月恒例、BL祭りに今回も参加いたします。
なみさん、いつもありがとうございます!!
あとでもう1作投稿します~。
改めて。
お題、むっずぅ……!!!
ご新規CPにパンツ、もとい憧れのラブコメ担当をお願いしようと思ったものの、これを書いている9/20時点でラブコメは定義ごと行方不明です。
代わりに「俺が履き忘れてやるよ」と颯爽と登場してくれたのは誰なのか。
ぜひ本編でご確認いただければ幸いです!
(その後なんとか投稿できたご新規ワンコ)
前夜祭(フライングパンツ&100字でパンツ)
せっかくなのでまとめてみました。
投稿日までの間も楽しかったなぁ(≧▽≦)
本編
※※BL要素を含みますので、苦手な方はご注意ください※※
【テーマ】3つのお題でBL(3,000~5,000字)
【お題】 秋の味覚・本当にあった怖い話・パンツはき忘れた
【タイトル】雨が降りやむまでは(スペース除き約4,900字)
雨の音がする。
するりとベッドに滑り込んできた恋人は薄いバスローブを纏っただけで、よく見ると本当にそれだけだった。
「……なんで履いてないの」
髪を梳いてくる手を押さえながら訊くと、楽しそうに細められた瞳のなかで間接照明の灯りが揺れる。
唇に微笑を浮かべて、彼は耳元で囁いた。
「履き忘れちゃった。……てか、いらなくない?」
そんなわけないだろ、と抗議しかけた口を手で塞がれて、睨んだところで唇が首筋に落ちる。
「ちょ……っ、」
「いらないだろ。そんなことより、」
雨、やまないね。
低く囁く声が、雨の音に沈んで溶ける。
雨の日には、心の施錠が甘くなる。
しとしと、ざぁざぁ、ぽつぽつ、あるいは遠雷や暴風をつれていても。雨だ、と思うと、とたんに心の鍵が開く。
古いドアノブがカチャリと回って、ぎぃ、と扉が開く音がする。
だから、雨の日には。
「まじで危なすぎ」
彼は苦く笑って、愛しむように頬を撫でた。
「冷静に考えたらほんとゾッとする。『一人暮らしの男性、自宅で襲われーーー』とか、充分あり得る状況じゃん」
「おまえだけには言われたくない」
俺の抗議に、恋人は瞳を光らせて覆い被さってくる。
しなやかで、自由で、美しい。
雨の日に出会った、俺の恋人。
その日は午後から雨が降った。
水を吸ったスラックスの重さにうんざりしながら着いたマンションで、彼はエントランスの軒下から空を見上げていた。見るからに雨宿りだ。
上から下までずぶ濡れの姿。掻き上げた前髪が頬に雫を落として、横顔の、あらわになった額から顎までのラインが、絵に描いたように綺麗だった。
猫みたいだな。
そう思ったのは、長い手足がいかにもしなやかそうだったからだ。濡れた艷やかな黒髪も、空を見つめる磨き抜かれた宝石のような瞳も、毛並みの良い黒猫を思わせた。
しなやかで自由な、美しい猫。そんなイメージに動揺する。
雨の日の猫。
ぎぃい、と、扉の開く音が聞こえる。
くしゅん。
「あ」
雨に漂っていた意識は、小さなくしゃみに引き戻された。俺の視線に気づいた彼が、困ったように微笑む。
「……ここの人?」
思いがけず話しかけられて曖昧に頷く。立ち去るタイミングを完全に逃した。気まずい空気のなか、改めて彼を正面から見る。
濡れ鼠というやつだ。こんなに降っているのに、傘を持たずに歩いたのだろうか。
寒そうだな、と思った瞬間。
「……寒くなってきた」
目の前で本人が呟いた。
いくら残暑厳しいと言っても、濡れたままでは冷える。場合によっては熱が出る。
狼狽える俺を真っ直ぐな視線で捕らえて、彼は言った。雨に溶けるような、静かな低い声で。
「雨がやむまで、いさせてくれない?」
傘を貸せば済む話だった。
冷静になって困惑した。初対面の人間を簡単に家に入れるなんて、どうかしている。
どうしてOKしてしまったのか。
寒そう、だったから。
それに……
「ありがとう。シャワーまで貸してもらって、ほんと助かった」
少し小さいはずの俺の服を着て、彼は微笑む。無言で頷く俺から窓に視線を移して、小さく「やまないな」と呟いた。
「……傘なら、貸すけど……」
寒さはシャワーと着替えで解決した。残る問題は濡れることだが、それも解決策はある。
彼がここにいる理由はない。
「……帰れってこと?」
不思議そうなその表情に、思考が白く停止した。
「え……雨のことなら、傘貸すよ、って」
それだけなのだが。
「帰らないとだめ?」
「え?」
どういう意味だ。
こくんと首を傾げて、真っ黒な宝石のような瞳で、彼は俺を見つめている。
吸い込まれそうな、綺麗な瞳。
「え……か、帰らないの?」
狼狽して訊き返すと、彼は静かに微笑んだ。
不意に雨の音が大きくなる。
「お兄さんさえ良かったら、ここにいさせてほしいなぁ」
「は……?」
これはもしかして、とんでもないめんどうに巻き込まれたのだろうか。
事態を把握して眉を寄せる俺に、彼はふふ、と楽しそうに笑う。
「猫でも拾ったと思ってさ。雨がやむまで、ここに置いてよ」
「なに、それ……」
猫って。
猫。
ぎぃ、とかすかに、扉が軋む音がする。
雨の音がうるさい。
「……猫は、好きじゃない」
絞り出したのはそんな弱々しい言葉だった。出ていってくれと強く迫れない自分に戸惑う。
なぜだろう。
もう、彼は寒そうじゃないのに。
「……猫は勝手に懐くもんでしょ」
わかるんだよ、自分に優しい人間って。
諭すような、脅すような、誘うような。
その声は、なぜかとても甘く響いた。
彼はトキヤと名乗った。
「トキって呼んで」
いったい、何が起こっている?
混乱して応えられない俺に、彼は当たり前のように言う。
「お腹すかない?」
なんだそれ。
呑気に食事をしている場合ではない、絶対に。
なのに、トキはキョロキョロと部屋のなかを見回して、「ルマンドあるじゃん、俺も好き」などと楽しそうだ。まるで友達の家みたいに。
柔らかな笑顔。この状況に混乱している俺のほうがおかしいのかと、さらに混乱する。
なんだこれは。
「良ければなんか作るよ、俺」
「え、ちょっと」
キッチンに向かうのを慌てて引き止めるが、トキはあっさりと冷蔵庫を開けた。
「たまごあるじゃん」
あるけれども。
「あ、きのこもある」
料理するんだ、と言われ、切って焼くくらいだけど……と反射的に思う。今、そんなことはどうでもいい。
「座っててよ。雨宿りのお礼」
「ええ……」
帰ってくれる選択肢は、ないらしい。
「……うまい」
「良かった」
ローテーブルに向かい合ってどんぶりを持つ。
少し柔らかめに炊いた白米と、ふんわりとしたきのこ類の卵とじ。切って炒めて綴じただけ、とトキ自身も言う、簡単な料理、なのだけれど。
うまい。
きのこの出汁、卵のまろやかさ、白米の甘やかさが一体になったそれは、腹にじんわりと沁みこんでいくようだ。
状況はともかく、うまいものはうまい。
「雨、やまないな」
トキが呟く。
カーテンを引いた窓から外は見えない。ただ、秘めやかな音楽のように、絶え間なく雨の音がする。
「……傘、貸すってば」
どんぶりの卵を崩しながら言う。
丼物を食べる時は箸かスプーンか。いつもどちらも違う気がして、モヤモヤする。
トキは木匙を選んだ。
こんなものあったっけ、と思うような、いつもは忘れている存在。
木匙のうえで、卵としいたけと白米がちょうどよく混ざる。
口元で微笑んで、宝石のような瞳に俺を映して、トキは静かに、雨に溶けるような声で言った。
「雨がやむまで、ここにいさせて」
暗闇に人の気配がある。こんな状況、いつ以来だろう。ぼんやりとした薄い闇のなかで、雨音は静かに、けれどはっきりと耳に響く。
雨の日には、心の施錠が甘くなる。
記憶の扉が勝手に開いて、木枠に小さな手がかかる。
子どもの手。ぎぃぃ、と小さく軋みながら、少しずつ扉が開いていく。
そんな気がするから。
だから、雨の日には。
「……え?」
ギシ、とベッドが鳴って、振り返ると思わぬ近さにトキの顔があった。
「……なに……」
彼は床に予備のマットレスを敷いて寝たはずだ。なぜベッドに。
声が出ない俺に、トキが嫣然と微笑む。薄い闇のなかで、わずかな光が瞳で揺れる。
状況にひたすら動揺しながら、頭の片隅で、なんて綺麗な瞳だろうと思っていた。
「猫は、ベッドに潜り込んでくるもんでしょ」
「なに、言って……離れ、」
「なんで俺を家に入れたの」
思いがけない強い声。
なんで?
そんなの俺だって、
「……濡れて、寒そうだったから……」
「濡れてたら、誰でも入れるの?」
そんなわけない。そう考えた自分に驚く。
じゃあ、どうして。
「……瞳が……」
「瞳?」
雨の音がする。
今日は心の施錠が甘い。扉が開いて、木枠に小さな手がかかる。
子どもの手。
雨が降っていた。
「………猫が、いなくなって……」
「……ねこ?」
トキの訝る声。その瞳に揺れる光を見ながら、耳を打つ雨の音を聞く。
雨が降っていた。
あの時も。こんなふうに、なかなか降りやまない雨が。
長く濡れれば、人間だって熱を出すような雨。
ましてあんなに小さい子猫なら。
「猫がいたんだ。ダンボールに入って、雨に濡れて。みぃみぃ鳴いてて、親はいなくて、瞳が宝石みたいで……」
濡れた身体を抱き上げると、とくとくと鼓動が手のひらに伝わった。
みぃみぃ鳴きながら、子猫は俺の顔を舐めた。
連れて帰れば怒られると思った。母は動物が好きではなかったから。だから子猫を、もう一度ダンボールに戻した。
手のひらに感じた小さな温もりは、すぐに雨でかき消えた。
持っていた傘をダンボールに立てかけて帰った。食べものを持って、すぐに戻ろうと思いながら。
「でもずぶ濡れで、親に叱られて……そのまま風呂に入れられて」
雨の夕方はすぐに暮れてしまって、もう家を抜け出すのは無理だった。
明日にしよう。
傘もあげたから、きっと大丈夫だ。そう自分に言い聞かせた。
けれどその晩から、俺は熱を出した。
「雨は降りやまなくて……熱が下がって、見に行った時にはもう、子猫はいなくて……」
立てかけていたはずの傘はなくなっていた。雨に打たれてボロボロになったダンボールだけが、ほとんど潰れてそこにあった。
子猫はどうなったんだろう。あの雨のなか、あんなに小さい子猫が。
どこかに行ったんだろうか。雨に打たれながら。
それとも。
それとも、……。
「……誰かに拾われたのかもしれない」
トキの瞳で光が揺れる。
あの日見た子猫の瞳とそっくりな、磨き抜かれた宝石のような瞳。
宥めるように揺れる瞳。
「……ちがう、あの子は……」
あの子猫は。
ふだんはこんなこと考えたりしない。
引出の奥の木匙のように、いつもは存在すら忘れている。
でも雨の日には。
あの日と同じ雨の日には、どうしても施錠が甘くなる。扉が軋んで、木枠に小さな手がかかる。
開いてしまう。こんなものあったんだ、と、忘れていたものが出てきてしまう。
だから。
「……雨の日に、ひとりでいるのは、いやなんだ」
初対面の人間を家に入れるなんて、いくらなんでもどうかしている。
至近距離で綺麗な顔を見ながら思う。彼に少しでも悪意があったら。
今、あの長い指が首にかかったら。
雨の日には、そんな心の施錠が効かない。
どうして置いて行ったりしたんだろう。
怒られても連れて帰れば良かった。雨だから、と言って。
雨が降りやむまでは、と言って。
不意に大きな温もりに包まれて息が止まる。とくとくと心臓の音がする。
「なにして……やめ……」
細身な身体は思いのほか重くて、覆い被さると動けなかった。
なんだこれ。
なんで、こんなことに。
真っ白になる俺の耳元で、トキは低く囁いた。
「猫は、寄り添うもんでしょ」
猫は。
猫は、
「……っ」
雨の日には、心の扉が開いてしまう。
小さな手が、
ぎぃい、と軋む音が、
……降りやまない、雨のなかで。
「……だから、なんでまた履いてないの……」
今日も恋人はバスローブだけだ。俺の呆れ声に口元で笑んだまま、彼はしなやかな身体を伸ばしてくる。
長い腕が俺を捕らえて、ベッドに優しく押し倒した。
「猫は自由なもんでしょ」
「……雨がやむまで、だっただろ」
あの日から、雨は何度も降ってはやんだ。
なのに、彼はずっとここにいる。
身体を包む重い温もりを押しのけると、煌めく瞳が俺を射て、長い指がつぅっと胸をなぞった。
「ちょ……っと、」
「だって危ないだろ、雨が降る度に誰か連れ込んだりしたら」
「はぁ?」
入り込まれる、の間違いだ。どちらにせよ、危ないことに変わりはないが。
抗議は気にも留めず、トキは嫣然と笑って俺の腰を引き寄せる。
しなやかで、自由で、美しい。
雨の日に拾った、俺の恋人。
「いさせてよ。雨が降っても、ちゃんと鍵がかかるまで」
身体をなぞる指の動きに、意識は熱く溶けていく。
ダンボールを打つ雨の音が遠く響く。
雨が、降りやむまでは。
あとがき
お題間違えてない??
と思った方。鋭い!!
間違えてはいないはずですが、この原型は6月のお題(雨の日の恋・ルマンド・ダンボール)検討時に思いついたものでした。
でもその時には、主人公がトキを家に入れてしまう理由がどうしてもわからず、お蔵入りに。
それがなぜかパンツの力(??)で浮かんできまして。
あ、猫か。と。
というわけで、せっかくなのでリベンジも兼ね、6月・9月のダブルお題でお送りしました。
リベンジしてもやっぱりルマンドは食べなかった……
そして本命の9月お題がだいぶ難しかったのですが。
きのこと言えば秋だよね?
招き入れた人が帰ってくれなかったら怖いよね??
パンツは……履いてないです!(キリッ
他の方は誰がどう履き忘れてるのかなーーーワクワク(*´∀`*)
あといちおうこの人たちです。
単品ずつで問題ないですが、よろしければこちらもどうぞ。
これまでのnoteでBL参加作はこちらから☆
