AIさん、その説明、また最初からですか?
AIに議事録を頼みます。
「○○とは何ですか?」
説明します。
次に、AIに教育資料を頼みます。
「○○とは何ですか?」
また説明します。
そして、AIにマニュアルを整理してもらいます。
「○○とは何ですか?」
AIさん、その説明、また最初からですか?
どうも。どこかのJTCで、生成AI業務推進室長をやっています。
名前だけ聞くと、社内知識基盤を計画的に整備していそうですが、実際には、目の前の困りものに一つずつ説明しています。手動で。令和に?
さて、前回は、音声文字起こしで別人になっていた社内用語へ、正しい名前を返しました。
和洋折衷感のある「ないと風呂」が、架空の社内システム「NightFlow」であることも分かりました。
名前は戻った。
ここまではよかったんです。
ところが、業務辞書を添えて議事録を作ってもらうと、こんな文章が出てきました。
「関連する処理について、承認後に対応する。」
NightFlowやらGreenGateやらEchoQueueやら、元の文字起こしにはちゃんと出ています。
名前は全部合っていました。
ただ、議事録に入ると、全員が「関連する処理」になっています。
社員証は読めるけど、所属部署が分かりません。
なるほど。
私が作ったのは、名簿に過ぎなかったようです。
ちなみに前回はこちらですが、読まなくても大丈夫ですよ。
辞書を業務に活かすには、辞書が業務を知ってくれ
今回は、前回に続いて「業務辞書」の話です。
ここでいう業務辞書は、生成AIに「うちの会社の言葉」を少しだけ教えておくための補助資料です。
文字起こしだけでなく、議事録、資料整理、FAQ、引継ぎなど、「うちの会社の言葉」が出てくる仕事なら、同じ辞書を使い回せます。
なんでも、とまでは言いました。少し盛りました。
ただ、出番はかなり多いです。
その業務辞書がどこから生まれ、どうやって増え、増えすぎたあとにどう整理したかを、今回は書きます。
先に結論を言うと、業務辞書は一度で完成させませんでした。
読めない言葉を拾い、資料から意味を足し、項目が増えてから棚を作り直しました。
辞書というより、最初は落とし物箱でした。
あとから棚を買ったんです。
最初は、音声解読のための名簿でした
最初に業務辞書へ入れたのは、音声文字起こしで間違われやすい言葉でした。
たとえば、架空の社内システムを使った会議で、こんな言葉が出てきたとします。
・NightFlow:ナイトフローなど
・GreenGate:グリーンゲートなど
・EchoQueue:エコーキューなど
どれも、この記事用に作った架空の名称です。
これを文字起こしと一緒に生成AIへ渡して、
「一覧にある用語を参考に、誤認識と思われる箇所を補正してください。確信できない箇所は、勝手に直さず候補として示してください。」
と頼みます。
この段階では、立派な意味の説明も分類もありません。
名前と、よく間違われる呼ばれ方だけです。
「これは、たしかにウチのことですね」
まずは、それが分かればよかった。
辞書を作るぞ、ではありません。
文字起こしに、知らない人を勝手に入社させないでくれ。
話はそこからでした。
名前が分かっても、仕事までは分からない
名簿を渡すと、言葉の表記はかなり戻しやすくなりました。
NightFlowはNightFlowになる。
GreenGateも、GreenGateとして会議に参加する。
平和です。
ところが、次の問題が出てきました。
生成AIは「NightFlow」という名前は分かっても、それが何をするものなのかは知りません。
たとえば、会議でこんな発言があったとします。
「NightFlowの再実行は、GreenGateの承認後にしてください。EchoQueueは朝会まで保留で。」
表記は正しく戻せます。
でも、それぞれの言葉の意味や関係を知らなければ、議事録では、
「関連する処理について、承認後に対応する。」
のように、意味が丸くなることがあります。
名前は全員合っている。
ただし、誰がどの部署で何をしている人なのかは分からない。
社員証だけを見て、組織図を作ろうとしています。無理があります。
そこで、名前だけだった一覧へ、少しずつ説明を足すことにしました。
・NightFlow:夜間に行う定例処理。日次処理や再実行の確認で使う
・GreenGate:正式反映前の承認工程。設定変更や反映承認で使う
・EchoQueue:失敗した処理の再実行待ち一覧。エラー確認や再処理で使う
ここまで来ると、ただの名簿から、少し辞書らしくなってきます。
名前に加えて、何をする言葉なのかと、どこで使うのかが入りました。
社内電話帳くらいにはなりました。
業務資料を、少しずつ読ませる
意味を肉付けするために使ったのは、関連する業務資料です。
過去の議事録、操作手順、FAQ、引継ぎ資料、Excelの管理表。
ただし、資料を一度に全部放り込んだわけではありません。
ファイルを読み込める生成AIにも、一度に扱える資料の数や情報量には制約があります。条件はサービスや時期で変わるため、資料は数件ずつ読み込ませました。
共有フォルダを丸ごと食べてもらおうとすると、先に利用制限さんが会議室へ入ってきます。招待してないのに。
今回の資料から分かった内容を、現在の業務辞書へ足し、更新版を保存する。
次は、その更新版と新しい資料を渡す。
また更新して保存する。
つまり、生成AIの記憶に期待するのではなく、こちらで最新版の業務辞書を持って回す運用です。
生成AIに仕事を覚えてもらったというより、毎回、最新版の引継ぎファイルを渡していました。
何度か会話を重ねるうちに成長していく優秀な部下、ではありません。
毎朝、引継ぎノートを渡される応援社員です。
※会社の情報を扱う場合は、会社で認められた環境を使い、投入する内容は所属組織の規程に従ってください。ここは、それぞれの職場で確認するところです。
情報は増えました。探しやすくはなっていません
更新を繰り返すと、業務辞書には情報が増えていきます。
新しい用語が増える。
既存の用語へ説明が足される。
表記揺れが増える。
関連する処理や資料も分かってくる。
順調です。
非常に順調なんですが、しばらくして一覧を見たところ、少し様子がおかしい。
システム名の下に処理名、その横に帳票名、なぜかBlueDeskの隣に「承認待ち」。
全部、見つかった順です。
情報はある。
棚がない。
巨大な平屋の倉庫に、荷物だけが順番に運び込まれていました。

この時点で、最初から完璧な分類を設計しておけばよかった、とは思いませんでした。
最初は、何が集まるのかも分からなかったからです。
用語が5件しかない段階で、
「大分類、中分類、小分類を設計しましょう」
と始めていたら、たぶん分類会議だけ立派に終わっています。
辞書はありません。
分類規程だけあります。
強い会社ですね。
なので、ある程度項目が集まってから、実際に入っているものを見て分類を作りました。
たとえば、
・システム・画面
・処理・作業
・状態・エラー
・申請・承認
・帳票・資料
・略称・慣用表現
といった分け方です。
先に棚を作って荷物を待ったのではなく、荷物が集まってから必要な棚を買いました。
この順番でよかったと思っています。
ただし、いきなり模様替えはさせない
分類案ができたら、生成AIへ業務辞書全体を整理してもらいます。
ここで、
「この辞書を、分かりやすく再構成してください。」
と頼めば、たぶん何かしら立派な辞書を作ってくれます。
作ってはくれます。
ただ、
どの項目を統合したのか。
何を削除したのか。
古い説明を残したのか。
新しい分類へ何を移したのか。
完成品だけを渡されると、分かりません。
きれいになった部屋を見せられても、通帳と印鑑がどこへ移動したか分からない感じです。
片付いています。
こちらは困っています。
そこで、辞書本体をいきなり書き換えず、まず改訂案だけを出してもらうことにしました。
改訂案では、追加だけでなく、統合、修正、移動、削除、保留まで示してもらいます。
生成AIさん、模様替えは間取り図を見せてからお願いします。
改訂案では、「足す」以外も見ます
改訂案は、こんな形にすると確認しやすくなりました。
【追加】
対象:BlueDesk
改訂内容:問い合わせ管理画面として新規登録
理由:現行FAQに記載
改訂後の位置:システム・画面
【統合】
対象:EchoQueue/再実行待ち
改訂内容:EchoQueueへ一本化し、日本語表記を別名として残す
理由:同じ対象を指している
改訂後の位置:状態・エラー
【修正】
対象:GreenGate
改訂内容:説明を現在の承認手順へ変更
理由:旧資料と現行資料で記載が異なる
改訂後の位置:申請・承認
【移動】
対象:承認待ち
改訂内容:「処理・作業」から移動
理由:処理名ではなく状態を示すため
改訂後の位置:状態・エラー
【削除】
対象:旧GreenGate
改訂内容:GreenGateへ情報を統合した後に削除
理由:旧名称との重複
改訂後の位置:内容はGreenGateへ残す
【保留】
対象:Cedar連携
改訂内容:本改訂には入れない
理由:資料だけでは現行運用か確認できない
改訂後の位置:未確認
大事だったのは、何を追加するかだけを見ないことでした。
追加だけを続けると、業務辞書にも新館が建ちます。
本館の隣に「追加用語」、その隣に「追加用語2」、奥に「旧用語参考」。
辞書です。
温泉旅館ではありません。
何へ統合するのか。
削除した情報はどこへ残るのか。
判断できないものは何か。
そこまで確認して、こちらがOKを出したあとに、業務辞書全体の改訂版を作ってもらいます。
この改訂案を別に保存したものを、私は差分ファイルとして使っています。
名前より大事なのは、いきなり本体を直させず、案を見てから全体を改訂する順番です。
そのまま使える|まず改訂案だけを出してもらう
業務辞書と新しい資料を生成AIへ渡すときは、最初にこのくらいの指示を入れます。
添付した現在の業務辞書と新しい業務資料を比較してください。
この段階では、業務辞書本体を改訂しないでください。
まず、改訂案を次の区分で整理してください。
・新規追加
・既存項目への統合
・項目同士の統合
・説明の修正
・分類の移動
・削除候補
・保留
・変更なし
各項目について、対象、改訂内容、理由、根拠となる資料、改訂後の位置を示してください。
削除候補は、削除後も必要な情報がどこへ残るかを示してください。
資料から判断できない内容は推測で確定せず、保留としてください。
私が確認するまで、業務辞書全体の改訂版は作成しないでください。
改訂案を確認し、必要な修正を加えたあとで、
承認した改訂案を反映し、相反しない既存内容を残したうえで、次回使う業務辞書の全体版を出力してください。
と頼みます。
プロンプトの細部は、使う資料や生成AIの環境によって変わります。
ただ、順番は同じです。
案を見る。
人間が決める。
それから本体を直す。
生成AIに辞書を作ってもらうというより、改訂会議の資料を作ってもらっています。
会議は増えました。
いや、増えてはいません。
これは一人です。
危ない。
普通に会議を増やすところでした。

育ったのは、生成AIではなく次回渡せる正本でした
読めない言葉へ名前を付け、資料から意味を足し、増えたところで棚を作る。
何が消えたか分からなくならないよう、改訂案を確認してから全体を直す。
必要になるたびに、業務辞書は育ちました。
生成AIが仕事を覚えて成長したわけではありません。
次の会議でも渡せる、業務辞書の正本が育ったんです。
少し夢がありませんね。
生成AIと一緒に成長しました、と言った方が、だいぶ聞こえはいいです。
ただ、翌週の新しいチャットで、
「先週のこと、覚えていますよね?」
と言っても仕方がありません。
覚えていない相手を責めるより、こちらが最新版を渡す。
私も先週の会議をかなり忘れていますからね。
お互いさまです。
最初から全社用の立派な辞書を作る必要はありません。
まずは、自分がよく使う会議で、毎回読み違えられる言葉を五つ並べる。
名簿は、そのくらいからで十分です。
そんなわけで、今回はここまでです。
生成AIで会社を変えるぞ!みたいな大きな旗は、いったん畳んでおきます。旗は重いので。
まずは目の前の読めない言葉を、ひとつずつ名簿へ載せるところから。

最新版の資料って何人いるの? AIさん、まとめられる?
新しい情報を末尾へ足し続けず、まず全体の改訂方針を考えてもらった話です。
今回の業務辞書の整理にも、だいたい同じ考え方を使っています。
Xでも、小さい違和感をぼやいています
Xでは、記事になる前の小さい違和感もぼやいています。
生成AIの大きな未来というより、会議、Excel、資料、議事録。
だいたい、そのあたりです。
よかったら、のぞいてみてください。
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面白かったら、推進室の活動費を少し置いていってくれると嬉しいです。次の執筆の原動力(コーヒーかハイボール)になります。