マネ×ゴト Vol.42──内的動機を深めて意思決定の精度を上げる
このところ、『自分あらば「好き」語り』を書き続けて分かったことがあります。
それは、プライベートの領域では、「好き」を深めることが、そのまま意思決定の精度を上げることにつながる、ということです。
これまでの『マネ×ゴト』では、戦略、前提、境界線、時系列、レビュー、選択肢の減らし方など、さまざまな角度から「意思決定」について考えてきました。その中で一貫させてきたことは、「自分で選ぶ」ということの重みである、そのようなつもりです。
今回あらためて感じているのは、意思決定の精度はテクニックだけでは上がらない、ということです。もっと根っこの部分――つまり「内的動機」を深めなければ、判断はどこかでぶれてしまいます。
今日は、そのことについて書いてみたいと思います。
「好き」を深めることで見えてきたもの
1ヶ月前に、温泉旅行に行きました。
実はこの旅行先は、前日に書いた、私が好きになってきたエンタテインメントのひとつに出てきた場所が決め手でした。
映画に登場した舞台が印象に残り、「ここに行きたい」と思ったのです。
もちろん、いつもの自宅と職場の往復から離れて、ゆっくりしたいという欲求はもともとありました。しかし、単に「疲れたから温泉に行く」ではなく
有馬温泉に行く
『ねぎや陵楓閣』に泊まる
それ以外は無理に回らない
このような選択を、自分の中ではっきりと言語化できました。
なぜそこなのか。
なぜ他は行かないのか。
なぜそれでよいのか。
それが説明できる状態で選べたことは、私にとって小さくない変化でした。結果として、その宿での時間を心ゆくまで味わうことができました。「あれも行っておけばよかった」という後悔は、ありませんでした。
これは偶然ではないでしょう。「好き」を深めたからこそ、選択の軸が明確になったのです。
「短期評価」と「長期納得」
ここで大切なのは、「短期評価」と「長期納得」の違いです。
遊びに「評価」というと、違和感を覚える人も多いでしょう。しかし、実際には、私たちは遊びについつい「評価」を入れてしまうところがありはしないでしょうか。
映画に出てきた場所をすべて巡れば、短期的な達成感は得られるかもしれません。チェックリストを埋めるよろこびもあるでしょう。
しかし、それは本当に自分が求めている体験だったのか。そこに問いがありました。
このときの私の価値観は、「コンプリートすること」にはありませんでした。無理をして巡ることよりも、その作品を感じられるひとつの場所をじっくり味わうことのほうが、長期的な納得につながると確信していました。
短期評価を取りに行くことは、悪いことではありません。むしろ、ときには必要です。
しかし、「短期評価」と「長期納得」が相反したときに、無自覚に短期評価へ過剰適応してしまうと、意思決定の質は下がります。
旅行の例でいえば、「全部回らないと損だ」という「外側」の声に引っ張られることです。仕事でいえば、「今年の評価を上げるために無理をする」ことに似ています。
どちらを選ぶかに正解はありません。ただし、「どちらを選ぶのか」を自覚していない状態が、もっとも危ういのです。
仕事における「好き」の再定義
「仕事で『好き』を基準にするのは違うのではないか」と言われるかもしれません。たしかに、仕事は組織で行うものであり、顧客や社会への責任があります。個人的な嗜好だけで決めるわけにはいきません。
しかし、「好き」をもう一段抽象化してみるとどうでしょうか。
それは「自分が大切にしている価値観」と言い換えられます。あるいは、「自分は何に心が動くのか」という問いです。
このレベルまで抽象化すれば、仕事においても十分に意味を持ちます。
自分はフェアであることを重んじるのか
再現性を重視するのか
スピードよりも質を優先するのか
長期的な信頼を選ぶのか
これらはすべて、内的動機の表れです。そして、「自分が」大切にしているかどうかが重要です。他人が評価しているからではなく、自分の内側から納得できるかどうかです。
内的動機を持つということ
最近よく使われる言葉でいえば、「内的動機」です。意思決定の軸を、自分の内側に置くこと。これは言うほど簡単ではありません。
なぜなら、私たちは常に外部評価にさらされているからです。
上司の評価
同僚の視線
数字
SNSの反応
市場の期待
これらはすべて、短期的な評価軸になり得ます。
無視するわけにはいかないかもしれません。しかし、過剰に適応してしまうと、自分の軸はすぐに揺らぎます。内的動機を深めるとは、外部評価を拒絶することではありません。外部評価を「現在地を測るための指標」として扱い、自分の価値観と混同しないことです。ここを取り違えると、意思決定はぶれ続けます。
どっちつかずが一番危うい
冒頭、遊びで書いたことは、仕事でも同じなのではないでしょうか?
短期評価を取りに行くのか。
長期納得を優先するのか。
どちらを選んでも構いません。ただし、「自分は今、何を優先しているのか」を明確にしていないと、どっちつかずになります。
どっちつかずの状態では
判断が遅くなる
説明が曖昧になる
周囲へのメッセージがぶれる
自分自身も納得できない
こういったことが起こります。意思決定の精度が下がるのは、能力不足というよりも、軸の曖昧さに原因があることも、実は少なくないのではないでしょうか。
内的動機を深める方法
では、どうやって内的動機を深めるのか。
実はこれを書くときにAIに尋ねてみたこともあったのですが、私はまだその方法を実践しきれていないので、未来の『マネ×ゴト』で書くことができるタイミングを待つことにします。
その代わり、いま言えることを書き出しますと、
『自分あらば「好き」語り』を書くことが、その一助になっています。
「なぜこれが好きなのか」を言語化する。「どこに心が動くのか」を掘り下げる。これは一見、遊びのように見えます。しかし、自分の価値観を掘り当てる作業でもあります。
好きなものを深掘りしていくと、自分が何に反応し、何に安心し、何に違和感を覚えるのかが見えてきます。
その感覚は、仕事にもそのまま接続できます。
なぜその施策に違和感を覚えるのか
なぜその戦略に納得できるのか
なぜその評価にモヤモヤするのか
これらはすべて、内的動機とのズレや一致を示すサインです。
判断スピードと説明責任
内的動機を深めると、判断スピードが上がります。
なぜなら、「自分は何を大切にしているのか」が明確だからです。毎回ゼロから考え直す必要がなくなります。
また、説明責任も自然に果たせます。「私はこれを重視しているから、こう判断しました」と言える状態は、強いはずです。それはわがままではなく、一貫性です。
さらに、迷いが減ります。迷いが減ると、行動量が増えます。行動量が増えると、経験値が積み上がります。結果として、意思決定の再現性が上がります。
内的動機と長期戦
『マネ×ゴト』を書くことで挑戦していることのひとつは、「『短期評価』を追わない」という姿勢です。
もちろん、読んでいただけるのはうれしいことです。しかし、それを目的にすると、書く内容が変わってしまうおそれがあります。私が目指しているのは、自分の思考を深めることです。その結果として誰かに届けばとは思いますが、それはありがたいながらも、あくまで副産物です。
この姿勢も、内的動機に基づく選択です。
短期的な評価を最大化するのではなく、長期的な納得を積み上げる。その積み上げが、結果的に意思決定の精度を上げると信じています。
おわりに
内的動機を深めることは、地味です。外からは見えません。
しかし、その深さが、意思決定の質を左右します。
判断が速くなる
ブレにくくなる
納得度が上がる
再現性が高まる
これらはすべて、軸が内側にあるからこそ生まれるものです。温泉旅行では、自分が何を大切にしているのかを深めた結果、最高の選択肢を選ぶことができました。価値観をもとに選択肢を減らすということは、不自由になることではありません。むしろ、自由度を上げることです。
内的動機を深めて、意思決定の精度を上げる。それは、日々の小さな選択から始まります。そしてその積み重ねが、3年後、5年後、10年後の納得につながっていくのだと思います。
今回は、ここまでにしましょう。また次回も、自分のマネジメントについて、丁寧に考えていきます。
