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《東海道五十三次絵巻》を見ていたら、横山大観の代表作《生々流転》が頭をよぎりました

■大河ドラマ『べらぼう』にトーハクに展示中の狩野元信筆の《四季花鳥図屏風》が使われていた

まず今回の主題とは関係ない、大河ドラマ『べらぼう』についてから。先ほど、録画していた「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~(6)鱗(うろこ)剥がれた『節用集』」を息子と一緒にボーッと見ていたんです。そうしたら、渡辺謙=田沼意次と石坂浩二=松平武元(たけちか)が会談しているシーンが出てきて、え!? となりました。田沼意次の背後に広がる部屋の障壁画(襖絵だったかな?)が、先日noteしたばかりの…東京国立博物館(トーハク)に2月16日まで展示されている、狩野元信筆の《四季花鳥図屏風 6曲1双》だったんです(もちろん複製。白と黒のコントラストがクッキリし過ぎて、危うく見過ごすところでした)。

狩野元信筆の《四季花鳥図屏風》は、トーハクに寄託されているとはいえ、個人蔵(所有)の作品で、撮影は禁止。狩野派の似たような屏風や襖絵はいくらでもあるのに、わざわざこの作品を選ぶとは……もしかして、ものすごい個人の所蔵品なのかも……まぁたいていは旧大名家や旧財閥家とか旧華族とか、そういう感じだとは思いますけどね。そしてトーハクは、ちゃんと『べらぼう』関連の作品を展示しているんだなぁと感心しました。通(ツウ)だねぇ〜。

ちなみにトーハクの日本絵画史の研究員(学芸員)の松嶋雅人さんは、何人もいる同ドラマの近世美術史考証の1人なのだそうですが、襖絵や屏風の監修にはノータッチとのこと。となると、どなたが決めているんでしょう。

■《生々流転》の原点は《東海道五十三次絵巻》では?

さて、ここから本題です。わたしは、大学を卒業した20代の頃は定職にもつかず、バイトでお金を貯めては海外へ行き、また帰ってきてバイトをしては海外へ行く…なんてことを繰り返していました。今はどうなのか知りませんが、その頃は、沢木耕太郎の『深夜特急』を読んだり映画で見たっていう人が多い世代だったので、ぷらぷらしていても「あぁ、そういう感じなのね」と白い目で見られるくらいで、特に驚く人もいませんでした。

ある国へ行った時には、ほとんど山の中を歩いていました。食料を買っては山というか自然の中へ行き、また食料がなくなったら補充しに街へ降りて、買ったら自然の中へ入る…の繰り返しでした。当時は未曾有の円高だったこともあり、切り詰めたわけでもないのに、1か月を衣食住込みで1万円以下で過ごした月もありました。

そうやって自然の中を歩いていると、天候にとても敏感になるものです。ある時、片側が崖になっている柵もロープもない2-3mの細い、落ちたら200〜300mは平気で落ちて行くだろう山道を歩いたことがありました。晴れていれば、ちょっと怖いなぁくらいの道ですが、その日は、雨合羽で歩いていても、頭を上げるがつらいくらいの大雨でした。でも歩きながら、あちこちの山肌から水が噴き出し滝になっていく様子などを見て、地球が躍動しているのを感じたんです。同時に、自分も自然の一部で、いまちゃんと生きているなって。

初めて国立近代美術館で、横山大観の《生々流転》を見た時に、その時の体験を思い出しました。山に雨が降り小川ができて滝になり、大きな川になってついには海まで流れて……というのを描いたと言われるのが《生々流転》です。画題自体は、特に珍しいものでもなく、昔から日本人が感じていたこと……死生観に近いのかもしれませんね。松尾芭蕉が『奥の細道』の冒頭に記した「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ…」と記しているのと似たような感じではないかと思います。

そうしたことは、誰もが心のなかに置いているテーマだろうと思いますが、それを一巻の絵巻に描き込んだところが、《生々流転》を描いた横山大観のすごいところで、誰もが心の中にあるテーマが、目の前にビジュアル化されているのを見るから、そこに感動というか激しい共感が生まれるのだろうと思います。

なぜ《生々流転》の話をしているかと言えば、現在トーハクに展示されている《東海道五十三次絵巻》を見ていたら、「横山大観は、大正4年(1915年)に仲間たちと歩いた東京から京都への道のりで、《生々流転》を着想したんじゃないか?」と思ったからです。まぁわたしが頭の中で勝手に連想しただけなのですけどね。今回の《東海道五十三次絵巻》の「巻5」は、やたらと「水」が多く描かれていたような気がするんです。

今村紫紅《金谷》

絵巻はおそらく大井川を渡ったところから始まります。同絵巻を描いた横山大観をはじめ下村観山や今村紫紅、小杉未醒の4人は、東京から汽車を使わずに(人力車などで?)旅をしていきました。明治維新からもうすぐ半世紀が経とうとする、この大正4年(1915年)に大井川に橋が架かっていなかったとは思えませんが、彼らは渡し舟で風情を楽しんだのかもしれません。

今村紫紅《金谷》
今村紫紅《金谷》

まもなく一行は、東海道五十三次の24番目の宿場「金谷」に宿をとったでしょうか。宿について風呂で汗を流したあとは、酒宴となり、横山大観などが「紫紅、おまえ大井川の渡し舟で、顔が青ざめていたぞ! がっはっはっは」などと笑い声を挙げ、負けん気の強い紫紅が「そんなはずがないでしょう。青ざめて足をぷるぷると震わしていたのは未醒ですよ! 情けない顔をしていたなあ」などと騒いでいたかもしれません。

今村紫紅《金谷》
今村紫紅《金谷》
今村紫紅《金谷》
小杉未醒《日坂》

この4人は、毎晩のように浴びるように酒を呑んでいるのに、次の日にはちゃんと移動していたとしたらすごい人たちです。とにかく金谷を出ると日坂(にっさか)へ向かいます。歌川広重の「東海道五十三次・日坂」も険しい山道が描かれていますが、小杉未醒が描くのもまた山の道です。

小杉未醒《日坂》
小杉未醒《日坂》
小杉未醒《日坂》
小杉未醒《日坂》

ずいぶんと寂れた様子に描かれていますが、Wikipediaには、鉄道の東海道線が日坂を迂回して通ったため、街は衰退していった…的なことが書いてあります。そうした侘しい雰囲気が印象に残ったんでしょうね。

小杉未醒《日坂》
横山大観《掛川》
横山大観《掛川》
横山大観《掛川》

次は掛川(かけがわ)です。わたしは、何カ月かを掛川の街の外れで過ごしたことがあるので、ちょっとだけ思い入れのある街です。それほど賑やかな街ではありませんが、賑やかすぎることもなく、今でも…平成の初め頃でしたが…ちょうどよい感じの街だった記憶があります。

横山大観《掛川》

掛川に泊まって次の日のことなのかわかりませんが、いずれにしても掛川を通り過ぎたあたりから、雨脚が強まってきて、一行は雨に濡れたようです。海沿いの道だったのか松の木がやたらと多い気がしますが、その木々の下にポツンと描かれた風情のある家は、実際に彼らが見たものなのか……なんとなく横山大観が絵巻に詩情を加えたいと、気の向くままに描き込んだような気もします。

横山大観《掛川》
横山大観《掛川》
横山大観《掛川》

横山大観らの一行は、掛川から雨の中を袋井へ抜けていきます。絵巻の担当は、横山大観から再び今村紫紅へバトンタッチ。今村紫紅の落款が捺してあるところが、横山大観と今村紫紅の絵が交差するところだと思うのですが…木の描かれ方が若干違うような気もしますが、何度見ても雨の区切りは分からず……今村紫紅が、ちゃんと横山大観の雨の表現を踏襲しているのが分かります。

右が横山大観で、左が今村紫紅……なのかな?
今村紫紅《袋井》
今村紫紅《袋井》
今村紫紅《袋井》

わたしが掛川で数カ月を過ごした時には、一度も掛川市から出ることもなかったんです。今思えば、休日にはどこかに行けばよかったとも思いますが、仕事でヘトヘトに疲れて、どこにも出かける気力がなかったのか……あたりを散歩するくらいだった気がします。

今村紫紅《袋井》
今村紫紅《袋井》
今村紫紅《袋井》

袋井を抜けると、「見附(みつけ)」という宿(しゅく)を目指して、再び横山大観にバトンが渡されています。あれ? なんだか今回は下村観山さんの出番がなかったのかな……連日の雨で、体調でも崩されたのでしょうか? などと気になってしまいます。

横山大観《見附》
横山大観《見附》
横山大観《見附》
横山大観《見附》
横山大観《天竜川》

見附を過ぎても雨がやまず、そろそろうんざりしていたかもしれません。一行は天竜川までたどり着きますが、横山大観は、この天竜川前後では土砂降りだったように描いています。雨を描く墨の色が濃くなっていますからね。「今日の雨は酷かったなぁ」なんてボヤきながら絵筆を運んでいたかもしれませんし、逆に、大雨の中を進んだことで筆が進んだかもしれません。

横山大観《天竜川》
横山大観《天竜川》
横山大観《天竜川》
横山大観《天竜川》

あれだけ大雨だったのが、天竜川を過ぎて浜松あたりにまで来た時には上がっていたようです。ここで小杉未醒が筆を代わります。別に順番で描いていたわけではなく「今日は俺に描かせてくれ」とか「俺が描くから、おまえら見てろ!」みたいな感じだったのでしょうか……少し横山大観が描く回数が多かった気がします。

小杉未醒《浜松》

雨が上がり、浜松はほのぼのとした雰囲気です。止まない雨はない……みたいな雰囲気で良いですね。

小杉未醒《浜松》
小杉未醒《浜松》
小杉未醒《浜松》

ということで、今回は以上です。

<これまでの東海道五十三次絵巻など>


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