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「アイデアというのは 複数の問題を一気に解決するものである」という名言をそのまま体現しているマリオとSEKIRO

 「アイデアというのは 複数の問題を一気に解決するものである」

 これは生前の岩田元社長がほぼ日刊糸井新聞にて、糸井重里との対談で披露した言葉で、その言葉を発したのはほかならぬ任天堂の重鎮、マリオとゼルダの生みの親こと宮本茂である。

 この言葉、それ自体がアイデアという言葉をこれ以上ないほどに端的な形で解体、解説した名言であるのだが、この言葉に説得力を与えているのは、宮本茂の手掛けたゲームにおいて、この言葉が体現されているという事実である。

 一つのアイデアによって複数の問題を解決する。それが文字通り体現されているのは宮本茂が手掛けたタイトル『ドンキーコング』における「ジャンプ」においてである。「ジャンプ」という動作によって、プレイヤーが操作するキャラクターは目の前から迫る障害物を前進することを止めることなく回避することが出来る。ゴールへの移動は止めたくないし、障害物に接触したくもない、この二つの問題が「ジャンプ」というアイデアによって一度に解決する。宮本茂によって話されたアイデアに関する言葉は、他でもない自身が手掛けたヒットタイトルの根源に関してのこれ以上ないほどの言語化だったのである。

 その後、宮本茂はこの「ジャンプ」という複数の問題を解決してくれるアイデアに磨きをかけ続ける。そうして数年がかりで磨きぬいた果てに生まれるのが空前の大ヒットタイトル『スーパーマリオブラザーズ』である。

 その詳細については自分が電ファミに寄稿した下記の記事で詳細に解説しているので興味があればどうぞ。

 この一つのアイディア、一つのアクションによって複数の問題を解決することでスマートなゲームが生まれるという発想は、現在の任天堂においても受け継がれている。それが近年、最も端的に表現されていたのは、『スプラトゥーン』だろう。

 銃で撃った弾で地形を「塗る」こととプレイヤーキャラクターの形態変化を組み合わせることで、シンプルな操作に様々な機能を格納した『スプラトゥーン』は、日本でヒットさせることが難しいと思われていたオンライン対戦型のシューター系ゲームとしては画期的なほどのヒットを果たした。ヒットし過ぎてオンライン対戦型のゲームに対するそんな敷居があったことが忘れられかけているほどである。時代を変えるゲームとはそういうものだ。

「弾き」によって世界の見え方が反転する『SEKIRO』

 任天堂以外のタイトルにおいても「アイデアによって複数の問題が解決している」と感じられるゲームというものは存在していて、個人的にその代表的な存在ではないかと考えているのがフロム・ソフトウェアが開発したゲーム『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』である。 

 このゲームでは「弾き」と呼ばれるいわゆるパリィによって敵からの攻撃を文字通り弾くことでダメージを受けずに相手の「体幹ゲージ」にダメージを与えることが出来る。

 この「体幹ゲージ」が非常に画期的なアイデアなのである。

 敵の攻撃を弾いて体力ゲージにダメージが入るのはなんか不自然だし、パリィからのカウンターにしたら、攻防の主導権が移動してしまう。それはそれで一つの戦いのスタイルだが、『SEKIRO』はそれを選ばず、攻撃の主導権が移動しないのに、攻撃をしている側に「弾き」を通じた「体幹ゲージ」へのダメージが連続的に入るという状況をゲームとして表現した。

 そうするとどうなるか。激しい連続攻撃を繰り出す敵ほど、その攻撃を見切って「弾き」を決めた瞬間に、相手の体幹に大ダメージを叩き込めるチャンスタイムが生じるということだ。こちらが死を覚悟するほどの猛攻が「弾き」によってこちら側の攻撃へと反転する。

 この「弾き」を通じた反転構造を最も強く実感できるのは、中盤のボス、芦名弦一郎を相手にした時だろう。初対戦時は倒すことが不可能に思えるほどの圧倒的な連続攻撃を叩き込まれ、即座に終了させられていた弦一郎という圧倒的な強者への畏怖は、やがてこちら側へのチャンスタイムを不用意に発生させる、強いとはいえ隙も多く、脆さを抱えた若武者へと変化する。

 この「弾き」を通じて相手の攻撃を反転させ、圧倒的強者への印象すらも反転させた時点でこの世界の見方も反転する。なんだかんだ言っても、芦名弦一郎がいればどうにかなるんじゃ?と思えていた芦名の国は一転して滅びの道を歩む国にしか見えなくなり、そしてその事実を当の芦名弦一郎自身が誰よりも理解しているからこそ、彼は奔走しているのだと。

 この物語のキャラクターとそれが抱える絶望を「弾き」というたった一つのボタンで起こせる最少のアクションによって「体幹」に叩きこまれるこのゲームデザインは見事の一言に尽きる。

 宮本茂は、アイデアが複数の問題を解決すると言った。しかし『SEKIRO』の「弾き」が解決したのは、ゲームの問題だけではなかった。プレイヤーと世界の関係、そして弦一郎という人間への理解。アイデアが複数の問題にアクセスし、解決するとき、アイデアによって世界に繋がれるプレイヤーの認識もまたさまざまに変化する。

 彼の言葉は、アイデアの力を、そしてそのアイデアが込められたゲームというメディアの力を信じる人の言葉である。その言葉が秘めた可能性は思った以上に遠くへと届くものなのかもしれない。『SEKIRO』というゲームを遊ぶとそのようなことを考える。


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