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【魔族な俺ですが、人間達と仲良く暮らしても良いですか?#15】

エレクチュア

あらすじ

 かつて魔王ザナグルを打倒した魔族の剣士・レオルは、人間の魔女ミレニムに誘われて、“冒険者”として活動を始める。仲間は陽気な格闘家ジュラ、冷静な獣人斥候ハクロ、健気な元エルフの少女エルフィ。

 任務の中で、使命に縛られたホムンクルス少女グレイシャを救い、家族として迎え入れた彼らだったが、世界の闇は静かに動き出していた。

 倉庫街での海魔シンエンの出現、暗殺者カリナとノワールの襲撃、天使人形ルミエルとの激突。レオルは「誰も見捨てない」信念のもと敵すらも救おうとするが、それは新たなる災厄の引き金となる。

 異界から現れた魔族ザインが、半魔族エレクチュアを従えて王国への侵攻“星落とし”を開始。レオル達は王国から追われる立場となり、かつて助けた少女リンの次元村へと身を隠す。

 だが、リンには“勇者”としてのスキルが眠っていた。過去の傷と葛藤を抱える彼女は、レオルやゾラの支えを受けて、自らの力と向き合うことを決意する。

 王国を包囲するザインの侵攻。魔族、天使、勇者――異なる力が交錯する中、リンは“黒の勇者”として覚醒し、夜空に向かってこう宣言する――「彼らのためなら、神様だろうが斬ってみせる!」

 いよいよ、最終決戦に向けて役者が揃ってゆく……


登場人物紹介(第14話時点)

【冒険者パーティー】

  • レオル(Leol):魔族の剣士。元は魔王を討った英雄。魔剣と奪取スキルを持ち、「誰も見捨てない」という信念のもと敵すら救おうとする。

  • ミレニム(Millenim):人間の魔女。知略に優れたリーダー格で、レオルに好意を寄せる。

  • ジュラ(Jura):陽気で豪快な格闘家の少女。感情豊かだが冷静な判断もできる。

  • ハクロ(Hakuro):獣人の斥候。冷静沈着で多才な万能型。調査・料理・索敵を担う。

  • エルフィ(Elfi):元エルフ族の少女。魔力を失ってもなお、癒しと支援で仲間を支える。

  • グレイシャ(Gresia):使命から解放されたホムンクルス。レオルを父として慕う。

【支援者・関係者】

  • ゾラ(Zora):レオルの影に宿る古き魔族。魂魄の術と精神干渉に長け、レオルの力を補佐する。

  • リン(Lin):次元収納スキルを持つ少女。勇者のスキルを覚醒させ、「黒の勇者」として自立する。

  • ホロ(Horo):リンの弟分的存在。体が弱く療養中。

  • カリウス(Carius):「赤き砂」指揮官。戦略家で正義感が強い。

  • ミィナ(Miina):「赤き砂」の情報員。ミレニムの旧友。

  • エイラン(Eiran):「赤き砂」の武闘派。レオルと互いに認め合う関係。

  • カレン(Karen):ギルドの事務員。裏でレオル達を支える。

  • リゼル王女(Lizel):王国の第一王女。理論家で、現在レオル達に対し恩赦を出している。

【敵対勢力】

  • ザイン(Zain):異界から来た魔族。“星落とし”を進行し、世界を滅ぼそうとしている。

  • エレクチュア(Erekutua):ザインの部下。半魔族で強力な魔力と戦術眼を持つが、レオルへの想いに揺れる。

  • ルルリエ(Lulurie):傘を持つ魔族。謎多き存在。異界の魔族。

  • 雷王:神の武神兵。エレクチュアの命令に従い街を破壊する。

  • カリナ(Karina):雷撃の暗殺者。現在は敗走中。

  • ノワール(Noir):冷酷な暗殺者。ジュラとの因縁がある。

  • オルト商会:魔族や妖魔を扱う裏組織。

  • ヴァルトラム伯爵:腐敗した貴族。罪を着せレオル達を追放した張本人。

【その他】

  • ルミエル(Lumiel):神によって造られた天使人形。使命と感情の間で揺れ、現在はリゼル王女に仕える。

  • シンエン(Shinen):海魔「深淵の姫」。妹を守るため、かつて人類に牙をむいた。

  • シロガネ(Shirogane):シンエンの妹。無垢な海竜族。

  • ?(懐中時計の少女):レオルを時間停止で救った謎の少女。彼を「応援している」と語る。


 エレクチュア

 

 ダイアウルフの群れが、遂に正門より街の中へ足を踏み入れる。

カリウス

 「冒険者の威信にかけて、魔物をこれ以上進ませるな!」

 カリウスのパーティーの他に、B、Cランクのパーティーの5組が迎撃態勢をとる。
 総勢三十名に満たない人数で、廃材などで作った間に合わせのバリケードを挟んで、大狼の群に対峙する。

 矢が建物の上から、立て続けに射掛けられる。

 カリウスのパーティーメンバー、シャリスが2階建ての建物の屋上から、確実に一矢で一匹ずつ葬っていく。
 他のパーティーの術師や弓手も、建物の窓や物陰から射線をとって、ダイアウルフの数を減らしていく。

シャリス

 「シャリス……伏せて!」
 ミィナが叫び、蝙蝠に似た異形の爪を弾く。

 蝙蝠の魔物フライング・クレージィとは、一回り大きさが違う、蝙蝠の魔物が音もなくエルフの弓手を引き裂こうと忍び寄っていた。
 それを、ミィナが寸でのところで割り込む。

 シャリスが、そちらを見ずに弓を上に向けて放つ。その魔物に、放物線を描いて矢が頭上から襲いかかる。

 「颶風」

 魔物が爪を軽く振ると、矢が縦に分かたれ粉々になる。

フライング・フューリー

 ケラケラと耳障りな笑い声が、空から降りそそぐ。

 「魔物が、術を!?」
 ミィナが驚きのあまり声を上げる。
 このような存在は、冒険者をやってきたなかで見たことがない。

 「フライング・フューリーは、下級とはいえ魔族ですよ……術を使うのは、驚くほどのことではないでしょう?」
 向かい家の屋根に、ネズミの耳の魔族ルルリエがいつの間にか立っていた。
 「ああ、こちらの世界では、下級魔族というのは……いないのでしたか。それはそれは、失礼しました」

 シャリスがフューリーに目線を残しつつ、ルルリエに狙いを定める。こちらの方が危険と判断したのか。
 「ミィナ、あれがギラ・ファンから来たという魔族か?」

 「どうだろう。ザインとは違う魔族だけど、また別の感じがする。勘でしかないけど……」

 ミィナが、胸元に手を潜り込ませる。

 「……ギラ・ファンは私の管轄ではありません。私の本職は、調達屋でして……どんな世界へでも、お望みの物を、お望みの場所へ届けます、というのが私の信条でして」
 「まあ、皆様が今回の『星落とし』で生き残られましたら、ご指名頂けますようお願い致します」

 慇懃無礼とは、このことか……

 ルルリエが傘を差したまま、手を胸に添え一礼をする。

 「ミィナ……撃っていいか?」

 ミィナの場合、相手に喋らせて情報を引き出していることがあるので、シャリスは狙いをつけて弓を引き絞ったまま我慢をしていた。
 だが、今ので色々と腹に据えかねるものがあったようだ。

 「まだ、待って……ねえ、一つ教えてくれない?」

 ルルリエが、傘から身体をずらして建物の一階部分を覗き見る。

 ダイアウルフが、建物内に何匹か侵入を始めているが、カリウスたちはそれに動きは見せていない。

 また、住人の悲鳴などの声も聞こえてこない。

 「既に避難ずみですか……準備が良すぎですね」
 「これは、えらくこちらの事情に通じている方がいますね」

 ルルリエが、下の様子を見ながら小さく呟く。

 「よろしい」
 「こちらも一つ、そちらも一つ……情報交換をいたしましょう」

 滞空しているフューリーが不満気に唸るが、ルルリエが軽く視線を飛ばすとおとなしくなる。

 「情報の価値が等価ならいいけど」
 「貴方、運び屋ってことだけど、本命のザインはどこにいるの?」

 ルルリエが、ほんの少しだけ困った顔をする。

 「お客様の情報を漏らすのは、本来できかねるのです」
 「ですが、私の質問にお答え願えるなら、謳って差し上げなくもないです……そちらも、相応の対価を払っていただけますか?」
 ルルリエの深い色の瞳がミィナを捕らえる。

 「ミィナ……やめろ。きっと後悔することになる」
 シャリスが小声で警告してくる。

 口の中が乾き、唾を飲み込む。
 今までやってきた交渉事の中でも、これは一等異質だ。

 あの魔族は、おそらく純粋に情報を求めているのだろう。
 それは、なんとなく直感で分かる。
 でも、それは後に新たな災いを呼ぶ、そんな予感もしていた。

 「いいよ。その代わり、ザインが最終的に何をするのか、具体的に教えることも含めた条件で」

 「なかなかに、度胸がおありだ、気に入りました」
 「よろしい、ミィナ嬢、『星落とし』前ではありますが、取引といきましょう」
 「貴方を対等の取引相手と認めましょう」

 ルルリエのどこか余裕ぶった笑みが、すうっと抜け落ちてゆく。
 ミィナに向かって真っ直ぐ背筋を正し、傘を畳んで柄に両手を添える。

 「等価なる代償」
 ルルリエとミィナの足元に、陣が展開する。

 「これで、お互い出し惜しみは、できなくなりましたよ」
 「私が話したことと等価と、貴方が思ったところまで話さざるを得なくなります」

ルルリエ

 「ザインですが……城門手前の、街が終わるところに位相をずらして、潜んでいます」
 「あと、彼の目的ですが、炎で人間の身体を灼き尽くして殻を破壊、そこから抜け出る魂を吸収する陣を自分の中に幾つも仕込んでいます」
 「この城下の外側から人を追い込んで、城の前で安心したところをまとめて焼いて喰らう……まあ、いつもそんなやり方を好んでいますね」
 「そうやってさらに強大な力を得るわけです。このエルサークを他の魔族に取られないように、全てを食らって、また別の世界に飛び立つために」
 傘がくるくる回る。
 狂り、くるり……と回される。
 「こんなところでしょうか」 

 「怪物だわ。ザインも、それを何でもないように喋るあんたも……」 
 ミィナの顔が蒼白になる。

 シャリスさえも、弓を引き絞っていた手が緩むほどに、ルルリエが語ったことは次元が違い過ぎるものだった。
 これまで彼女が対峙してきたものなど、比較になりもしない。
 異常という言葉では、表現しきれない。
 そんな化物は、およそ対処しきれるものではない。

 

 「……では、私の番ですね、ミィナ嬢」
 ルルリエの瞳が、ミィナを捕らえた。
 「今回の『星落とし』、ここまで動けるように手配した者がいますね?」
 「天使人形がここまで細く指示はしない。あれは、己が手で魔族を倒す、ただそれだけの存在」
 「人間に『星落とし』というものを教え、立ち向かえるように導いた者の名前と素性を教えてください」 


 ミィナの顔が苦痛に歪む。
 陣が、彼女に話せと強制してくる。 

 頭で浮かんだものを、勝手に口にしたくなる激しい衝動がミィナを襲う。 

 ミィナの脳裏に浮かんだもの……それは彼のことに他ならない。

 彼がミレニム達と関わり、敵であるルミエルやエレクチュアを助け、その縁を結んでダスクを通じて今回のことを知らせてくれた。
 だから、街の手前で迎撃する事が出来た。

 王城の側も、ルミエルが自ら周りの者を巻き込んで情報を渡すことで、今回の襲撃に備える事ができた。

 その助けとなった彼を裏切る……

 それは友であるミレニムをも裏切ることになる。だが、取引は対等でなければならないと、魂に干渉をかけてくるものがある。

 魔族とはいえ、ルルリエは客であるザインを裏切り、情報を渡すことで誠意を示した。

 ならば、ミィナもそれに対して誠実であらねばならない……そう陣が促してくる。
 ……だめ、逆らえない……
 ……ごめん、レオル……ごめん、ミレニム……
 ……後で、幾らでも謝るから……

 「……レオルという、魔族よ。冒険者をやってる変わり者」
 「魔王ザナグルを倒した彼が、今回のこと、魔族のことを私達に教えてくれた」
 「最近起こった世界樹の事件を解決したのも、彼のお陰……天使ルミエルを降したのも、レオルよ」
 ミィナの口元が震える。
 あがらうように、拒むように……
 「……もう、やめて!……お前は、私の中から出ていけえ!」  
 
 ミィナは両の手を深く握り込み、目をきつく閉じて陣の圧力を弾き返す。
 
 陣が光の破片となって砕け散ってゆく……
 
 ルルリエの瞳に称賛の色が浮かぶ。
 「素晴らしい……なんという意志の力」
 「……美しい魂の輝きであることか」

 ミィナは喉の奥から不快感がせり上がって来るのを、かろうじて抑え込んだ。

 「……非常に、面白い」
 底冷えする声が、ミィナ達に届く。

 ルルリエの傘の先端が、屋上の石材を砕く。
 「魔王ザナグルを倒したあの御方が、この国に……運命とは、なんと皮肉で憎い演出をすることか」

 自分に酔ったように、傘を回し開く。

 「なんと、なんと、甘美な情報を……素晴らしい……ありがとう、ミィナ嬢」
 「貴方に、最大級の感謝と賛辞を」

 「レオル様……こうしてまた、貴方と相まみえることとなるとは……あの時、お教えした甲斐がありました」
 「アナスタシア様の亡くなる瞬間に立ち会えるよう、計らった甲斐がありましたよ!」
 傘が狂ったように勢いよく回ってゆく。

 ミィナは、その光景に肩を抱きしめる。
 ……こいつは、危険だ……!
 彼女は叫ぶ……最も信頼する男の名を。
 「カリウス!」

 彼は、一気に二階の高さを飛び上がり、ルルリエへと斬りかかる。

 彼もまた、尋常ではない能力を持つ最上位冒険者だ。
 その剣に光が宿り、残光がルルリエの首まで届く道となる。

 ルルリエは滑るように身体をずらし、これを避ける。

 「虚実反転」
 カリウスの剣とシャリスの弓の上で、見えない力が弾け消える。
 門の騎士団に対して起きた事と、別の現象が起きる。

 「神のダンジョンで手に入れた武具ですか……なかなかに抵抗がキツい物をお持ちだ」

 ギィイイィ……

 フライング・フューリーが、ルルリエの前にゆっくりと降りて来る。

 「フューリー、後を頼めますか?……ミィナ嬢、感謝ついでに、ひとつオマケをつけましょう」
 「ザインは、身体をもう一つ持っています……中央広場に、それを隠しています」

 とん、と前を向いたまま、屋上から跳ぶ。

 「待て、魔族!」
 ミィナが、屋上の端に慌てて取り付く。
 
 「虚実反転」
 ルルリエが下に降り立った途端、周囲の冒険者の武器やバリケードが消え去る。
 ダイアウルフの群れの何割かが、ルルリエに従って市街地に向かって疾走を開始した。

 「ぜひ、ルルリエと……それでは、失礼します」

 傘を畳むと、風のごとく彼女は駆けていく。

 獲物を見つけた獣のように、瞳の光を強める。
 「ルザロの反応は、あちらですね」

 小さな牙が露わになるほどに、口の端がつり上がっていく。

 面白そうな物を見つけた時、自分でも止められなくなる時の彼女の癖だ。
 笑いがこみ上げてくることを押さえきれず、また押さえる気もない。

 「ザナグルの強制進化は、ガイナルの実験の結果。ですが、レオル様の能力は、それに対抗したことによる副産物」
 「これはぜひとも、見届けなくてはなりません」


 エレクチュアが、雷王に指示して徐々に街の中を前進していく。
 稲妻で街路を焼き払い、少しずつ住人を街の真ん中に追い込んでゆく。

雷王

 子供が母親に連れられて逃げる姿が、目の端に映る。

 ……あ、転んだ……

 「雷王、踏み潰さないように、注意を……」
 雷王に指示を出す。
 彼は、細かい行動を指示出しをしないと、大枠でしか物事を処理しない。

 ふと、先程の親子に目を遣ると、子供と母親の元に、危険を省みずに別の女性が駆け寄って助け起していた。

 ……人間にも、見どころのある者が……?

 何やらこっちを向いて、腕を振っている。

 ……こっちに、降りてこい、と?……

 「ちょっと、そこの美人さん!見下ろしてないで、降りてきなさい!」

リタ

 エレクチュアは知る由もないが、雑貨屋のリタだった。それが、雷王に恐れもせずに、進路上に立ちはだかっている。  

 何か、この王国の人は、全員ではないにしろ、癖が強すぎるのではないだろうか、とエレクチュアは思った。

 先程のヴァルターにしろ、この見るからに一般人の女性にしろ、力で及ばないのに何故こうも関わろうとするのか?

 ギラ・ファンでは、少なくともこのような人間はいなかったと記憶している。

 ……何か、恐怖する機能に異常があるのでは?

 「……あなた、名前は?私は、そこで冒険者相手に雑貨屋をしてる、リタです」

エレクチュア

 エレクチュアが興味半分、恐れ半分で降りていくと、まずそう聞かれた。

 この場合の恐れというのは、雷王で踏んでしまいそうな恐れということだ。

 雷王で無視して通り過ぎようとしたところ、リタが足元で文句いいたげに動きまわり始めた。
 それで、細かい指示に困ったエレクチュアが、とりあえず降りてきたという次第だ。

 「エレクチュアです……リタ様」

 「様づけなんて、やめて。リタで結構です」
 「あなた、どういうつもりでこんな怖いことしてるの?」
 「私の父親、猟師もやってたことあるから分かるけど……これ、追い立てだよね?」

 リタが、腰に手を当ててエレクチュアに顔がくっつかんばかりに顔を寄せてくる。

 「はい。私のマスターの命令で、皆様をなるべく一箇所に集めるようにしています」

 「あなたのマスターって、魔族?」
 「夕方、私の店で武器を買いに来た冒険者が、そう言ってた……その後、私達を殺すの?」

 エレクチュアは、ヴァルターの時とは勝手が違うらしく、すぐには答えられなかった。
 ヴァルターは戦う覚悟のある者だ。
 リタとは最初から前提が違いすぎる。

 「はい……まことに申し上げにくいのですが、その通りです」 

 「あきれた……そんな気のないあなたに、その魔族はこんな酷いことの手伝いをさせてるの?」

 ……どう、話したものだろうか?
 エレクチュアは、これまでに抱いたことのない戸惑いを感じていた。

 「説明が分かりにくかったら、申し訳ないのですが、私も半分ですが魔族です」
 「それで、私も僭越ながらあなた達人間に、復讐心を持ち合わせております」

 「え……あ、そうか……ごめん。あなたのこと、魔族に捕まった人間かと思ってた」
 「私達と、そんなに違わない様に見えたから……美人過ぎるけどね」

 リタが少し驚いたあと、何故か謝ってくる。

 それよりもエレクチュアは、今のリタの言葉に違和感を感じた。

 「あの……あ、そうか、とは……
 どなたか魔族の方にお会いになったことがあるのですか?」

 「ああ、それね……最近さ、私のとこをよく手伝ってくれてた剣士さんがいたんだけど、どうも魔族だったって聞いてさ……びっくりしたばかりなんだ」   「とてもいい人でね、知り合いもとても世話になってて……魔族って、私達とほとんど変わらないんだな、って思ったの」

 エレクチュアの表情が、パッと明るくなる。
「それは、レオル様のことでしょうか?!」

 「レオル様って……あなた、知り合いなの?」
 予想の上をいく食いつきに、リタは少しだけ顔が引きつる。

 「知り合いなどと、畏れ多い。お慕い申し上げているだけです……捕まっていたところを助けていただいたのです」
 「それに、私の心を分かってくださり、悲しんでくださいました……とても、とても優しい方なのです」

 両手を祈る様に絡めて、リタに迫ってくる。

 「そ、そう……なんだ」
 ……押しちゃいけないトコ、押しちゃった?

 「……それに、私に終わりを下さるかもしれない御方」

 小さな小さな呟き。
 それがかえって、願いの深さを感じさせる、祈りに似たもの。

 「それ……さっき言ってた、復讐のこと?」

 「はい……私には、もう止められないのです、リタ様……貴方様が、レオル様の名を口にしていただいたから、私は今、まだ普通に話せています」
 「ですが、やはり人間や天使人形を見てしまうと、赤く、そして黒く目の前が濁ってゆくのです。苦しいのです……」 

エレクチュア

 「この金の瞳は、魔族の証です……この瞳は、見たものを忘れない」
 「あの日、人間である父は魔族である母を庇って、天使人形に炎と炭に変えられました。まだ、5歳だった弟は、天使人形と共にいた人間の天翼騎士に斬り刻まれました。愛らしく聡い弟でしたよ」
 「リタ様、私はあの時に死んだのです。今ある私は、私の時間は、あの時の炎と血に囚われたままです」  
 「どんなに殺しても、炎が血で消えないのです。この痛みを、消すことができない……苦しくて、苦しくて、息ができない……」
 その胸の真ん中を、服の上から強く握り込む。

 リタは、恐る恐る手を伸ばす。
 知らず、エレクチュアの頭を抱きしめていた。

 なぜか、そうせずにはおられなかった。

 「いいよ……私を殺してよ。あなたの気がすむのなら、いいよ……」

 エレクチュアの瞳が僅かに開かれる。

「……その代わり、あなたの手で殺してよ」
「あの巨神やあなたのマスターにではなく、あなたの手で私を殺すの……そうすれば、きっと大丈夫だよ」
 リタがそう言って、暖かく微笑む。

 「……理解、理解できません」
 「何故、なにが大丈夫なのです?……今、会ったばかりの貴方に、何が……分かると……」

 
 「ほら、こうやって……」 
 リタが、エレクチュアの手を優しく取り上げる。

 「だって、エレクチュア、もう長いから、エレでいいよね……エレのその綺麗な瞳に、私はずっと残るんでしょう?」
 「……だったらさ、私がずっと止めてあげるよ。苦しかったら慰めてあげるから」

 エレクチュアの手が、リタの首に添えられる。
「あなた優しいから、ずっと忘れられないんだよ……苦しかったんだよ」
 「でもね、きっと自分の手で殺さないと……正面を向いて、ちゃんと相手の苦しむ顔を見て、自分の手で殺さないと復讐したことにならなかったんだ」

 「だから、ずっと苦しいんだよ……」

 エレクチュアの手が震える。

 ……この人間は、何を言っている……?

 ……復讐なら、数え切れないほど……それが、違う?

 ……復讐では、ないと……

 「貴方は、死が怖くないのですか!何も、後悔はないと!?」

 「怖いよ、決まってる、じゃない」           
 「最近、好きな人がようやく振り向いてくれた。店だって、少しずつだけど儲かってきた。お父さん、お母さんに楽してもらえるって思えるようになった……だから、だよ」

 エレクチュアは、リタの笑顔をただ、見惚れていた。

 この人間の言っていることは、おかしい。

 理解できない。

 ……だが何故か、そこに美しさを感じた。

 

 「……だから、私の死に意味があるんだよ」

 ……ああ、これはだめだ……殺せるわけが無い……

 ……たかが人間に、私は……圧倒されている……

 

 エレクチュアの心が、自ずと復讐を手放しつつあった。

 心が、これで良いと、どこかで認めてしまった……

 そうなっては、もう戻れない……

 

 「見てられねえ……こんな茶番が、一番苛つくぜ」

 エレクチュアが、リタを庇うように前に出る。
 「ザイン、様……」

ザイン

 「あまりに遅いから見に来てみれば、なに餌とチンタラ話してやがる……全く、役に立たねえクズだ」

 ザインは、この前の姿ではない。
 赤い魔力を宿し、殺意を隠そうともしていない。

 「だが、そいつの光が俺を呼んだ……強い光、美味そうな魂の光……」
 「……儚く、一瞬で弾けていく健気な輝き……最良の甘味だ。最初に取り込む魂にふさわしい」

 ザインが、リタを舌なめずりせんばかりに睨めつける。
 彼女が、恐怖のあまり二歩下がる。

 「ザイン様……この娘は……」

 「……また、誤魔化すつもりか……さっき、天使人形を見たぞ」
 「力を奪い尽くすどころか、力を返したな?テメェ……裏切ったな!」

 エレクチュアが、初めてザインを真っ直ぐに見る。
 「リタ様……逃げて下さい!」

 雷王が拳を振り上げる。

雷王

 ザインが飛び退りながら、火球を次々と発生させ、エレクチュアに放つ。

 彼女の電気の槍が、その幾つかを迎え撃った。

 だが、落としきれぬ火球が右肩と左脚に着弾して、エレクチュアの身体が吹き飛ぶ。
 その身体は雷王の足元に転がり、ぶつかって止まった。

 「エレ!」  
 リタが、駆け寄る。

 「私はいいから……逃げ、て……」

 リタが、エレクチュアを庇うように立ち塞がる。

 「エレは……ずっと苦しかったんだよ!それをアンタが、利用したんだ……」

リタ

 リタは、ザインに怯むことなく、睨みつける。 
 「……アンタは、許さない!きっと、報いを受けるよ!」

 ザインが嘲笑う。

 ……誰が、そんなことを出来るのか、と。

 「まあ、まずお前じゃ無理だな……人間!」
 ザインの爪が、リタを貫かんと迫る。

 電気の槍が彼女に巻き付き、後ろに投げ飛ばす。

 エレクチュアが、残りの電気の槍を石畳に突き立てて、リタと入れ替わるように立ち上がる。

エレクチュア

 ザインの爪が、エレクチュアの胸の宝石を砕き背中まで突き抜けた。

 だが逆に、その腕をエレクチュアが抱え込んで離さない。

 「薄汚い爪で、リタに触れるな……この醜いコウモリが!」  
 血とともに叫びを吐き出す。

 雷王が、再び拳を振り上げる。
 電気の槍がザインに絡みつき、その場に鋭く縫い止めた。

 「テメェ……どこまで!」

 「ああ……ずっと、言いたかったことが言える……」 
 
 エレクチュアが艶やかに笑う。

 「……死んで下さい、マスター」

 雷王の拳が、エレクチュアごと潰さんと振り下ろされた……!

 

 「……エレクチュア!」

 気づくと、エレクチュアはレオルに抱きしめられていた。
 少し離れたところに、雷王の巨大な拳が地面に巨大なヒビ割れを奔らせて沈み込んでいた。

 「……レオル、さま?……っ」

 咳込み、肺に溢れた血が口から漏れ出る。

 ザインの腕が半ばから、切り裂かれエレクチュアの胸に突き刺さっている。

 「レオル……!」
 ミレニムやジュラが、駆け寄って来る。

 ミレニムがポシェットから、ポーションを出しかけて動きを止める。

 だめだ……これでは……もう……

 「無理、ですよ……これまでの、ツケが回ったのです……私だけ、助かるなんて……」

 ルミエルやリンもその場に、遅れて駆けつけてきた。
 「お前……その傷……」

 「レオル、私の手持ちのスキルでも……」

 

 レオル達は、ミィナが懐に忍ばせていた通信石でザインの潜伏場所が城門前と知らされて、急行するところだったのだ。
 その途中で、雷王が動いているのを見かけて急遽コチラにとって返したのである。

 

 「エレ……!」

 リタが、エレクチュアに駆け寄る。
 ハクロが、その後ろに静かに控えている。

 「リタ様……ご無事で……良かった……っ」

 再び咳込み、苦しげに身体を僅かによじる。呼吸が細く、笛のような音になっていく。

 「エレ……、エレ……あなた、馬鹿だよ……なんで……」

 彼女は優しく笑う。

 ふと、リタの店に視線を流す。

 「……あれが貴方の店……良い店ですね……門のところが……綺麗に整えられ、て……」
 「……リタ様、私、算術が得意、なんですよ……」

 「なら、手伝ってよ……ウチ、人手不足なの……」

 瞳から急速にその光が消えてゆく。

 「……ありがとう……リタ……レオル、様……」

 エレクチュアの腕が落ちてゆく。

 レオルが幾度も見た、そして二度と見たくなかったその光景……が目の前にあった。

 

 レオルの歯が、音がするほど噛み締められる。
 「おい、いるんだろう!時計の!」

 皆がレオルが気が触れたかと、彼を見る。

 「レオル!?」 
 ミレニムが駆け寄る。

 「誰に言ってるんです、お前?!」
 ルミエルがその背中に呼びかけるが、レオルは振り返りもしない。

 ミレニムが、レオルの顔を覗き込む。
 彼は、どこでもないところを睨みつけていた。

 「お前に言っている!出てきてくれ!」

 

 

 「君、ルール違反……こんな呼び出し受けたの、初めてなんですけど!」

 不機嫌そうな声を伴って、彼女が現れる。

ソフィア

 「ちょっと、今後に支障がでるかもなので……言い方、気をつけようか?」
 「まず、あの呼び方はやめてよね」
 時計を吊るした鎖が、ズルリと回る。

 「名前を……教えてくれ」

 「……それも、ルールに抵触するけど、まあいいか……ソフィア、そう呼ばれているよ」
 「で、まさかあの半魔族を、蘇らせろとか……言うのかな、やっぱり……あり得ないよ、君」

 大きなため息。
 「そんなこと、願った人はいなかったよ……」

 「頼む、ソフィア」
 レオルが姿勢を正して、手を付き頭を地につける。

 「うわぁ、そこまでするの?ちょっと……やめてよ……」

 「そうするべきと思うから、やっている……君に差し出せるモノが、俺にはないから……」

 「こういうの、覚えてクセになると困るんだけど……出来るよ、一応ね」

 「でも、限りあるものを余計に使うことになるから……」
 「君自身の場合一つで済むのに、三つ使うことになるよ……いいの?」

 レオルが、顔を上げて頷く。

 一切の迷いはなかった。

 「君、イカれてるよ……でも、そういうところも含めて、君を助けると決めたからね」
 「いいね?君の運命の流れの一部を、あの半魔族にあげるからね」
 鎖をたぐり寄せて、三つの時計の突起を押し込む。

 「こういう呼び出し方、二度とやめてよね……じゃあね」


 エレクチュアが血を吐き出し、息を吹き返す。

 胸の穴が消えて、ザインの腕も塵になって消えてゆく……

 「一体、いま何が起こったのです?!お前、何をしたのです?!」
 ルミエルが驚きを隠そうとしない。

 「リタ、エレクチュアを匿ってくれ。ハクロ、付いててやってくれ、頼む」

 「分かりました、リタさん!」
 エレクチュアを背負って、リタの店に運び込む。

 リタもその後に続く。

 

 「話は後だ、来るぞ」
 レオルが、魔剣を抜き払う。

 「舐めたマネをしてくれる……」

ザイン

 巨神の拳から、すり抜けて影が起き上がる……
 

 

 一区画離れた中央広場の上空に、罅が入る。

 その闇の奥から巨大な炎の腕が伸びて、罅を広げていく。

ザインの腕

 「滅ぼす……喰らい尽くす……」
 巨大な魔神が闇の奥から、咆哮する。

 それは、王国の全ての空間を震わせていった……

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【2025年創作大賞ファンタジー小説部門:冒険者】
 第7話から第18話が一つのまとまりの応募となります。


続編


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