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宇宙民話 : ワラキアの子犬たち ⓶ Cuentos del Universo : Los perritos de Valaquia by ルア・ノアール

宇宙民話 もくじ
自己紹介/わたしについて(ルア・ノアール)
大好きな日本のみなさまへ(ルア・ノアール)
*メキシコの新米作家によるスペキュレイティブな民話集。

Title image, "キャプテン・クッキー"  by Lua Noire

*ワラキアの子犬たち⓵ <宇宙笛>のつづきです。

ルーマニアのワラキア地方、人里離れた美しい町に、アンクータというとても美しい脳性麻痺の女性が住んでいました。農夫のミハイの妹で、楽しい日々を送っていましたが、あるときから母親と言い争いを起こすようになりました。

「アンクータ、部屋から出てきなさい、お風呂に入るのよ」と母親が言います。
「いや、部屋から出たくない」 そうアンクータは怒りを込めて答えました。「クッキーがないなら、出ていかない」
「ミハイ、どうしたらいいんだろうね? あの子の大好きな菓子職人が死んでしまったんだ。アンクータにおいしい桃のクッキーを作ってくれた人でね」
「菓子職人が死んだとは知らなかった。この町に他にクッキーが作れる人はいないのかい?」
「いや、あの人みたいに作れる人はいない」
「アンクータは、それで部屋から出てこないんだね」
「あの子は部屋を出ないばかりか、お風呂にも入らない」
「菓子職人が死んだのを忘れられるようなことを、見つけないと」
「あたしはあの子にクッキーを作ってやった、でもそれをあの子は床に投げつけて、泣き出したんだ。わたしの好きなのはこれじゃないってね」
「部屋から出てくるよう、何かアンクータが喜びそうなことを見つけよう」とミハイ。

ミハイはどうしたものかと考えていて、昨日みつけた、藁から生まれた子犬たちのことを思い出しました。子犬たちがアンクータを元気づけてくれるんじゃないか。
「きっと楽しい気分にしてくれるにちがいない」とミハイ。
ミハイは母親の家を出て、自分の家に帰りました。そこで子犬たちを保護していたのです。子犬たちはまだ小さくて、やっと6ヶ月くらい。どの子が妹にぴったりだろうと考えて、1匹だけいる女の子を選ぶことにしました。ルーマニアン・ミオリティック・シープドッグ、 忠実で知性があり、主人を守る種として知られている犬です。妹にぴったりの犬を選んだのですが、残りの3匹も連れていくことにしました。

「たくさんいた方が楽しいだろう」 そうミハイは考えたのです。
ミハイは子犬たちをトラックに乗せると、母親の家に戻りました。

「ほら、見て、母さん。うちの新しい家族だよ。毛がフワフワしてるだろう。何て名前をつけたらいいだろう」
「なんてきれいな子たちなの! ルーマニア犬そのものだね」
「そうなんだ、みんなルーマニア原産なんだ。わたしが笛を吹いていたら現れたんだ」
ミハイはそれだけ言って、藁から生まれたことは伝えませんでした。そんなことを言ったら、母親は頭がおかしいと言い出すでしょう。
「うちの子にして、おまえの羊を世話させたらいい」
「アンクータを元気づけたいんだ。この子犬たちに何ができるか、みてみよう。母さんの部屋の鍵をおくれ」
ミハイがドアを開けると、子犬たちが飛び出して、アンクータのひざの上に飛び乗りました。思っていたとおり、ルーマニアン・ミオリティック・シープドッグがアンクータの一番近くまで走り寄りました。フサフサとした白い毛に黒っぽい耳の子犬が、アンクータの顔をおおいました。ペロペロとその顔をなめ続け、引き離すことができないほどでした。ミオリティックは磁気波を放ち、アンクータの脳の神経細胞を刺激して、その心を鎮めました。この犬はやはり、宇宙からやってきた犬だったのです。しかしその日一番の驚きは、それによってアンクータの心が癒されたことでした。アンクータのからだを鎮め、悲しみを和らげたのです。
「あー、アンクータの心が落ち着いたから、何か食べるものを作ろうね。サルマーレ(ルーマニア風ロールキャベツ)を作るから、妹を見ていてちょうだい」と母親がミハイに言いました。

「ご飯を作る」と耳にしたとたん、カルパチアン・シェパードが母親の後を追いました。

さあ、どうやって桃のクッキーの謎を解いたらいいのでしょう。誰がそれを作る? 
ルーマニアン・ミオリティック・シープドッグは、アンクータが食べもののことで悲しい思いをしているのだとわかりました。この犬は人の心が読めるのです。しかしどんな食べものを懐かしんで、悲しい思いをしているのかわかりません。
「果物の形のお菓子が見えるけど、それがどうして彼女を悲しくさせるのかわからない」とミオリティック・シープドッグ。

「なんだって? 口がきけるのかい? わたしが笛を吹いたら藁からきみたちが現れた。だけど、いま口をきいてる」 そう言ったのはミハイ。
「いったいわたしはどこにいるんだ、地球に住んでいるはずだろう? 地球じゃ犬はしゃべらない、なのにきみはしゃべってる、どういうことだ?」
「あなたは先祖伝来の木で作られた笛を吹いた。こうやって生まれてきたのは、ボクらの意思のせいじゃない。その笛のリズムから、あなたたちのお世話をするために、あなたたちの愛する人のために、こうして生まれてきたんだ。これがボクらの忠誠心なんです」とブコヴィナ・シェパードドッグ。

「みんなしゃべるんだ! なんてことだ! でも口をきくからって何も悪いことはない」とミハイ。
「ボクたち、あなたの妹さんがなぜ悲しんいるか、その理由を見つけなきゃ」 コルブ・シェパードドッグが言いました。
「妹が悲しんでいるのは、桃のクッキーを作ってくれる人がいなくなったからなんだ。前に作ってくれていた菓子職人が死んでしまったからね」
「そうなのか、事情はわかった」 ミオリティック・シープドッグがホッとしたように言いました。「課題はどうやってクッキーを作るか、知ることだ。たぶん、自分たちで作るれるよ、ウチらにそのクッキーをくれないかな、それを食べれば、どうやって作るかはわかるから」

「わかった、妹が残した最後のクッキーをあげよう、そうすれば作り方がわかるんだね。だけど菓子職人が作ったクッキーをしのぐものじゃないとね」
ミハイはそこにいる3匹の子犬にクッキーのかけらを与えました。それはジャムだけで作られたクッキーでした。

ミオリティック・シープドッグが宇宙の一息を吐きだすと、クッキーの材料の形になりました。
「ナッツに、砂糖、色とりどりの材料、桃のジャム」とコルブ・シェパードドッグが言いました。
「わたしが渡したクッキーにはチョコレートが入ってない。伝統的なクッキーにはチョコレートが入っている。でも犬にとってチョコレートはよくない、だから入ってないんだ」とミハイ。
「いい考えがある、クッキー惑星まで行って材料を集めてこよう、これが最初のミッションだ」 ブコヴィナ・シェパードドッグが提案しました。

「さあ、出発だ、みんな!」
「いくぞ、みんな!」 カルパティアン・シェパードを除く3匹が声を揃えて叫びました。ミハイの母親は、チョコレート色の毛皮のカルパティアン・シェパードに夢中で、餌をやり過ぎていました。この小さな犬は動けなくなるほどいっぱい食べていて、すでに名前をサルマーレ(ルーマニア風ロールキャベツ)とつけられていたのです。

カルパチアン・シェパード以外の3匹の犬は宇宙へと出ていき、クッキー惑星に向かいました。子犬たちは流星や光る星々の間を抜けて飛んでいき、たくさんの星座を通過し、クッキー惑星に到着しました。クッキー惑星は、ミルクで出来た輪とポップコーンの雲で知られ、その周囲の星々は砂糖で、惑星の地面は様々なケーキで出来ていました(キャロットケーキ、ココナッツケーキ、赤いベルベットケーキ、チョコレートケーキなど)。雨が降れば砂糖が降りそそぎ、家々はチューイングガムで、川はハチミツ、山々はアイスクリームから出来ていました。海の泡立ちはホイップクリーム、車は板チョコでした。

隣の惑星の唐辛子国が、何年か前にクッキー惑星を攻撃し、戦争が何年も続きましたが、地球からの訪問者が(チョコレートと様々な種類の唐辛子を混ぜ合わせた)モレというメキシコのソースを持ち込みました。そののち、二つの国は親しくなり、共存しておいしく混ざり合いました。そして唐辛子国とクッキー惑星は平和条約を結びました。クッキー惑星にはこのような長い歴史がありました。惑星間のもっともよく使われる交通機関は、虹のレールの上を飛ぶ綿菓子で出来た雲でした。

「着いたぞ」 コルブ・シェパードドッグが言いました。その黒々とした毛並みが甘いお菓子の世界の中で輝きを放っていました。
「クッキーを作るために宇宙桃を、チョコレートのキラキラ破片と砂糖星の粉末と、光るナッツを集めなければ」 ミオリティック・シープドッグが言いました。「必要なものを集めに、森に行ったらどうだろう、、、ちょっと、ほら見て、あそこに看板があるぞ。

桃の森に入るには、宇宙レースで勝つこと。そこで勝った者が欲しいだけ桃を手にすることができる

ブコヴィナ・シェパードドッグが看板を読みました。
「ワタシが行く、レースが大好きなんだ」 ミオリティック・シープドッグはレースが行われる森の入り口で、勝つ気満々でした。2匹の仲間が綿菓子のレーシングカーを、ミオリティックのために取りに行きました。

「登録にはどんな名前をつけますか、ワン子さん?」 そうミント・チョコレート氏が訊きました。
「キャプテンにするよ。すぐに綿菓子の雲のレーシングカーを仲間が届けてくれるはず」

レースは「桃の森サーキット」で行なわれます。キャプテンのところに、雲のレーシングカーが届きました。スタート地点にはたった3台の車しかありません。対戦相手はマフィン氏とドン・パレタの二人。

「スタート!」 レースはドン・パレタが滑って木にぶつかり、桃が頭を直撃するまでは接戦でした。マフィン氏とキャプテンは引きつづき争っています。1周目が終わるというところで、キャプテンの雲が壊れてキラキラパワーが消えてしまい、サービスエリアに入りました。マフィン氏がそこで優位にたちます。キャプテンはレースに戻ると、なんとかマフィン氏に追いつこうとします。チビのキャプテンはすごく遅れてしまったけれど、その良き心が魔法のように働いて、不思議の桃に力を与えます。すると桃は天上のピューレとなり、森の生命力がジャムパワーを呼び起こし、キャプテンにスピードを与えました。ウォーン、キャプテンの鳴き声が聞こえてきます。乗っている雲が稲光を発し、2周目に入るやいなやマフィン氏をとらえました。2台のレーシングカーはゴールに到着、先に着いた方が勝ちです。

どっちが勝者でしょう? レースは混戦の極み、遅れをとっていたキャプテンが最後に追い詰めるとは誰も予想していませんでした。誰が勝ったのか、レース結果が明らかになります。誰も期待していなかったことが起きたのです。ジャムがレースに熱気をもたらし、キャプテンの雲のレーシングカーが煌めきました。それがキャプテンにパワーを与え、マフィン氏を最後の最後で追い詰めて、1等賞を手にしました。

白熱のレースが終わり、チビのキャプテンは優勝トロフィーを手にし、その素晴らしい勝利によりキャプテン・クッキーと命名されました。

この優勝のおかけで、子犬たちは森で桃を収穫したり、足りない材料を集めたりできるようになりました。みんなで優勝のお祝いをしたあと、また森に向かいました。その森で子犬たちは不思議なメンドリと出会い、クッキーを作るための特大の卵をもらいました。あとはそれ以外の材料を手に入れるため、バニラアイスで出来た山に登るのみ。これでクッキー作りのすべての材料を手にした彼らは、クッキー惑星を離れ、ミハイの家族のお世話をするため、ワラキアに戻ります。

アンクータのクッキーを作る材料を手に、子犬たちは宇宙空間を飛んでいきました。

彼らが家に着いたとき、ミハイもやってきました。もう夜も遅い時間で、アンクータも母親もすでに眠っていました。子犬たちがミハイの母親の家でクッキーを作るのにちょうどいいタイミングでした。桃で特別製のジャムを作り、それから特大の卵と、キッチンで見つけた粉とバニラを混ぜあわせ、砂糖を加え、ベーキングパウダーをそこに入れました。

生地が用意できると、それを小さな半球型にまるめ、焼く準備をしました。生地をぴったり同じ形の半球にして、クッキー二つで一つの球形になるようにしました。そしてクッキーの下の面に穴を開けて、これから用意する美味しい詰めもののためのスペースを作ります。穴を開けたときに出たクッキーのかけらは、詰めものと合わせるためとっておきます。詰めものは魔法のナッツ、バター、チョコレート、星雲の桃ジャムでした。

クッキーの下部をくり抜いて、その穴の部分に美味しい詰めものを入れて広げ、半球形のクッキーを一つの球体にしました。桃の森で集めた材料は混ぜ合わせるたびに、不思議なことが起こりました。すべての材料を一つにすると、キラキラした星の蒸気が放たれました。そしてクッキーを冷蔵庫に数分間入れて、詰めものを冷やします。

このレシピは先祖代々、ルーマニアで伝わってきたもので、今も愛情たっぷりに作られています。が、非常に大切な手順が抜けていました。色づけと砂糖です。キャプテン・クッキーが冷蔵庫から材料を取り出しました。ミルクをテーブルに置き、砂糖をお皿に出しました。最後の手順は二つのボールにミルクを注ぎ、着色料を入れるのです。伝統的なやり方では、一つのミルクのボールにはオレンジ色を、もう一つのボールには黄色を入れます。最後の手順にサルマーレが加わります。ブコヴィナ・シェパードドッグの宇宙吠えでミルクの色が変わりました。サルマーレがクッキーをミルクに漬けて、半分オレンジ色に半分黄色に染まるようにしました。そしてコルブ・シェパードが星の砂糖でその上を覆いました。さあ、これでクッキーが出来上がりました! フルセクリ・ピエルシチの準備完了。マジカルだったのは、クッキーが桃の形をしていたこと、そして最後に葉っぱで飾られます。今回は子犬たちは、爽やかな香りにするために、レモンの木の葉を選びました。

子犬たちは疲れ果て、ミハイに眠らせてほしいと頼みました。しかしこの晩、ミハイは妹の世話をする必要がありました。アンクータの気分が不安定だったから。ミハイは夜遅くまで問題がないか、妹が夜中に目を覚まさないか、見守っている必要がありました。子犬たちはミハイの眠れぬ夜につきあいました。

さあ朝です、みんなでアンクータを起こして、朝食の席で桃のクッキーを見せました。アンクータはこんなおいしいものを食べたことがありませんでした。アンクータの深い悲しみを彼らが救ったのです。ミハイの母親の家に平和が戻りました。ついに夢にみたクッキーを手にしたのです。


だいこくかずえ訳・フェルナンダ・カルバハル [ スペイン語→日本語訳 ] 校閲

つづく(4月中旬)
第3話:マンダリーノ、飛ぶ<Vuela Mandarino>
<宇宙民話> Cuentos del Universo もくじ

ルア・ノアール(Lua Noire)
メキシコ生まれ。書くことは自分の世界を捉えること。統合失調症である。そこで見る幻覚と現実の世界をリンクさせて作品を書いている。(自己紹介を読む)
フェルナンダ・カルバハル(Fernanda Carvajal)
チリ在住のジャーナリスト。スペイン語話者として翻訳をサポート。2020年以来の葉っぱの坑夫の友人。
だいこくかずえ(Kazue Daikoku)
日本在住の翻訳者・編集者。ルア&フェルナンダの支援とChatGPTをフル稼働させて日本語訳を敢行。

フルセクリ・ピエルシチ(Fursecuri Piersici)のレシピ ↓


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