『美山考』第7章 境界
南丹市美山町の地域史についての考察
改訂履歴
第7章 境界
「別表B 美山地域の沿革」で示した各地名が、美山町域のどこに位置し、その領域はどの範囲かを把握するため、国土地理院電子国土Webを利用し、町内を西地域(図7-1)と東地域(図7-2)に分けて集落境界(青点線)と行政境界(赤点線)を表記した。
集落境界(青点線)は、農林水産省が公開している2020年農林業センサスに基づく「農業集落境界データ」を参考にして設定したもので、旧鶴ケ岡村、旧大野村、旧宮島村、旧平屋村、旧知井村(以下、地区)と、それぞれの旧村内に所属する旧大字(以下、地名)ごとの境界線を示している。
行政境界(赤点線)は、南丹市がホームページで公開しているオープンデータ「塗分け用ポリゴンデータ(2021年8月30日)」を参考に設定したもので、美山町の行政上の境界線を示している。
各図に表記する境界線の地区とおおよその地名は次の通りであるが、白石と佐々里については、集落境界、行政境界共にデータが公開されていないため境界線を表記できていない。
図7-1(西域)
・鶴ケ岡:福居(山森・熊壁・脇・庄田), 豊郷(洞・名島・松尾・神谷), 盛郷(田土・林・上吉田), 鶴ケ岡(船津・殿・川合・棚), 高野(砂木・栃原・今宮)
・大野:樫原, 向山, 小渕, 音海, 肱谷, 三埜(川谷・岩江戸), 大野, 萱野
・宮島:上司, 長谷, 和泉, 静原, 島, 下吉田, 宮脇, 板橋, 原
・平屋:上平屋, 下平屋, 又林, 長尾, 安掛, 野添, 深見, 荒倉, 内久保
図7-2(東域)
・知井:北, 南, 知見, 下, 中, 河内谷, 江和, 田歌, 芦生, 白石, 佐々里
各図中の赤丸印は神社もしくは寺院を示すもので、ほとんどの境界内(地名内)に赤丸印(神社・寺院)が含まれる分布になっていることが視覚的に見て取れる。「第9章 神社と寺院」では、美山町域を15のエリアに分けた地形図(図9-1~15)と、各エリアに所在する社寺の縁起等について掲載する。行政境界と集落境界についても表記しているので参照されたい。
各図を概観すると、両境界線で扱う地区・地名は同じであるものの、境界線の引き方に差異があり、地区によってはかなり大きな違いが認められる。
一般的に古くから伝わる境界線は、山の稜線や尾根筋、川筋など、地形の特性に沿って設定されることが多く、いびつな線形になることが多いと思われる。集落境界はその傾向が見て取れるが、行政境界については、集落境界を基本にしながらも地形の特性とは無関係に、作為的或いは直線状に区切ったような境界線が多く見られる。
両境界線がいつの時点のものか確認できていないが、諸状況を勘案すると、行政境界は南丹市美山町の発足時に設定されたもの、集落境界はそれ以前、北桑田郡当時のものと思われる。現在も集落や神社・寺院の位置表記で集落境界を基準にした区分けに依るところがありそうである。
また、美山町域全体を俯瞰すると、町内中心部を横断する由良川、縦断する棚野川と原川など、川とその周辺の平地を軸にした縦横の動線とは別に、鶴ケ岡地区と知井地区の山間部は尾根筋の動線でつながっているように見て取れる。距離的には離れているように見える両地区に、「第11章 伝承と人物」で紹介する類似伝承(香賀三郎)が残るのは、このことが要因のひとつになっているのかもしれない。
図7-1 地理院地図 美山町西地域の集落境界と行政境界

図7-2 地理院地図 美山町東域の集落境界と行政境界

以下に、両境界線の差異についていくつか例示するが、行政が合理的に地域管理するために設定した行政境界と、当地に古くから根付いてきた集落境界が事実上並存し、うまく使い分けられているのが実情なのかもしれない。当地に住まわれている人たちに実情を確認したいところである。
例えば、2025年3月13日に 図7-3 の赤線枠内にある八坂神社と白峰寺を訪れた際、熊壁と書かれたバス停横の道を入って行った先に、脇の行政境界内に位置する集落があった。その集落内にある八坂神社と白峰寺は、「京都府北桑田郡誌」では、福居(熊壁)にあり、とされていることもあり、熊壁と脇の事実上の境界は、この集落の南側、つまり集落境界が示す辺りにある(あった)ものと思われる。
これ以外にも、旧鶴ケ岡村域の集落境界は、尾根筋や峰筋、川筋などの地形に沿ってかなり入り組んだ状態になっていたものが、それ以降に設定したと思われる行政境界は、必ずしも地形の特性には依らない直線状に線引きされた境界線の多くあることが当地域の特徴である。
図7-3 地理院地図 鶴ケ岡地区周辺の集落境界と行政境界

図7-4 の赤線で囲った大野地区の三埜(川谷)・音海・萱野、宮島地区の長谷については、集落境界では現在の府道12号と接することなく山側に閉じた領域に位置しているが、行政境界では、隣接する地区の一部領域を割き、同府道にアクセスできる領域を追加的に割り当てされたようである。災害時のことを考慮したのかもしれない。
図7-4 地理院地図 大野地区・宮島地区周辺の集落境界と行政境界

図7-5 の下吉田の境界線は、集落境界と行政境界が大きく異なる典型的な例である。
集落境界では城山の稜線と由良川の蛇行に沿って、左向きの像の鼻のようにも見える形状であったものが、行政境界では地形の特性とは無関係に、ほぼ四角形の形状になっている。
このような地形の特性に依らずに形状が変化した例は、程度の大小はあるが各地区に見られる。
図7-5 地理院地図 下吉田の集落境界と行政境界

