兵糧丸を作ると夫に打ち明けた夜(番外編)
「週末に兵糧丸の材料買おうかな」
わたしは思い切ってそう夫に切り出した。ごく普通のフリをして、何気ないいつもの会話のように。心臓はどきどきしている。
以前、兵糧丸を作りたいと打ち明けた時、やんわりと、でも丁寧に止められた。おそらくそれは、それを許したら次に何をやり出すかわからない、という夫の危機管理能力によるものだろう。
その感覚はたぶん……正しい。今までも相当やらかしているからである。実は今回、兵糧丸を作ることを決めた時、わたしの中のパンドラの箱は開け放たれ、次から次からやりたいことが溢れ出した。
そこから何が飛び出したかは……今は言わないでおこう。わたしの生態を知るまでは免疫がないだろうから、今はまだ打ち明けるのは危険だ。
あの時止めた夫の感覚は、正しい。しかし、正しさだけではわたしは生きていけないのだ。好奇心という欲望を、わたしは既に抑えきれなくなっていた。
「週末に兵糧丸の材料買おうかな」
そう言った瞬間、夫がこちらを見た。
どうせ、また始まったと思っているに違いない。
しかし、返ってきたのは意外な返答だった。
「……どこになにを?」
え?買ってもいいの?
そういえばこの間、わたしは「やりたいことをやると決めた」と宣言したのだった。やりたいならやればいいと思うよ、とその時夫は言った。
ただ、兵糧丸を作りたいと改めて打ち明けるのは今日が初めてだ。どこになにを?の前の数秒の沈黙に、夫の葛藤が見えた気がした。
「どこに売ってるかなあ、製菓店とか?そこまで特殊な材料じゃなさそうだからスーパーとかでも買えるかもだけど。」
「……おいしいの?」
まさかの反応だ。
夫が兵糧丸の味に興味を示している。
「さあ、食べたことないからどうだろうね笑」
「美味しく作ってよ?」
どうやら食べる気らしい。
作りたい、の後に食べて欲しい、もお願いしようと思っていたので、言いにくいことがひとつ減って安堵した。
「保存しようとか思ってないよね?」
来た。
危機管理担当のセンサーが働いた。
「それは怖いからやらないよ」
「本当にやめてよ、こんな季節なんだし」(梅雨)
「大丈夫、さすがに怖いし」
どうやら兵糧丸計画は許可されたようだ。
しかしこんな状況でも食中毒の心配をしている夫が、なんだか面白く、頼もしくも感じた。
「どうせなら、みたらし団子とか作ればいいのに」
夫が言う。
だが、それは違う。
「それはさあ、買えるじゃん。兵糧丸は売ってないもん」
現代では売っていない。
だから作るのだ。
「みたらし団子でいいんじゃない?なんでわざわざそっちにいくの笑」
浪漫だから……なんて言っても通じるわけがない。
この場をどう切り抜けようか。
「みたらし団子の方が美味しいと思うよ、当時もそうだったんじゃないの」
返答を迷っている間に畳み掛けてくる。ここで怯んではいけない。
「それはさ、お団子屋さんで食べるやつじゃん。これは忍者が隠密行動の時とか、武士が戦場で食べるやつだから」(どうだ!!)
「みたらし団子も一緒に作ればいいじゃん」
みたらし団子大好きか笑
てかそんなにみたらし団子好きなの今知ったわ笑
「でもみたらし団子って自分で作るとなんか違うんだよね。醤油っぽいっていうか」
「あー、ちょっとしょっぱくなるよね」
ここだけ妙に意見が一致した。
「みたらし団子食べたいなあ」
まだ言ってる笑
「買ったらいいよ」
「いっぱい食べたいんだよ」
「いっぱいってどのくらい?」
「10本とか」
「3パック買ったら9本だよ」
「じゃあそれでいいや」
一瞬で解決した。
「でも買わないな」
は?
「なんで?」
「自分のためにそんなに買ってまで食べるのは気が引けるんだよ」
最後まで夫はみたらし団子への執念を捨てなかった。
わたしも兵糧丸への執念を捨てる気はない。
この勝負、おあいこである。
とりあえず許可が下りたので、美味しい兵糧丸レシピ探しの旅に出ることにする。
番外編 完
▼後日レシピを考えました
前編はこちら
どうしてこうなった/(^o^)\
って方はこちらをどうぞ。
パンドラの箱が開け放たれた瞬間。
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