なぜAmazonベーシックは安いのか——"胴元"だけが作れるブランドの正体
金曜の夜、ダイニングテーブルでノートPCを開いて、プライムデーの狙い目リストを作っていました。
狙いめリストはこちら
HDMIケーブル、単3の乾電池、スマホスタンド。出産前に細々としたものを補充しておこうと検索窓に打ち込んでいくと、どのカテゴリでも検索結果の目立つ場所に、同じ名前が顔を出します。
Amazonベーシック。
有名メーカー品の半額近い値段で、レビューは数千件、評価は星4前後。あまりに自然に並んでいるので、いつもは素通りしていました。でもその夜はふと、手が止まりました。
Amazonは「売り場」のはずです。その売り場の運営者が、自分で商品を作って、一番いい棚に並べている。これはお店で例えると、何が起きているのでしょうか。
この記事は、その夜に調べ始めた「Amazonベーシックはなぜ安いのか」の裏側——普通のプライベートブランドとは根本的に違う、"胴元"の仕組みを、総務職の僕の目線で解剖した記録です。
通説:「大量に仕入れるから安い」
「PBが安いのは、大量発注と広告費カットのおかげ」。
僕もずっとそう思っていました。セブンプレミアムやトップバリュと同じ理屈です。メーカーから中間業者を挟まずに大量に作らせて、テレビCMも打たない。だから同じ品質でも2割、3割安くできる。
Amazonベーシックも、基本はこの延長線上にあります。2009年に米国で始まり、同じ年のうちに日本でも販売が開始された、乾電池やケーブルといった「ブランドにこだわらない日用品」を狙ったPBです(※5)。総務の仕事で備品を発注するとき、僕はコピー用紙やボールペンのメーカーをほとんど気にしません。「誰も指名買いしない消耗品」こそPBの主戦場だという狙いは、発注する側の実感としてよく分かります。
ここまでなら、話は「よくあるPBの成功例」で終わります。
でも調べていくと、Amazonベーシックの安さは、スーパーやコンビニのPBとは成り立ちが一段違うことが見えてきました。
転換:Amazonベーシックは「棚のPB」ではなく「市場の胴元のPB」
核心を先に書きます。
セブンプレミアムは「自分の店の棚」に置くPBです。それに対してAmazonベーシックは、世界中の出品者が戦う市場そのものを運営する"胴元"が、場代も広告費も払わずに出す商品です。安さの源泉が、そもそも別の場所にあるのです。
普通のメーカーがAmazonで物を売るには、販売手数料を払い、倉庫代を払い、検索結果で目立つための広告費を払います。ガジェット系の商品なら、売値のかなりの部分がこうした「場所代」に消えると言われます。
ではAmazonベーシックはどうか。手数料を取る側と払う側が同じ会社なので、この場所代が実質的に存在しません。会社の経費でいえば、自社ビルの会議室を使うのに会場費を計上しないのと同じです。他のメーカーが必死に払っているコストが、構造的に丸ごと浮く。値札が安くなるのは、企業努力というより「立場」の産物なのです。
以前、僕のデスクがAnkerやUGREENといったコスパ中華ブランドで埋まっていた話を書きました。彼らは薄利と物量でAmazonの検索結果を勝ち抜いてきた強者です。そのAnkerでさえ、Amazonという市場では場代を払う「店子」の側にいる。店子の中の最強と、家賃ゼロの大家。Amazonベーシックの安さを語るとき、比べる相手の土俵がそもそも違うことは、押さえておきたいポイントです。
データ:ベゾスが欲しがった「カークランド」
会社で備品の相見積もりを取るとき、僕が一番欲しいのは値段表ではなく「他の部署が実際に何をどれだけ使っているか」のデータです。それさえあれば、外さない発注ができます。
Amazonは、それを世界最大級の規模で持っている会社でした。
米ウォールストリート・ジャーナル紙の記者によれば、創業者のジェフ・ベゾス氏はかつて社内会議でこう発破をかけたそうです。「コストコのPB『カークランド』は売上全体の25%以上を稼いでいる。なぜうちはPBが1%しかないのか」(※1)。この号令のもと、Amazonは自社サイトで得た出品者の販売データを基に売れ筋の類似PB商品を次々に開発し、2020年時点で45ブランド・24万3000点まで品目を膨らませました(※1)。
ただ、このやり方は「胴元が客の手札を見ながら自分も賭ける」ことに近い。当然、待ったがかかります。欧州委員会は、Amazonが出品者の受注数や売上高といった非公開データを自社の品揃えやPB開発に使っていたと問題視し、2022年12月、Amazonが「非公開データを自社の小売事業に使わない」と確約することで調査は決着しました(※3、※4)。巨額の制裁金は回避されましたが、裏を返せば、Amazonベーシックの急成長の背後には、それだけ強力な"見えている側"のデータがあったということです。
生命保険の世界にも似た構図があります。契約者の統計データを持つ側は、リスクの読みで圧倒的に有利です。だからこそ、その使い方には厳格なルールが課される。Amazonベーシックが直面したのは、まさにそのルール整備の局面でした。
それでも売れなかった:PB売上「1%」の壁
ここまで読むと、Amazonベーシックは無敵の仕組みに見えます。でも実際の数字は、意外なほど地味でした。
あれだけ品目を増やしても、PB全体の売上比率は目標の10%に遠く届かず、1%前後にとどまり続けたと報じられています(※1)。そして2022年、Amazonは45ブランドまで広げたPBの大幅削減に踏み切り、米紙には「PB事業から完全撤退する可能性も協議した」とまで書かれました(※2)。現在まで生き残ったのは、Amazonベーシックなど、ごく基礎的な商品群です。
僕はここに、この考察で一番面白い教訓があると思っています。
「安く作れる」と「選ばれる」は、まったく別の能力なのです。乾電池やケーブルのような、誰もブランドを気にしない領域では、胴元の安さは無敵でした。でも服や靴のような「好き」で選ぶ領域では、データを見て作った最安値の商品より、人はブランドの物語にお金を払った。Appleやポケモンが証明し続けている、あの力です。
総務職として言い換えるなら、コピー用紙はPBで一括発注しても誰も文句を言いませんが、社長室の応接セットをノーブランドの最安値にしたら、たぶん怒られます。Amazonは24万点の商品を並べて、その境界線を世界規模で実験し、「ベーシック」という名前の通りの場所に戻ってきたわけです。
プライムデーで僕はどう使い分けるか
では、来週に迫ったプライムデー(7月7日から先行セール、10日から本番)で、僕らはこの知識をどう使えばいいのでしょうか。
僕の結論はシンプルで、「性能差を体感できないものはベーシック、体感できるものは指名買い」です。
HDMIケーブルや乾電池、収納ボックスのような商品は、正直、有名メーカー品との違いを僕の生活で体感できる自信がありません。しかも Amazonベーシックには購入から1年間の保証が付いています(※5)。セールで在庫一掃の値引きがかかりやすいのもPBの特性なので、プライムデーは狙い目です。
一方で、イヤホンやキーボード、マウスのように毎日肌に触れるものは、僕はこれからも指名買いします。AirPods 4もLogicoolのマウスも、スペック表に出ない「気持ちよさ」にお金を払った買い物でした。データから逆算して作られた商品に、この部分だけは代替できないと感じています。
ひとつ正直に書いておくと、Amazonベーシックにも弱点はあります。品質のばらつきが商品カテゴリによって大きいこと、そしてPB縮小の流れの中で、気に入った商品がある日ひっそり廃番になるリスクがあることです。「同じものをずっと使い続けたい」タイプの人は、消耗品以外では慎重になったほうがいいと思います。
おわりに
リストを作り終えて、カートの中身を眺めました。ケーブルと乾電池はAmazonベーシック、イヤホンまわりは指名買い。値札の後ろにある仕組みを知ってから見ると、同じカートの中に「胴元の安さ」と「ブランドの物語」が同居しているのが、なんだか面白く見えてきます。
秋には子どもが生まれます。おむつやおしりふきのような消耗品の発注業務が、我が家にもいよいよ始まる。どこまでを「ベーシック」に任せて、どこから先に物語を求めるか。その線引きの練習を、僕はいまプライムデーのカートでやっているのかもしれません。
出典
※1 ビジネス+IT「ジェフ・ベゾスが激怒した『アマゾンのPB戦略』、大失敗で撤退か、それとも存続か?」(2022年8月)——ベゾス氏のカークランド発言、45ブランド・24万3000点、PB売上比率1%の記述
※2 プレジデントオンライン「もう自社ブランドを売りまくる時代ではない…」(2022年7月)——米WSJ紙によるPB削減・撤退協議報道
※3 日本経済新聞「Amazon、EUと和解で制裁金回避 反競争法調査で」(2022年12月20日)
※4 JBpress「アマゾン、EUとの和解で3つの約束 制裁金回避」——出品者の非公開データ(受注数・売上高等)のPB開発への利用と確約内容
※5 株式会社キャパ「Amazonベーシックの上手な活用方法をご紹介します」——2009年開始(米国9月・日本11月)、1年保証、セールと在庫一掃の関係
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