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品質不正の犯人は、現場にいない。

はじめに

品質不正のニュースが流れるたび、世間は同じ場所を想像します。

検査場。データを書き換える誰かの手元。

「現場のモラルが崩壊している」という解説。

15年、製造の現場にいた人間として言わせてください。

犯人は、そこにいません。


意外な数字が出ました

2026年7月、日本能率協会総合研究所(JMAR)が第4回「従業員の品質意識」調査を公表しました。
対象は上場製造業の部長から一般社員まで1,200人。
品質保証の体制が整っているはずの、大企業の調査です。

この中に、思わず二度見した数字があります。

品質の話なのに、主役は製造でも検査でもありません。営業です。

顧客の声や要望を得ている営業は73.7%。
しかし、それを開発・生産・品質保証に共有しているのは約73%にとどまります。
顧客の声を共有している営業は、「仕様と対応可否の事前確認」「困難な要請への交渉」といった役割を果たせている割合が72.1%。
共有していない営業では39.6%。

倍近い差です。

つまりこういうことになります。

営業の机の上で顧客情報が止まった瞬間、仕様の事前確認がされないまま、案件が後工程に流れ込みます。


不正は最終工程で「発生」し、最初の工程で「発芽」する

情報が止まった案件が、その後どうなるか。
現場にいた人間なら筋書きが読めます。

対応可否を確認されていない仕様が、そのまま製造に落ちてきます。
納期は先に約束されています。現場は「できません」と言いたい。
でも同じ調査によれば、管理職の6割が品質リスクに繋がる違和感を経験し、そのうち45%は報告せずにそのまま進めています。

なぜ報告しないのか。悪い話を伝えにくい空気。品質より納期を優先していると感じられる経営の判断。
言っても変わらないという学習。

そして最後、帳尻を合わせる場所は一つしか残っていません。検査です。

不正が「発生」するのは最終工程ですが、「発芽」しているのは最初の工程、受注のその瞬間です。検査場で手を動かした個人を処分しても、次の芽は今日もどこかの商談で植えられています。


これは仮説ではありません

私自身、ある金型メーカーの現場でこれを見ました。

営業が仕事を取り、製造に展開する。どこにでもある流れです。
でも仕様と対応可否の確認が受注の手前で行われないまま案件は製造に落ち、日程は守れませんでした。

その会社では、歪みは「納期遅延」という形で表に出ました。
遅延として表に出た分、まだ気づける余地があります。
遅延が表に出ることを許されない会社では、同じ歪みがどこかで帳尻を合わせる形、つまり不正へと向かいます。
同じ場所で発芽した芽が、会社によって「遅延」として実るか「不正」として実るかの違いでしかありません。

営業という部署があり、製造という部署があり、その間の受け渡しが個人任せなら、この芽はどの会社でも発芽しうる。

これは一社の失敗談ではありません。再現条件の揃った、構造の話です。


営業を責める話でもありません

ここで「じゃあ悪いのは営業か」となったら、現場を責めるのと同じ間違いを繰り返すだけです。

営業が情報を共有しないのは、怠慢ではありません。
共有する仕組みがなく、共有しても得をしない構造の中にいるからです。
売上で評価される人間が、受注が遠のくかもしれない「面倒な事前確認」を自発的にやり続ける。
そんな構造になっていない会社で、それを個人の善意に期待するのは設計ミスです。

品質問題は、モラルの問題ではありません。構造の問題です。

人を入れ替えても、研修をしても、標語を貼っても、構造が同じなら同じ場所から芽が出ます。


経営者の意図は、たぶん歪んで伝わっています

もう一つ、この調査で誠実だと思った一文があります。

現場が感じている「経営層は品質より利益を優先している」という姿勢、これは経営層の実際の意図ではなく、日々の施策や個別判断を通じて現場が感じ取った姿勢だと、調査自身が断っています。

私はこれを、経営者への救いの一文だと読みました。

あなたの意図が悪いのではありません。
意図が歪んで伝わる構造が問題なのです。品質を大事にしているつもりでも、納期の号令だけが現場に届き、品質への投資判断は届かない。
その積み重ねが「うちの経営は品質を軽く見ている」という空気になり、45%の沈黙を作ります。

だからこの問題は、現場のスローガンでは直りません。

情報が流れる道、評価される行動、言える空気、構造そのものを設計し直すしかないのです。


一週間前に書いたことの、答え合わせ

前回の記事で、私はこう書きました。

プロセスを変えずに目標だけを変えれば、現場は根性と残業でカバーするしかなくなる。
そしていつか、その歪みが品質問題や不正という形で噴き出す
、と。

今回の調査は、その「いつか」がすでに始まっていることを、数字で示しています。

対応可否(How)を確認しないまま先に走る締め切り。
共有されないまま後工程に流れる案件。違和感を飲み込む45%の沈黙。

TV画面で見た大手の姿と、1,200人の調査データは、同じ病の別の断面です。


「現場の問題」と呼ぶのをやめるところから

品質不正の再発防止策として、検査員を増やし、ダブルチェックを増やし、誓約書を書かせる会社は多いです。
全部、最終工程への対策です。

芽が出る場所には、何も手を打っていません。

構造改革の第一歩は、大がかりな施策ではありません。

品質問題を「現場の問題」と呼ぶのをやめることです。

呼び方を変えれば、見る場所が変わります。
見る場所が変われば、打ち手が変わります。

あなたの会社の品質問題は、どの工程で発芽していますか。


YEES FACTORY|治部康臣(やすにぃ) 製造組織の構造改革者

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出典:日本能率協会総合研究所(JMAR)第4回「従業員の品質意識」調査(2026年7月公表、上場製造業1,200人対象)

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