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ゲイだった僕が、バイになった話 後編(高校2年のころ)

【中編までのあらすじ】
放送部の部室で出会ったユキは、どこかとっつきづらいけれど、レベッカの音楽をきっかけに心の距離が縮まり、帰り道を一緒に歩く仲に。
ある日、風邪で寝込んだ私の部屋に突然やってきたユキは、何も言わずにおでこを合わせて熱を測り、そっとキスをしてきた。そして「私は諦めないから」と言って微笑んだ。

私は正直に、ゲイであること、男の子に恋してきた過去、今も陸上部のBくんに惹かれていることを話した。それでもユキは「わかった」と受け止め、変わらず隣にいてくれた。

やがて、チョココロネを分け合ったり、手をつないで歩くようになったふたり。気づけば私は放送室の“指定席”=Bくんを見つめる席に座らなくなっていた。気持ちが、いつの間にかユキへと向かっていたのだ。
でも「一度ふったくせに今さら…」と悩んだまま、時間だけが過ぎていく。

そんなある日、ふたりで訪れたモスバーガーのカウンター席で、私はようやく気持ちを伝える。
「……俺、ユキのことが好きになった。だから……付き合ってほしい」
返ってきたのは、涙混じりの「……遅いよ。どれだけ待たせるのよ」。

静かな涙と、ちょっと怒ったような微笑み。マグカップのココアが、ふたりの時間を包んでいた。

体がつながったまま抱き合えたこと

付き合いはじめたとはいえ、放課後はそれまでもほとんど毎日一緒にいたから、
ふたりの関係に劇的な変化があったわけではなかった。

ただひとつ、変わったこと。
ユキがときどき、帰り道で私の腕にそっと自分の腕を絡めてくるようになった。

そのたびに、ユキの胸が腕にふわりと当たって、私は心のなかで「うわっ」となったけど、
そんなことを言えるわけもなく、何食わぬ顔で、黙って歩いていた。
たぶん、顔は少し赤くなっていたと思う。

人目のないところでは、キスをするようにもなった。
駅までの帰り道。
それから、あの放送室でも。

放送室のドアは内側に開くつくりで、鍵もかからない。
だから私は背中でドアを押さえて、ユキと抱き合った。
誰かが入ってこないかとドキドキしながらのキスは、ちょっとしたスリルつきの幸福だった。

あの、柔道部からもらった畳の上で昼寝をしていたときのことも、忘れられない。
目を覚ますと、すぐそこにユキの顔があって――
夢かと思うくらい、やわらかく唇がふれてきた。

ぼんやりと意識が戻っていく中で、
「なんだこの幸せな目覚めは」と、畳の上でニヤけていた。

今でもたまに、古びた畳のにおいや、ちょっと埃っぽい空気を感じると、
あの放送室と、ユキとの昼寝と、目覚めのキスを思い出す。

そして、ある日。
学校が休みの日に、ユキの家で試験勉強をしていたときのことだった。

ふたりでベッドに座っていて、ちょっとした流れで、はじめて一つになった。

ユキの肌は、真っ白でふわふわで、どこを触ってもやわらかくて、
私が触れるのを、ちゃんと受けとめてくれるあたたかさがあった。

怖さも、戸惑いも、たしかにあったけど、
それ以上に、つながったままお互いをぎゅっと抱きしめられたことが、すごく嬉しかった。

男と女が一つになるというのは、
体のつくり的に、ちゃんとできるようにできてるんだな――
なんて、ちょっと他人事みたいな感想を抱きながら、私はユキを正面から抱きしめていた。


あとになって振り返ってみて、
ユキと付き合っていて、いちばん幸せだと感じたのは、
「隠さなくてよかったこと」かもしれない。

中学のときに付き合っていたアキラのことは、誰にも言えなかった。
バレたらどうしよう、知られたら気持ち悪がられるかもしれない――
そんな不安ばかりで、関係そのものを隠し続けていた。

でもユキとは違った。
放送部の中でも、学校の友達の間でも、私たちは“ふつうに”一緒にいた。
何も隠すことなく、好きな人と一緒にいることができた。

それは、あまりに恵まれているような気がして、
「これって、いいのかな」って何度も思ったけれど。
あの時間が、たしかにあったこと。
あの時間が、私のなかに残っていること。
それだけで、今でも十分すぎるくらい幸せだ。


バイセクシャルと恋愛観

正直に言うと、ユキと付き合っていたあの頃、
自分が「バイセクシャル」だなんて思ってもみなかった。

というか、そもそも「バイセクシャル」という言葉すら知らなかった。
たぶん、当時はまだ今みたいに知られていなかったんだと思う。

あとになって、いろんな人を好きになって、
恋をして、傷ついたり、ときめいたりして、
「ああ、私はたぶん、ユキと付き合っていた頃にバイセクシャルになったんだな」って、
ようやく腑に落ちた感じだった。

私は、生まれつきバイだったわけじゃないと思う。
ユキが粘り強く、焦らず、私の心と身体を少しずつほどいてくれたから、
恋愛のドアが、静かに、でも確かに開いたんだと思ってる。


たまに、こう聞かれることがある。

「バイセクシャルって、誰とでも寝られるってこと?」

うーん、それ、かなり違う。

たとえば、ふつうの女性が「男なら誰でもいい」なんてことないだろうし、
ふつうの男性だって「女なら誰でもOK」ってわけじゃないと思う。
なのに、バイってだけで「選び放題」みたいに見られるのは、ちょっと困る。

「ヤリチン」「ヤリマン」ってラベルで一括りにされることもあるけど、
そういう話じゃない。
恋愛対象になるってことには、ちゃんと「その人だから」という理由がある。

性別関係なく誰でも好きになるわけじゃないし、
誰とでも寝られるわけでもない。

「恋愛対象としての魅力があるかどうか」っていう、
とてもシンプルで、当たり前の基準で、私は誰かを好きになる。

ノンケでも、ゲイでも、バイでも、
人生で「本気で好き」と言える人に出会える回数って、
そんなに大差ないんじゃないかなと思う。
だから、性の幅が広いからって、それが即・幸せにつながるかどうかは、正直わからない。

でも、女性を好きになったとき、私はいつもユキのことを思い出す。
「もし、ユキに出会ってなかったら」
その人を好きになることも、たぶんなかった。


ユキと出会えたこと。
あの時間を一緒に過ごせたこと。
今振り返ってみても、やっぱりそれは私の人生にとって「幸運だった」と思う。

「ひなたの気持ちは、わかった……でもね、私は諦めないから」

彼女のストレートな想いは、私を変えてくれた。


(その後、大学生になってからの話です ↓ )


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