辞めそうな新人君の本音が、もみじまんじゅうで聞けた話(占い師になったきっかけ1)
まだ私が占い師になる前の話⋯⋯というか、占いのこともほとんど知らなかった頃から占い師になるまでの話です。シリーズでお伝えしますので、よかったら最後までお付き合いください
「占いなんてやりたくないです!!」
会議室のテーブルを挟んで、向かいに座るKくんが、少し涙目でそう言ったとき、私は手にしていたもみじまんじゅうの味を忘れた。
——あれは、もう20年以上も前のこと。
当時の私は、IT企業でエンジニアとして働いていた。といっても、エンジニアとしての才能はポンコツだった。エラーは日常、バグは友だち。でも、「仕事は気合で覚えろ!」という体育会系の社風の中で、唯一私が誇れたのは「人に教えること」だった。
なにせ、過去に新宿のゲイバーで働いていたこともあり、どんな人とも“その人に合わせて話す”スキルには自信があった。おじさまウケもよかったけれど、年下の若者にも性別問わずフラットに接することができたのは、今思えば大きな強みだった。
そんな私が入社3年目に任されたのが「新入社員研修」だった。
その年の新卒は12名。例年、研修中に数名は辞めてしまうので、「何人残せるか」というプレッシャーは相当なものだった。
最初はマナー研修やオリエンテーリングなど、社会人の基礎体力作りから始まった。
いよいよ本丸のプログラム研修に差しかかるころ、「星占いのプログラムを作ってみよう」という課題を出した。誕生日を入力すると、「射手座のあなたは今日は大吉!」と表示される、初心者向けの内容だった。
ところが、今年の新人の中にひとり、とびきりの“占い大好き女子”がいた。
彼女の名は、タカコ。
「九星気学も入れたいです!」
「生まれた時間と地域も考慮したいです!」
「恋愛・仕事・お金、悩みのジャンルも選べるようにしたいですっ!」
その熱量は、もはや“商品制作”レベル。
結果、他の課題はすべてキャンセルして「占いプログラム開発」一本に絞ることになった。タカコはプロジェクトリーダー、私は裏方のサポート役。
占いという身近なテーマのおかげか、研修チームはみるみる活気づいた。
——ところが、だ。
一人だけ、まるで別の季節から来た人みたいに浮いている新人がいた。
それがKくん。
理系出身でプログラミングも経験済み。リーダーシップもあり、オリエンテーリングではグループを率先して導いていた。
だからこそ、私は彼に内心期待していた。技術面で、チームを支えてくれる存在になるはずだと。
しかし、占いプログラム開発が始まるや否や、彼からやる気のオーラがすーっと消えていった。
ミーティングでも発言がなく、存在感すら薄くなる。
タカコも心配して、何度か声をかけたらしい。
「どうしたの?」
「なんでもないです」
このままでは、退職者第一号が出てしまう……。
焦った私は、Kくんを会議室に呼び出した。
お茶と、上司からもらった広島土産のもみじまんじゅうを用意して。
(もみじまんじゅうで人の心が動くとは思っていない。でも、すがりたいくらいには切羽詰まっていた)
最初は1問1答。
「困ってることはない?」 ——「ないです」
「元気がないように見えるけど」 ——「気のせいです」
まるでドラクエの村人Aみたいな受け答え。
埒があかないので、私は彼にそっと、もみじまんじゅうを差し出した。
自分でも一口かじってから、真顔で言った。
「……もしかしてだけど、辞めたいと思ってる?」
Kくんは、もみじの葉っぱの形にちぎったそれを口に運んでいた。大柄な体に似合わない、チマチマした所作。
えっという顔になり、もぐもぐ……ごくん。
「辞めたくは、ないんです。でも……」
しばらく沈黙してから、彼はポツリと言った。
「占いなんて、やりたくないです。このままだと迷惑かけるから、辞めたほうがいいのかと思ってて……」
——占いが嫌い。
その理由は、彼の恋愛の過去にあった。
かつて、大学時代に付き合っていた彼女と将来を考えていた彼。
ある日を境に彼女の態度が冷たくなり、理由もわからないまま、別れを告げられた。
後に知ったのは、彼女が占い師に「彼とは別れた方がいい」と言われたことがきっかけだった、ということ。
占いの一言で、大切な人を失ったKくん。
占いが嫌いになるのも、無理はない。
「じゃあさ。占いの借りは、占いで返さない?」
「えっ……?」
「このままじゃ占いがトラウマになっちゃうよ、その占い師がテキトーなことを言ったせいで、大事な人と別れることになったんでしょ?だったら今度は、自分たちの手で“人を幸せにする占い”を作ろうよ」
しばらく沈黙してから、Kくんは言った。
「……やらせてください」
私はすぐにタカコを会議室に呼び、経緯をすべて話した。
「一緒にがんばろう!」
タカコはKくんの背中を叩いた。
Kくんは涙を拭いながら、何度も頷いた。
——その日から彼は、生まれ変わったかのように積極的になった。
技術的な面でも、改善提案でも、誰よりも意欲的に動いた。
大量に届いたビアードパパのシュークリーム
占いプログラムが仕上がってきたころ、私は新人たちが書いたコードをチェックしていて、目を疑った。
「……これ、3年目の私でも思いつかん」
高度すぎる技術、きれいすぎる実装。
どう見ても、新人が独力で書けるレベルではなかった。
問いただすと、新人の一人が「実は……」と打ち明けた。
私がいない時、社内のベテランエンジニアがこっそり来て、教えてくれていたというのだ。
「ひなたさん(私)には内緒でたのむよ」
そう言われていたらしいけれど、知ってしまった以上、お礼を言わねばなるまい。
昼休みに買ったマネケンのワッフル2個を持って、ベテランさんの席へ行った。
「新人にご指導いただきまして、ありがとうございます」
バツが悪そうな顔で、ベテランさんは言った。
「なんか、いいなって思ってさ。みんな、すっごく楽しそうで、燃えててさ……ボクがプログラミングを好きだった頃のこと、思い出しちゃって……余計なことしてゴメンね」
私も、思っていた。
この研修チーム、まるで学園祭前夜みたいだなって。
ベテランさんの支援は正式に「アリ」にした。
“先輩に質問する”というスキルも、社会人には大事だと思ったから。
その日の終業後、ベテランさんは新人たちにビアードパパの大箱を差し入れてくれた。
ワッフル2個が、大量のシュークリームに化けて帰ってきた。

いよいよ社内でお披露目!
3ヶ月の新入社員研修が終わろうとしていた。
結局、新人の退職者はゼロだった。
というか……これは私のささやかな自慢なのだけれど……2年後に私が会社を辞めるときにも全員がまだ在籍中で、みんなで私の送別会を開催してくれた。
(なぜ私が好きだった会社を辞めることになったのかは後日、noteに書こうと思う)
占いWebツールが完成したのは、新人研修期間が終わる1日前だった。
テスト、バグ潰し、メッセージの調整を終えたその日、私は全社員にメールを送った。
件名:「新人たちのWebツールが完成しました」
明後日から各現場に配属される新人たちの紹介文と共に、「よかったら試してみてください」とみんなで作った占いWebツールのURLを添えた。
メール送信から1時間。
最初の返信が、私の受信トレイに届いた。
——私はドキドキしながら、そのメールを開いた
(次回へつづきます)↓
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