「あなた、将来占い師になるわよ」と、ふたり目に言われた日(占い師になったきっかけ3)
ふつうの1日が、ある日ふいに、運命の踏切を渡らせることがある。
本気じゃなかった一言が、気づけば本心になることもある。
占いなんて関わりがなかったはずの私が、“占い師になるかもしれない私”を、少しだけ感じ始めていた。
少しだけ、前回までのあらすじを振り返らせてください。
最初のきっかけは、会社の新人研修で占いプログラムを作ったこと。
ほんの遊びのつもりだったその体験が、新人たちの心に火を灯し、気づけば「占いって面白いかも」と思いはじめていた。
そのプログラムが社内でちょっとした話題になり、なぜか私は社長室に呼ばれることに。
後日、ホテルのティーラウンジで社長夫人や占い師さんと会い「あなた、占い師になる星を持っているわよ」と言われてしまった。
え、占い師? ……まさか、そんなことある?
半信半疑のまま、話すうちに、胸の奥でずっと曖昧だった「自分らしさ」の輪郭が、少しだけ浮かびあがってきた。
そんな、夢と現実のあいだをふらふら歩いていたある日、
私はタカコと一緒に“占いを受けに行ってみよう“ということになり、人生初の「占い師に直接占ってもらう体験」をすることになった。
今回は、そのときの話を。
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餃子とビールで「占いはもうこりごり…」
特に下調べもせず「行けばなんとかなるだろう」ぐらいの感覚で、タカコと一緒に、占いの館が集まる繁華街に向かった。
「とりあえず、目についたところに入ってみようか」と、なんとなく入った1軒目と2軒目の占いは、言葉を選ばずに言えば――かなり疲れた。
ひとつ目のお店では「あなた、あと3年は彼女できないわね」と言われて、ん?と思った。
いや、俺バイセクシャルだけど、そもそも彼女限定?彼氏はできるの?と思ったけれど、そこは言わなかった。
続けて「同じ職場に、あなたのことを嫌ってる人がいるわ」と言われて、えぇ〜!?と心の中で叫んだ。
たしかに人間関係は完璧じゃない。でも、毎日平和に仕事してるのに、いきなりそんな言葉を聞かされて、疑心暗鬼になるのは、なんか違う気がした。
2軒目では、「お父さんの能力が低かったせいで、家族が苦労したでしょ?」と言われて、さすがにむっとした。
父は立派に働いて、3人兄弟を育ててくれた人だ。尊敬もしている。
私のことならまだしも、家族のことを雑に扱われるのは、本当に腹が立つ。
あと、なぜか「あなた、保険のセールスが向いてるわよ」と言われた。
あとで話していて気づいたけど、タカコも同じことを言われていたらしい。
「たぶん来る人来る人みんなに保険のセールスになりなさい!って言っているんだろうね」って、タカコが大爆笑していたのが救いだった。
共通していたのは、最初に生年月日や職業、結婚の有無を聞いたあと、こちらの話を聞くことなく、マシンガンのように言葉を浴びせられるだけ。
2軒目では最後に「ごめんなさい、早口で……」と謝られたけど、いや、最初からゆっくり話してくれたらよかったのに、と思った。
終わったあと、しんどい会議が終わった後のようなカラダのこわばりと重い疲労感があった。
初めは「3軒ぐらい回りたいね」ってウキウキで話していたのに、2軒終わってギブアップした。
「・・・とりあえずビール飲も」とタカコと入った中華屋さんで、餃子とビールを注文して、「もう占いはこりごりだよ〜」って笑った。

でも、ほんとうに最後にするはずだったのに。
しばらくして、タカコからメールが届いた。
「やっぱりもう1軒だけ・・・どうしても気になるところがあって」
どうやら、占い好きの友達から「そこは他と全然違うから、行ってみて!」と勧められたらしい。
予約制で、料金は前の3倍以上。
でも、タカコがせっかく予約してくれたし、最後の体験・・・人生の占い納めとして付き合うことにした。
これで自分の中でザワザワしていた「占い」というトピックに区切りをつけようと。
そのお店は、おしゃれな通りにひっそりとあった。
まるでアンティークショップみたいな外観。
そっとドアを開けると、「どうぞ〜」とやさしい声がした。
中に入ると、淡く光が差し込むヨーロッパ調の部屋。
ふわっと香るのは、たぶん花の香水。
派手な占い師ファッションではなく、水色のカーディガンをまとった初老の女性が、にこやかに立っていた。
名前は、エミさん。
「こちら、どうぞ」と案内された椅子が、とても座り心地よかった。
暑い日だったけれど、出されたアイスティーが、びっくりするほどおいしくて――
──なんだこれ、うまっ。
紅茶のことは詳しくないけど、心がすっとほどけていくような味だった。
ひとつひとつの言葉が、ちゃんと自分に届く感じ。
エミさんも、生年月日から鑑定するスタイルだった。
でも、いきなり「あなたはこうです」と言うのではなく、まずはこちらの話をていねいに聞いてくれた。
どうしてここに来たのか、どんな気持ちなのか、仕事のこと、好きな人のこと……
おしゃべりをしていたら、いつのまにか本題に入っていた。そんな自然な流れ。
ひとつ話すたびに、「うん」「そうなんだね」とうなずきながら聞いてくれるその姿勢が、とても心地よかった。
しかも、こちらが次の言葉を探している間も、じっと待ってくれる。
言いたいことを遮られないって、こんなに安心なんだ。
将来のことを話したときも、「あなたは伝えるの才能がある星回り。でも、選ぶのはあなた。どっちの道を選ぶ?」と、静かに差し出してくれた。
命令じゃなくて、提案。
決めつけじゃなくて、見守るまなざし。
「この人は、私のことをちゃんと見てくれている」と思えた。
あなた、将来占い師になるわよ。
気がついたら1時間が経っていた。
次の予約時間になって、タカコがドアを開けて入ってきたそのとき、エミさんがぽつりと言った。
「あなた、将来占い師になるわよ」
一瞬、時が止まった。
え?また?
このセリフ、前にも別の占い師に言われたことがあった。
でも今回は、受け取る心がまるで違っていた。
さっきまで感じていた、あのあたたかな空気と、話しながらふんわり湧き上がってきた想い――
「こんな場所で、こんなふうに人と話すなら、占い師って素敵かもしれないな」
そう思っていた矢先に言われたその一言だったから、胸がどくん、と高鳴った。
もう少し聞きたかったけれど、次はタカコの番。
お礼を伝えて、そっとお店をあとにした。
ちなみに、終わったあとタカコに「占い師になるって言われた?」と聞いたら、「え、なにそれ?全然言われてないですよ〜!」と笑っていた。
保険のセールスを皆に勧めていた前述の占い師とは違うことを知ってホッとした。
あの穏やかな気持ちになれる部屋にまた行ってみたくて、
そして「占い師になるわよ」と言われた言葉の真意を知りたくて、
帰宅してすぐ、私はもう一度、予約を入れた。
なんとなく気恥ずかしくて、タカコにはそのことは言えなかった。
(もう少しつづきます)↓
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