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ひなたという名前をもらった日(占い師になったきっかけ4)

誰かのひとことが、ずっと胸の奥で灯り続けることがある。

恥ずかしくて隠していた自分が、少しずつ顔を出してくることもある。

“占い師になる私”が、新しいの名前をもらった日のこと。

少しだけ前回までのあらすじを振り返らせてください。

会社の新人研修でつくった占いプログラムが、
まさかの大反響を呼んで、気づけば社長室へ。

その後、ホテルのティーラウンジで社長夫人と占い師さんに出会い、
「あなた、占い師になる星を持っているわよ」と言われた。

占いなんて縁がないと思っていたのに、
少しずつ「もしかしたら」という気持ちが芽を出し始めて。

後輩のタカコと訪れた“占いの館”で、
最初の2軒にはがっかりしたものの、3軒目のエミさんに出会ったことで、
心がふっとあたたかくなるような体験をする。

「あなた、将来占い師になるわよ」
そんなふうに言われたのは、これで二度目だった。

どうしても気になったので、今度はタカコには内緒で、一人で再訪することにした。

今回は、そのときの話を。

「占い師になったきっかけシリーズ」を最初から読みたい方は、こちらからどうぞ↓


誘えなかった理由と、そわそわした一週間

再訪にタカコを誘わなかったのは、
「占い師になる」という話に浮足立っている自分を見られるのが恥ずかしかったから。

それに、同じ会社の先輩として、
「他の仕事のことを考えている(退職の可能性がある)」と知られたくなかった、というのもある。

この一週間は、なんだか地に足つかずに、
そわそわしたまま過ごしていた。


あなたって中性的なところあるでしょ?

1週間後、もう一度あの場所を訪れた。

初めて行ったときは、ものすごく感動した。
だけど二度目って、期待値が膨らみすぎてがっかりすることもある。

だけど、今回は違った。
「やっぱりこの雰囲気が好きなんだな」って、
静かにそう思えた。

エミさんはまた、アイスティーを出してくれた。

挨拶と世間話が終わると、私はすぐに聞いた。
「前回言ってた占い師になるって、どういうことですか?」

するとエミさんは、私のことをこんなふうに言ってくれた。

  • 占い師に向いている星回りを持っている

  • 話し方や人当たりが、占い師にぴったり

  • 他の人とは違う生き方が、占い師になると活きる

「だってあなた、なんというか中性的なところあるでしょ?」

その一言に、胸がぎゅっとなった。


占い師になれば、全部プラスに活きるわよ

バイセクシャルであることは、
タカコにも、会社の人にも、エミさんにも言ってなかった。

だけど、そのときはなぜか自分から話していた。
最初はぽつぽつと、だんだんダーッと豪雨のように話していた。

初恋の相手が男子だったこと。
新宿のゲイバーで働いていたこと。
偏見を持たれて苦しかった出来事……

溜めていたものが、決壊したみたいだった。

エミさんは、ただ黙って聞いてくれていた。

「あなたのその経験が、占い師になれば、全部プラスに活きるわよ」

そう言われたとき、
今まで“弱み”、”墓場まで持っていく黒歴史”だと思っていた部分が、
バァーっと一気に“強み”に変わった気がした。


「前回、なぜ占い師の話をしたのか?」という理由を聞いて、
一通りの話が終わった後、エミさんは付け加えるようにこんなことを言った。

「あと…今は上手く言えないんだけど、あなたに占い師になることを話した一番の理由があるの。もしそのタイミングが来たら話すわね」

えっ、一番の理由って何なのだろう?
気になりはしたけれど、今言えないものなら仕方ないと思って無理には聞かなかった。

いずれ教えてもらえるタイミングが来たらいいな…ぐらいに思っていたのだけれど、結果を言えば、それをエミさんから教えてもらったのは数年後のことだった。
「その理由」については、このシリーズの最終回の最後でお伝えしたいと思う。


”エクセルあるある”が繋いでくれた未来

その日、私は最後のお客だった。

「もう少し時間あるかしら?」と聞かれて、
「大丈夫ですよ」と答えると、
エミさんは奥の部屋から熱い緑茶とおはぎを運んできた。

「本当は、和菓子と緑茶が好きなのよ」

ヨーロッパ調の内装に和菓子はちょっと不釣り合いだけど、
それがまた、エミさんらしくて可笑しかった。

「ちょっと相談があるんだけど、いいかしら?」

「なんかうまく印刷できないのよ」と言って持ってきたノートパソコン。
画面には、職場で死ぬほど経験した“エクセルを印刷するとなぜかズレる”あるある。

一瞬で直したら、エミさんが目を丸くした。

「うちのお客さんから、ここのホームページ作ったらって言われるんだけど、私にはよくわからなくて」

「それならボクに任せてください」
「それは悪いわ〜」
「ボクに占いの勉強の仕方を教えてください」
「うーん……じゃあ、週末にここに来なさい」

こんな感じで、自然とバーター取引が成立した。
”エクセルあるある”のおかげだった。
今まで幾度となく恨んだマイクロソフトのおせっかいな謎仕様に初めて「ありがとう」と感謝した。


週末になると、朝からお店に行った。
お客様を迎え、お茶を出し、
パソコンまわりの作業をした。

パーテーションを挟んだ向こうの席では、
エミさんの鑑定が続いていた。

ずっと笑っている人、
涙が止まらない人、
目の前にいない誰かに怒っている人——

いろんなお客様がいた。

エミさんの占いは、四柱推命という方法だった。

平日は通勤時間や休み時間にエミさんに借りた本を読んで勉強し、
週末にわからないところを教えてもらった。


はじめて書いた「ラブレター」

お店でアシスタントをしながら、
ホームページに載せる文章を考えていた。

でも、他の占いサイトにもあるような文面しか思い浮かばず、
客観的にエミさんならではの良さをうまく言葉にできなかった。

だから、
アシスタントをしている私の目線から、
エミさんに初めて会った日の第一印象を、そのまま書いた。

なんか……
ラブレターみたいな文章になってしまった。

でも公開前に見せたら、
「あら、いいの書くわね。あなたの文章、好きだわ」って。

それが、すごく嬉しかった。

お客様にも、文章が好評だったらしい。
(ちなみにデザインもめっちゃ頑張ったんだけど、そっちは一ミリも褒められなかった。笑)


ひなたが生まれた日

——それから半年ぐらい経って、
お店の営業時間の前の朝の時間に、
私が占い師としてデビューすることになった。

「そういえば鑑定師としての名前が必要ね……
あなたは、人の心を照らして暖かくするのが得意だから、<ひなた>でどう?」

おっさんに差し掛かろうとしている男性には少し可愛らしいような気もしたけれど、素直に嬉しかった。

イソップ寓話の「北風と太陽」に出てくる太陽のように、
ガチガチの心の鎧を、ふわっと脱がせてあげられるような
そんな占い師になりたいと思った。

中性的な語感も良くて
バイセクシャルであることも、
「ひなた」という名前にぜんぶ包まれて、
あたたかく肯定された気がした。

本当は名前をつけてほしいって言いたかったけど、
遠慮して言えなかった。

それを、エミさんのほうから言ってくれた。

<ひなた>という名前をもらって、
新しい親ができたような感覚があった。

その名前は、何よりも私自身を、
ぽっかぽかにあたためてくれた。


デビュー戦で「話さない」難しさを知る

初めてのお客様として、タカコに来てもらった。
「お客さん第一号になる!」と言っていたから、声をかけたら二つ返事で来てくれた。

ひなたのデビュー戦…
緊張していたし、勉強してきた知識が頭に詰まりすぎていて、
思っていた以上に、自分ばかり話してしまった。

これじゃ、前に行ったマシンガントークの占い師と同じだ。
「話さない」「聞く」って、難しい。
せっかく来てくれたのに、申し訳なくなった。

でも、タカコは私のデビューを見て、
とても嬉しそうにしてくれていた。

差し入れに、豆大福を持ってきてくれた。
(エミさんが和菓子好きなのを、ちゃんと覚えててくれた)


解像度が上がっていく日々

自分がデビューしたことで、
ますますエミさんの鑑定をじっくり聴くようになった。

語りかけ方、間のとり方、
どうやって相手の心に寄り添うのか。

今までと同じ言葉なのに、
そのひとつひとつが、
まるで拡大鏡で見るみたいにクリアになった。

——

世界が、少しずつ違って見えてきた。

(もう少しつづきます)↓

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