世界の製薬会社ランキング——トップ20で読む「業界の地図」【海外大手シリーズ・目次】
製薬業界の解説シリーズも連載しているので、ラインナップは→ 目次記事でご確認いただけます。
なぜ「海外メーカー」を見るのか——日本企業も世界の競争から逃れられない
このブログでは、これまで主に日本の製薬企業を扱ってきた。
だが、製薬産業を理解するなら、海外の大手企業を避けて通ることはできない。
新薬の開発には一般に10年以上を要し、失敗した研究開発まで含めれば、投資額は数千億円規模に達することもある。その投資を回収できるかどうかは、グローバル市場、とりわけ米国で商業的に成功できるかに大きく左右される。
米国は世界最大の医薬品市場であり、ブランド薬の価格水準と市場規模の両面で、多くのグローバル製薬企業にとって最も重要な市場である。なぜ米国市場がこれほど重いのかは、記事02で扱った。
日本企業が米国・欧州で開発・販売体制を拡充し、海外売上比率を高めてきたのも、単なる海外志向ではない。巨額化する研究開発投資を回収し、次の新薬に再投資するためである。
事実、2025年の売上規模トップ10に、日本企業は入っていない。最上位の武田薬品で15位、トップ20に入る日本企業も武田だけだ。
これは、単純に「日本企業が弱い」という話ではない。製薬産業では、それだけ規模とグローバル展開の論理が強く働いている、ということだ。
日本企業が世界の大手と同じ市場で戦う以上、海外企業を知らずに日本企業だけを見ても、業界全体の地図は見えない。
そこで本記事を「海外大手シリーズ」の目次(ハブ)として置く。まず2025年のランキングと各社の輪郭を押さえ、今後、主要企業を一社ずつ深掘りしていく。
グローバル・トップ20 一覧(2025年)
※本ランキングはFierce Pharmaの独自集計に基づく。企業によって医薬品以外の事業やその他収益を含み、売上範囲は完全には統一されていない。また、一部企業については、Fierceが暦年ベースに組み替えた数値が使われている。したがって、厳密な「医薬品売上」の比較ではなく、各社の事業規模をつかむための目安として扱う。
売上はドル換算。カッコ内は本社国。
Johnson & Johnson(米)942億ドル
Roche(スイス)約740億ドル
Eli Lilly(米)652億ドル
Merck/MSD(米)650億ドル
Pfizer(米)626億ドル
AbbVie(米)612億ドル
AstraZeneca(英)587億ドル
Novartis(スイス)567億ドル
Sanofi(仏)約522億ドル
Bristol Myers Squibb(米)482億ドル
Novo Nordisk(デンマーク)467億ドル
GSK(英)431億ドル
Amgen(米)368億ドル
Boehringer Ingelheim(独)314億ドル
武田薬品(Takeda)(日)298億ドル
Gilead(米)294億ドル
Bayer(独)267億ドル
Merck KGaA(独)198億ドル
Teva(イスラエル)173億ドル
CSL(豪)154億ドル
トップ20のすぐ外にも、日本勢が控える。各社の直近通期売上をドル換算すると、アステラスが約138億ドル、第一三共が約137億ドル(1ドル≈155円で便宜換算。日本企業は3月期決算のため、為替・期間の取り方でも前後する)。トップ20のCSLが154億ドルであることを踏まえると、日本勢もトップ20に近い位置にいる。
第一三共は売上規模こそトップ20外だが、エンハーツ(Enhertu)を軸に、売上順位以上の戦略的な存在感を持つ企業といえる。このギャップ自体が、日本企業を読むうえで面白い論点になる。
2025年ランキングから見える4つの構図
米国と欧州への集中:トップ20のうち、米国企業は8社、欧州企業は9社(スイス2・ドイツ3・英国2・フランス1・デンマーク1)。残る3社は、日本・イスラエル・豪州が各1社。トップ20のうち17社を米国・欧州企業が占めており、産業の中心は依然としてこの2地域に集中している。
インクレチン薬による地殻変動:2025年に最も大きく伸びたのはEli Lilly。糖尿病・肥満症薬のMounjaro/Zepbound(一般名tirzepatide=GIP/GLP-1受容体作動薬、いわゆるインクレチン薬)の2ブランド合計で、売上は365億ドルに達した。前年の165億ドルから倍増を超える伸びである。Novo Nordiskを含む「肥満症2強」が、世界ランキングの力学を変えつつある。
成長と特許切れの同居:トップ20のうち減収は4社にとどまったが、要因は一様ではない。BMSではRevlimidなど旧主力品、武田ではVYVANSEの後発品浸食が重荷となり、Pfizerではコロナ関連製品の減収が響いた。Bayerの医薬品部門でもXareltoの独占喪失が逆風となったが、NubeqaやKerendiaなどの成長が一部を補っている。製薬企業の成長は、伸びる新薬と縮小する既存品の差し引きで決まる。
自社研究だけでなく、M&Aと再編でつくられた上位企業:上位には、長い企業史を持つ企業と、合併・分社によって現在の形になった企業が混在する。現在の製品群も、自社研究だけでなく、買収、導入、共同開発によって形成されてきた。製薬企業の競争力は、「自社で何を生み出すか」だけでなく、「外部から何を取り込むか」にも左右される。
トップ10——売上・主力品と、各社の深掘りへ
以下は、各社の2025年暦年売上をFierce Pharmaがドル換算した数値に基づく。
本記事は「海外大手シリーズ」の目次も兼ねる。主要企業は今後一社ずつ深掘りし、公開した個社記事は各社の項目からリンクしていく。
1. Johnson & Johnson(米)|世界最大級のヘルスケア複合企業
売上:942億ドル(前年比+6.0%/うち医薬品事業〔Innovative Medicine〕が約604億ドル、医療機器事業〔MedTech〕が約338億ドル)
主力品:Darzalex(多発性骨髄腫)、Tremfya、Carvykti(CAR-T)、Stelara(バイオシミラーで浸食中)
特長:医薬品と医療機器の二本柱を持つ複合企業。ランキング上の942億ドルにはMedTechが含まれるため、「医薬専業」企業との単純比較には注意が要る。事業の分散が安定性の源泉となっている。
2. Roche(スイス)|医薬×診断の二刀流
売上:約740億ドル(前年比+1.7%/報告通貨はスイスフラン)
主力品:Ocrevus(多発性硬化症)、Hemlibra(血友病)、Vabysmo(眼科)、Phesgo
特長:世界最大級の体外診断(IVD)企業でもある。かつての三大抗体Avastin/Rituxan/Herceptinはバイオシミラーで浸食されたが、OcrevusやHemlibra、Vabysmoなどの後継品を育ててきた。
3. Eli Lilly(米)|インクレチン時代の主役
売上:652億ドル(前年比+45%)
主力品:Mounjaro/Zepbound(tirzepatide)、Verzenio(乳がん)、Kisunla(アルツハイマー病)
特長:いま世界の製薬で最も注目度の高い企業の一つ。MounjaroとZepboundへの旺盛な需要と販売数量の拡大で、売上規模を急伸させた。2025年の売上成長は数量増加が主因で、実現価格はむしろ低下した。一方、製品ミックスや製造効率の改善も、利益率を支える要因となった。
→ 【前編】イーライリリーの稼ぎは本物か——GLP-1依存の収益構造と、決算の読み方で深掘り。
→ 【後編】GLP-1で稼いだ金の使い道——イーライリリーの資本配分を読む。稼いだ資金が、パイプライン・工場・買収へどう配分されているかを追う。
4. Merck(米/MSD)|Keytruda依存の光と影
売上:650億ドル(前年比+1%/うち医薬品事業が約581億ドル、Animal Healthが約64億ドル)
主力品:Keytruda(pembrolizumab、2025年売上約317億ドルの超大型品)、Gardasil(HPVワクチン)
特長:Keytrudaは、単一ブランドとして世界最大級の売上を持つ。一方、同じtirzepatideを使うMounjaroとZepboundの合計売上は、Keytrudaを上回った。高収益企業だが、Keytrudaへの依存が最大の論点である。米国で2028年末から想定されるバイオシミラー競争に、どう備えるかが企業価値を左右する。
5. Pfizer(米)|コロナ後の正常化
売上:626億ドル(前年比−1.6%)
主力品:Eliquis(抗凝固薬、BMSと共同)、Prevnar(肺炎球菌ワクチン)、Vyndaqel、Seagen買収由来のADC群
特長:2025年は、ComirnatyやPaxlovidなどコロナ関連製品の減収が全社売上の重荷となった。Seagenの買収で抗体薬物複合体(ADC)を取り込み、次の成長の柱を探している。
6. AbbVie(米)|Humira後の移行に成功
売上:612億ドル(前年比+8.3%)
主力品:Skyrizi・Rinvoq(免疫)、Botox/美容(Allergan由来)、Vraylar(CNS)
特長:大型品Humiraの独占喪失を、後継のSkyriziとRinvoqの成長で乗り越えつつある。製薬業界におけるLOE移行の成功例の一つである。
7. AstraZeneca(英)|がん領域を軸に高成長
売上:587億ドル(前年比+8.6%)
主力品:Tagrisso・Imfinzi・Calquence(がん)、Enhertu(第一三共と共同)、Farxiga(心腎代謝)
特長:腫瘍領域の強豪であり、中国市場での存在感も大きい。2030年売上800億ドルという積極的な成長目標を掲げている。第一三共とのEnhertu提携は、第一三共のADCビジネスを扱った記事ともつながる。
8. Novartis(スイス)|ジェネリック分離後の純・新薬企業
売上:567億ドル(前年比+9.6%)
主力品:Entresto(心不全、独占喪失が迫る)、Cosentyx・Kesimpta(免疫)、Kisqali(乳がん、急成長)、Pluvicto(放射性医薬)
特長:2023年にジェネリック事業のSandozを分離し、革新的新薬に一本化した。放射性リガンド療法という新たなモダリティでも、先頭を走っている。
9. Sanofi(仏)|Dupixentが牽引
売上:約522億ドル(前年比+10.3%/報告通貨はユーロ)
主力品:Dupixent(免疫、Regeneronと共同)、ワクチン(インフルエンザなど)、希少疾患(Genzyme由来)
特長:世界有数のワクチン企業でもある。主力のDupixentはRegeneronとの共同事業であり、売上の成長がそのままSanofi単独の利益になるわけではない点には注意が必要だ。
10. Bristol Myers Squibb(米)|特許切れの谷を渡る
売上:482億ドル(前年比−0.2%)
主力品:Eliquis(Pfizerと共同)、Opdivo(がん)、Revlimid/Pomalyst(後発品浸食中)、Cobenfy(統合失調症の新機序)
特長:旧主力Revlimidの後発品浸食と、米国で2028年から見込まれるEliquisへの後発品参入を前に、次世代品への移行のただ中にある。この谷をどう渡るかが、当面の経営課題である。
数字を読むときの注意——売上規模と企業の強さは同じではない
このランキングは、企業の規模をつかむ入口であって、収益力の結論ではない。
売上の範囲が各社で違う:J&Jは医療機器、Rocheは診断、Bayerは医薬品とConsumer Healthを含む。BayerのCrop Scienceは、本ランキングの数値には含まれない。Merck KGaAはライフサイエンス事業を含む。一方で、集計から除かれる事業もある。「医薬専業」で並べ替えれば、順位は変わる。
利益率は横並びにしにくい——だから本記事は規模に絞った:各社はIFRSと米国会計基準が異なるうえ、買収無形資産の償却・減損、Acquired IPR&D(取得仕掛研究開発)、リストラ費用などの扱いによって、会計上の利益と「コア」「調整後」利益が大きく食い違う。同じ「営業利益率」という名前でも、定義をそろえなければ比較できない。利益率は、定義を統一できる個社記事で扱う。
為替で順位が変わる:Rocheはスイスフラン、Sanofiはユーロなど、非ドル企業はドル換算レートによって順位が前後する。
要するに、ランキングは「どれだけ大きいか」を見る地図であって、「どれだけ強いか」を一つの数字で決めるものではない。
今後の海外大手シリーズ
今後は、このランキングを入口に、主要企業を一社ずつ深掘りしていく。新しい個社記事を公開するたびに、本記事の各社欄へリンクを追加する予定だ。
なお、日本の製薬大手の現在地をまとめた「国内大手シリーズ」(姉妹編)もあわせて読むと、日本企業が世界の競争構造のどこに位置しているかが見えてくる。
主な参考資料
ランキング(順位・売上・前年比):Fierce Pharma「The top 20 pharma companies by 2025 revenue」。売上範囲の不統一や一部企業の暦年への組み替えも、この集計に準拠している。
主要数値の確認:各社の2025年通期決算・IR(Eli Lilly、Merck/MSD、Johnson & Johnson、Roche、Bayer ほか)。本文の売上・主力品・前年比は各社発表と突き合わせて確認した。
トップ20圏外の日本勢(アステラス・第一三共):各社の2026年3月期(FY2025)決算。円→ドルは便宜上の換算で、期間の取り方により前後する。
いずれの数値も「事業規模の目安」であり、厳密な医薬品売上の比較ではない(本文「数字を読むときの注意」参照)。
筆者について
製薬企業の会計・経営企画担当(公認会計士)。製薬業界の「地図」を、会計×経営企画×投資家の視点で構造的に解説しています。
事実と推論を分け、誇張せず、投資家にとって意味のあるインパクトで読み解くことを心がけています。

