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アステラス製薬の将来性——イクスタンジ特許切れ後を担う5製品とパイプライン

本記事は「国内大手シリーズ」の1本です。シリーズ全体は→ 規模は世界の中堅、領域では世界の主役——日本の製薬大手の現在地【国内大手シリーズ・目次】からご覧いただけます。


アステラス製薬の最大の稼ぎ頭は、前立腺がん治療薬イクスタンジ(XTANDI)である。全社売上の約45%を占めるが、一般消費者向けの薬ではないため、製品名になじみのない人も多いだろう。

そしていま、その稼ぎ頭が特許切れを迎えようとしている。

主力薬が減っていく会社は、どうやって成長を続けるのか。

本記事では、この問いを軸に、アステラスの収益構造と次の成長候補を投資家目線で整理する。


1. アステラス製薬とはどんな会社か

アステラス製薬は、2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生した。山之内は泌尿器領域と合成技術、藤沢は移植・免疫領域と発酵技術に強みを持ち、山之内の泌尿器事業基盤は、のちに外部から導入したイクスタンジを世界的な大型薬へ育てる土台になった。

次に、いまの規模を押さえておきたい。FY2025(2026年3月期)の実績はこうだ。

  • 売上収益:2兆1,392億円。同社として初めて2兆円を突破した

  • コア営業利益:5,557億円、利益率26.0%

  • 売上収益・コア営業利益・IFRS営業利益のいずれも過去最高

利益率26%は、製造業の感覚からするとかなり高い。新薬は特許による独占と医療上の価値に基づく価格によって高い利益率を得られる一方、承認に至らなかった開発品の費用も負担する。


日本籍だが、稼ぎの中心は米国

アステラスを理解するうえで、最初に押さえるべきはここだ。

FY2025の地域別売上は、次のようになっている。

  • 米国:9,402億円(全体の約44.0%

  • 日本:2,890億円(約13.5%

  • 日本以外の合計:約86.5%

日本企業でありながら、売上の約86.5%を海外で稼ぎ、米国だけで約44%を占める。世界最大の医薬品市場である米国は大きな収益機会である一方、政策変更の影響も大きい。実際、IRA(インフレ抑制法)に基づくイクスタンジのMedicare交渉価格が2027年1月から適用され、特許切れに先行して米国売上を押し下げる。

為替の影響も大きく、FY2025は円安が売上収益を約301億円、コア営業利益を約168億円押し上げた。決算では円ベースだけでなく、為替影響を除いた成長率も確認したい。


主要製品

アステラスは処方薬に特化し、がん、眼科、女性の健康、移植、泌尿器などに展開している。

では、実際にどの薬が売上を支えているのか。FY2025の主要製品を並べてみる。

イクスタンジ1製品で全社売上の半分近くを占める一方、2番手以降はいずれも約10%以下である。この偏りが、アステラスを考える出発点になる。


2. 主力イクスタンジ——全社売上の45%を占める一本足

イクスタンジ(一般名エンザルタミド)は、男性ホルモンの働きを妨げることで、前立腺がんの増殖を抑える治療薬である。当初の去勢抵抗性前立腺がんから適応を広げ、FY2025の売上は9,608億円に達した。年間売上1,000億円を超える「ブロックバスター」の代表例である。

実は、イクスタンジはアステラスの研究所で発見された薬ではない。もともとはUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の研究者が発見した化合物で、Medivation社が導入して開発を進め、アステラスは2009年から共同開発・商業化に加わり、大型薬へ育て上げた。

米国ではファイザーと共同販促して利益を折半し、米国外ではアステラスが販売してファイザーにロイヤリティを支払う。ファイザーは2016年にMedivationを買収して権利を引き継いだため、9,608億円の売上がそのままアステラスの利益になるわけではない。

外部の科学を製品価値に変える力。これは同社の重要なケイパビリティの一つであり、後で詳しく見ていく。

ブロックバスターの光と影

ブロックバスターは強力な収益源だが、特許が切れると後発薬(ジェネリック)が安価で参入し、売上が急減する。これが特許の崖(パテントクリフ)であり、1製品への依存度が高いほど影響も大きい。

イクスタンジの場合、特許満了は次のスケジュールが予定されている。

  • 一部地域(ブラジル・トルコ・韓国・中国など):2026年中から

  • 米国:2027年8月

  • 欧州:2028年6月

  • 日本:2029年7月

ただし、実際の後発品参入時期や売上の減少幅は、訴訟・追加特許・市場環境などによって変わりうる。

さらに米国では、特許切れに先立つ2027年1月からIRAによる薬価引き下げが始まる。会社もイクスタンジが「ピーク売上の水準に到達した」としており、減収局面への移行は目前に迫っている。

アステラス製薬の2026経営計画資料

3. 崖をどう埋めるのか——「重点戦略製品」という次の柱

そのために育ててきたのが、重点戦略製品と呼ぶ5つの薬だ。FY2025の実績を見てみる。

  • PADCEV(膀胱・尿路がん):2,212億円(+35%)

  • IZERVAY(加齢黄斑変性・眼):776億円(+33%)

  • XOSPATA(急性骨髄性白血病):718億円(+6%)

  • VYLOY(胃がん):631億円(前期122億円から約5.2倍)

  • VEOZAH(更年期の血管運動神経症状):466億円(+38%)

5製品合計で4,803億円、前期比+43%。この5年でおよそ10倍に伸びた。

イクスタンジへの依存はなお大きいが、複数の柱への分散が進み始めている。

会社は今後、この5製品をFY2030までにFY2025比で2倍に伸ばし、売上構成比を50%以上に高める計画を掲げている。

なお、既存の柱であるミラベグロンも独占販売期間満了の影響を受けるため、特許の崖はイクスタンジだけの問題ではない。


FY2026の計画——「主力が減るのに、過去最高益」

では会社は、次の1年をどう見ているのか。FY2026(2027年3月期)の業績予想が、この記事の問いへの答えになっている。

FY2026は、IRAと一部地域の特許満了により、イクスタンジが発売以来初の減収に転じる。一方、重点5製品を約1,300億円伸ばし、過去最高の売上・利益を目指す。イクスタンジからの「乗り換え」が機能するかを試す最初の年である。ただし増益率は、コア利益で+12%、償却・減損などを含むフルベース利益では+3.2%と差がある。この違いは後ほど整理する。


4. 外部の科学を取り込み、製品価値を広げる会社

重点5製品の出自も一様ではない。

  • VYLOY:独Ganymed社の買収で獲得(2016年)

  • VEOZAH:ベルギーOgeda社の買収で獲得(2017年)

  • IZERVAY:米Iveric Bio社の買収で獲得(2023年・約59億ドル=同社史上最大)

  • XOSPATA:寿製薬との共同研究から生まれた

  • PADCEV:アステラス傘下のAgensysが標的(Nectin-4)を見いだして抗体を創製し、Seagenのリンカー・薬物技術と組み合わせた共同創製品

最大の柱であるPADCEVは、単なる外部導入品ではなく、自社の科学を起点とする共同創製品である。アステラスの特徴は、すべてを自社だけで生み出すことではなく、外部の科学を取り込み、後期開発・適応拡大・グローバル販売によって価値を高めることにある。

ただし投資家としては、両刃であることを意識したい。外部資産を育て切れれば成長の選択肢は広がるが、高値づかみ、減損、買収先の人材・研究文化を活かせない統合失敗のリスクも負う。

過去の大型買収は、何を生んだのか

抽象論で終わらせず、実際にどうなったかを並べてみる。

  • Ganymed(2016年・独)VYLOY(胃がん)。FY2025に約5.2倍と好調な立ち上がり

  • Ogeda(2017年・ベルギー、最大8億ユーロ)VEOZAH(更年期)。+38%と着実に成長

  • Audentes(2020年・米、約3,200億円) → 主力の遺伝子治療AT132は、治験で小児患者の死亡が発生して中断。2021年に588億円の減損を計上した

  • Iveric Bio(2023年・米、約7,900億円)IZERVAY(眼)。米国では776億円(+33%)と伸びる一方、欧州は申請を取り下げ、米国外資産で約1,151億円の減損を計上

買収案件ごとの投資回収は開示されないため、買収額、製品売上、ピーク時売上予想への到達度、減損の有無から評価する必要がある。GanymedとOgedaは承認・上市まで結実した一方、AudentesとIvericでは減損が発生した。

ただし、Audentesの技術基盤は、AT132の約100分の1の用量から臨床試験を開始した次世代品ASP2957に引き継がれている。買収は個別品の成否だけでなく、技術や組織能力として何が残ったかも見たい。

なお、これらの買収は胃がん・更年期・眼科・神経筋と疾患領域が分散しており、アステラスの軸は特定の病気ではなく「新しいモダリティで空白市場を押さえる」点にある——この分散を強みと見るか、軸の弱さと見るかは、投資家の判断が分かれる。


5. 自社研究と外部導入で、次のパイプラインを作る

ここまで見ると、アステラスは買収ばかりの会社に見えるかもしれない。だが、自社研究をやめたわけではない。

その証拠に、研究開発費はFY2025の3,148億円(対売上高比14.7%)からFY2026に3,550億円(同16.0%)へ増やす計画で、CSP2026では今後5年間、研究開発費を売上収益の20%を基本水準とし、有望なパイプライン次第で最大25%まで引き上げる方針を示している。研究をやめる会社の数字ではない。

売っている薬は過去の判断の結果で外部由来が多いが、いま開発中のパイプラインには、自社創製が主役として並ぶ

setidegrasib(ASP3082、KRAS G12D分解薬)、ASP2138(胃がん)、ASP5834(Pan-KRAS分解)など、アステラスの研究基盤から生まれた、または同社が主体的に育成してきたプログラムが並び、FY2025にも複数が新たにPoCを達成するなど、自社パイプラインは着実に前進している。ASP546CやVIR-5500などの外部導入品も組み合わせている。

また、外部導入についても方針は明確だ。こうした買収や導入による外部からの取り込みを、業界ではBD(事業開発)と呼ぶ。会社はCSP2026で、既存製品やケイパビリティとシナジーが期待できる資産を獲得する「価値付加型BD」を基本方針とし、短期的な収益確保のための大規模買収(レスキュー型BD)は原則として追求しないと明記している。

そのうえで会社は、FY2029以降はパイプライン主導の成長へ移行すると宣言している。「CSP2026期間中に第3相・ピボタル試験を10件以上開始(うち5件以上をFY2027まで)」という目標も、そこから逆算したものと読める。


具体的に、何を追えばいいのか

では、その「次」の候補として何を見ておけばよいか。現時点で注目したいのは3つである。

setidegrasib(ASP3082)

KRAS G12D変異を標的とする自社創製のタンパク質分解誘導薬で、膵がんでは第3相試験を開始し、非小細胞肺がんでもPoCを達成した。KRAS G12D変異は膵腺がんの約40%に見られる一方、承認済みの標的治療薬がないため、アステラスの次世代パイプラインの旗艦として注目される。

ASP2138

Claudin 18.2とCD3を標的とするT細胞エンゲージャーで、胃がん・食道胃接合部腺がんでPoCを達成し、第3相試験へ進む。既存のVYLOYとは作用の仕方が異なり、同じ標的で複数の治療選択肢を持つフランチャイズ戦略の中核になる。

PADCEVの適応拡大

新規化合物ではないが、金額面では最も大きい可能性がある。筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)への適応拡大が進み、膀胱温存療法を対象とした第3相試験(EV-309)も開始された。会社は膀胱温存療法と中国でのMIBCを現在のピーク時売上予想に織り込んでおらず、既存の想定に対する上振れ余地となる。

なお、会社は個別の開発品についてピーク時売上予想を公表していないが、現在のパイプラインと今後の価値付加型BDを含め、2030年代半ばにリスク調整後で約1兆円の売上ポテンシャルを構築する目標を掲げている。これは確定的な業績予想ではなく、今後獲得する外部資産や開発成功を織り込んだ将来目標である。

イクスタンジという単一の大型薬に頼る構造から、新製品を継続的に生み出す構造へ。

これが、アステラスが挑んでいる転換の本質だ。


6. コア営業利益とフルベース営業利益、両方を見る

アステラスはFY2024から、SMTと呼ぶコスト最適化を進めている。重点戦略製品の伸びも加わり、FY2025のコア営業利益率は26.0%まで改善した。

ただし、投資家が注意したいのは、利益をどの指標で見るかである。

FY2025の利益は、指標によって大きく違う。

  • コア営業利益:5,557億円(利益率26.0%)

  • フルベース(IFRS)営業利益:3,826億円(利益率約17.9%)

  • 差の主因の一つが、無形資産償却費1,360億円

同じ会社の同じ年で、利益率が26.0%と17.9%。なぜこれほど違うのか。

鍵になるのが、無形資産の「償却」と「減損」である。どちらもコア営業利益から除外されるが、意味は違う。

  • 償却:買収・導入時に資産計上した権利の取得価額を、見積有効期間にわたって費用配分する会計処理。現在の現金支出ではないが、買収に支払った対価が利益計算に反映されている。

  • 減損:開発中止や販売見通しの悪化などにより、資産の回収可能価額が帳簿価額を下回ったときに価値を切り下げる処理。買収・導入時の期待が下振れしたサイン。

コア営業利益は、償却費、減損、リストラクチャリング費用などを除くため、継続的な事業採算を見るのに便利である。一方、買収資産に伴う費用は見えにくくなる。

FY2026は無形資産償却費約1,400億円に加え、具体的な減損兆候がない段階で約400億円の減損リスクを織り込んでいる。コア利益だけでなく、これらを反映するフルベース利益も確認したい。先に触れたFY2026予想がコアでは+12%、フルベースでは+3.2%となるのも、この違いによる。


7. 投資家として、この会社の何を見ればいいか

以上を踏まえると、アステラスを見るときのポイントは次の5つに整理できる。

① 重点5製品の成長

イクスタンジの減収を上回るペースで伸びているか。円ベースではなく、為替影響を除いた実力ベースで見る。

② イクスタンジの減り方

IRAの影響は2027年1月、アステラスのFY2026第4四半期から表れる。米国特許満了後に減収がさらに加速するかを見る。

③ 利益と投資の両面

研究開発への投資を増やしながら、同時にコア営業利益率を保てるか。あわせて、償却・減損を含むフルベース営業利益も見る。

④ 後期パイプラインの進展

第3相・ピボタル試験の開始件数、成功確率、上市時期、売上ポテンシャルが計画どおり積み上がっているか。

⑤ 外部取り込みの持続性と回収

買収・導入した資産が、支払った価格に見合う売上とキャッシュを生んでいるか。そして、大型買収を繰り返さなければ成長できない構造になっていないか。Iveric Bio買収では約7,900億円の有利子負債が増加した。Gross Debt/EBITDAはその後1.09倍まで改善したものの、今後の大型投資余力を考えるうえで、営業キャッシュフローと負債の推移は引き続き確認したい。

そして総合的な答え合わせが、CSP2026の掲げた「FY2029からのパイプライン主導成長」が実現するかどうかである。


8. まとめ

アステラスを見る最大のポイントは、イクスタンジ依存から脱却し、重点5製品と次世代パイプラインへ収益の主役を乗り換えられるかである。

同社は、自社研究に加えて買収・導入・共同創製を活用し、外部の科学をグローバル製品へ育ててきた。今後は、単発の大型薬に頼る構造から、新製品を継続的に生み出す構造へ移行できるかが問われる。

決算では、目先の増減だけでなく、この乗り換えが計画どおり進んでいるかを確認したい。


あわせて読みたい

今回は、アステラス1社を通して「特許の崖をどう渡るか」を見てきました。同じ視点は、他の製薬企業を読むときにも使えます。

製薬業界の全体像は、こちらの解説シリーズ目次からたどれます。


免責事項

本記事は情報提供を目的としており、特定の投資の推奨・勧誘を行うものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。


参考資料

  • アステラス製薬「2025年度 決算説明会」資料およびスクリプト(2026年4月27日)

  • アステラス製薬「2025年度 決算短信」(2026年4月27日/地域別売上・為替影響・AT132追加減損)

  • アステラス製薬「経営計画2026(CSP2026)」説明会資料(2026年5月26日)

  • アステラス製薬「第20期定時株主総会招集ご通知」(IZERVAY米国外資産の減損 1,150.92億円)

  • アステラス製薬「第21期定時株主総会 Q&A」(Gross Debt/EBITDA 1.09倍)

  • アステラス製薬「米国Iveric Bio社株式取得に関するお知らせ」(2023年)

  • アステラス製薬「米国Audentes社株式に対する公開買付けの結果および買収完了に伴う子会社の異動に関するお知らせ」(2020年1月/買収額 約30億ドル)

  • アステラス製薬「開発中の遺伝子治療薬AT132に関する減損損失の計上および通期業績予想と実績との差異に関するお知らせ」(2021年4月27日/減損 588億円)

  • アステラス製薬「アステラスの歩みと主要なマイルストーン」(2005年4月の合併経緯)

  • アステラス製薬「2025年度 第1四半期決算 説明資料」(2025年7月30日)

  • アステラス製薬「setidegrasib(ASP3082) KRAS G12D変異陽性転移性膵腺がん患者を対象とした国際共同第III相試験を開始」(2026年4月15日)

  • アステラス製薬「Astellas R&D Day」説明資料(2026年3月31日)

  • Reuters, "Astellas Pharma buys Iveric Bio for $5.9 billion"(2023年4月)

  • FiercePharma, "JPM26: Astellas CEO resists 'rescue BD' as $6B Xtandi patent cliff nears"

  • UCLA, "Prostate drug research leads to $1.14 billion royalty payment to UCLA"(エンザルタミドの起源)

  • Astellas / Seattle Genetics 共同発表資料(PADCEV:Nectin-4はAgensysが特定した標的)

  • 医薬品インタビューフォーム等(イクスタンジ=エンザルタミド:米国2012年8月承認、日本2014年3月承認)

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