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FDAの新薬承認制度とは——NDA・BLA・加速承認の違いと「優遇制度」の意味を読み解く #16

このシリーズのラインナップは→ 第1回の記事でご確認いただけます。


これまでの記事では、新薬がどのように生まれ、臨床試験でどのように有効性と安全性を確認し、さらにGMPやCMCを通じて「一定の品質で作れること」がなぜ重要なのかを見てきた。

しかし、臨床試験で良い結果が出ても、製造体制が整っていても、それだけで薬を市場に出せるわけではない。

最後に必要になるのが、規制当局による承認である。

米国であれば、その中心にいるのがFDAだ。

なお、「なぜ日本ではなく、米国FDAの制度を中心に見るのか」と感じる方もいるかもしれない。
この点については、製薬ビジネスにおける米国市場の重要性を扱った記事02で整理している。

さて、製薬会社のプレスリリースでは、この段階で次のような言葉が出てくる。

NDAを提出
BLAを受理
Priority Review(優先審査)に指定
Accelerated Approval(加速承認)を取得

一見すると、どれも「承認に近づいた」ように見える。

しかし、これらは同じ意味ではない。

申請しただけなのか。
審査が始まったのか。
審査期間が短くなったのか。
早期承認されたのか。

ここを分けて読まなければ、製薬ニュースの意味を読み違えてしまう。

この記事では、米国の新薬承認申請であるNDABLA、FDA審査の流れ、そして投資家がよく目にするFDA関連制度の意味を整理する。



新薬は、臨床試験だけでは承認されない

承認審査で問われるのは、単に「臨床試験で効いたか」だけではない。

FDAが見るのは、大きく言えば次の3つである。

  • 品質

  • 有効性

  • 安全性

臨床試験で有効性と安全性を示すことは重要である。
しかし、それだけでは足りない。

その薬を、一定の品質で安定して製造できるのか。
不純物や汚染のリスクは管理されているのか。
患者にどう使うべきかを、ラベルとして適切に説明できるのか。

承認申請とは、これまで積み上げてきた非臨床、臨床、製造、品質、安全性のデータをまとめて、規制当局に提出するプロセスである。

つまり、これまで見てきた臨床試験、CMC、GMPは、すべて承認審査につながっている。

米国で新しい医薬品を市場に出すには、FDAにNDA(New Drug Application:新薬承認申請)を提出する。


NDAとBLA——承認申請の2つの入り口

米国で新しい医薬品を市場に出すには、FDAに承認申請を行う。

低分子薬では、主にNDA(New Drug Application:新薬承認申請)が使われる。

NDAは、単なる申請書ではない。
前臨床試験、Phase 1〜3の臨床試験、薬物動態、CMC、GMPに関する情報をまとめ、

をFDAに示すための総合データパッケージである。

一方、抗体薬や細胞・遺伝子治療のようなバイオ医薬品では、BLA(Biologics License Application:生物製剤承認申請)が使われる。

低分子薬は、主に化学合成で作られる。
一方、バイオ医薬品は、生きた細胞や生物学的プロセスを使って作られる。

そのため、バイオ医薬品では製造工程そのものが品質に直結する。

たとえば抗体薬では、細胞株、培養条件、精製工程、製造変更後の同等性などが重要な論点になる。

つまり、前回見たCMCやGMPの重要性は、BLAではさらに大きくなる。

ざっくり整理すると、次のようになる。

CDER(Center for Drug Evaluation and Research:医薬品評価研究センター)は、低分子薬、抗体薬、ADCなどを、CBER(Center for Biologics Evaluation and Research:バイオ製薬評価研究センター)は、細胞療法や遺伝子療法など、生物学的な複雑性が高い製品を扱う。

実際の申請経路や審査センターは製品特性によって変わるため、これはあくまで初心者向けの目安である。


FDA審査は「提出して終わり」ではない

NDAやBLAを提出すれば、すぐ承認に向かうわけではない。

まずFDAは、申請資料が審査に足る内容かを確認する。

主要なデータが欠けている、フォーマットが不十分、審査に必要な資料が足りないと判断されると、FDAはRTF(Refuse to File)を出すことがある。

RTFは、いわば審査前の「門前払い」である。

一方、本格審査の結果、現時点では承認できないと判断された場合に出されるのが、CRL(Complete Response Letter)である。

RTFが「審査に入れない」だとすれば、CRLは「審査したが、まだ承認できない」という意味である。

CRLの理由は、臨床データだけとは限らない。
有効性、安全性、CMC、製造施設、ラベル内容など、さまざまな論点が原因になりうる。

特に投資家にとって重要なのは、臨床試験が成功しても、製造・品質面の問題で承認が遅れることがあるという点である。

ここでも、過去記事で見たCMCGMPの重要性がつながってくる。


Standard ReviewとPriority Review

申請が受理されると、FDAは審査を進める。

通常の審査はStandard Review(標準審査)で、目標審査期間は10ヶ月である。

一方、重大な疾病の治療・診断・予防に重要な改善をもたらす可能性がある薬は、Priority Review(優先審査)に指定され、目標審査期間が6ヶ月に短縮される。

ここで大事なのは、Priority Reviewは「審査が早くなる制度」であって、「承認を保証する制度」ではないということだ。

たしかに、FDAが重要な改善をもたらす可能性を認めている点では、ポジティブな材料である。

しかし、最終的に承認されるかどうかは、データ全体の審査によって決まる。

つまり、Priority Reviewのニュースは、

と読む必要がある。


諮問委員会——外部専門家による公開審議

重要な申請では、FDAが外部専門家を集めてAdvisory Committee(諮問委員会)を開くことがある。

がん領域では、ODAC(Oncologic Drugs Advisory Committee:腫瘍薬諮問委員会)が開かれることが多い。

諮問委員会では、臨床医、統計家、患者代表などが公開の場でデータを検討し、承認すべきかどうかを議論する。

勧告に法的拘束力はない。
つまり、FDAは必ずしも諮問委員会の票決に従う必要はない。

しかし、そこで示された論点は、その後の審査や市場評価に大きく影響することがある。

たとえば最近では、AstraZenecaの乳がん薬候補カミゼストラントで、FDAのODACが開かれた。

ODACでは、カミゼストラントとCDK4/6阻害薬の併用について、試験デザインや臨床的意義をめぐる懸念が示され、過半数の支持には至らなかった。

その後、FDAは追加データを確認するため、審査期限を延長した。

この例のように、諮問委員会の勧告に法的拘束力はないものの、そこで示された論点は、その後の審査や市場評価に影響することがある。

投資家にとっては、単に「賛成票が多かったか、反対票が多かったか」だけでなく、

を見ることが重要である。


FDAの優遇制度は「何を早める制度か」で読む

ここからが、この記事の中心である。

FDAには、重篤な疾患や未充足ニーズの高い領域で、開発や審査を早めたり、希少疾患薬の開発を支援したりする制度がある。

企業のプレスリリースでは、「○○指定を取得」という形で発表されることが多い。

ただし、同じ「FDA関連の優遇制度」に見えても、その本質はかなり違う。

一言で整理すると、こうなる。

ここを混同しないことが大事である。

「FDA指定を取得」と聞くと、すぐに承認が近いように感じるかもしれない。

しかし実際には、開発を支援する制度もあれば、審査を短くする制度もある。
承認経路に関わる制度もあれば、経済的インセンティブを与える制度もある。

同じ「指定取得」でも、意味は大きく違う。


Fast Track——出発点であり、ゴールではない

Fast Trackは、重篤疾患で未充足ニーズがある薬を対象に、FDAとの対話を増やし、開発を進めやすくする制度である。

条件を満たせば、データがそろった部分から段階的に提出するローリングレビューが可能になることもある。

ただし、Fast Track指定は承認を意味しない。

開発の初期から中盤で発表されることも多く、この指定だけで「承認が近い」と判断するのは危険である。


Breakthrough Therapy——強い初期データが必要な制度

Breakthrough Therapyは、重篤疾患を対象とし、初期臨床データで「既存治療を大きく上回る可能性」が示された薬に与えられる。

Fast Trackよりも、取得ハードルは高い。

FDAが開発全体により深く関与し、臨床試験設計や承認までの道筋について集中的な支援を行う。

そのため、投資シグナルとしては比較的強い。

ただし、これも承認を保証するものではない。

大事なのは、指定そのものより、その根拠になった臨床データである。

Breakthrough Therapy指定を見たときは、

を確認する必要がある。


Accelerated Approval——早く承認できるが、リスクも残る制度

Accelerated Approval(加速承認)は、特に注意が必要な制度である。

他の制度が主に「開発支援」や「審査期間の短縮」であるのに対し、Accelerated Approvalは承認経路そのものに関わる。

通常の承認では、患者にとって意味のある臨床的利益を示す必要がある。

一方、Accelerated Approvalでは、重篤疾患で未充足ニーズがある場合に、最終的な臨床的利益を待たず、サロゲートエンドポイントを根拠に早期承認が認められることがある。

サロゲートエンドポイントとは、臨床的利益を予測すると考えられる代替指標のことである。

たとえば、

  • がんの腫瘍縮小率

  • ウイルス量の低下

  • アミロイドβの減少

などが使われることがある。

ただし、加速承認は「早く承認されたら終わり」ではない。

承認後には、確認試験によって本当に患者にとって意味のある臨床的利益があるのかを示す必要がある。

だからAccelerated Approvalは、強いポジティブ材料である一方、確認試験リスクも残る。

「早く承認された」ことと、「最終的な価値が証明された」ことは同じではない。


Aduhelmとレケンビ——加速承認の評価は確認試験で分かれる

加速承認の難しさを示した代表例が、2021年にFDAが承認したアルツハイマー病治療薬Aduhelm(一般名:アデュカヌマブ)である。

Aduhelmは、アミロイドβを減少させる効果を根拠に加速承認された。

しかし、臨床的な有効性をめぐる議論は大きかった。
FDAの諮問委員会でも、有効性を支持しない意見が多数を占めた。

その後、Biogenは2024年1月にAduhelmの開発・商業化を中止すると発表した。

この事例は、加速承認が「入口」にすぎないことを示している。

一方、加速承認からフル承認へ進んだ例が、エーザイのレケンビ(一般名:レカネマブ)である。

レケンビは、2023年1月にアミロイドβ減少を根拠として加速承認を受けた。
その後、FDAはPhase 3データを審査し、認知機能低下の抑制が確認されたことで、2023年7月にフル承認へ移行した。

Aduhelmとレケンビの違いが示しているのは、標的が同じでも、確認試験の結果によって評価は大きく変わるということだ。

加速承認を見るときは、

を確認する必要がある。


Orphan Drug——希少疾患薬を支える制度

Orphan Drug Designation(希少疾病用医薬品指定)は、希少疾患薬の開発を支える制度である。

米国では、原則として患者数20万人未満の疾患などが対象になる。

主なメリットは、税制優遇、申請手数料免除、承認後7年間の市場独占の可能性などである。

希少疾患は患者数が少ない。
そのため、通常の市場規模だけを見ると、開発投資を回収しにくいことがある。

Orphan Drug指定は、こうした希少疾患薬の開発を経済的に後押しする制度である。

ただし、これも有効性を保証するものではない。

Orphan Drug指定を取得したからといって、必ず承認されるわけではない。
承認には、あくまで品質・有効性・安全性のデータが必要である。


「FDA指定取得」をどう読めばよいのか

ここまで見てきたように、FDA関連制度は一見似ていても、意味は大きく違う。

プレスリリースで「FDA指定を取得」と見たときは、まず次のように分けて考えるとよい。

  • どの制度か

    • Fast Track、Breakthrough Therapy、Priority Review、Accelerated Approval、Orphan Drugのどれか

  • どの段階か

    • 開発中なのか、申請後なのか、承認時点なのか

  • 何が前進したのか

    • 開発支援、審査短縮、早期承認、経済的支援のどれか

  • 根拠データは何か

    • どの試験で、どの患者に、どんな効果が出たのか

  • 残るリスクは何か

    • 確認試験、安全性、CMC、製造施設、ラベルなど

同じ「指定取得」でも、承認までの距離はまったく違う。


まとめ——FDAニュースは「承認までのどの地点か」で読む

この記事では、米国のNDA・BLA、FDA審査の流れ、そしてFDAの優遇制度を見てきた。

NDAやBLAで問われるのは、品質・有効性・安全性のデータをもとに、

を示せるかである。

一方で、FDAの優遇制度は、それぞれ意味が違う。

プレスリリースで「FDA指定を取得」と見たときは、まずこう確認したい。

  • 開発支援なのか

  • 審査期間の短縮なのか

  • 早期承認の枠組みなのか

  • 経済的インセンティブなのか

  • その根拠となるデータはどれだけ強いのか

「指定を取ったから安心」ではない。
「指定を取ったから承認される」でもない。

FDA関連ニュースを見るときに大事なのは、制度名そのものではない。

その薬が、承認までのどの地点にいるのか。
何が前進したのか。
何がまだリスクとして残っているのか。

ここを分けて読むことが大切である。

また、承認はゴールではない。
承認後にも、安全性監視、追加試験、製造変更管理、市販後調査などが続く。


ここまで見てきたのは、あくまで米国・FDAの承認制度だった。

では、日本ではどうなっているのか。

次回は、日本の新薬承認を取り上げる。審査を担うPMDAと、承認を決める厚生労働省。そして、優先審査・先駆的医薬品指定・条件付き承認という「日本版スピード承認制度」を、今回見たFDAの制度と対比しながら整理する。

さらに、いま日本市場が抱える最大の構造問題——海外の新薬が日本に入ってこない「ドラッグ・ロス」についても、ビジネス視点で読み解いていく。



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それでは、また次回の記事で。


参考資料

  • FDA(1962)Kefauver-Harris Drug Amendments — 有効性証明義務化の起点

  • FDA(2022)"PDUFA VII Commitment Letter" — 現行の審査目標期間

  • FDA "Expedited Programs for Serious Conditions" — Fast Track、Breakthrough Therapy、Priority Review、Accelerated Approvalの制度概要

  • FDA "Orphan Drug Act" / Office of Orphan Products Development — Orphan Drug Designationの制度概要

  • FDA(2023)"Lecanemab(Leqembi)Approval" — 加速承認から従来承認への経緯

  • Biogen(2024)"Biogen to Realign Resources for Alzheimer's Disease Franchise" — Aduhelmの開発・商業化中止に関する発表

  • PMDA「医薬品審査報告書」 — 日本の承認審査プロセスの参考

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