AIを禁止した会社で、静かに起きていること
「会社では使えないので、家で使ってます」
AIの話をしていると、よく聞く言葉です。
私は人事として約10年働いています。
その仕事と並行して、個人の活動ではAIエージェント(Claude Code)に仕事を任せる実験を続けています。
AIエージェントは、指示すると自分で調べて手を動かすところまでやってくれます。
ただ、会社のルールに従って、本業ではAIエージェントを使っていません。
その一方で、周りには会社が公式に用意したAI以外を普通に使っている人がいます。
同期にもいます。
本人たちに、悪いことをしている感覚はなさそうです。
これは私の周りだけの話ではありません。
業務で生成AIを使っている会社員360人への調査では、使っているAIを会社へ「すべて申請・共有している」人は18.9%でした。
「半分程度」「一部のみ」「ほとんど共有していない」を合わせると50.8%です(サイバーセキュリティクラウド「生成AI利用実態調査2026」)。
会社が用意しなくても、AIは使われます。
用意しても、用意したものだけが使われるとは限りません。
この記事では、AIを禁止した会社と、禁止も許可もしていない会社で何が起きているのかを書きます。
この記事でわかること
隠れて使う人が、それを言わない理由
会社が、見えないまま失っているもの
会社で使えない人が、いまできること
会社でAIが使えない方は、ぜひ最後までお読みください。

隠れて使う人がそれを言わない理由
「会社にAIの使用がバレると怒られるから」
それもあります。
ただ、私の周りで実際に起きているのは、もう少し静かなことです。
疑われるのは、言った本人のほう。
疑われ方は3つあります。
仕事の成果・出来を疑われる
仕事の速さで手を抜いたと見られる
情報漏洩を疑われる
1つ目は、資料や文章の質が急に上がったときです。
「本当に自分で書いた?」と聞かれる。
2つ目は、速さです。
会議の議事録を整えるような仕事は、私の感覚では30分は見ておくものです。
それが明らかに早く上がってくると、余った時間の説明を求められます。
早く終わったこと自体が、楽をした証拠として扱われる。
3つ目がいちばん重い。
「会社の情報を入れたんじゃないか」と心配される。
実際には会社の情報を1件も入れずに使っていても、疑いのほうが先に立ちます。
3つとも、疑われているのは成果物ではなく人のほうです。
黙って使えば、3つとも起きません。
使ったことを言わなければ、誰も確認してきません。
隠すことが、いちばん安全な選択になっている。

会社の側が静かに失っているもの
隠れて使われていても、会社からは何も起きていないように見えます。
見えないだけで、3つが失われています。
現場の改善が個人の頭の中で終わり、会社に残らない
使われる場所が、私物のスマホや自宅のPCへ移る
正直に申告した人が、いちばん損をする
1つ目は、工夫が本人の中で終わることです。
損をするのは会社だけではありません。
いちばん割を食うのは、黙って工夫している本人です。
人事は「誰が何をできるか」を把握して、人の配置を考えます。
ある人が、半日かかっていた集計を1時間で終わらせているとします。
それが隠されていれば、会社はその余力を知らないまま配置を決めます。
工夫は、その人の評価に一度も乗りません。
異動したり辞めたりすれば、まるごと消えます。
引き継ぎ資料に「AIに投げていました」とは書けません。
2つ目は、禁止したことが裏目に出る話です。
会社が用意した環境で使えなければ、個人のスマホや自宅のPCへ移るだけです。
そこは会社がいちばん中身を確認できない場所です。
先ほどの調査では、勤務先でAIの利用が禁止された場合でも「個人的に利用を続ける」と答えた人が19.2%いました。
禁止は、利用をゼロにしません。
リスクを減らすために線を引いたのに、リスクは見えない場所へ移動している。
3つ目は、評価の設計の話です。
正直に「AIを使いました」と言った人だけが説明を求められて、黙っていた人は何も聞かれない。
これが1回起きると、次に正直に言う人はいなくなります。

線を引く側にも理由はある
ここまで書くと、禁止する会社が悪いという話に見えるかもしれません。
そうは思っていません。
人事は個人情報の塊を扱います。
履歴書も評価も給与も、外に出せない情報ばかりです。
一度出てしまった情報は取り消しがききません。
はっきり決まるまで止めておくのは、筋の通った判断です。
私が引っかかっているのは、別のところです。
私が見ている限り、実際に多いのは禁止よりも曖昧のほうです。
業務で生成AIを使っている人に絞った別の調査では、31.9%が「特にルールはなく、個人の判断に任されている」と答えています(BOXIL「生成AIの利用実態調査」)。
使っている人の3人に1人が、ルールのない状態で、自分の判断だけで使っています。
私の勤務先も、はっきりした線はありません。
禁止されているなら、話は簡単です。
使わない。それだけで済みます。
決まっていない場合、判断は現場に降りてきます。
良いとも悪いとも言われていないので、聞けば止められるかもしれない。
だったら聞かない。
決めていないことのつけは、現場が1人ずつ払っています。

会社で使えない人がいまできること
会社で使えない状況は、すぐには変わりません。
それでも、会社のデータを1件も使わずにできることがあります。
手元で「型」を作っておくことです。
型といっても、指示文と手順のメモ。
私用の調べ物や家の手続きなど、会社と関係のない場面で試して、うまくいった頼み方を残しておく。
置き場所はスマホのメモアプリ1つで足ります。
私が家に届いた書類で使っているのは、この頼み方です。
この書類を読んで、次の3つを出してください。
1. 要点(3つまで・箇条書き)
2. 私がやること(期限があれば日付も)
3. 判断が要るところ(自分で選ばないといけない点)
書かれていないことは「書かれていない」と書いてください。
推測で埋めないでください。大事なのは最後の2行です。
これを外すと、AIは書類に書いていないことをそれっぽく埋めてきます。
入れておくと、「連絡期限は書かれていません」のように、無いものを無いと返してきます。
会社の書類は1件も渡していません。
それでも、この頼み方は規程を読むときにも契約書を読むときにも使えます。
使う道具は、いま使っているAIで大丈夫です。
気が重い仕事から選ぶと、AIに任せた効きめが分かりやすいです。
気が重い仕事の選び方は、こちらに書きました👇
メールの下書きは、いちばん試しやすい入口です。
やり方はこちらにまとめています👇
会社のルールはいつか変わります。
その日に、型を持っている人は始まりの位置が違います。
ゼロから調べる人と、手元の指示文を貼るところから始める人の差です。

まとめ|使えない側から見えること
私はいま、会社ではAIを使えない側にいます。
正直、不便です。
ただ、この位置にいると、隠して使っている人が何を守ろうとしているのかがよく見えます。
守っているのは、たぶん会社の情報ではなく、自分の立場のほうです。
疑われずに済むなら、黙っていたほうがいい。
その判断は間違っていません。
もったいないのは、黙っている間、その人の工夫がどこにも残らないことです。
私は、残る場所で積むことにしました。
会社で解禁される日を待ちながら、個人の環境で型を増やしています。
待っている時間が、何も起きていない時間にならないように。
Claude Codeが初めての方は、始め方をこちらにまとめています。
HITO|現役人事×AI実運用
元採用担当。人事・事務の実務にAIエージェントを持ち込む実験を発信しています。
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