【連載小説】w 「あたしの道草」⑮
(十五)
「全米ツアー!?」
俺は、大声を出した。
「全米ツアーってなんだよ! どういうこと? え? マリさんが? 全米ツアー? そう言ってるの?」
俺は、最寄り駅から自分のアパートまでの10分ほどの帰り道を、スマートフォンで話しながら歩いていた。もう夜の11時くらいだろうか。
電話の相手は、高校時代の同級生で親友の”サカガミ”シンゴだ。
俺は、建設会社に勤めており、今日は本当は久しぶりの休日だった。
でも、担当物件についてクレームが入ったとのことで、課長から連絡があり、今日は休日返上でその対応に追われていた。
現場を解放されたのが夜の10時、今から1時間ほど前というわけ。
通り慣れたアパートまでの道は、夜11時くらいになると人通りもほとんどなくなってくる。
実は、今日俺は親友のシンゴの彼女リエちゃんの紹介で、ミナシロマリさんという女子大生と会うことになっていた。
帰国子女でちょっと変わっているらしいが、写真を見せてもらうとメチャクチャ美人で一目ぼれしてしまい、少し無理を言って紹介してもらったのだ。ストレスフルな社会生活の中で、彼女でもいないと仕事のモチベーションも上がらないというものだ。
シンゴの話では、相手のマリさんも乗り気でシンゴと会うのを楽しみにしている、ということだった。
しかし、課長からの悪夢の電話でマリさんと会うという今日の予定は崩壊した。
ある種、そういう仕事ではあるし、よくあることでもあるが、よりによって”マリさんと会う”というその日が急遽仕事になってしまうとは、俺もツいてないよなあ。
とりあえず、状況を伝えてマリさんと会う予定を泣く泣くキャンセルするしかなかった。
ミナシロマリさんは、シンゴの彼女のリエちゃんの大学のサークル仲間で、紹介してくくれたのもリエちゃんだったが、やり取りはシンゴと彼女のリエちゃんを通して、マリさんと連絡を取ることになっていた。
つまり、マリさんと俺の間をシンゴとリエちゃんが仲介しているような感じ。
何を警戒しているのかとも思ったが、そのときはシンゴの彼女のリエちゃんとも初対面だったし、マリさんとリエちゃんは親友ということで、これはまあ、マリさんを紹介してくれただけでも喜ぶべきだろう、と俺は納得していた。
だから、今日はマリさんと会った時に、直接SNSや連絡先を教えてもらうのが、俺のミッションの一つでもあった。
まあ、いずれにしても、今日の予定はキャンセルされてしまったので、俺はガッカリしながらも次に備えるべく、マリさんの様子を聞くためにシンゴとSNSでやり取りしていたが、話がなんだか変なのだ。
”で、マリさんの様子は? なんか言ってたって?”
”残念そうにしてたらしいよ。実は今日リエはミナシロに会ったらしい”
”え、そうなの”
”一緒に買い物したらしいけど、特に気にしてなかったってさ”
”そっか、まあ、ならいいけど、また改めて誘うって伝えてもらって、、”
”それはもちろん! ただ、その、ミナシロからリエに連絡があって、なんでもアメリカに行くからダイスケも一緒に行かないかって”
”へ? どういうこと?”
”ミナシロがアメリカに行くって言ってるらしい”
”だからどういうこと?”
”一緒に行かないかって”
”アメリカに? いや、意味わからん”
”全米ツアーって話”
”ますますわからん”
”スティーブとかなんとか”
”ますますますわからん! 何の話?”
”全米ツアーだってさ”
”だからどういうことだよ! マリさんがアメリカでツアーでもするのかよ”
”よくわからんが、そういうことらしい”
SNSでは埒があかないと判断して、俺はシンゴに電話した。
「全米ツアーってなんだよ」
「いや、電話が切れちゃってリエもよくわからないらしいんだけど、ミナシロがアメリカに行くって言ってるらしいんだよ、で、シンゴも一緒に行かないかって」
「いや、話がよく見えないんだけど、、」
「んーとりあえず、リエが言ってることを伝えると、ミナシロがどういうわけか、今日、楽器屋でギターを買ったらしいんだよ、それも27万もするヤツを、、で、どういうわけかそこに来てたスティーブなんとかっていう外国のミュージシャン、ギタリストらしいんだけど、にナンパされて、一緒に全米ツアーを回らないかって誘われたらしいんだよ」
「はあ? なにそれ!」
「だよなあ、リエもちょっとミナシロが何言ってるのかよくわからなかったらしいんだけど、どうも、気に入ったからアメリカに来ないかってことなんじゃないかって、つまりナンパだよ」
「ナンパでアメリカに来ないか? そんなことある?」
なんか、俺の想像を微妙に超えてくるんだが、どういうこと?
「よくわからんが、そういうよくわからんことが起こるのがミナシロなのだよ」
「、、、話を聞いてもよくわからないんだけど、、つまり、マリさんは、そのナンパに乗ったってことなの? まあ、あれだけ美人ならナンパはされるだろうけど、、アメリカに? で、俺にどうしろと?」
「まあ、電話が切れたらしくて俺もリエも話がよく分からないから、リエがミナシロにまた聞くってさ、そしたら連絡するよ、まあ、今日のことはミナシロは全く気にしてなかったって言ってたから、あんまり気にするなよ、あ、ちょっと電話かかってきたから切るぞ」
「お、おい!ちょ、、」
「ツー、ツー、ツー、、」
有無を言わせず電話は切れてしまった。
はあ? どういうこと? アメリカ? 全米ツアー? スティーブ? 俺は何が起こっているのか全く分からなかった。
マリちゃーん、一体どういうこと?
「あたしの道草」⑯に続く
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