連載小説「圧倒的なブス」【1】
あらすじ
天界でタダ飯を貪っていた圧倒的ブスの主人公は、コンプラ違反の罰として「下界コンプライアンス監査部」に左遷されてしまう!お目付け役は、容赦ない毒舌を放つ天界第一書記官の銀髪エリート・レオ。二人の任務は、ブラック労働やカスハラなど、理不尽に苦しむ下界の労働環境を正すこと。
レオが冷徹に違法性を論破し、主人公が「御託はいい、腹が減ってちゃ戦えねぇ!」と物理攻撃&絶品ジャンクフードで労働者を強制救済する凸凹バディの珍道中。人助けの「徳ポイント」を稼ぐたび、顔面は絶望的なブスのまま、肌や髪だけが神々しく美しくなる斜め上の進化を遂げながら、今日も二人は下界のブラック組織をぶっ潰す!
登場人物
主人公(圧倒的なブス) 天界の労基署・コンプライアンス監査部(元ニート)。顔の造形は「茹ですぎて爆ぜた里芋」のような圧倒的ブスだが、本人は全く気にしていない鋼の自己肯定感を持つ。美醜や権力に一切の忖度をせず、行動原理は「食欲」と「睡眠欲」。口は悪く態度はガサツだが、理不尽に搾取されている者を見ると放っておけず、高カロリーなジャンクフードを無理やり胃袋にねじ込んで救済する「肝っ玉オカン」な一面も。徳ポイントを稼ぐとなぜか顔の造形はそのままに、素材(肌や髪)だけが神格化していく。
レオ 天界第一書記官であり、主人公のお目付け役として同行する監査官。純白のスーツを着こなす銀髪メガネの超エリート。性格は四角四面で超・理屈っぽく、常に分厚い法令集(バインダー)を持ち歩いている。主人公の絶望的な容姿に対して一切の遠慮なくストレートな毒舌を吐くが、彼女の「本質を見抜く力」と「物理的な制圧力」には全幅の信頼を置いている。冷徹に違法性を論破して敵の退路を断つ、頼れる頭脳派バディ。カロリーの高い飯は胃もたれするので苦手。
龍神 天界のトップであり、主人公とレオの上司。天界でタダ飯を食ってばかりいる主人公を見かねて下界のクレーム(祈り)処理へと蹴り落とした張本人。
プロローグ
【主題歌】
第1話:天界コンプラ監査部と、神様へのカスハラ
「天界コンプライアンス法・改正案。下界で人助け(徳ポイント稼ぎ)を行わないニートは、サイゼリヤ永久食べ放題パスを剥奪する」
上司である龍神の非情な宣告により、私は下界へ出張させられることになった。
「は? 嫌ですけど。タダ飯食って寝てたいんですけど」
「却下だ。お前は監査官として下界の違反を正してこい。お目付け役として、天界第一書記官のレオを同行させる」
「……お初にお目にかかります。レオです」
振り返ると、そこにいたのは天界支給の純白のスーツを隙なく着こなした、銀髪にメガネの青年だった。いかにも「デキるエリート」という顔をしている。
レオは私の顔をじっと見つめ、一切の表情を変えずにストレートに言い放った。
「事前に資料は読んでいましたが、実物は想像を絶する見苦しさですね。天界の美意識に対するテロ行為かと思いました」
「あ? やんのかお前。出汁とって鍋にすんぞ」
「事実を述べたまでです。ですが、貴女の『物理的な制圧力』と『コンプラ遵守への執着』は高く評価しています。さっさと仕事を終わらせて帰りましょう。私も有給を消化したいので」
なんだこいつ。腹立つけど話は早いな。
こうして、圧倒的ブス(私)とストレート毒舌エリート(レオ)は、下界の小さな農村へと蹴り落とされた。
……。
「おお、天界からの監査員様! お待ちしておりました!」
村に降り立つなり、村長をはじめとする村人たちが私たちを取り囲んだ。彼らは皆、丸々と太り、身なりもそこそこ良い。飢えている様子は全くなかった。
「あー、天界労基署です。なんか『うちの村の神様が最近怠けてるから天罰を下せ』ってクレームが大量に来てるんだけど」
私が鼻をほじりながら言うと、村長は顔を真っ赤にして捲し立てた。
「そうなんです! 我らが村の豊穣神ときたら、最近は雨を降らすタイミングが半日遅いし、隣の村より作物の育ちが少し悪い! 毎日毎日、私たちが『もっと甘いトマトを作れ』『風の強さを微調整しろ』と熱心に祈って(指示して)やっているというのに、全く期待に応えようとしない不良神なのです!」
「ふむ」
レオはメガネをクイッと押し上げ、手元のバインダー(天界通信端末)を開いた。
「……過去一ヶ月の、この村からの祈りの履歴データを確認しました。『雑草を一本残らず消せ』『明日はピクニックだから絶対に晴れにしろ』『腰が痛いから治せ』……なるほど」
「なんだ、ただのクレーマーじゃねぇか」
私はため息をつき、村の奥にある豊穣神の祠へとズカズカ歩き出した。
祠の裏手にまわると、そこにいたのは小さな狐の耳を生やした、子供のような姿の精霊だった。
彼はボロボロの服を着て、目の下には真っ黒なクマを作り、フラフラと虚空に向かって印を結び続けている。
「あ、雨、降らせなきゃ……。トマトの糖度を、あと2%上げて……雑草も抜いて……あ、あああ、でも明日は晴れにしろって……どうしよう、間に合わない……!」
過労とプレッシャーで、完全にメンタルが崩壊していた。
「ほら見ろ! またサボってブツブツ言っておる!」
追いかけてきた村長が怒鳴りつける。
「お前は我々の祈りを聞き届けるのが仕事だろうが! 早く働け! この給料泥棒!」
精霊が「ヒッ」と怯え、身体を丸める。
その瞬間。
ドゴォォォォォン!!!
私は祠の横にあった巨大な御神木を、拳一つでへし折った。
地響きと共に木が倒れ、村長たちが腰を抜かす。
「あ? なんだって?」
私が凄むと、村長はひぃぃと悲鳴を上げた。
「わ、私は間違ったことは言ってない! 神なら我々の願いを完璧に叶えるべきだ! お客様は神様だろうが!」
「お前らが客で相手が神様なんだから、脳みそバグってんじゃねぇのか」
私が鼻で笑うと、横からレオが冷ややかな声で告げた。
「天界利用規約・第8条。『神への祈りは適正な範囲の願いに限る。過剰な要求、および精神的苦痛を与える祈りは、カスタマーハラスメントとみなす』」
レオはバインダーをパタンと閉じた。
「お前たちの要求は、完全に規約違反の悪質なカスハラです。よって、本村への天界からの全サービス(天候調整、豊穣の加護)を無期限停止とします。明日から自分たちで泥水すすって畑を耕してください」
「なっ……!? そ、そんな殺生な! 契約違反だ!」
「契約違反はお前たちです。監査は終了しました。帰りましょう」
レオが冷酷に言い放ち、村人たちが絶望のどん底に叩き落とされる中。
私はリュックから天界支給の携帯コンロを取り出していた。
「おい、精霊」
「……ひっ、は、はい……!」
「カス相手に真面目に働くからバカを見るんだよ。休め」
私はコンロに火をつけ、持参した巨大な鍋でラードを熱し、分厚い豚肉を豪快に揚げ始めた。そこに甘辛い特製ダレと、ふわふわの卵を三つぶち込む。
ものの五分で完成した『超特大・天界風カツ丼』を、怯える精霊の前にドンッと置いた。
「食え。労働のあとは、炭水化物と脂と肉に決まってんだ」
精霊は震える手で箸を持ち、恐る恐るカツを口に運んだ。
「……あ」
その瞬間、精霊の目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「おいしい……。あったかい……。ずっと、誰も、僕のことなんか心配してくれなかったのに……っ!」
「働きすぎだ。腹いっぱい食ったら、三日くらい寝ろ」
私が精霊の頭をガシガシと乱暴に撫でると、精霊はカツ丼を顔中ベチャベチャにしながら「うわぁぁん!」と声を上げて泣きじゃくった。
村長たちが「ああっ、我々の神がカツ丼の虜に……!」と泣き喚いているが、知ったことではない。
『ピロリン♪(徳ポイントを獲得しました)』
天界の電子音と共に、私の身体が神々しい光に包まれた。
光が弾け、キラキラとした粒子が宙に舞う。
顔の造形は、相変わらず圧倒的なブスのままだ。
しかし、肌だけが高級な白磁器のように透き通り、内側から真珠のような輝きを放つ『究極の美肌』へと進化していた。
「おや」
レオが、メガネの奥で少しだけ目を細めた。
「やはり、顔の造形は絶望的なままですね。ですが、肌の成分だけが神格化されました。奇跡的なアンバランスさ……視界の暴力に拍車がかかっています」
「うるせぇよ。豚の脂(ラード)のコラーゲンが効いたんだろ」
私がピカピカの頬を掻きながら笑うと、究極の美肌から神々しい光が反射し、村長たちが眩しさのあまり白目を剥いて気絶した。
「さぁ、次行くぞ。お前もカツ丼食うか?」
「全力で辞退します。カロリーの暴力すぎます」
究極の美肌をテカテカと輝かせる圧倒的ブスと、涼しい顔で毒を吐く銀髪エリート。
私たちは並んで、次のブラック案件へと歩き出した。
【2話へ】
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