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受験塾講師さくらママの日記ーこれは正しいのか?第一話多動症さらちゃんの受験⑤父の本心

9月に入りました。さらちゃんは日増しに元気がなくなりました。私は尋ねました。
「さらちゃん、最近元気ないけどどうしたの?」
さらちゃんは最初答えませんでした。
「A校のこと、気になるの?」
それでも答えませんでした。
「パパとママには言わないから、先生に話してくれないかな。」
さらちゃんはやっと口を開きました。
「パパもママもC校は恥ずかしいからダメだって。A校じゃないとだめだって。」
「それで?」
「A校じゃないと家の恥だって。でも、さら、A校は無理だと思うの。」

本人は自分の実力と保護者の要望の狭間で苦しんでいました。
「さらちゃんはバカじゃないよ。算数だって凄くできるようになったじゃない。」
「でも、A校に行けなかったら、さらも恥ってことでしょ。」
「そんなことないよ。受験は終わってみないと結果はわからないから、今は合格するために一問でも多く問題が解けるように頑張ろうね。」
私は「恥」という言葉のインパクトが強すぎて、大人としての返答しかできませんでした。自分のことを情けないと落ち込みました。

その後もさらちゃんは心のバランスを失ったせいか、ぼーっとする時間が増え、時々お席を離れようとする事がありました。そんな時はすぐにさらちゃんのそばに行き、手をつないであげました。そうすると、安心するのかまた問題を解き始めることができました。
また、昨日お勉強したところも初めて見るような感じになる事もありました。昨日の記憶が薄いのです。
続いて前にできでいた問題もできなくなってきました。崩れ去る砂上の城のような状態です。

このままではC校も危ない!
とにかく、基礎学力を落とさないようにしなければ!

10月と11月は週4日の通塾にして、家にいるより教室で過ごさせるようにしました。塾が終わっても直ぐにはお迎えの車に行こうとしませんでした。

❄️ 12月、突然の面談
そんな中、
12月に入ったばかりの頃のことです。
さらちゃんのお母様が、今にも倒れそうなほど青い顔をして教室へ面談にやってきました。傍らには、不安そうにうつむくさらちゃんも一緒でした。
「あら、どうしたの?」
尋常ではない雰囲気に気づいた私は、まずさらちゃんを安心させようと別室へ連れていきました。
「ここで大好きな本を読んで待っていてね」
そう優しく声をかけて部屋に戻り、お母様に向き合いました。

「一体、どうされたのですか?」
私の問いかけに、お母様は堰を切ったように涙を流しながら話し始めました。
「先生……昨日、主人が大激怒して。私もさらも、一晩中ひどい言葉で罵倒されたんです……」
「えっ……? どういうことですか?」
「先生、さらは……さらはやっぱり、あの『S校』には合格できませんか……?」

それは、あまりにも驚くようなご希望でした。
さらちゃんにとって、今目標にしている「A校」でさえ決して簡単ではない、大きな挑戦なのです。それなのに、お母様が口にした「S校」といえば、全国でも名の知れた超進学校。
生徒の2人に1人が東大や京大、国立大の医学部に合格するような、文字通りの超難関校です。

「どうして、急にそんなお話を言い出されたのですか?」
私の困惑に、お母様は震える声で昨夜の出来事を教えてくれました。

昨日、お父様は同じ医師会の同期の方々との忘年会があったそうです。そこで、周囲の先生方のお子さんが名だたる私立校に進学しているという話題になり、「お前のところは今年受験だろう? どこを受けるんだ?」と聞かれたとのことでした。
お父様は、我が子が目指しているのは「C校」とも言えず、ましてや「A校」でさえも周りの華やかな進学実績の前では恥ずかしくて口にできず、話を誤魔化して帰ってきたというのです。
特に親しかった同期3人の子供たちが全員「S校」に通っていると知り、お父様は自分が恥をかかされたような、強い劣等感にとらわれてしまったようでした。

帰宅後、お酒の勢いも手伝って、お父様の怒りは容赦なく奥様とさらちゃんへと向けられました。

「どうしてうちの子はバカなんだ!」
「お前がそんなだから、こんなできそこないが生まれたんだ! 」
「お前と結婚していなければこんな恥をかかずにすんだんだ!」
「こいつが生まれてからオレの人生は恥のかき通しだ!」
「お前と結婚したことが間違いだったんだ!」
「二人とも出て行け!」

大声での怒鳴り散らしは夜中も延々と続きました。お母様とさらちゃんは床の上に正座をさせられて、ひたすらに時が過ぎるのを待ったそうです。さすがに殴る・蹴るなどの肉体的な暴力こそなかったものの、グラスを床に叩きつけて割れる音やテーブルをバンバンと叩く音など、その精神的な暴力は二人の心を激しく打ちのめしました。

「私もさらも、もう怖くて……。さらはショックで、今日は学校にも行けない状態なんです。私も家にいるのが恐ろしくて、居ても立ってもいられず、先生に面談をお願いしてしまいました……」
確かにそのような怖い目に合えば家にも居たくないだろうし、事情をわかってくれる誰かに話をきいてもらいたくもなるでしょう。
お母様は完全に意気消沈し、ただ涙を流すばかりでした。

「お父様は……普段からそのような感じなのですか?」
「いつもではないんです。ただ、仕事のストレスやプライドが絡んで気が立っている時は、割と怖くて……。でも、昨日の夜は今までの比ではないくらい酷かったんです。二人で『ごめんなさい』って、泣きながら何十回も謝ったんですけど……」

あまりの衝撃に、私はすぐには言葉を返せませんでした。謝る必要があったとは思えません。入試が間近に迫ったこの大事な時期に、さらちゃんのメンタルにどれほどの影響が出てしまうか、それが心配でなりませんでした。

「……さらちゃんは、何と言っていますか?」
お母様はさらに声を詰まらせました。
「さらは……『自分がバカだから悪いんだ。バカに生まれてママに迷惑をかけてごめんなさい』って、自分を責めているんです……」
「えっ……!? 今までにも、そんな風に思わせてしまうようなことがあったのですか?」
「塾を変えざるを得なかった時や、模試の結果が思うように振るわなかっ
た時、主人が激昂するので、私もさらも必死で謝るのですが、その都度あの子は私の顔を見て『ママごめんね、さらバカだから』って私にも謝るんです……」

その言葉を聞いた時、私は胸が締め付けられるような、自分自身の判断能力を失うほどの衝撃を受けました。それと同時に、この人たちはこれまで、まだこんなに小さなさらちゃんに、何回、いや、何十回、悲しい思いをさせてきたのだろうかと思うと、怒りさえ覚えました。受験は誰のためにするのか?何のためにするのか?お父様は完全に見失っているようでした。しかし、今は何としてでもこの手でさらちゃんを守ってあげないといけません。

🏡 隠されていた現実

「お父様のいるご自宅以外に、どこか身を寄せる場所はありますか?」
「車で40分ほどのところに、私の実家(母の家)があります。今日はそちらに行ってみようかと思っているんです。でも……今日帰らないと、余計に家に帰りづらくなってしまうかもしれない、とも考えてしまって……」
事態はあまりにも複雑で、一塾講師である私の範疇(はんちゅう)では、安易なアドバイスなど到底できない重さでした。

さらちゃんのために何を優先させるべきかを考えている私に、さらに追い打ちをかけるようなもう一つの事実をお母様は告白し始めます。

お父様の本心は元々どこにあったのか?
お父様にとってお母様とさらちゃんの存在は何だったのか?
誰の何のための受験なのか?
子供の心はどこまで尊重されるのか?

様々な問題点を解き明かしていくお母様の告白です。

どんな告白かは次回最終回にてお待ち下さい。
        ではまた。

▼医学部に興味があるけどお金が心配な方へ。きっと安心できます。

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