【Log.2-06】呪いの手錠で繋がれたので、先輩とトイレまで一緒です
怪異の数だけ、愛が深まる!? 変人先輩×苦労人後輩がおくる、恐怖と爆笑のオカルトBLコメディ【怪奇同好会シリーズlog.2】全6話完結
激闘の末、ついに呪いの組紐は解かれた。 自由になったはずの手首に、なぜか寂しさを感じる悠斗。そんな彼の心を揺さぶる先輩の言葉と、詩音が明かす「呪いの紐」の衝撃的な正体とは? 騒がしくも温かいシリーズ第2弾、堂々の完結!
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第6章:解けた糸、結ぶ手
月明かりの下、古びた紅白の組紐が地面に転がっている。
ついさっきまで、俺たちを物理的に縛り付け、生死を共にする運命を強いていた呪いのアイテムだ。
「……終わったな」
「……そうですね」
俺と先輩は、1メートル以上離れた距離で向き合っていた。
もう、動いても電流は走らない。
先輩が右へ行っても、俺が左へ行っても、何も起こらない。
それが本来の「正常」なはずなのに。
(……なんか、寒いな)
夜風が冷たいせいだけじゃない。
この数日間、常に隣にあった体温――鬱陶しいほど密着していた先輩の気配が、急に遠のいたからだ。
人間、慣れとは恐ろしいものだ。
あれほど嫌だった「強制同棲」がなくなった途端、俺の左半身は妙な喪失感を覚えていた。
「悠斗」
先輩が静かに口を開いた。
いつもの軽薄な笑みはない。真剣な眼差しだ。
「……悪かったな。俺の家の蔵のせいで、こんな目に遭わせて」
「え?」
「お前は普通の高校生だ。こんなオカルト沙汰に巻き込まれて、怖かっただろう。……もう、大丈夫だ。ゆっくり休め」
先輩はそう言うと、地面に落ちた組紐を拾い上げ、背を向けた。
その背中が、どこか寂しげに見えた。
呪いが解ければ、俺たちはただの先輩と後輩に戻る。
同好会の部室で駄弁るだけの関係に。
(……それでいいのか?)
俺の脳裏に、この数日間の記憶が蘇る。
授業中にノートを覗き込んできた顔。
風呂場で背中を流してくれた大きな手。
布団の中で、「お前を独り占めできるなら悪くない」と囁いた声。
――呼吸を合わせろ、悠斗。
――お前はずっと俺を見ていただろう?
さっきの戦闘での、あの全能感。
言葉を交わさなくても通じ合えた、あの一瞬。
あれは、呪いのせいだけじゃないはずだ。
「……待ってください」
俺の足が、勝手に動いていた。
砂利を踏みしめ、先輩の背中を追う。
1メートル。
50センチ。
距離が縮まる。
「ん? どうした、忘れ物か?」
振り返った先輩の手に、俺は自分の手を重ねた。
先輩が驚いて目を見開く。
「悠、斗……?」
「……手錠がなくたって」
俺は視線を逸らし、熱くなる頬をごまかしながら言った。
「手くらい、繋げますから」
沈黙が落ちた。
心臓がうるさい。俺は今、人生で一番恥ずかしいことを言っている気がする。
先輩の手が震えたかと思うと、次の瞬間、俺の手を痛いほど強く握り返してきた。
「……ああ。そうだな」
先輩の声が弾んでいる。
見上げると、そこには月よりも眩しい、満面の笑みがあった。
「一生離さないからな、覚悟しておけ」
「一生は重いです。……まあ、卒業までなら考えておきます」
「ツンデレだなあ」
俺たちは手を繋ぎ、神社の参道を歩き出した。
紐なんてなくても、俺たちの手はしっかりと結ばれていた。
◆◆◆
「あ、ちょっと待って二人とも」
いい雰囲気でエンドロールに入ろうとしたその時。
茂みから詩音がぬっと現れ、俺たちの前に立ちはだかった。その手には、ボロボロになった古文書が握られている。
「感動のフィナーレを邪魔して悪いけど、一つ訂正があるの」
「なんだ詩音。野暮だぞ」
「この紐のことよ」
詩音は先輩の手にある組紐を指差した。
「さっき『心中紐』って言ったけど、よく解読したら違ってたわ」
「違った? じゃあ何だったんだ」
「これ、『安産祈願』のお守りね」
「は?」
俺と先輩の声が重なった。
「正確には、『夫婦の絆を深め、元気な子供を授かるための願掛け紐』よ。だから夜になると、子供を欲しがるお母さんの霊が出てきたのね」
「……」
「つまり、その紐で繋がれていたあなた達は、霊的に『子作り祈願』をされていたことになるわね。おめでとう」
時が止まった。
安産。
子作り。
男二人。
「だ・か・ら!! 男同士だっつーの!!」
俺の全力のツッコミが、夜の境内に木霊(こだま)した。
詩音は「まあ、愛に性別は関係ないし」とポテトチップスを取り出し、先輩は真顔で顎に手を当てた。
「ふむ……現代の医学とオカルトを融合させれば、あるいは……」
「考えるな! 怖いこと考えるな!」
俺は先輩の手を振りほどこうとしたが、先輩はガッチリと握ったまま離さない。
「残念だったな、悠斗。一度握った手は離さないと言っただろう?」
「こういう意味じゃなーい!!」
◆◆◆
翌日。
学校には、いつもの日常が戻ってきていた。
ただし、少しだけ変化がある。
「おい悠斗、教科書忘れてないか?」
「持ってますよ。なんで先輩が休み時間のたびに俺のクラスに来るんですか」
「心配なんだよ。また変な紐がついてないか確認しないとな」
1年B組の教室。
俺の机の横には、当然のように真白先輩が立っている。
クラスメイトたちはもう驚かない。「ああ、いつもの夫婦漫才か」という顔でスルーしている。
「先輩、邪魔です。予鈴鳴りますよ」
「つれないなぁ。じゃあ、放課後の部活で会おう」
先輩は俺の頭をポンと撫でると、満足げに去っていった。
その背中を見送りながら、俺は小さくため息をつく。
呪いの手錠はもうない。
でも、俺とこの人の縁は、どうやら腐れ縁という名の最強の紐で結ばれてしまったらしい。
「……まあ、悪くはない、か」
俺は自分の手首をそっと握った。
そこには、昨日の温もりがまだ微かに残っている気がした。
「悠斗くん、顔赤いよ」
「うっさい詩音ちゃん! 盗み聞きすんな!」
怪奇同好会の日常は、今日も騒がしく、そして少しだけ甘酸っぱく続いていく。
トイレは一人で行けるようになったけど、心の距離はずっと「半径ゼロメートル」のままで。
(完)
▶︎次回「もっと密着しろ!」七不思議がまさかの腐女子!?
「七不思議の幽霊が、俺たちの恋路を応援してくるんだが」(全5話完結)

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因習村の生贄に選ばれたんだが〜相手が変人先輩(男)な件〜
