【Log.3-04】七不思議の幽霊が、俺たちの恋路を応援してくるんだが
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~変人先輩と巻き込まれ俺の、受難な日々~
BLラブコメ×オカルト / 全5話完結
「背景が決まらない!」「新刊が落ちる!」美術室に響くのは、修羅場の同人作家幽霊たちの悲鳴。彼らを成仏させるため、詩音ちゃんプロデュースの撮影会が始まる。
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第4章:美術室の亡霊は「締め切り」に追われている
「……ここが、最後の砦(とりで)か」
旧校舎、美術室。
理科室の「評論家」に脅され、逃げ込んだ先は、独特の油絵の具の匂いが充満する空間だった。
夕闇の中、無数の石膏像(アグリッパ、ブルータス、モリエール等)が、白い顔で静かに並んでいる。
「静かですね。……もしかして、ここは誰もいないんじゃ」
「いや、甘いな悠斗。気配がするぞ。それも、とてつもなくピリピリとした『切迫感』を持った霊気が」
先輩が眼鏡を押し上げた瞬間。
バタンッ!!
部屋の奥で、誰かが机を叩きつける音がした。
『あーもうッ! 描けない! 構図が決まらないわよッ!』
『締め切りまであと3日しかないんだぞ! 落ちたら新刊が出ないんだぞ!』
『背景が決まらないのよ! 「尊さ」が足りないのよォォォ!』
暗がりの中から、悲痛な叫び声が次々と聞こえてくる。
目を凝らすと、イーゼルに向かって鬼の形相で筆を走らせているのは――長い髪の女性の霊と、ベレー帽をかぶった男性の霊たちだ。
彼らの目は充血し、目の下にはどす黒い隈(くま)がある。
「……あれは?」
「見ろ、彼らの手元を。……あれは『同人原稿』だ」
先輩が冷静に指摘した。
そう、彼らは成仏できずに旧校舎に住み着いた、「修羅場の同人作家・幽霊サークル」だったのだ。
『ハッ……!?』
女性の霊が、ふと筆を止めてこちらを振り向いた。
彼女の視線が、俺と先輩の間を往復する。
『……イケメン。……身長差。……黒髪攻め×茶髪受け……?』
カッ!!
彼女の目がサーチライトのように発光した。
『見つけたァァァ! 私の新作のモデルゥゥゥ!』
『逃がすな! 彼らを捕まえてデッサンしろ! そうすれば新刊は落ちない!』
作家幽霊たちが一斉に立ち上がり、スケッチブックと木炭を構えて襲いかかってきた。
物理的な攻撃ではない。「視線」という名のレーザー照射だ。
「うわああ! なんですかコイツら! 目が怖い!」
「芸術家の執念だ! 悠斗、捕まったら最後、絵が完成するまで石膏像のように固められるぞ!」
逃げようとドアに手をかけたが、開かない。
鍵がかかっているどころか、ドアノブが「絵」になっていて掴めない。現実改変能力まであるのかよ!
『動くなァァァ! そこでポーズをとれぇぇぇ!』
女性の霊が指を突きつけると、俺の足が鉛のように重くなり、床に縫い付けられた。
先輩も同様に、俺の背後で動きを封じられる。
『テーマは【放課後の秘め事】よ! そこにあるカーテンを使って、アンニュイな感じで絡み合いなさい! 早く! 締め切りがヤバいのよ!』
理不尽すぎる要求。
だが、逆らえば呪い殺されそうな気迫だ。
どうする。どうすればいい。
俺と先輩が冷や汗を流して顔を見合わせた、その時だった。
「……なるほど。相変わらず騒がしいわね、ここは」
凛とした声が響き、ベランダの窓がガラリと開いた。
夜風と共に現れたのは、フリルのついた黒いゴスロリドレスに身を包んだ少女――詩音(しおん)だった。
手にはなぜか、コンビニの袋(中身はエナジードリンク)を提げている。
「し、詩音ちゃん!?」
「やあ詩音。奇遇だな、お前も原稿の差し入れか?」
先輩が能天気に声をかけると、詩音は呆れたように肩をすくめた。
「まさか。霊道(れいどう)を通ってショートカットしたら、ここに出ただけよ。……で、状況は把握したわ」
詩音はスタスタと歩み寄り、鬼気迫る作家幽霊たちの前に立った。
「あなたたち、いい加減にしなさい。モデルに無理強いしても『生きた絵』は描けないわよ」
『うるさい! 小娘に何が分かる! 私たちは「最高傑作(神本)」を描きたいだけなのよ!』
「神本、ねえ」
詩音は冷ややかな目で俺たちを見た。
そして、ニヤリと口角を上げた。
「じゃあ、私が『演出(ディレクション)』してあげる。……この二人を使って、あなたたちが涙して拝むような【至高の構図】を提供すれば、成仏して(帰って)くれるわね?」
『な、なんだと……?』
「悠斗くん、真白会長。覚悟して」
「えっ、詩音ちゃん? 味方だよね?」
俺の問いかけを無視し、詩音はポケットからスマホを取り出し、カメラモードを起動した。
そして、淡々と指示を出した。
「先輩はそこの椅子に座って。悠斗くんは……その足元に跪(ひざまず)いて」
「はあ!? なんで俺が!」
「いいからやって。呪われて一生石膏像になりたいの?」
俺は渋々、先輩の足元に膝をついた。
まるで忠誠を誓う騎士か、あるいは――。
「先輩、悠斗くんの顎(あご)をすくい上げて。……そう、少し見下ろす感じで。悠斗くんは、不服そうだけど抗えない瞳で先輩を見上げて」
言われるがままにポーズを取る。
先輩の冷たい指先が俺の顎に触れる。
至近距離で見下ろされる視線。悔しいが、この角度の先輩はズルいほど綺麗だ。
「……悪くないな。悠斗、その上目遣いは反則だぞ」
「うるさいっ……早く終わらせてくださいよ……」
俺が顔を赤くして睨むと、詩音がパシャリとシャッターを切った。
その瞬間、美術室の空気が変わった。
『……ッ!!!』
作家幽霊たちが息を呑んだ。
女性の霊が、震える手で口元を覆う。
『……尊い……』
『構図、光、そして二人の間に流れる信頼と羞恥のアンビバレンツ……!』
『描ける……! これなら描けるぞォォォ!』
幽霊たちは一斉にキャンバスに向かい、猛烈な勢いで筆を走らせ始めた。
シャカシャカシャカシャカ!!
凄まじい筆圧音が室内に響く。
数分後。
『できた……! 私の最高傑作が……!』
描き上がった絵を見て、幽霊たちは満足げな笑みを浮かべた。
そして、光の粒子となってフワリと浮き上がる。
『ありがとう……これで、冬コミに受かる気がするわ……』
『新刊、楽しみにしててね……』
謎の言葉を残し、彼らはキラキラと昇天していった。
美術室に静寂が戻る。
残されたキャンバスには、美化率200%増しの俺と先輩の「禁断の主従関係」みたいな絵が描かれていた。
「……疲れた……」
俺はその場にへたり込んだ。
詩音は満足そうにスマホの画像を保存し、俺たちを見下ろした。
「お疲れ様。いい素材が手に入ったわ」
「詩音、お前、今の写真をどうする気だ」
「内緒。……さあ、これで旧校舎の主(ぬし)たちは満足したはずよ。帰りましょう」
こうして、俺たちはなんとか旧校舎の呪い(という名の腐った欲望)から生還したのだった。
――しかし、本当の地獄はこれからだった。
翌日の文化祭当日。
あろうことか、成仏したはずの彼らが「一般参加者」として戻ってくることになろうとは、誰も予想していなかったのだ。
(続く)
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