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③話 魔法少女に変身したかったみたい 【これは、風俗を通して自分を赦す物語】 #お仕事小説部門投稿作 #創作大賞 2025

これまでのお話
★風俗の面接に来たゆゆ。彼女を待っていたものは、向き合わなければいけない自分との対話だった。
#これは風俗を通して自分を赦す物語

①話  向いてない仕事と、優しさで首を絞める人達
②話  待ち合わせは11時、ショッピングモールの前で



いよいよこれから面接だ。

案内されたのはビルの2階。入口にはBARカウンターのような棚があり、ペットボトルや紙コップが整然と並んでいた。

…都会でこの広さ。家賃スゴく高そうだな。

部屋の奥にはテレビ、ソファ。雰囲気は小洒落たワンルーム。私はてっきり、ヤクザの事務所みたいなのを想像していた。

「意外と普通ですね。片付いてるし」
「あはは、僕、普通の人なんで」

部屋にはBGMがかかっていた。私も知っている某有名アニメのエンディング曲。意外とラフな職場のようだ。

「じゃあさっそく面接していきますね」

用を足した後案内されたのは木製カウンターの前だった。足の長いスツールに腰掛け、差し出された書類に目を通す。

差し出された紙には、名前・年齢・住所……までは普通。

「あの?これは…」
「あ、書ける範囲でいいですよ」
「…」

あっけらかんと言われて唖然とする。書ける範囲で良いですよって、なんだよ。

その次に書かれていたのは、
「初体験はいつですか?」
「Sですか? Mですか?」
「どんなプレイが好きですか?」

こんな風に初対面で性的な話をされて平気な人はどれくらいいるんだろう。私は苦手だ。というより、いきなり性的な目で見られることが気持ち悪い。

おじさんが動くと、ふわりと安っぽい柔軟剤の匂いがした。ラブホテル、ベッド、爛れた情事。何故か頭に映像が流れる。
この人と出会ってまだ数分しか経っていない。なのに、裏切られたようなショックを感じていることに驚いた。

「風俗嬢って、ちょっとカッコイイなって思ってたんです」
読んでいた本のページを間違えて読み飛ばしてしまったみたいな、突拍子もないことを言っていた。
「あー、カッコイイ人も居ますよね」
「私もそうなりたいなって思ってたんです。ははは、笑えません?」

最後のセリフは言わなかった。自分で話しかけたのに、勝手に会話を終わらせる。
「風俗嬢」に「成りたかったんです」なんて、まるで魔法少女に変身したかったって言ってるみたいだ。

私はヤケクソで空白多めの書類を差し出した。おじさんの動作が、ちょっと止まった気がした。

「ありがとうございます。…あれ?ここって…?」
「すみません。書きたくなかったので書きませんでした」
「あー…、はい。じゃあ面接に受かったら身分証のコピーを撮らせてもらうので、ちょっとお待ちください」

……面接に受かったら、か。

良かった、落ちたんだ。私。

自分でそうなるように仕向け、安堵した。ハズだったのに、何故か少しだけ悲しかった。気がついたら、自然とカバンに手が伸びる。

大丈夫、これで逃げられるんだよ。

安らぎの言葉が頭をよぎる。違う。不安は拭えない。

…だって、私はどこへ、逃げられるんだろう。

BGMはいつの間にか悲しげな歌になっていた。
音楽がうるさいはずなのに、沈黙が痛く、いたたまれなくなる。

おじさんは書類からぱっと顔を上げた。どうか落としてください、と願っていると、おじさんが言った。

「ぜひ働いて欲しいです」
「……はい?」

いつだって現実は自分の思い通りにはいかない。私は思わず聞き返していた。
鏡を見たら、きっと凄く狼狽えた自分の顔と目が合うはずだ。知ってか知らずか、おじさんは呑気に顔の油を拭いていた。

「いつから来れますか?」

いつから来れますかって、もう来ませんが。
口を小さく開き、息を吸い込む。
でも、言葉が出てこなかった。
心臓がバクバクする。
訳もなく泣きそうになった。

「今日の、…今日の午後、体験入店を、お願いできますか…?」

誰よりも自分がわかってるんだ。
私は何にもなれない。
なにも出来ない。
ここから逃げたところで何をする気も起きない。
無能な私はここで働くしかない。

「おっ、良いですね。やる気で」

おじさんは人好きのする顔で笑った。なのに悪魔の微笑みに見えた。ここで落としてくれたら諦められたのに。
おじさんは酷い。
悪者だ。

私が呆然としてる間に話は進み、おじさんは料金のバッグやプレイ内容について説明しているようだった。話が長くて右から左に流れていく。
待って、今何を言ってるの?
気がついたら労働契約書に名前を書く自分の姿があった。

あれ、私、契約しちゃう……。

字が小刻みに震えていた。あまりにも動揺しているので逆に笑ってしまう。
なんだか現実味がない。もしかしたら悪い人に騙されてるのかもしれない。訳も分からないまま、景色だけが動いていく。私を乗せた電車が、いつの間にか走り出す。どこか他人事のようにそれを見ていた。



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ここまでお読み頂きありがとうございます(* .ˬ.)

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次回はお店の女の子が登場する予定になります!


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