①話 向いてない仕事と、優しさで首を絞める人達 【これは、風俗を通して自分を赦す物語】 #お仕事小説部門 #創作大賞 2025
【あらすじ】
仕事ができない自分が嫌で、私は公務員を辞めた。
逃げるように辿りついたのは、風俗の世界だった。
自分じゃない“誰か”になりたくて、M性感で働き始めた私は、それが自分や同期、お母さんへの裏切りだと分かっていた。
だけど、仕事を通して誰かの心を救った実感や、
「女性」としてのしがらみを少しずつ手放していく中で、
「フツウの幸せ」の定義が揺れ始める。
傷つきながらも、赦し、愛し、生き直していく。
これは、風俗嬢として働いた私が、もう一度“自分を好きになる”までの再生の物語。
__私が【私】を赦す物語
明けない夜はない。
あの時、トイレの中で泣いていた私を連れ出して、一緒に夜明けを迎えたい。

【序章】
これは風俗嬢になる前の話である。
かつて私は公務員だった
かなり仕事は苦手だった
聞いても聞いても仕事が覚えられず、メモをとっても必要なことを書き忘れてしまう
ーーどうしてそんなに効率が悪いの?
長時間お局に怒られて、緊張から小さなミスを何度も繰り返す
毎日昼休憩になると、トイレの中でこっそり泣いていた
みんな気がついていたのか分からない。恥ずかしかったが泣くのを止められず、いつも真っ赤な目で仕事をしていた
唯一の癒しは同期と行く飲み会だった
その日も私はアルコール度数の低いカシスオレンジをチビチビと勿体なさそうに飲んでいた
ふと同期が言った
ーーゆゆちゃんはすごい、頑張ってるよ。私がゆゆちゃんなら、もうとっくに仕事辞めてるな。私たちの中で1番、頑張ってるよね。
違う同期が言った
ーーでも時々いらないこと言うよね。
同期だから言うけど個性が独特というか、変わってるよね。
お酒の席に笑いが起きる
ぽやぽやと頭が回らない
酩酊している
夏の暑さで溶けた氷がカランと音を立てた。音を聞いて、無言でいたことに気がついた
その後私は、何を言って、どんな風に笑ったんだっけ
ただ悔しさだけが残ったのを今でも覚えている。
気がついたら暗い夜道を一人で歩いていた。
ポケットを触ると同期の結婚式の招待状が手に触れて、だから昔のことを思い返していたんだろうなと冷静に思った。
夏の夜の涼しい風が頬を撫でた。お日様の残り香の様なものが鼻の奥を満たした。静かな寂しさが辺りを漂っているようだった。
あの飲み会の後私は仕事をやめて、転がるように夜の世界へと足を踏み入れた。
今やM性感の立派な風俗嬢である。
風俗嬢が、逃げた場所でまだ輝いている友達に会えるわけが無かった。
嫌な気持ちになって、さっき買ったばかりの煙草を開けた。
紙タバコを1本取り出し、100円ライターで火をつける。
煙を吸い込むと肺まで届かず、煙は口の中で留まった。
もう一度。
煙を吸い込む。息を吐く。残った煙が気持ち悪く残り、少し蒸せ込む。
上手く呼吸が、出来なくなった。
水商売からの帰り道、私は1人で泣いていた。
私はまだ、あの時逃げたはずのトイレの中にいるのかもしれない。

【各話リンク】
①話 向いてない仕事と、優しさで首を絞める人達
②話 待ち合わせは11時、ショッピングモールの前で
③話 魔法少女に変身したかったみたい
④話 女は秘密を着飾って美しくなるbyベルモット
⑤話 今日は、『可愛くない』って気づいた日。
⑥話 光と影とゆゆと
⑦話 風俗嬢と初めてのお客さん
⑧話 大好きなあなたに、“大丈夫?”が言えない。
⑨話 聞いてください、お母さん。私、風俗で働いているんです。
⑩話 風俗嬢って楽しいの?
⑪話 「ヒカルちゃんはやってくれたよ」って嘘だよね?
⑫話 店長は、ちょっとだけお父さんの匂いがする
⑬話 「ゆゆちゃんってアタシのことバカにしてるでしょ?」
⑭話 初めての“婦警さんごっこ”でやらかした話
⑮話 整形したリンちゃんは可愛いって言われるのが嫌い
⑯話 お客さんと結婚したあの子の話
⑰話 「私はお母さんの子に産まれたくなかった」ってお兄ちゃんに言った話
⑱話 ちょっと過保護な、大好きなお母さんに会いに行こう
⑲話 最終話 これは、風俗を通して自分を赦す物語
ーーーーー
読んでくださってありがとうございました。
この文章は、風俗嬢になるまでの過程を描く連作の“序章”になります。
少しでも心に残ったら、スキ・フォローしていただけると嬉しいです。
ゆゆゆ式より
第1話はこちらになります。興味を持って頂けましたらぜひ!👇
