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⑯話 お客さんと結婚したあの子の話 【これは、風俗を通して自分を赦す物語】♯お仕事小説部門♯創作大賞2025

【これまでのあらすじ】

★ヒカルさんが辞めた本当の理由を聞いたゆゆ。
私はどうなりたいんだろう……?
その答えがやっとわかった気がする。

『ゆゆちゃんは、この仕事楽しい?』
それって自分次第なんですね、ヒカルさん。

♯これは、風俗を通して自分を赦す物語

①話
②話
③話
④話
⑤話
⑥話
⑥話
⑦話
⑧話 聞いてください、お母さん。私、風俗で働いているんです。
⑨話 風俗嬢って楽しいの?
⑩話 「ヒカルちゃんはやってくれたよ」って嘘だよね?
⑪話 店長は、ちょっとだけお父さんの匂いがする
話 「ゆゆちゃんってアタシのことバカにしてるでしょ?」
⑬話 初めての“婦警さんごっこ”でやらかした話
⑭話 整形したリンちゃんは可愛いって言われるのが嫌い
⑮話▶︎New!

全⑮話予定▶︎全⑱話予定🍀



私は三上さんの居酒屋で昼食をとっていた。隣には当然のように店長がおり、相変わらず酒とタバコを食事代わりにしている。

「ゆゆも酒飲むか?」
「あ、オレンジジュースでいいです」

私が断ると店長はムッと眉間に皺を作った。お酒を飲みながら深い話がしたい心境も分かるが、私にもこだわりがあるのだった。

「店長、ヒカルさん胸を触られたのが嫌で辞めたそうですよ」

私は思いきって口にした。
風俗を初めたばかりの時に、優しく手を差し伸べてくれたヒカルさんの話。気がついたら辞めていた彼女との思い出を、誰かと共有したかったのかもしれない。

「あー……最悪だよなぁ」

隣を盗み見ると、店長はお酒を飲みながら渋い顔をしていた。

「この仕事はストレス溜めてまでする仕事じゃねえんだよ。嫌なら無理しないで辞めて良いんだぞって言ったら、本当に辞めちゃったな。あの子」
「……そうだったんですか」

私はオレンジジュースを1口飲んだ。甘い果実感に苦味が混ざっている気がした。

「でもな、人って慣れてくもんなんだよ」
「……?」
「お客さんに頼まれて1回断っても、2回、3回頼まれ続ければ『じゃあやってみようかな』って思うし、やってみたら嫌じゃなかったりするし。この仕事が長い女の子ほど色んなことを受け入れてる。みんな、そうなっていくんだよ」

店長の吐いた煙が目に染みた気がして、私は思わず顔を伏せた。
__店長が暗に、私にも受け入れて欲しいと言っていることが分かってしまった。
この人は私にご飯を奢ってくれる。優しい声掛けもしてくれる。
でも根本が真っ当ではない感じがした。
やっぱりこの人のことを、好きになれないのが分かってしまった。


「__先出てるな。ゆっくり食べてていいよ」

居酒屋を出る後ろ姿を黙って見送った。
こういう時、この人は大抵店先の喫煙所でタバコをふかしている。
吸い終わるのに5分ぐらいかかるだろうか。
待たせないようにと、私は残っていた生姜焼きとご飯を一気にかき込んだ。

「すみません、お会計を」

スマホで時間を見ながら店長の置いていった3000円を出す。

「ゆゆさんはよく食べますね〜まいど〜」

居酒屋の主である三上さんが笑っていたが気にせずにお店を出た。

「す、すみません、お待たせしました」
「イヤイヤ、急がなくっていいって。俺にまで気を使うなよ。食べ終わってすぐに運動するなって、小学校の時言われたろ?」
「いえ、初めて言われましたけど。まぁ、ありがとうございます」

食べすぎて胃もたれをおこした私が落ち着くのを待ってから、店長は歩き出した。私も日傘をさし、店長の隣を並んで歩く。

「リンちゃんから聞いたんだけどさぁ、ゆゆ、風俗嬢辞めようとしてる?」
「え?」

いきなり聞かれて驚いた。
辞めたい、辞めたいのか……。

「……どうだろ、辞めたいのかな、私」
「うーんまぁストレス溜めてまでやる仕事じゃねぇよなぁ」

店長は引き止めなかった。隣を見るとその細い目と視線があわさった気がした。

私の表情を、観察していた気がする。

「ヒカルさんが辞めちゃってから、ずっと悲しかったんです。私」
「うーん、そんな感じはしてたんだよなぁ。止めねぇよ、俺は」
「……そうですよね」

なんとなく会話が続けられなかった。
店長を裏切ってしまう気がして、何も話せなくなってしまった。

「ヒカルのこと、ゆゆはもう気にしなくて良いんじゃねぇか?」
「……」
「ヒカルはお客さんと結婚して幸せになったんだから、お前はもう気にしなくていいと思うけど」
「……____ぇ?」
「……?知らなかったのか?」

店長がびっくりした顔をしている。
その何倍以上も私はびっくりした顔をしているだろう。

__え?結婚した?ヒカルさんが、お客さんと?

「聞いてないです……私、教えてもらってないです……」

言い訳するみたいに言ったけど、違う。
私が聞かなかっただけだ。

あの日、ヒカルさんは缶コーヒーとクッキーを持って話しかけてくれた。

『ゆゆちゃんは、この仕事楽しい?』

その後に続く言葉をずっと考えていた。
こんなに幸せな言葉が続くなら、ちゃんと聞けばよかったし。こんな大切なこと、ヒカルさんの口から直接的聞きたかったのに……。

ぼーっとしていると店長は続けた。

「ヒカルは売れなかったけどずっと通ってくれる本指は何人かいたんだよ。客と結婚する風俗嬢なんて俺がこの業界10年やってて、__大体3人目ぐらいかな……。素直すぎるやつだったけど、それが逆に良かったのかもなぁ」
「素直すぎるけど、良かった……?」

店長はさっき
『嫌だと思ったこともそのうち慣れていく。』
と言った。
風俗を長くやってる子は、心がだんだん死んでいって、嫌なことも受け入れてしまうんだろう。

それが正しくないことは明らかだった。
だって慣れる前に、傷つきはするんだから。
ヒカルさんはそれで傷ついて、辞めてしまったんだから。
受け入れろというのは無理がある。

「……わたし。私も、お客さんに救われたって、言われたことがあるんです」
「ははは、なんだそれ」
「否定されないことが嬉しいって。頑張ってる私と会えて、救われたって言ってくれる人がいて、それがスゴく、嬉しかったんです」
「……俺も応援してるよぅ、ゆゆが風俗嬢頑張るの」
「はは、応援してるんですか」

なんでもないように返したけど、胸の奥がじんわり熱くなって、目の奥が痛くなった。

「ストレス溜まったら辞めてもいいけど、応援はしてるんだよ、だから飯も連れてくんだよ」
「……」

“応援してる”
っていい言葉だ。
私も元の職場のお局や同期に“応援してる”って、素直にそう言われたかったのかもしれない。

“どうしてそんなに効率が悪いの?”
“私がゆゆちゃんなら辞めてるな〜”

別に注意されることや慰められることが悪なんじゃなくて、そこに“私のために言っている”って裏の意味が無かったからしんどくなっちゃったんだろうな。

その言葉の意味があったら続けられてたのかな、なんて。

「私、自分の意志で頑張ってみます。
店長は『嫌なことにも慣れていく』って言ったけど、私はやっぱり嫌なことは断ります。
それでも、一緒にできることを探していきたいんです。
私は風俗嬢だけど、一人の女の子として、お客さんと向き合いたい。
__……店長の考えとは違うかもしれないけど、応援してくれますか?」

ちょっと嫌味の気持ちで言った。
店長はちょっと沈黙してから、

「応援してるよ。飯もさんざん奢ってきたしなあ」

と言った。
ふと目の前を車が通りすぎ、店長が車道側を歩いてることに気が付いた。
もしかしていつもそうだったのかな。
なかなか細かい所に気を使われていることにやっと気がついた。
私も、やっと成長してきたのかもしれない。

『ゆゆちゃんは、この仕事楽しい?』
いつかヒカルさんはそう聞いてきた。
楽しくなるかは、自分次第だと思う。
少なくとも私は、少しだけ前を向けるようになった。

私の中にあったしがらみが、ちょっとだけほどけた気がした。



♢♦



🍀ここまでお読みくださってありがとうございます!
ヒカルさんは救われていたというお話と“ゆゆ”が風俗嬢としてこうありたいなと決意するお話になります……!毎回伝わったかな?と思いながら書いているのですが、どうでしょうか……?
分かりにくいところなどありましたら教えで頂けると嬉しいです!

🍀最後になりましたがいつもアドバイスや感想とても嬉しく思いながら読ませていただいております!
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!

次回の更新は7月17日木曜日です!

あと3話でお話は終わりますので、一緒にお付き合い頂けると嬉しいです!(*ˊ˘ˋ*)


前回のお話はこちら👇



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