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⑥話 光と陰とゆゆと 【これは、風俗を通して自分を赦す物語】  #お仕事小説部門投稿作#創作大賞2025

これまでのあらすじ

★女の子が怖い。でも、仲良くなりたいと思ってしまった――。
初めての夜職、不安でいっぱいだった私の前に現れたヒカルさん。
優しくて、飾らない彼女に惹かれていく一方で、
その笑顔の裏にある「陰り」が、ずっと気になっていた。

#これは風俗を通して自分を赦す物語



①話 向いてない仕事と、優しさで首を絞める人達
②話 待ち合わせは11時、ショッピングモールの前で
③話 魔法少女に変身したかったみたい
④話 女は秘密を着飾って美しくなるbyベルモット
⑤話 今日は、『可愛くない』って気づいた日。
⑥話◀︎NEW

全⑲話予定🍀




 本当は、私は女の子が苦手なんだ。特に歳の近い子が怖い。彼女たちは私と同じフィルターを持って、同じ歳の女の子を判断できる。つまり私がいかに仕事ができず、人として“おかしい”のかわかってしまう。

もう私は傷つきたくなかった。

なのになんでだろ。

同い年ぐらいのこの子とは、仲良くなりたいと思ってしまった。

「分からないことがあったらなんでも聞いてください。といっても、私も3ヶ月前に入ったばっかりなんですけど」

 運動部っぽい女の子が戸棚に入った浣腸液を整理しながら言った。事務的な内容だが、こんなことをいう夜職の子は他にいないだろう。店長やスタッフの仕事なのに、彼女は親切心からそれを買ってでる。

「なんであなたみたいな人が風俗に?」

 頭をよぎったが聞かなかった。普通に失礼だし、私の性格的にもそこまで踏み込むことができなかった。もし、会社の先輩に彼女のような人がいたら、私の人生も何か変わったのかもしれなかったなと、ふと思った。

「分からないこと……。実は、私夜職はここが初めてで。分からないことさえ分からないんです」

 ちょっと恥ずかしそうに言うと、彼女は大袈裟に口元に手を当てた。

「え!一緒!一緒です!私も夜は初めてで分からないことだらけなんです!でも、大丈夫ですよ。ここは幸い優しい人達ばっかりだから、きっと丁寧に教えてくれますよ」

皆が優しくしてくれるのはあなたが優しく、愛らしいから。その飾らない様子に少し嫉妬したが、それ以上に「初めて」と聞いて嬉しくなった。

私と一緒だ。

それだけで、この人のことが好きになる。

「自己紹介がまだでしたね。私はヒカルです」

お店のサイトに彼女の名前があった。

あ、源氏名を名乗るんだ。
そうだよね。本名なんて、教えてくれるハズないか……。

普通の仕事だったら偽名なんて使わないだろう。
本音が話せないことを辛いと思う日が来るとは思わなかった。

「あ、私はゆゆです」
「仲良くしてくださいね、ゆゆちゃん。夜職が初めてって不安なことだらけですよね。何か聞きたいことありますか?」

 聞きたいことってなんだろう。まずどうやってホテルに入るのか。いつお金を貰うのか、タイマーを押すのはシャワーの後なのか。全部分からないことだらけだ。ぽかんとしてる私にヒカルさんは優しく笑って
「まずホテルに入ったら」
の流れを説明してくれた。

「なるほど、お尻と前でイカせるんですね……。男の人って、本当にお尻でイクんですか?店長から渡されたマニュアルは難しいことばっかり書いてあって......。私下手くそだったらどうしよう」
「大丈夫大丈夫。最初は常連さんしか接客しないから、お客さんが優しく教えてくれるよ。私も最初不安だったけど、あの人たちはお尻のプロだから言われた通りにすればすぐ気持ちよくなってくれるの」
「そ、そうなんですか」

 お尻で気持ちよくなる……。言われてみても想像つかない。
お客さんも、怖い人が来たらヤダな。

私が不安そうに俯いていると、ヒカルさんがふふ、と笑った。

「なんだかゆゆちゃんって妹みたい。お姉ちゃんいる?」
「い、妹?えっと、お兄ちゃんならいます」
「あ、やっぱり。私年の離れた妹がいるんだけど、ゆゆちゃんを見てるとなんだか思い出しちゃうな」

い、妹?
完全に年下扱いだ……。

年齢よりも若く見られることが恥ずかしい時もあるけど、今はくすぐったくてどこか暖かい。

  私、ずっとこの人と一緒にいたい。もっとヒカルさんと仲良くなりたい。

「ヒカルさん、LINE見てください。指名入りましたよ」
「あ、はい」

 ふいにヒカルさんが店長に呼ばれた。スマホを開き、LINEを確認する。
 
「あ、やだ……この人……」

彼女の可愛い顔が、何かを押し殺すように、一瞬陰った。
 
……ヒカルさん?

 どうしたんだろう。何が、彼女を不安にさせるんだろう。声をかけたかったが、当然のように私は何も言えなかった。
私は悲しかった事は沢山あるけど、悲しそうな人に声をかけたことなんて、きっと1度も無かったから。

「ふぅ……ゆゆちゃん、頑張ろうね」

 ヒカルさんは暗い声で言った。本当は自分に言ったんだろな。と思うと、胸がきゅっと締め付けられた。

「……」

 彼女はヨイショ、っと大きなカバンを肩にかけ、学生のような後ろ姿でホテルへと向かった。やっぱり、その後ろ姿は年相応に、幼く見えた。

 ああ、あの時の表情の意味はなんだろう。
思い出すと、なんだか悲しくなる。

本当は彼女ともっと、色んな話をしたかった。

夜職って怖いよね、とか。

どうしてこの業界に入ったんですか、とか。

胸の内をもっと全部さらけ出して、このモヤモヤを空っぽにしたかったし、彼女の話も聞かせて欲しかった。

私は、本当に、もっとヒカルさんと仲良くなりたかったんだ…。

「ゆゆさんもLINE見てください。お客さん入りましたよ」
「……え?」
「一緒に荷物用意して流れをおさらいしましょう。あと10分ぐらいやったらホテルに行きましょうね」

時計を見て急かす店長。まるでアリスの白うさぎだ。
『急がなくちゃ、急がなくちゃ』
丸いかけ時計も急かすように、チクタク、秒針を刻んでいく。

さっき面接して、もうお客さんを取るなんて。

なんでこんなに急かすんだろう。

私は不安で、初めてで、心の整理だってついてないのに。

どうしてこんなに無神経なんだろう。

もっと私のことを考えてよ。
もっと私に、逃げ道をちょうだいよ。

 店長に物品の説明をされた。
ヒカルさんにも言われてたから、2回目の説明。
なのに知らない言葉みたいに右から左に話が流れていく。
この人の言葉が私の中に響かない。

ちゃんと聞かなきゃ。だめだ。失敗しちゃう。

焦れば焦るほど汗が吹き出す。

頭が真っ白になる。

あ、この感じ。

前の仕事と一緒だ……。


公務員の仕事。
お局。
カラカラの喉。
止まらない汗。
脳内で観客のいない映画が流れる。
この映画に意味は無い。

            だけど、映像は、止まらない。

ーーどうしてこんなに効率が悪いの?
ーーそれ前にも言ったよね。メモは?まとめてないの?

同期はみんな帰った。パソコンの前で1人で作業する。モニター越しに泣いている女の子がいる。

すみません。
すみません。
すみません。

 
何をそんなに謝るの?
何をしちゃったの?

ーーーーー分からないよね。

眠れない夜。
閉じ込められたトイレ。
誰も私を助けない。

私は私を、救えない。

………………………………

 気がついたら私は、何も分からないまま、ホテルへと向かっていた。

 空は曇天。重たい雲がお日様を隠し、どんよりとした灰色を溜め込んでいる。

 「あ、これ、雨が降りそう」

さっきまであんなに晴れてたのに。
振り向くとあの時見た信号と、白線。
その上を、パリッとしたスーツを着た、新卒の女の子が歩いていく。
ヒールはツンと尖って、背筋は伸びて、私と正反対の方に、歩いていく。

私はそれを、見なかったことにした。
罪悪感で、今にも押しつぶされそうだったから。

「私は私を、救えない」

そう小さく呟いた。

 冷たいコンクリートの上に書かれた、薄くぼやけた白線が、涙で滲んでるように見えた。



♢♦♢♦

🍀第1章▶︎第2章▶︎第3章を予定してるのですが、ここからが第1章の山場かなと思います。

私が1番書きたかったエピソードになりますが、
私の後悔と痛みが深い分、なんとなくしんどくなってしまうエピソードかとも思います。
悲しいだけでは終わらないので、どうかゆゆの物語にもう少しお付き合い頂ければ幸いです。

🍀最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。たまたま立ち寄ってくれた方も、いつも読んでくださったり、コメントを下さる方々に、心から感謝しています。

よかったら、感じたことや共感した場面など、どんなことでもコメントで聞かせていただけたら嬉しいです(ˊ˘ˋ)


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