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⑮話 整形したリンちゃんは可愛いって言われるのが嫌い 【これは、風俗を通して自分を赦す物語】♯お仕事小説部門♯創作大賞2025

【これまでのあらすじ】

★風俗嬢の“ゆゆ”は、同僚リンちゃんとのすれ違いをきっかけに、夜の街へ“夜遊び”に出かける。
初めてのホストクラブで垣間見たのは、リンちゃんの切ない恋と、深く抱えた孤独だった。
整形を告白する彼女の過去と向き合いながら、ゆゆは“可愛い”という言葉の意味を考える。
金木犀の香る夏の終わり、ふたりの間に芽生えたのは、名前を呼び合える本当の友情だった。

♯これは、風俗を通して自分を赦す物語

①話
②話
③話
④話
⑤話
⑥話
⑦話
⑧話
⑨話 聞いてください、お母さん。私、風俗で働いているんです。
⑩話 風俗嬢って楽しいの?
⑪話 「ヒカルちゃんはやってくれたよ」って嘘だよね?
⑫話 店長は、ちょっとだけお父さんの匂いがする
⑬ 話 「ゆゆちゃんってアタシのことバカにしてるでしょ?」
⑭話  初めての“婦警さんごっこ”でやらかした話
⑮話▶︎New!

全19話予定🍀



「リ、リンちゃん……」
「うわ、なに?」

事務所のBARカウンターに座ってスマホを見ていたリンちゃんが、ギョッとした声を上げた。
私は持っていた仕事道具をカウンターの上に置くと、彼女の顔を真っ直ぐに見た。

「この前はごめんね。私、嫌な言い方をしたと思う。……リンちゃんに励まされて嬉しかったのに、傷つけてごめんね」
「__ぇ、あ、ああ」

ポカン、と口をあけるリンちゃん。
ちょっと間が空いてから、彼女はニヤッと笑った。
 
「さすがまじめちゃんだね」
 
馬鹿にした発言だが、あまりにも嬉しそうに言うので驚いた。
言外に“しょうがないから許してあげる”が含まれている気がした。

 
「ゆゆちゃん、この後空いてる?ちょっと夜遊びしよ」
「よ、夜遊び……?」
 
口元に人差し指を当て、ウインクするリンちゃんの目はイタズラ好きの猫のように細く伸びていた。
“夜遊び”という言い方は、ちょっと意味深で、ワクワクする魅力を放っていた。

その魅力に取り憑かれたように、気がついたら彼女の手を取っていた。
 
 



 
「ゆゆちゃんって本当にホストクラブ来るの初めてなんだねー」
「は、はい……初めてです……」
 
リンちゃんに改めて言われ、上擦った声が出た。なぜか隣に来るホスト全員にも、同じことを言われる。
――なんでバレるんだろう。
もしかしたらこんなにガチガチになるお客は、あまり居ないのかもしれない。
煌びやかな内装、騒がしい音楽、笑顔を振りまくホストたち。
お金を払ってまで男の人に相手をしてもらうなんて、私はなんて浅ましいんだろう。
そんなんことを考えてしまい、さっきからずっと嫌悪感が止まらなかった。

「ゆゆちゃんリラックスして!」
「む、無理かもしれない。私はなんでホストクラブにいるんだろう」
「あははは、まじめちゃんすぎー」

リンちゃんのツボに入ったようで、初心なのをいじられ続けてしまった。

「も、もうやめてよそれ。__それより、リンちゃんの担当さんはどれなの?」
「……__え?えーと」
「……?」
「あはははは、まあ待っててよ」

どこか素っ気ないリンちゃん。
その顔があまりにも切なそうだったので、思わず喉が乾き、グラスに入ったオレンジジュースを一気に飲み干した。

__リンちゃんの“好きな人”なのに、なんでこんな顔をするんだろう。

ふと彼女が一点を見つめ、嬉しそうに口元を手で覆った。
視線をたどって見上げると、そこには、こちらをのぞき込む背の高い男の子が立っていた。



「来てくれたの?リン」

少し幼いような、けれど甘く響く声だった。
はだけたシャツからは香水の香りが漂ってきて、リンちゃんもこの香水をつけていることに気がついた。
二人が親密な仲なのを、ちょっと意外に感じた。

「もう!遅いよ!」

__あ、リンちゃんってこういう声を出すのか。

ゴスロリの服装も相まって、拗ねた顔が可愛く見えた。
だけど、男の人は違ったみたい。鬱陶しそうな顔で、膨れるリンちゃんを眺めていた。

「はいはい。それ飲んだらちゃんと帰るんだよ」
「__全然話してくれないんだ」
「だってリン、稼げてないじゃん」

__うわっ。

生々しい会話に驚いていると、彼はチラッと私を見た。

「リンのメンケアお疲れ様。君もはやく帰ってね」

「……」

__え?いまの、何?

隣を見ると、不貞腐れたようにソファに座り直す彼女の姿があった。

「あの人、また戻ってくるの?」
「ううん、今日はイベント日だから、もう戻ってこない」
「……え?」
「アタシもシャンパンおろせるし、もっと高いのも払えるよ。なのにアタシのお酒は要らないっていうの。アタシはすぐメンヘラになるのに、稼ぎ悪いから、面倒臭いんだって」

稼ぎが悪い?
リンちゃんはあんなに働いてるのに、それでも稼ぎが悪いって言われるんだ。

「コスパの悪いアタシよりも、他の女の子に時間を使いたいんだって。」
「……えっ、」
「友達呼んだらちょっとは構ってくれると思ったのに。……__結局アタシは、もうダメみたい」

リンちゃんはあの男の人に、何を求めてるんだろう。
分からないけど、今にも泣きそうなこの子と、誰かの姿が、重なったように見えた。

「り、リンちゃん、もう出よう」

なぜかビックリした顔のリンちゃんと目が合った。
私がこんなこと言うとは思ってなかった。
そんな顔だった。

「リンちゃんはもう頑張ったから、もういいんじゃないかな。一緒に出て、アイスでも食べて、一緒に帰ろう」
「ははは、何それ。__でもゆゆちゃんが出たいなら……。うん、出よっか」

伏し目がちにそう言ったリンちゃんの声は震えていた。
私の声も、震えていたのかもしれない。

__1人だと寂しくて帰れなくなっちゃうから、リンちゃんは私を呼んだのかな。

そうだとしたら、一緒に“夜遊び”できて良かった。
リンちゃんを1人にしなくて、本当に良かった。





私たちはホストクラブを出て、意味もなく隣の駅まで歩いていた。
夜の空気はじっとりしていて、私は鬱陶しく思いながら首筋の汗を拭った。
隣を見ると、ショーウィンドウに映った自分の顔をじっと見る、リンちゃんの横顔があった。
__何を見てるんだろう。
不思議に思って眺めていると、ふいにリンちゃんが口を開いた。

「ゆゆちゃん、聞いて。アタシ整形してるの」

なんの前ぶれもない告白だった。
チョコレートのような綺麗な鼻を見て、なんて言おうかと戸惑った。

「__あ、そうなんだ」

「…………。」 

しばらくの沈黙の後、私は口を開いた。

「整形って、どこを整形したの?」
「鼻と目と顎」

 __ほぼ全部だ……。

「私の前の写真、見たい?」
「えっ?」

隣を見るとリンちゃんは下を向いていた。
表情が分からないから文脈でしか察せない。
歩く速度が少しずつゆっくりになっていく。
ピタッと立ち止まって、私は片手を彼女に差し出した。

「み、見たい。見せて。」

見てなんて言おう。
そう考えるより先に声が出てた。

「……ちょっと待って」

リンちゃんはスマホの画面をスクロールした。

「はい」

と差し出してきた携帯を受け取る。
画面の中の少女を見て、私は浅く口を開いた。

……__素朴だ。

ブスでは無い。
二重ではあるが印象の薄い目元。
日本人っぽい団子っ鼻。
人によっては可愛いと感じる、控えめな笑顔。

__リンちゃんは、何をきっかけに整形しようと思ったんだろう。

誰に何を、言われたんだろう。
 
彼女が髪を耳にかけた。
高い鼻が見える。
大きくてくっきりしたアーモンド型の瞳が私の方を向いていた。
今の彼女も素敵だが、昔の彼女も素敵だったと思う。
昔の彼女とだったら1目合って友達になれただろう。今の彼女は綺麗だが、どこか近寄りがたい雰囲気をしていた。

「今も可愛いけど昔も可愛いね」
「アタシね、可愛いって言われるの嫌いなの」
「……えっ」

__リンちゃんもこんな暗いこと言うんだ。

「皆どうせ“可愛いって言っとけば良い”って思ってるんでしょ。客にも可愛いって言われたらずっと不機嫌になるの。だから可愛いって言わないで」
「…………」

じゃあなんで整形したの?

思ったが、口には出せなかった。

スマホをしまう彼女の様子から、話は終わりだと告げられた気がした。

「……あのね、リンちゃん。リンちゃんのこと、私は可愛いって思うよ。今も昔も、可愛いと思うよ。でも今の方が万人受けする可愛さだよね。可愛い服とか似合いそうだよね」

お世辞かどうか分からない。違う。本心だ。
彼女は顔を上げて私を見た。瞳の奥が揺れている気がした。勝手にそう思っただけかもしれない。

「可愛くなんてないよ。ブスだよ。」

消えそうな声で言われて、何故か泣きそうになった。
夏の風が頬を撫で、走り去っていく。この静かな心地良さを、彼女は感じているだろうか。
 
静かに泣く彼女は、整形して幸せになれたのだろうか。
 
どうにかして彼女に、笑顔になって欲しい。
なぜかふいにそう思った。

「LINE交換しない?」
「……?」

私が言うとリンちゃんは怪訝そうな顔で私を見た。風俗嬢がLINEを交換し合うのは、滅多にないことだった。

「良かったらでいいけど。あ、嫌だよね。ごめんね。なんでもないや」
「……いや、いいよ。いいけど絶対漏らさないでよね。個人情報」

わざとちょっと意地悪な言い方をされた気がした。だけどそんな言い方になるのも分かってしまう。

LINEには個人情報……つまり本名や顔写真が映っている。
それを流出されたら、私たちは社会的に死んでしまう。それなのにLINEを交換するのは、明らかに“特別”なことだった。

「リンちゃんも秘密にしてね」
「当たり前。どんだけアタシって信用ないの?」

リンちゃんが先に『漏らさないで』って言ったのに、なぜか文句を言われた。リンちゃんのちょっと自信の無い、普通の女の子な一面を見て、自然と笑顔がこぼれていた。
私はスマホを取り出し、QRコードを読み取った。
友達追加の所に女の子のアイコンが出てくる。
 

__リンちゃんって本当は、優子ちゃんって言うんだ……。
 
優しい子。優子。私の世代ではちょっと古い名前だけど、なんだか昔の彼女とはしっくり合う感じがした。

「可愛い名前だね」

私が言うとまた彼女は先程と同じように

「だから言わないでって」

意外と優しい声で笑っていた。
細められたその目を見て、なぜか昔の彼女に触れた気がした。
私にやっと、本音で話せる友達ができたのが分かった。どこからか金木犀の香りがして、夏の終わりを告げている気がした。

「よろしくね、優子ちゃん」
「うわ、やめろ」

夜の繁華街で笑い合う私たちは、年相応の友達同士に見えた。私たちはお互い違った種類の傷があるけど、それでも笑い合えることが、何よりも嬉しく感じた。




♦♢



🍀ここまでお読み下さりありがとうございます(*ˊ˘ˋ*)

本当は昨日更新予定だったのですが間に合わず申し訳ありません…!
それなのに優しいコメントを頂けて、とても感動しました✨
なんて暖かい世界があるんだろうと感じました…!
この回は言いたいことがたくさん合って纏められず、ギリギリまで書き直していたので誤字や変なところがあったら教えて下さると嬉しいです…!
他にもお気軽にコメントくださるととても喜びます(⌯'ᵕ'⌯)´-

最後になりましたがここまで読んでくださりありがとうございました!
次回は火曜(7月15日)更新予定です!
あと4回で連載は終了しますので、見守っていただけると嬉しいです…!


次のお話はこちら👇🏻

前回のお話はこちら👇


リンちゃんと喧嘩した話はこちは👇🏻


私のエッセイの中で1番読んでくださった方の多い回になります👇🏻
こじらせているのでぜひ!笑



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