⑨話 聞いてください、お母さん。私、風俗で働いているんです。【これは、風俗を通して自分を赦す物語】 ♯お仕事小説部門部門 ♯創作大賞2025
これまでのあらすじ
★お母さん、お母さん、お母さん。
風俗やヒカルさん。
色々な罪悪感の中で、押しつぶされそうになる。
縋るように連絡したのは、
過干渉で、あまり仲の良くない、お母さんだった。
♯これは、風俗を通して自分を赦す物語
①話 向いてない仕事と、優しさで首を絞める人達
②話 待ち合わせは11時、ショッピングモールの前で
③話 魔法少女に変身したかったみたい
④話 女は秘密を着飾って美しくなるbyベルモット
⑤話 今日は、『可愛くない』って気づいた日。
⑥話 光と影とゆゆと
⑦話 風俗嬢と初めてのお客さん
⑧話 大好きなあなたに、“大丈夫?”が言えない。
⑨◀︎NEW!
全19話予定🍀

風俗からの帰り道、私は1人で歩いていた。
遂にやってしまったという気持ちがあって、そこには後悔と、罪悪感と、嫌悪感が、ぐるぐる渦巻いて、喧嘩しているみたいだった。
ヒカルさん。
彼女の涙が頭の端っこにいて、ずっと離れない。このぐるぐるの気持ちは、なにも風俗のことだけじゃない。ヒカルさんに対しても、抱いてる気持ちだった。
こんな時に頭に浮かんだのは、あまり仲良くない過干渉のお母さんだった。
私は何ヶ月かぶりに、お母さんに連絡していた。
ーー元気?
送信すると、すぐに返事が来た。
ーー元気だよ、どうしたの?
どうしたの?って、なんだか不自然だ。まるで用がなきゃ連絡しちゃいけないみたいで。
私たちは気軽に連絡する仲じゃないし、私に気軽に連絡できる友人はいない。
人に壁を作って生きてたら、いつの間にか1人になっていたってだけの話だ。
ーー元気にしてるかなって、気になっただけ
適当な話題を見つけて送るが、返信が止まる。
既読はついていたから何を送るか迷ってるのかもしれない。
過干渉なくせに不器用な、お母さんらしい戸惑いだった。
私も迷ってる。
ずっと迷ってるんだよ。
お母さんは娘へのちょっとした声掛けで迷ってしまう。
実家に住んでる時私を「寄生虫」と呼び、
喧嘩になったのを反省してるのかもしれない。
私も風俗に片足を突っ込んだくせに、
今更逃げることを考えていた。
きっと、私の見切り発車なところも、
すぐに悩んじゃうところも、
お母さんに似たのかもしれないね。
あと、ちょっと口が悪くて、
怒りっぽいところも、
お母さんに似たのかも。
「……」
私はそこそこ田舎に住んでいて、夜になると田んぼに住んでるカエルが鳴く。
1匹とか2匹とかじゃなくて、すごくたくさんの、色んな種類のカエルの大合唱だ。
ゲコゲコゲコゲコゲコ
お母さん、お母さん。
聞いてください、お母さん。
私、風俗で働いているんです。
M性感っていう、男の人のおしりをいじってお金をもらう仕事をしてるんです。
ヤらなきゃ、
体に触れられなきゃ、
体を売ったってことには、
ならないのでしょうか。
心は売らなければ、
穢れてないと、
まだ胸を張って言っていいのでしょうか。
小さいカエルが道路ではねた。
ここの景色は悲しいぐらい、私が住んでいた田舎に似ていた。
『みてみて、お母さん、オタマジャクシ捕まえられたよ』
『ゆゆちゃん、上手だね。オタマジャクシ捕まえるの上手いんだね』
あの頃はスルスルとたくさんのことを褒めてくれた。
でも、いつの間にか褒めてくれなくなって。
知らないうちに大人になって、気がついたら他人になってたね。
鼻水が出ていた。ティッシュが無い。鼻をすする。
頬を涙が伝った。
一筋だけ流れたそれを見て、なんで被害者ぶるんだろう、と不思議に思った。
例えば風俗をしなかったらどうしてたんだろう。
派遣社員にでもなるのかな。
ちょっと大きな会社に派遣されて、契約期間までにいい人ができるの。
ちょっと年上で、優しくて、ちょっとえらい立場の人と付き合いたいな。
トントン拍子に上手くいって、結婚して、子供が生まれて。
ただ私、嫌なことが、あってね。
私、誰かのために生きるのが、死ぬほど嫌いなの。
誰かのために早起きして、朝ごはんを作りたくない。
たまにはやってよ、って思いながら食器を洗ったり、たまった洗濯をため息をつきながら回したりするのが、私、死ぬほど嫌なの。
誰かのために一生生きていたくなんてない。
不満を抱えてまで誰かと生きることが、幸せだと思えない。
お母さんもそれが嫌で離婚したって言ってた。
こういうところも似たのかな。なんて。
「っあ」
いつの間にか涙が止まらない。
したくない事ばかりだ。
仕事もできないくせに、誰かのために生きることも、できない。
うるさい。
ずっとカエルが鳴いていた。
カエルの声だけはあの頃と変わらず、
お母さんと仲が良かった、あの頃と同じに、鳴いていた。
しばらくするとLINEのピコン、という音がした。
見てみると無料のスタンプ1つが返されていた。
グッジョブ!
と親指をニコニコ笑顔で上げているキャラクターに少し笑ってしまう。
私は言いたいことが言えない。
お母さんも言えない。
お互い可哀想なぐらい不器用である。
人のために生きたくない私は、自分のために風俗嬢になった。
嫌いな事ばかりでたまに被害者ぶって泣いてしまうけど。
似た者同士の私たちは、
不器用ながらに生きていこう。
そうして嫌になったら、
持ってるもの全部を投げ出して、
私のことを、誰も知らない場所へ逃げてしまおう。
投げ出す前にまた、お母さんにLINEするかもね。
不器用なお母さんはきっと、スタンプ1個で返事するんだろうな。
それがなんでか、ちょっと物足りないけど、今の私には十分過ぎるほど、暖かかった。
やっぱり私って、お母さんの娘なんだな。
目の前で、カエルがぴょこんと跳ねた。そうして、田んぼの中に、潜って行った。
「カエルもオタマジャクシのお母さんなんだよね」
そう思ったら、この鳴き声も、ちょっとだけ優しい感じがした。
第一章
“否定”終わり。
次回更新日 火曜
第二章“受容”始まり
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🍀コメントやスキやフォローを通していつも暖かく見守ってくださる皆様や、たまたま覗きに来て下さった皆様、ありがとうございます。
私の文章なんて誰にも見て貰えてないかな。という思いが根底にあるので、暖かく見守ってくださる方のお姿を見かけるととても嬉しくなります。
まだ物語は続きますが、どうか最後まで一緒に見守ってくださいますと幸いです(*ˊ˘ˋ*)
次回は火曜日に投稿予定になります🗓
第2章からだんだん幸せに向かっていきますので、もう少しお付き合い頂けたらとても嬉しいです!
次のお話はコチラ👇
前回の話はコチラ👇
ヒカルさんへの後悔の話になります
1番最初の話はこちらになります👇
過干渉のお母さんって?
のお話はこちらになります👇🏻
