⑧話 大好きなあなたに、“大丈夫?”が言えない。 【これは、風俗を通して自分を赦す物語】♯創作大賞2025 ♯お仕事小説部門
これまでのあらすじ
★ヒカルさんが泣いた。
いつかの私のように、1人で寂しく、泣いている。
あの時の“悲しい顔”の理由を知った私は、
彼女に、手を____
♯これは、風俗を通して自分を赦す物語
①話 向いてない仕事と、優しさで首を絞める人達
②話 待ち合わせは11時、ショッピングモールの前で
③話 魔法少女に変身したかったみたい
④話 女は秘密を着飾って美しくなるbyベルモット
⑤話 今日は、『可愛くない』って気づいた日。
⑥話 光と影とゆゆと
⑦話 風俗嬢と初めてのお客さん
⑧話◀︎New
全19話予定🍀

「戻りましたぁ」
しん、と静まり返った事務所に声をかける。
室内は薄暗く、光の届かない隅には、何かが潜んでいそうな闇が、ホコリのように溜まっていた。
「……おかえりなさい」
「あっ、ヒカルさん……」
先に戻ってたんだ。暗いから、誰もいないかと思った。
ヒカルさんは項垂れるように椅子に腰かけ、カウンターに肘をついていた。
その顔は私以上にやつれているように見えた。
何があったのか気になったが、臆病な私は、当然のように聞けなかった。
「はぁ……。ゆゆちゃん、どうだった?大丈夫だった?」
「え?ぇ、だ、大丈夫でした」
「そうか。大丈夫だったか。何か嫌なこと、されなかった?」
嫌なこと……。
嫌なことってなんだろ。うちはお尻と前でイカせる仕事。私は触られない。脱がない。ただ手を動かすだけ。技術職というか、事務作業というか。
「強いて言うならちょっと興奮しました」
「……」
ヒカルさんは肩をぴくりと揺らしただけで、何も言わなかった。
「イケおじが乱れてくのが、ちょっと良かったです」
「……」
「私好きなんですよね、お尻で感じる人。女の子が目の前にいるのに、興味が無い感じとか。なんかそういうの見てると、楽しくなっちゃって」
「…………」
ベラベラ、ベラベラ
お喋りな口が止まらない。
私こんなこと思ってたっけ。
もっと違う、傷ついてなかったっけ。
お金を貰ったからってこんなことするの嫌だなって思って、手が止まって、途中でプレイができなくなったんじゃないっけ。
私、なんで嘘ついてるんだっけ。
「……なんか楽しそうだね」
ヒカルさんがぽつりと言った。
私はその時はじめてヒカルさんの目を見た。
虚ろな目が私を見ていた。
あの時の優しい顔はなくて、明らかな心の距離ができているのを感じた。
「ゆゆちゃん見てると、羨ましい」
「……?」
「私さ、もう辞めたいんだ。やってて罪悪感がすごい。こんな親にも言えない仕事、気持ち悪いし。お客さんは私たちのことなんて考えてないし。ダメってことやってくるし。今日なんて、胸触られて、本当に、本当に、きもちわるいっ……。ぅ、ぅ、うう」
「ひかるさっ」
ヒカルさんは泣いていた。
もう限界だったのだろう。
目から大粒の涙を流して。
か弱い女の子が1人で泣いている。
いつかの私のように、女の子が1人で泣いている。
手を伸ばしますか?
伸ばしませんか?
私は。
私は、
伸ばせなかった。
彼女の痛みに触れながら、
「大丈夫?」
の一言が言えない。
だって、だって、
私は同い年の女の子が怖いから。
いつかの居酒屋で同期に笑われた時みたいに、いつ、優しく首を絞めてくるか、分からないから。
だから本音を隠して、警戒してる。
「大丈夫?」
って聞いて、誰かに踏み込むって、
それは、誰かに踏み込まれるってことだから。
自信が無い私は、ただ、冷酷に、沈黙した。
「ごめんなさい。私、疲れてるみたい……」
ヒカルさんは絞り出すように言った。
そうして、慌てて、逃げるように席を立つ。
「すみません、帰ります。帰ります……」
彼女は口元を抑え、まるで自分が悪いかのように、目を伏せていた。
待って、待って。
そう言えばいい。ただそれだけの事なのに。 かける言葉が分からない。
頭の中では饒舌に喋るのに、必要なことは口に出ない。
「 」
どうして。
こんなに、臆病なんだろう。
閉まった扉が“ガチャン”と鳴いて、私と彼女の決別を口にしたみたいだった。
いつか、寂しかった私に声をかけてくれた、優しい人を、私は、遠ざけてしまった。
違う。
違う。
聞いて欲しい。ヒカルさん。
私、本当に、あなたと仲良くなりたかったの。
でも、仲良くなれないのは、また本音を話して信じてあの夜みたいに傷つけられることが怖いから。
本当は私も気持ち悪かったですって言いたいし、
平気なフリして興奮したとか、
嘘なんてつきたくない。
本当はあなたに、
大丈夫?
って聞いてあげたかった。
優しく手を、差し伸べてあげたかったーーー。
……。
罪悪感で押しつぶされそう。
全部私が悪いんだ。
私が……。
どうしよう。どうにかしなきゃ。心を保たなきゃ。
そうだ、そうだ。お母さん、お母さんに相談しよう。
お母さん、お母さん、お母さん。
私はスマホを握った。気がついたら夜道を1人で歩いていた。
濡れたアスファルト。溜まった水溜まり。これは誰が流した涙なんだっけ。
私は私を、救えない。
私は誰も、救えない。
光ったスマホは夜道にはえたけど、私を照らす道標にはならないみたいだった。
♦♢
・しんどい話が多くて申し訳ありません……。
段々救われていきますので、少しお待ちくださると嬉しいです。
・次で第1章“否定”は終わり、第2章“受容”に入ります。
🍀いつも暖かいコメントをくださる皆様や、スキやフォローをつけてくださる皆様、少し覗きに来た皆様に、とても救われる気持ちでいます。
皆様が暖かく見守ってくださるので私も書いていて良いんだなと感じることができています。
まだ物語は続きますが、どうか最後まで一緒に見守ってくださいますと幸いです(*ˊ˘ˋ*)
次回は土曜日に投稿予定になります🗓
良ければまた見に来てくださるととても嬉しいです!
次回のお話はこちら👇🏻
前回の話はコチラ👇
初めてのお客さんとゆゆの話になります。
1番最初の話はこちら👇🏻
ゆゆはなんで臆病なの?
同期って誰?が出てきます
