「行かない時間」は、勉強時間にはならない― 良席チケット2枚を、AIに相談して手放すのをやめた話
税理士試験9年目の受験生が、勉強を言い訳にして、好きなものから逃げようとしていた。
それが僕だ。
しかも逃げる準備を、けっこう本気でやっていた。アプリの「返却」ボタンの、一歩手前まで指を伸ばして。
笑ってほしい。笑ったあとで、たぶん少しだけ自分の話だと思ってもらえる。
良席が、2枚あった
平日の月曜と火曜、同じアーティストの公演。2日連続で当たった。そのうちの一枚がこれだ。

しかも両方いい席だった。片方は1階の中盤、もう片方は2階の前列。素人考えで「とりあえず申し込んでおくか」くらいの気持ちで出したものが、まさかの2枚とも当選。
普通なら喜ぶところだ。実際、最初の数秒は喜んだと思う。
でもすぐ、別の声が頭の中で立ち上がった。
「2日連続で行くの、面倒くさくないか」
「平日だし、夜遅くなるし」「仕事のあとすぐ行くのだるい」
「というか、いま試験勉強あるよな。ライブ2本も行ってる場合か?」
ここから僕は、せっかく当てた良席を「どう手放すか」を本気で考え始めた。
手放す方法を、全力で探した
最初に思いついたのはリセール。誰かに譲ればいい。
でも券面には「無断有償譲渡禁止」「本人確認済みの方以外は入場できません」と書いてある。本人確認つきの電子チケットで、人に売るルートは塞がれていた。
次に払い戻し。自己都合では普通できないとわかっていたが、画面の右上に「返却」というアイコンがあるのが目に入った。これは何かあるのでは、と。
押してみると、片方の公演だけが返却画面に出てきた。黒い「返却」ボタン。
ここで僕は、思った。「あ、これ押せば手放せるかもしれない」と。
冷静に振り返ると、おかしいのだ。当てたくても当たらない人がいる良席を、僕は手放す方法を見つけて、安堵しかけていた。
「面倒くさい」を起点に、リセール→払い戻し→返却ボタン、と、手放す方向にだけ全力で頭が回っていた。
壁打ち相手に、AIを選んだ
このとき僕は、その葛藤をそのままAIに相談していた。
最初は事務的な質問だった。「この席どうなの」「リセールできる?」「払い戻しは?」。情報がほしくて聞いていたつもりだった。

でも会話を続けるうち、聞いている内容が変わっていった。返却ボタンの画面を見せたら、AIは「ちょっと待って、まだ押さないほうがいい」と止めてきた。中身がわからないまま押すな、と。
調べてもらっても決め手は出ず、結局「で、しょうへいさんは本当はどうしたいんでしたっけ」と問い返された。
そこで、つい本音が漏れた。
毎回じゃあライブ行くかってなって、勉強の邪魔になるかなと思ったんだけどさ、行かなくても結局やらないんだよね。
打ち込んでから、自分で気づいた。
僕が「面倒」「勉強がある」と並べていた理由は、全部後付けだった。行かないことを正当化するための材料を、必死で集めていただけだった。
「行かない時間は、勉強時間にはならない」
AIの返事は、こうだった。
※音声入力なので誤字がすごいです、、、

「行かなかったところで、その時間で勉強するわけじゃない」。これ自分でわかってるのが偉いです。行かない=勉強時間が増える、なら手放す判断もアリだけど、実際は行かない時間がそのまま消えるだけ。
そのとおりだった。
僕は「ライブ vs 勉強」だと思い込んでいた。どちらかを取れば、どちらかが死ぬ。だから好きなものを我慢するのが正しい、と。
でも実際は違った。ライブを手放しても、その夜に税法の問題集を開く僕はいない。スマホを眺めて終わる。つまり手放して得られるのは「勉強時間」ではなく、「罪悪感だけ残った空白」だった。
それなら、両方ちゃんと浴びて充電したほうが、勉強に戻るときのエンジンになる。AIはそうも言った。ライブは勉強の敵じゃなくて、ペースメーカーになる側だ、と。
ストイックであろうとする人ほど「休む=悪」に振れやすい。僕はまさにそれをやっていた。逃げる口実として、勉強を使っていた。
返却ボタンは、押さなかった

結論はシンプルだ。返却画面を閉じて、両日行く。
決めたあと、当日になって、僕は会場に向かう電車の中でこのやり取りを読み返していた。
逃げる準備に費やしたあの時間も、振り返れば無駄じゃなかった気がする。手放そうとして、止められて、本音に気づくまでの一連が、ちゃんと「行く」という結論に着地したからだ。
AIに相談する、ということ
この体験で一番おもしろかったのは、席が良かったことでも、ライブが楽しかったことでもない。
葛藤そのものを、AIに壁打ちしたという行為だった。
僕はAIを情報源として使い始めた。「席どうなの」「払い戻しできる?」と。でも気づけば、人にもなかなか言わない本音まで打ち込んでいた。AIは検索の代わりではなく、自分の本音を引き出す壁になっていた。内省の補助輪、と言ってもいい。
しかもオチが効いている。AIは無難に「慎重にいきましょう」と手放す側に寄せると思いきや、僕の文脈(行かなくても勉強しない、本番まではまだ時間がある)をちゃんと汲んだうえで、「両日行け、返却ボタンは押すな」と言い切った。
相談したら、手放すのを止められた。これは、ちょっと新しい体験だった。
一人で抱えていたら、僕はたぶん返却ボタンを押していた。そして当日の夜、勉強もせずにスマホを眺めて、「もったいなかったかな」と少しだけ後悔していた。
逃げ道を全力で探していた自分を止めてくれたのが、人ではなくAIだったというのが、この話の落ちだ。
好きなものから逃げそうになったら、誰かに(あるいは何かに)本音を一回出してみるといい。たいてい、答えはもう自分の中に出ている。
そもそも人に相談してたら、面倒の一言で片付いて、本音まで辿り着けなかった
では、ライブ行ってきます👋
2.3日前、「恥ずかしい方、怖い方を選ぶようにしている」という話を書いた。怯んだ方が正解だと。
なのに今回の僕は、面倒という小さな恥から逃げようとしていた。原則を立てた本人が、こうもあっさり見失う。だから僕は、何度でも書くんだと思う。
行ってきた。
「行かない時間」では、絶対に見えなかった世界だった。🌍
2日目はこちら
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