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《葬送のフリーレン》帝国の宿痾(歴史の改ざん)

ネタバレには配慮していません。

『葬送のフリーレン』の原作マンガはまだ読んだことがないという方には原作マンガを、既に読んだことのある方にはある一つの視点からの再読をお勧めしています。その訳をこちらの記事で説明していますのでお読みください。


はじめに

先日、「神話の時代の嘘」やゼーリエやミリアルデの「沈黙」について書きました。その続きです。

帝国編に入る前の単話に、帝国のヒンメル像・フランメ像が実際の姿から乖離してしまっているというエピソードがあります(第13巻120話「虚像の英雄」)。ここでフリーレンは「まあこういう変化は帝国では珍しくないかな」と言っているのですが、これは単に笑えるエピソードではなくて、帝国という国家の本質を描いたものだと考えています。

メタな話をすれば、長編の前の単話は、箸休めのような軽くて笑えるエピソードに見えるものであっても、実は長編のテーマと深く関わっていたり、物語全体に関わる重要な伏線が仕込まれていたりすることがあります。第13巻120話もそういったエピソードの一つだろうと思うわけです。

じゃあ、実際どうなのか?ということを見てみたいと思います。

神話の時代と統一王朝期

「帝国」という国家が何をやってきたのかについて考えてみたいのですが、最初に、神話の時代と統一王朝期にどのような出来事があったのか、私の理解を整理しておきます。

以前書いたものとちがいがあるかもしれませんが、考えを改めたと思ってください。直接的な描写がないために想像で補っている所もあります。クエスチョンマーク(?)は「作中ではそう説明されているが本当なのか?」という疑義を持っている点です。疑問や間違いの指摘等のコメントはもちろん歓迎です。

  • 神話の時代(女神様が地上に顕現していた時代)

    • 女神様による(?)天地創造

    • 大魔法使いゼーリエは魔族と戦っていた。聖杖の証もこの時代から存在する。女神の石碑が作られた。

    • 賢者エーヴィヒが魔導具・水鏡の悪魔、支配の石環を作った。(?)

    • クラフトはまだ生まれていない。

  • 統一王朝期(帝国がほぼ大陸全土を治めていた時代)

    • 聖典が約1,600年前に地上にもたらされた。(?)

    • 即位式で皇帝酒が配られた。零落の王墓が作られた。

    • フランメが生きていた時代。フリーレンが生まれた時代。

    • この「統一王朝」「大陸最大の統一帝国」「大陸全土を統一していた大帝国」が現在の帝国の前身。(第6巻53話、第13巻121話)

零落の王墓の壁画

零落の王墓は統一王朝期に作られた王(皇帝)の墓です。

アニオリで追加された隠し部屋の壁画には、王と共に女神様が描かれています。女神様は王を祝福しているようです。当時は既に女神様は地上から姿を消していますから、当然ですがこれは写実ではなくて王に都合の良いイメージです。当時の王は女神様を権威付けに利用していたことがわかります。(EP24)

もう一つ、アニオリで追加された壁画があります。賢者エーヴィヒを描いた壁画です。原作アニメでも賢者エーヴィヒは描写されていますが壁画ではありません。(EP24、第6巻50話)

このエーヴィヒの壁画には少し奇妙なところがあります。彼女の衣装です。

通常、神話の時代の風俗(建築物や人々の暮らし)は古代ギリシア風のイメージで描かれていて、人々は裁断や縫製の少ないシンプルな造りの服(巻衣)を着ています。(第11巻107話等)

しかし、壁画に描かれているエーヴィヒはわりと現代的な服を着ています。英雄だから立派な服を着ているのだ、とも言えますが…。(第3巻22話)

当時(統一王朝期)の人々が想像した「賢者エーヴィヒ」を描いたと考えるのが自然だという気がします。

※ エーヴィヒが羽織っているケープはゼンゼのものと似ていて、この点はまた作文しようと思っています。(第5巻43話)

帝国の宿痾

統一王朝期に何があったかを列挙すると…

  • 皇帝酒の配付(皇帝酒が最低の安酒であることは公知の事実だったが、後世には伝わらなかった)

  • 女神様を王の権威付けのため利用していた。

  • 聖典が約1,600年前に地上にもたらされた(ただし、僧侶アゴヒゲ像は聖典を持っているので、クラフト達の活躍の時期と整合性を欠くように見える。また、聖典の内容と矛盾する資料が存在していて、隠蔽されていると思われる)

  • 長く魔法の研究は禁忌とされてきた(第6巻53話)

  • 賢者エーヴィヒの壁画が作られたが、衣装は神話の時代のもの(古代ギリシア風)には見えない。また、彼女の英雄譚には多くの誤りがあり、魔導書は偽書だった。

こうやって見ると、当時の資料はことごとくあてにならないんですね。また、知識・情報を都合よくコントロールしようとする傾向も感じます。統一王朝期に大きな歴史改ざんが行われているのではないかという気がしてきます。

ヴァルロス(ラーゼン)の没落のエピソードや、ラダールの任務も想起すると、帝国には「不都合な過去は抹消・改ざんする」宿痾があるのかもしれないと思います。(第15巻146話、第13巻124話)

些細なことですが、フランメ像やヒンメル像の変化もそういう宿痾の表れ(徴候)ではないでしょうか。フリーレンは「こういう変化は帝国では珍しくはないかな」と言っています。つまり、これは他国ではあまり見られない帝国という国家の特徴だとフリーレンは感じ取っています。(第13巻120話)

予知夢での皇帝の説明を聞くと帝国には近代的・合理的なイメージがありますが、おそらく、もっとダーティーな一面がこれから描写されるのだと思います。(第15巻145話)

そうすると、皇帝酒のエピソードは、「皇帝酒は最低の安酒である」という公知の事実が公然の秘密となり、「秘さなければ残すことのできない知識」になり(オカルト化して)、ミリアルでの「暇つぶし」によって後世に生き残り伝わったエピソードとも読めるわけです。

こういった帝国の宿痾が、ゼーリエやミリアルデの沈黙と関係があるのではないか?という考察でした。

おわりに

併せてお読みください。

《葬送のフリーレン》に関する記事は下記のマガジンにまとめています。

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