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【連載小説】「愛の歌を君に2」#1 決意を新たに   



「愛の歌を君に」第二部の連載スタートです✨(第一部の一気読みはこちら。あらすじは以下掲載)今回は、第一部では描ききれなかった三人でのバンド活動が中心の物語になる予定です。第一部がまだ、という方でも楽しめるよう工夫しながら執筆予定ですので、ご新規さんもぜひ!


第一部・あらすじ

シンガーソングライターとして順調に活動していた麗華れいかのもとに突然、昔の仲間、拓海たくみから電話がかかってくる。彼は喉を病んでおり、死ぬ前にもう一度かつてのバンド、サザンクロスの名で活動したいと申し出たのだった。音楽スタジオで拓海、そして同じく仲間の智篤ともあつの演奏を聴いた麗華は二人の思いを聞き入れ、バンドの再結成に同意する。しかしその後智篤から、麗華がソロデビューのオファーを勝手に受けたときの恨みを今回の再結成で晴らすと聞かされる。
そんな智篤を心配する拓海は「あいつを救ってやって欲しい」と麗華に頼み込む。

麗華は智篤の心に寄り添うべく、年末のライブで彼の作詞作曲した歌を歌う。思惑通り智篤の心は揺れ動くが、それでも「絶対に赦さない」と抵抗し続ける。すると突然、彼の身体が老いてしまった。内なる自分からの警告だった。危機感を覚えた彼は、恨みを晴らす計画を進めつつ麗華との距離を縮める努力をしていく。

拓海の提案で急遽、共同生活を始めることになった三人。その中で拓海は余命を大切な仲間と過ごす時間に充て、麗華は自分の内から湧く言葉を音楽に、そして智篤は閉じきった心を少しずつ開いていく。

拓海はいつ死が訪れても後悔しないようにと最後の歌声をスタジオで録音する。しかし智篤は死に支度を進める拓海に激怒し、自分たちが作った「拓海を生かすための歌」を聴かせてやるからすぐに戻れと命令する。慌てた拓海は走って駅に向かうが無理がたたり、道中で倒れてしまう。

妙な胸騒ぎを覚えた智篤たちは最寄り駅まで迎えに行く。すると悪い予感が的中し、救急車に乗せられる拓海を目撃してしまう。病院まで同行した二人は生還を信じ拓海のための歌を歌う。想いは届き、死出の旅路に向かうはずの拓海に生きる道が示された。しかし戻るための条件は彼の宝物である『声』を置いていくこと。苦渋の決断を迫られた拓海だが二人の想いに応えるべくその条件を呑み、生還する。

声を失った拓海のためにみんなで手話を覚え、居も移した三人はその後、原点でもある路上ライブを成功させ、新たなスタートを切ったのだった。

1.<麗華>

 ――で、どうする? 麗華の考えを聞かせてくれ。
 拓海の手話を読み取ったあたしは腕を組んでしばし悩んだ。

 大型連休に、新生サザンクロスで初めて行った路上ライブは大成功のうちに終わった。それについては何ら不満はなく、むしろ誇らしくさえ感じている。が、問題はそのあと。

 音楽事務所に呼び出されたあたしは、「いい加減ソロに戻りなさい」と言われるに違いないと身構えていた。ところが社長の口から飛び出したのはまさかの「サザンクロスでのメジャーデビュー」案。人づてに路上ライブの撮影動画を見た社長があたしたちの集客力をみて「売れる」と思ったらしい。

 これが二十代の頃の誘いだったらどれだけ良かったことか。あの時はあたしだけが引き抜かれ、それが原因でバンドは解散。メンバーには長らく恨まれることになったわけだが、三十数年が経った今になってあの頃望んでいた「メジャーデビュー」のお声がかかるとは皮肉なものである。

 これがただの、、、再結成後の話なら喜んで飛びついただろう。しかしあたしたちは拓海の病を機に集まり、彼の声の喪失を乗り越えてここにいる。自分たちの音楽を表現することの歓びを改めて知り、まさに今、新生サザンクロスとして出発しようとしているところへ「メジャーデビューしないか?」と言われても困惑するばかりだ。

 名を売りたいなら受けるべきだと言うことは全員が承知している。ただ、今のあたしたちの目的は内なる思いを表現することに尽きる。メジャーの世界に足を突っ込むと言うことは、自分の意志とはかけ離れた音楽作りを甘んじて受け容れることでもある。それが嫌でインディーズで活躍してきた拓海と智くんが首を縦に振るとは到底思えなかった。いや、あたし自身、今では彼らと同じ考えに至っている。プロデビューしてからというもの、多くの曲を事務所に言われるがまま作ってきたが、改めて聞き直してみると全然「あたしの思い」が籠もっていないのが分かる。自分の仕事用の音楽に納得できないままメジャーの世界に戻っても無意味なのは明らかだ。

 ではなぜ悩む必要があるのかと言えば、この誘いを断ることで何が起きるのか想像できてしまうからだ。端的に言えば「いじめ」が始まる。主要な音楽イベントには出られなくなるだろうし、悪評が流される恐れもある。そうなってしまえばあたしたちの活動は制限され、「世界征服」など夢のまた夢になるだろう。

「メディアの力とはそれほどまでに強大で恐ろしいものなのよ……」
 自分の考えをまとめ二人に説明すると、智くんも拓海も呆れたようにため息をつき、顔を見合わせた。

「今更そんなことを恐れる僕たちじゃないよ」

 ――そうだぜ。覚悟を決めなきゃいけないのは多分、麗華のほう。これからも俺たちとインディーズの世界でやっていくつもりがあるなら誘いを蹴って欲しい。事務所を通して出る仕事を断って路上ライブをすると決意した時のように。

「…………」

「インディーズにはインディーズのやり方があるし、僕らは金で買えないものを持ってる。音楽業界の圧力には決して屈しない」
 智くんの言葉に拓海も頷く。

 ――なんだかんだ言って、デビュー曲が一番良かったってアーティストは多い。……そう、誰でも最初は魂が籠もってる。だけど売れるに従って魂が抜かれてく。俺たちはそうはなりたくないし、麗華にももう、そういう道を歩いて欲しくない。……っていうか、俺たちを信じてるっていうなら何も怖いことはないだろう?

 二人の力強い言葉と目力を見てホッとする。
「やっぱり二人と一緒で良かった……。そこまではっきり言ってもらえたなら、こっちもすっぱり断れる」

 どのみち、路上ライブが済んだら事務所とは話し合う必要があると思っていたのだ。あちらはいい条件を提示してくれたが、仲間とともに「世界征服」を果たそうと目論むからには既存の組織との対峙は必至。たとえそれが業界の非常識であったとしても。

 二人の顔を交互に見ながら言う。
「あたし、事務所を辞める。社長には悪いけど、話をもらったことでメジャーデビューできるだけの実力があるんだって分かったし、実際に路上ライブでは手応えを感じたもの。辞めるなら今しかない」

 拓海と智くんは目を丸くしたが、直後ににやりと笑い合った。


2.<拓海>

 覚悟に満ちた表情が印象的だった。口には出さずともずっと以前からこの日が来たらどう動くか選択肢を用意していたに違いない。長年世話になった事務所からの「優しさ」を拒否し、インディーズでやっていくと宣言するのは決して容易たやすいことじゃない。しかし麗華には確かな実績がある。俺たちにもある。そこに人が居さえすれば、そして歌声とギターさえあればいかようにも出来ることを知っている。この自信はちょっとやそっとじゃ折れない。とりわけ死の淵から戻ってきている俺の場合は。

 やりたいことは全部やったつもりだった。死んでも後悔しないはずだった。だけどそれは俺個人の話で、俺と一緒に新しい世界を作りたいという二人の想いに応えていなかったと氣付いたのは死の間際。生還の代償に自分の声を差し出さなければならなかったのは正直辛かったが、二人の笑顔を目の当たりにしたときは悪い取引ではなかったかな、と思えたのだった。

 生きることの意味を知ったのもその時。ちっぽけに思えるこの命も誰かを喜ばせるのに役立っているなんて、死にかけなければきっと一生氣づけなかった。二人にはまだちゃんと伝えていないが、俺が世界に向けて発信すべきはこの氣づきだと思ってる。

 俺は智篤を小突き、手を小さく動かす。
 ――頼みがあるんだけど……。俺の代わりに歌ってほしい歌がある。

「拓海の代わりに?」

 ――ああ。麗華の綺麗な声よりお前の力強い声の方がイメージに合うんだ。……俺を生かした責任、とってくれるんだろう?

「そう言われたんじゃ断れないな……。オーケー。リーダーの頼みなら何でもするよ。で、どんな曲?」

 問われた俺は歌詞とメロディーを書いた紙を手渡し、早速ギターを奏で始める。心の中で歌いながらリズミカルに弾く。智篤が口ずさみながら身体を揺らす様子を麗華が微笑みながら見ている。

「とってもいい曲。確かにその歌詞なら、あたしより智くんの声の方が断然いいわ。ねぇ、もう一回弾いてみてよ。今度はあたしも一緒に弾く」
 麗華は俺たちの返事も待たずにギターを引っ提げ、音を合わせ始めた。

 俺たちの演奏に合わせて智篤が二度三度、同じ歌を歌う。聞けば聞くほど惚れ惚れする美声。ウイング時代は曲との兼ね合いもあって俺がメインでボーカルを務めていたが、「オールド&ニューワールド」をはじめ、智篤の歌が始まると誰もが「魂の叫び」を聴く体勢に変わったものだ。そんな智篤の才能を羨みながらも俺は文字通り喉をらして歌うことしか出来なかった。

 そんなことを考えていたら智篤の呟きが聞こえる。
「まだまだ歌いたかったんだろうね……。歌詞に君の、歌いたいという想いが詰まってる」

 確かに思いは込めた。しかしあくまでも延長戦に入った人生で思うことを俺なりに表現しただけ。完全に声を失った生活に慣れた今は、地声で歌いたいという氣持ちはだいぶ薄れている。その理由を手話で伝える。

 ――いんや。お前の声を通してちゃんと表現されるからなんの未練もねえよ。いまや、お前の声は俺の声も同然だ。俺たちゃ一心同体。そうだろう?

「なるほど……。それが声と引き換えに君を生かしたことに対する贖罪ならば、僕は君の『声役こえやく』を、君が死ぬまで続けなくちゃいけないわけだ。まぁ、いいさ。君の想いを感じながら歌えば自ずと君らしく歌える。……あ``ーあ``ー。そういうことならもうちょっと喉を潰した方がいいかな?」

 ――そいつはオススメしねえな。ほんとに喉を痛めかねない。

「冗談さ。君が声を失うのを目の当たりにしてるし、君と違って喉のケアをするのは僕の趣味だからな」

 その言葉を聞いて反射的に小突いたが、こうなったのはすべて自分に責任があるのも分かっているので、湧き上がってきた自分への怒りはギターに乗せて発散することにした。


3.<智篤>

 長きにわたる音楽人生でこれほどまでに穏やかな氣持ちでいたことはない。安定した心から生み出される音は優しく、そして美しく、三人での暮らしをより豊かにしてくれる。

 刺激が少ないからか、この頃は新しい音楽を作ろうというパッションが湧いてこなかった。そこへ拓海から、今の世に向けた「挑戦状」ともとれる曲を手渡され、にわかに昂揚こうようする。そうだ。この生活は新たな一歩を踏み出すために必要な、強固な土台。いつでも帰ってこられる「心の住み処す か」を足がかりに僕らは「世界征服」を始めなければならない。それがミュージシャンである僕らの使命。

「拓海。最後のところ、もうちょっと歌詞を足して歌ってみてもいいかな。どうせならもっと過激にしようぜ」

 ――おっ、乗ってきたな? もちろん、お前が歌いやすいようにどんどん変えてくれ。

 拓海は嬉しそうに手話で返した。ラストの部分に思いついた歌詞を加えて歌うと、大袈裟なくらいの拍手で歓びを表してくれた。

 ――サイコーだぜ。やっぱ、三十年この世を憂えてきた人間は違うな。うん、今のでいこう。

「じゃあ、歌詞を書き加えておこう。……それはそうと、タイトルが決まってないようだけど?」

 ――それなー。ちょっと悩んでる……。考えてるのは「叫びスクリーム」とか、「燃やせ、魂バーン・ユア・ソウル」とかだけど。

「なんか違うかなぁ……。シンプルに『コンパス』はどう? 羅針盤と書いてコンパス」

 レイちゃんの提案を受けて、歌詞を書いたついでにタイトルも書き加えてみる。その上で全体を眺めてみたら、何だかこれしかないような氣がしてきた。拓海もそう感じたようだ。

 ――パンチの効いたタイトルにしようと思ってたけど、アリだな。

「うん。僕もこれが良いと思う」

「ねぇねぇ。そういうことなら早速録音してみない?」

「オーケー」
 僕らは返事をして移動を始めた。

 三人で暮らすこの家には、転居に伴って改装した音楽スタジオがある。中古とはいえ、住宅の購入やリノベーションにはまとまった金が必要だったが、そのほとんどはレイちゃんが出資してくれた。メジャーの世界で活躍してきたお一人様の手にかかれば、地方都市の一軒家など安い買い物のようだ。しかしその彼女もいよいよ事務所を「卒業する」となれば、拓海の部屋で三人暮らしをしていた頃のように、貯金を切り崩しての生活も覚悟しておく必要があるだろう。

 それでも僕らはあえてインディーズでの活動を選ぶ。三人での楽しい日常があればいい。三人でいれば大抵のことはなんとかなるし、奇抜な広告で惹きつけなくとも僕らの声は必ず届くと確信しているからだ。

 録音機材は充実している。これもレイちゃんの財力とプロの目利きの賜物だ。凝った編曲は出来ないが、アコギバンドの僕らはむしろそれで勝負するつもり。それが証拠にギターは曲に合わせて使い分けが出来るくらいの本数を所有している。

 新曲「羅針盤コンパス」にふさわしいギターは「ギブソン」の「ソングライター」だろう。ポップな曲にはこいつが最適。拓海が迷わずそれを選ぶのを見て満足する。レイちゃんも拓海の選んだギターの音を生かすような一本を選択し、肩から提げる。

 二口ふたくちペットボトルの水を飲み、喉を整える。レイちゃんが機材の準備をし、合図のあとで拓海の演奏から録音が始まる。

声をなくした、歌手だけど
未練がましいミュージシャン
俺にはギターがあるからさ
こいつで思い、伝えんだ

曇りきったこの世界
歌とギターで晴らすまで
俺たちゃ歌い続けんだ

みんなが右へならえ、ったって
俺たちゃ絶対向かねえぞ
心の羅針盤はりに従って
自分の道、進むんだ

他人だれかの言葉にゃ価値がないって
気づいたやつから目覚め出す
「ホントの自分」の声、動き出す世界、
名もなき男の戯れ言ざれごとを聞いてくれ

##

声をなくした、歌手だけど
未練がましいミュージシャン
俺には仲間がいるからさ
みんなで思い、伝えんだ

腐りきったこの世界
歌とギターで晴らすまで
俺たちゃ歌い続けんだ

「頑張れ、やれば出来る」ったって
俺たちゃ限界、やれねえぞ
心が折れちまう前に
捨ててしまえ、常識を

あいつの言葉は嘘だらけだって
気づいたやつから目覚め出す
魂からの声、嘘のない世界、
名もなき市民おれら戯れ言ざれごとを聞いてくれ

渡されたコンパス
それってホンモノ?
針さす方にあるものは?
希望か、それとも、ぜ・つ・ぼ・う?
嫌なら言ってやろうぜ!
戯れ言ざ ごとを! たわごとを! 真実を! さぁ!

#(歌が聴きたい方はこちらの記事へ

 三人の息と想いが完全に重なるこの瞬間がたまらない。そして死の淵から生還した拓海の作った歌詞を朗々と歌える歓びに浸る。これぞ魂の叫び。社会に対する挑戦状。聞いた人が「危険な思想だ」と突っぱねたって僕らは何度でもどんな場所でも歌う。僕らの声という楽器、そしてギターがこの手にある限り。

「智くん、とっても活き活きしてる。サザンクロスのメインボーカルは智くんで決まりね!」
 一回目の録音を終えるとレイちゃんが興奮気味に言った。
「あたしの所属する事務所の社長は悔しがるでしょうね」

「これで三十年越しの恨みを晴らせる。どんなに金を積まれても僕はノーと言い続けるよ」

 端からは大チャンスに見える誘いをあえて蹴って悦に入る……。自分で言っておいて何だが、ライトノベルの主人公の台詞っぽくて笑える。実際には相手が悔しがろうがどうしようがどうでも良い。年齢を重ねた僕らが求めるものはもはや金でも名声でもない。魂の叫びを通して人々の覚醒を促すことだ。立ち上がる人を増やすことだ。

「これ以上、神聖な音楽をけがされてたまるか。利用されてたまるか」
 言い放つとレイちゃんは目を伏せ、小さくため息をついた。

「……拓海の歌詞と智くんの言葉……。二人の熱い想いを知ったらこれまで書いてきた曲を書き直したくなってきちゃった。ああ……。あれもこれもみんな……」

「レイちゃん……」

「この年にもなれば若い頃の作品なんてみんな不出来に感じるもの。そうじゃない? ああ、そのままにしておくなんて恥ずかしすぎる……! よーし! 『羅針盤コンパス』の録音を終えたら早速着手するぞー!」

 そんなことを言うレイちゃんの容姿が「若い頃」なのでそのギャップに再び笑いが込み上げる。だけど僕は一皮むけたレイちゃんが好きだ。拓海も嬉しそうに手を動かす。

 ――じゃあさ、麗華の若い頃の作品もイイ感じに編曲できたら、「羅針盤コンパス」と一緒に路上で披露しようぜ。反応が良かったらライブハウスでも歌えばいい。

「だね! それじゃあもう一回、『羅針盤コンパス』弾こうか!」

 彼女にとびきりの笑顔を向けられた僕らも満面の笑みを返す。穏やかな日常。しかしこんな日々はこれきりになるかもしれない、と心のどこかで思う。歌とギターを引っ提げて闘うと決めた僕らにはおそらく想像を超える試練が待っている。それでも、歌を聴いた人たちの笑顔を取り戻すために僕らは立ち上がる。たとえ僕らから笑顔が消えることになっても……。


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※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。

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