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小説「LOVERS」星の欠片編① 芸術家の魂が重なり合い「共同創造」が生まれたとき

4月7日より、小説「LOVERS」シリーズ 〜星の欠片かけら〜、スタートです。

本作は、これまで芸術だけで繋がってきた画家のさくらとピアニストのリオンが、真に魂を一つにする試みの中で生まれた「地上での奇跡」を描く物語です。




🌸登場人物紹介🌸

さくら(34):
即興画家ライブペイントアーティスト。リオンと共にライブパフォーマンスユニット「SAKUR(ai)o'nサクライロ」を組む。東京で活動していたが、現在は福岡の田舎にアトリエを移し、誰もが自分らしくいられる癒やしの場「ワライバ」を併設している。リオンには運命的なものを感じているが、恋人として交際はしていない。また両親が、お互いが自由に生きるために離婚を選んだこともあり、相手が誰であれ、生涯結婚はしないと決めている。


リオン(23):
即興ピアニスト。さくらと共に「サクライロ」という名でユニットを組む。さくらのことを敬愛しており、彼女同様、この出会いに運命を感じている。かつてはさくらと「金と魂、どちらを取るか」で口論になったこともあるが、魂の存在や重要性を知って以来、富や名声に全く興味がなくなってしまった。共鳴を何よりも重んじる彼は、響き合える存在であるさくらを誰よりも大切に想っているが、恋人にするつもりはない。


🌸物語の舞台、湖畔脇に佇む癒やしの場「ワライバ 」とは?🌸

福岡のとある田舎町。畑やのどかな自然が溢れるその場所の湖畔脇に「ワライバ」はひっそりと佇んでいる。そこは、表現者たちがそれぞれの才能や得意を持ち寄ることで成り立つ、アーティスティックな場所。既存の価値観や金銭による交換を超えた、新しい時代の癒やし場である。

「ワライバ」では、いわゆる “常識” ――保身のために社会的ルールを守り、やりたいことを我慢すること。また、自分の才能を切り売りして稼ぐこと。両親が揃っている家庭は幸せである、と言った考え――が通用しない。「何者でもない自分」で自由に自己表現できるのがここの最大の魅力であり、ちょっぴり変わっているところ。

このような場所にある「ワライバ」をイメージしながら読み進めてみてください!



<さくら>二人の幸せから生まれる「共同創造」への戸惑い


 雲ひとつない青空。降り注ぐ太陽の日差しは、晩春にもかかわらず既に真夏を思わせる暑さだ。けれど東京と違い、自然の多いこの場所は吹く風に丸みがあって肌に優しい。それだけでも涼しさを感じる。

 ワライバを中心としたコミュニティーが少しずつ大きくなってきた。最初から一緒にここを育ててきた人は、私とリオンくんが “恋人同士ではないけれど、仕事仲間以上の感情を持っている、きょうだいのような間柄” という、表向きの関係性を受け入れてくれている。

 けれど、最近ここに入った人の中には「どうして二人は交際しないの?」と面と向かって言ってくる人もいる。四六時中一緒にいられるってことは、お互いに好きなんでしょう? と。

 彼らだけではない。口では「理解している」と言っている遠方の親戚やリオンくんのきょうだいでさえ、私たちを見て「恋人同士が同棲してるのと変わらないね」という。「末永くお幸せに」なんて、無理解な台詞を吐いてくることもある。

 確かに一般的な感覚では、私たちはどこからどう見ても恋人同士。けれど私もリオンくんも、世間一般の「恋人」という枠を遥かに超えた存在として互いをみている。もちろん、「好き」か「嫌い」かと問われれば「好きだ」と即答するし、実際のところ体の関係も持っている。だがそれは、魂の融合を信じ、細胞レベルで一体になるため。快楽や生殖を目的とした逢瀬ではないのだ。

 とはいえ私だって、かつてはこの想いをなんとか彼に伝えようと、「愛してる」や「大好き」という、使い古された言葉で表現しようと何度も試みた。それが、愛する人に自己の想いの深さを伝えるための、最大級の言葉だと思っていたから。けれどもそのたびに違和感を覚え、口をつぐみ、結局一度も言わずにここまで来てしまった。今ならその違和感の正体がわかる。私のこの想いは、それらの言葉が含有する愛の量では収まりきらない。だから言えなかったのだ、と。

 どれだけ愛の言葉を囁かれても響かない。肉体を重ねても満たされない。もしそういう人がいるなら、それは眼の前の人との共鳴がないからだと思う。生きている世界線も違う。そこに苦しさを感じているなら、別々の道を歩いていく決断も必要になるだろう。

 私とリオンくんは同じ、“夢という現実” を見ている。言葉はいらない。互いの芸術を差し出せば、それがそのまま相手に届く。重なる。それだけで成り立つ世界がここにある。芸術家にとってそれは、本能のまま肉体を重ね合わせることよりもずっと快感を覚えるものだ。

 私たちが絵と旋律で人々を救おうとするたびに――ワライバという居場所の規模が拡大すればするほどに――、私たち二人の世界はより小さく凝縮していく。閉じていくのではない。むしろ内側に、無限に拡大していくイメージ。そこは他の誰の立ち入りをも許さない聖域。幾千年も前にしてきた旅をさかのぼり、互いの歴史を共有し、最後には魂が一つだった頃に還る。その瞬間を夢見ながら、私たちは芸術活動の傍ら日々を生きている。


◇◇◇


 二人きりのアトリエや、しんと静まり返った夜のワライバ、あるいは精神の世界で……。互いの氣持ちが一致した時、私はリオンくんの前世の記憶をインストールするように体を重ね合わせる。回数を重ねるたび、行為を終えたあとも彼と繋がっている感覚が強くなっていく。それはこの肉体が本能的に彼を求めていると言うよりは、細胞レベルでの共振が起きていると表現するほうがしっくりくる。

(私、絵描きで良かった……。)

 最高の至福の時を味わっていた私。けれどその幸福感は、“とある小さな変化” によって一氣に現実に引き戻されることとなる。


◇◇◇


 生理の遅れに氣付いたのは、木々に茂る若葉色の葉が深緑色に変わる5月の終わりのこと。

 はじめは、周期が不安定になることもあると高をくくり、放置していた。しかし、とっくに来てもいいはずの生理が予定より3週間も遅いと流石に心配になる。まさかと思いつつも妊娠検査キットで調べてみると、陽性反応が出た。ドラマのワンシーンのように、目を丸くして口元に手を当てる。

 最初に浮かんだ言葉は「どうしよう」だった。もちろん、自然な形で愛し合えば、いつかはこのような結果になることはわかっていた。けれどもいざ妊娠してみると、私にはその覚悟がなかったことをまざまざと思い知る。

 一度外に出る。庭では、私の憂いなどお構いなしと言った様子で鳥たちが歌い、草花が風に揺れる。何度か深呼吸をすると、不安が少しずつ収まってきた。

(そうだ。これは私だけの問題じゃない……。)

 冷静さを取り戻した私は、一旦現実を受け入れ、リオンくんにありのままを話そうと決めた。


***


 彼はいつもどおり、一人きりの部屋――畳敷きのアトリエ――でピアノを弾いていた。彼が私の氣配に氣づいて演奏をやめるのを待つ。最後の一音を弾き終えた彼は、しばらくそのままの姿勢を保っていたがやがて静かに振り向いた。

「……今日のさくら、いつもと違う。何かあった?」
 やはり彼には嘘がつけないと再認識する。私は彼の横に立ち、腹部に手を当てた。

「赤ちゃん、出来ちゃったかもしれない」
 彼は目を見開き、息を呑んだ。

「そっか……」
 つぶやいた彼は私の腹部に右手を添えた。それ以上は何も言わずに。

 長い長い沈黙の時間が流れた。しばらくしてようやく、彼がポツリとつぶやく。

「……おれ、すごく嬉しいよ。だって二人の、最高の共同創造がさくらのお腹で結実したんだから」
 私はその言葉に救われた。




<リオン>孤独な芸術家のもとにやってきた魂に思いを馳せて


 相思相愛ではあれど、恋人ではない、結婚するつもりもない女性と交わって孕ませた――。

 一般常識に照らせば、おれはその責任を取る形で結婚し、さくらの夫と子供の父親になるのが “普通” であろう。だけど、少なくともおれはその常識の枠にはまりたくないと思ってる。責任逃れしたくて言ってるんじゃない。さくらもおれも、互いの自由を何よりも尊重したいと願っているのに、公に夫婦になることを宣言すればきっと、どこに行っても、何をしても「リオンの妻、さくらの夫」として扱われることになる。それはすなわち、芸術家としての「個」の消滅であり、三次元世界の住人として生きることを進んで受け入れることと同義。それはおれたちの望むところではない。

 二人の精神、魂、細胞レベルでの記憶が一つに結びついた、その高潔な命を、単なる生殖行為の結実として処理したくない。だって、孤独な芸術家として癒やしあったおれたちのもとに、わざわざ生まれたいと願う魂がやってきたんだぜ? これ以上に素晴らしいギフトなんて、他にはないだろう?

 だったらこの「星の欠片」みたいな生命を、おれたちらしく育てるのがセオリーってもんじゃないのか?

 そう思う一方で、やっぱり心配なこともある。ワライバを囲む集落で生まれたいくつかの生命を見ていてわかったこと。それは、生命力の塊である赤ちゃんの存在感と無力さに、大人が付き合わなければいけないということ。

 このまま妊娠が確定し、お腹の子が順調に育ち、無事に生まれた場合、さくらは一時的に自分の芸術と向き合えなくなる。そうなった時、彼女の芸術性が失われてしまうんじゃないか。創造性が弱まってしまうんじゃないか。それだけが、怖い。だってそれは、おれの芸術をもってしても補うことができそうにないから。

 さくらに告げた言葉は本心から出たものだ。親になることに関しても、何らためらいはない。その生活を想像することはまだできないけど、おれたちならきっと乗り越えられると信じてる。

 おれの言葉を聞いたさくらは安堵の表情のあとで涙した。その涙を指で拭ってやりながら言う。
「子供いらないって言うと思った?」

「だって私たち、付き合ってもないし、結婚する氣もないでしょう……?」

「子供が出来たら結婚する、ってのはワライバの “外” のルールだ。そりゃあ、後ろ指を差されることもあるだろう。でも、芸術家には芸術家のやり方がある。周りの声を氣にしてたら芸術家として生きてなんかいけない。そうだろう? さくらとおれの付き合い方や子育ての仕方は、誰にも口出しさせない。ワライバのみんなも巻き込んで、おれたちだけの世界を作ればいいさ。大丈夫、ここは芸術家の集い場だ。きっとなんとかなる」

「ありがとう。リオンくん……。ほんとにありがとう……」

「礼を言うのはこっちの方だよ」

 さくらの絵に向き合う姿勢がおれの生き方を変え、その包容力が孤独だったおれを癒やしてくれた。だから彼女がいなければ、今のおれはいない。生きてすらいなかったかもしれない。

「大丈夫、おれがそばにいる。さくらの苦しみはおれの苦しみ。さくらの喜びはおれの喜び。なんでも分かち合おう」

 再び泣き出しそうなさくらを引き寄せ、抱きしめる。彼女の涙を受け止められるのは、魂の片割れであるおれだけ。その自負だけが、この現実を支える。


第2話「魂で感じる星の欠片の鼓動」はこちら


↓ 二人が福岡で「ワライバ」を作り上げるまでのお話。

前作「LOVERS」サクライロ編はこちら ↓


<注:ただの恋愛物語ではありません!>

本作は、恋人や夫婦という「所有し合う関係」を結ばずに愛し合い、子供を生み育てることが出来るのか? その際、芸術家としての純度を保ち続けることが出来るのか? そのような難しいテーマに向き合っていくお話です。アットホームな家庭物、恋愛物ではありませんので、軽い氣持ちで読みたい方はご遠慮ください。


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