ラサフラメナ〈10. 任務〉
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フラメナ寺院・書院の一室。
初火の儀の翌朝、空気はまだ湿っている。
白い帳が風に揺れる静かな部屋。朝の香が焚かれ、煙が天井へと細く立ち昇っている。
ジェイドは静かに座していた。
そこへ、グル・ユラが現れる。香煙を裂くように、滑るような足音で。
「⋯⋯座っていていい」
静かに言って、師も対面に座る。
ジェイドは礼をしながら、どこか予感のようなものを感じていた。
「アーシャは、無事、火を渡したな」
「⋯⋯はい」
「君も、火を抱いていたな。瞳の奥に」
グル・ユラはそう言って、小さく微笑んだ。
しばし沈黙があり、次の言葉がゆっくりと降りてくる。
「ジェイド。君には、次の任がある」
グル・ユラは一枚の布に包まれた書簡を差し出す。
封蝋にはザフール星天都市の星章が押されていた。
ジェイドは書簡を受け取った。
「アーシャは、火を渡した。霊的には、もうひとつの門を越えた者だ。
これからは"誰かの兄"としてではなく、未来を託す者として、君自身の火を燃やさねばならない」
ジェイドは、ゆっくりと視線を上げた。
その瞳に宿っていたのは、覚悟だった。
―薔薇月の満月から5回目の満月を超えた頃、ザフール星天都市にて―

⋯⋯時は流れ、ザフール星天都市から見上げた五回目の満月。
ラサフラメナからの幼い留学生たちは、少しずつこの都市の雰囲気やルールに慣れてきているようだった。
ザフールの人間はみな食が細く、食べ物屋もあまり充実はしていない。
「カルダモンとラキ・グラハの、故郷のパンが食べたい」と泣き出してホームシックになっていた留学生もいたが、徐々に新しい風土に慣れていき、現地の人間ともコミュニケーションを取れるようになっていた。
ジェイドは、ザフールに着いてからパタリと夢を見なくなっていた。
「うう、あの宴会の日の二次会で濃厚接触しちゃったのがまずかったか…」
「何言ってんのよ。ほら、おかゆ」
ノアリは世話になっている下宿の一室で、横たわるセナに寄り添っていた。
ザフールの人々は気難しい。
あまり雑談も好まない傾向はあるが、ラサフラメナからの留学生たちの勤勉さや、元留学生のジェイドの粘り強い細やかな交流の甲斐もあり、同じ宴を囲むまでになっていた。
セナは流行り病に倒れていた。
ザフールは清潔で、比較的流行り病に対しての対応も早い方だったが、それでも徐々に都市内で蔓延が広がっていた。
「私はセナを放っておけない」
そう言ってノアリはセナを看病し、ラサフラメナへの帰還も遅らせることにした。
ザフールでの留学のサポートを終え、当初は三人で帰還する予定だったが、セナがこの有り様のためジェイドだけ先に帰還することになったのだ。
留学生たちが故郷の大切な人たちに宛てた手紙や、贈り物も一緒に抱えて。
「道中、気をつけてくださいね。ジェイド」
「ありがとうノアリ。先に帰るが、セナとみんなをよろしく頼むよ」
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