巨椋池展ー京都大学淡水生物研究会
1.初めに
おはようございます。こんにちは。こんばんは。IWAOです。京都大学が学祭を開催している期間で、京都大学内にあるサークル、淡水生物研究会の展示ブースへ行ってきました。どのような展示が行われていたのか、何が展示されていたのかについてここで書いていきます。よろしくお願いします。
2.京都大学淡水生物研究会とは?
まず、この京都大学淡水生物研究会とはどのような団体なのでしょうか?京都大学の学生を中心とした淡水生物が好きの集まりです。湿地帯を中心に生き物の採取や研究を行い、知識を広げます。生き物を採取する場所は、京都府だけではありません。日本各地へ採取へ行きます。その時の活動の内容が、サイトや会誌である『疏水』に記載されます。ただ、生き物を採取し、楽しむだけの活動だけではありません。フィールドワークなどで発見したことを世の中へ発表することも行っております。『疏水』という雑誌での記載だけでなく、実際に「論文」として研究成果も発表するという研究活動も兼ねた活動を行っております。後ほど、どのような研究を行ったのか、その詳細を書きますが、かなりすごい発見をしています。
京都大学淡水生物研究会で注目される活動の一つに『鴨川の魚図鑑』が注目されます。鴨川に生息する全65種の淡水魚を記録し、解説をしているものになります。図鑑は、鴨川は、どのような川になっているのかが地図で説明されていおり、鴨川とはどのような川なのか、非常に分かりやすかったです。また魚の分類をさらに絞るための検索表がつけられ、大体の目星がつけやすい、条数での比較、似ている種との比較などが行われ、日本の淡水魚に詳しい人だけでなく、初学者がみても分かりやすく作られています。「水系」または「地域」を単位とした図鑑はあるようでないのが、実情になるので、貴重な図鑑であるといえます。また、過去の鴨川に生息していたもの(Ex:ニッポンバラタナゴ)、外来種として定着したもの(Ex:ブラックバス)、長い時間を経て再発見されたもの(Ex:ツチフキ)も図鑑として載っています。鴨川の生物の過去と現在を見ることができるということであり、今生きているものだけでなく、過去の鴨川についても細く調べられている図鑑であり、非常に完成度が高いです。

その時に、実際に購入したものです。

3.展示構成ー巨椋池とはどのような池か?
まず、巨椋池とはどのような池でしょうか?京都府南部で桂川、木津川、宇治川の三川が合流になり、コイ、フナ、モロコなどの魚類では43種、ヨシ、マコモ、ハス、ヒシなど水生植物は150種が確認され、渡り鳥を含む多くの野鳥が集まる場所でした。ただ、巨椋池は歴史的に改修工事を受けることが多く、1900年代から工事が本格化し、1933~1941年の国営干拓工事により干陸化し、634haの水田となって1941年の国営干拓工事により干陸化し、634haの水田となって巨椋池は姿を消しました。

ここで展示の構成は、サークルのメンバーによって実際に捕まえられた生体とそれをもとにして作成された標本が中心を占めていました。その生き物は、池で実際に生息していたことが確認されているものが中心となります。また、メンバーが描いたイラストをもとに生物の解説ボードとなっています。どこにどのように分布しているのか、どこが特徴か、似ている生物と見分けるポイントがどこにあるのかが、パネルとしてかかれています。パネルで使用している絵が非常に上手い上、生物用語の解説は、初学者だけでなく、知っている方にもなるほどとうなづけるように文章が練られていました。ここでは、種分化、婚姻色、両側回遊についてパネルで解説されていました。サークル活動であるため、私もですが、非常にコアでマニアの世界に入り込むような展示になると思っていましたが、それは間違いで、誰もが入りやすい淡水魚への入口の展示になっていたと思います。非常にわかりやすい展示構成でした。



パネル展示の中で1番面白かったのが、琵琶湖のヨシノボリの分布図と交雑関係です。そもそもヨシノボリは、純淡水から回遊するものまで幅広い生活環を持っており、その関係性が非常に複雑です。生活環だけでなく、多種との関係性が、交雑で分かります。少しの種で交雑があるとは言えない複雑さに驚きました。特に、「シマヒレ×オウミ×ビワ」の3者関係での交雑は、初めて知りました。「オウミ×ビワ」では、交雑はできないのですが、シマヒレを介することで3者での交雑が可能だということです。自然下で交雑はまず起こらないことなので、ここまで複雑な交雑がヨシノボリで発生することに驚きを隠せません…


一番よく見られるヨシノボリ
過去のガサで採取したもの
展示されている標本でも注目されるものがあります。それは、「ボラ」と「ワタカ」です。ボラが注目される理由は、「回遊」になり、巨椋池と海が繋がっていたことを示す証拠です。そもそもボラというと海と汽水のイメージがありますが、彼らは、意外にも遡上します。過去の記憶でですが、内陸にできた貝塚からスズキの骨が出てきたことを記憶しています。また、河口から巨椋池まで30kmあります。貝塚やこの距離を考えた時、ボラの遡上能力が非常に高いことが分かります。また、過去にはモクズガニもいたのではないかとされています。ワタカは、過去の生物の記録としての存在です。現在、ワタカが生息しているのは、移入を別に琵琶湖とそこと直接繋がっている水系です。元からいたのか、琵琶湖と淀川を回遊しており、登ったのか、または降りてきたのかは分かりません。巨椋池が存在していた時、どのような生き物がいたのか?それが、過去の標本から見えるものでもあります。



彼らは川と海を行き来する
4.展示生物
巨椋池を中心とした琵琶湖・淀川水系に生息している魚の生体を展示しています。最初に出迎えてくれたのは、タナゴとフナの水槽です。タナゴは、イチモンジタナゴ、ヤリタナゴ、アブラボテ、フナはギンブナとゲンゴロウブナが展示されていました。

この水槽で注目される生き物は、「ヤリボテ」、ヤリタナゴとアブラボテの交雑です。ヤリタナゴらしい赤みとアブラボテらしい黒みが混ざった中間的な個体です。ここで安心して欲しいのは、この交雑個体は、環境問題の発生を示す個体ではないことです。交雑というと中国と国内のオオサンショウウオでの交雑、タナゴでいうとニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴなどと「外来種と在来線」の間での交雑がイメージされますが、ヤリタナゴとアブラボテは、京都では「自然分布域」です。つまり、「自然現象」として発生している交雑であるということです。採取者も初めて採れた個体で驚いたと話していました。自然分布域での別種同士の交雑は、発生しないようで意外にも発生しています。例えば、オオクワガタとコクワガタのオオコクワ、ヒドリガモとアメリカヒドリガモ、マガモとカルガモ、シマドジョウとスジシマドジョウ…など自然下で発生している例が多いです。ただ、どこでもどの生き物でも交雑が頻繁に発生しているわけではないので、レアな事例であり、外来種問題と合わせて考えるとより見えてくるものが、深くなると思います。

私も初めて見た

筆者撮影
*追記(2025/12/30)
田舎のきりんさんという方の動画で、ドジョウの交雑についての動画がありました。ニシシマドジョウとオオガタスジシマドジョウの交雑ではないかと思われる個体です。「体側の模様と尾鰭の基部の模様」がニシシマ、「胸鰭基部の骨質盤が丸い」ことがスジシマ、そして、背中の斑紋の間隔が狭くスジシマ寄りということで、本動画のドジョウは、交雑種であると考えています。本動画は、スジシマドジョウとシマドジョウの交雑が取れたという動画だけでなく、両者をどのように見分けるのか、その比較が非常に丁寧に作られ、見やすいです。そちらを理解するためにも見てほしい動画でもあります。
*田舎のきりんさんは、ガサガサや飼育動画を日本淡水魚を中心に出しています。私自身も勉強にしているチャンネルなので、特に日本淡水魚好きの方ですが、魚や生物が好きな方にお勧めのチャンネルです。
外来種との交雑の何が問題かについてか過去の記事で詳細を記述しているので、交雑についてより知りたい方は、こちらも是非、ご覧ください。
鴨川で採れた激レア種についても紹介されており、それが、ズナガニゴイです。鴨川では年に2〜3回採れないものです。ニゴイは、ニゴイに加え、コウライニゴイとズナガニゴイがいます。その3種の中で一番小さいニゴイです。近縁のコウライニゴイと比較したら、黒点が少ないのが、彼らの特徴です。彼らが採りにくい理由は、まだあり、それは、「採取の難しさ」です。川の流心、流れの真ん中にいることが多いため、そこから外れるものが、なかなかいないのも激レア種としている所以になります。
また、ヌマムツも注目されるべき生き物です。ヌマムツに似た生き物としてカワムツがいます。名前の如く、生息地が違うため、別種となります。カワムツと比べた時の違いは、生息地となり、流れの強い所にいるのがカワムツ、流れが緩やかな所にいるのがヌマムツになります。体でもその違いが現れます。側線鱗数がカワムツだと51本に対しヌマムツで53本、臀鰭の条数がカワムツで10本、ヌマムツで9本となります。正直、よく見ないと分からない特徴です。ただし、いちばん分かりやすいのが、オスです。どちらもオスは婚姻色を出し、赤いです。ただし、カワムツだと体の下の面が赤くなるのに対し、ヌマムツだと胸鰭まで赤くなります。このようにヌマムツには、カワムツと比較したときに多くの違いがあります。ヌマムツが注目されるべき理由は、巨椋池の主要な生き物だったかもしれないことです。池であり、あまり流れの激しくない環境下だったことを考えれば、彼らが多くいたことは、想像に難くないと思われます。また、鴨川にはあまりいない生き物でもあります。




また、ヨドゼゼラも見るべき生き物です。本来は、ゼゼラとして見られていたのですが、体高・尾柄高やオスの胸鰭の追星の数などで違いがあることから、ゼゼラとは別種になると判明しました。名前にある通り、ヨドゼゼラは、淀川水系にしか生息しない魚です。体長も5㎝ほどとあまり大きくなく、派手ではないです。しかし、彼らは、淀川水系にしか生息しない貴重な魚であるため、彼らにも注目されるべきだと思います。ツチフキやカマツカと比べたら、頭が丸っこいです。


*新種の発見、種が分かれるということについて詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
*ヨドゼゼラについてこちらにすごい活躍をした方の話があります。こちらも是非、ご覧ください。
5.研究発表
実際に、京都大学淡水生物研究会が執筆した論文があり、そちらも自由に読めるようになっていました。ただ、論文が置かれて読めるようになっていただけでなく、執筆された論文と合わせた生体の展示が行われていました。

*下記のリンク先から、過去の研究の論文を読むことができます。今回、紹介させていただいている内容についてもこちらからアクセスできます。また、論文著者のコメントもついているので、そちらを読むのもお勧めです。
研究という意味あいもあって注目されるべき生物は、「オオガタスジシマドジョウ」です。彼らは、一般的に言われることとして、琵琶湖と直接繋がっている河川に生息するスジシマドジョウです。彼らは、ドジョウの中でも、そして、スジシマドジョウの中でも特殊な生態を持ったドジョウです。それは、「生活史」に違いがあることです。琵琶湖沿岸に生息し繁殖期に流入河川や水路に遡上する「遡河回遊型」と、流入河川に周年にわたって生息する「河川型」の2パターンが存在します。何故、このような違いが生まれたのか、両者でどのような違いがあるのか、まだまだ分かっていないことばかりです。また、オオガタスジシマドジョウは、シマドジョウ2倍体とビワコガタスジシマドジョウのオスの交雑から生まれた非常に異質な種であるのではないかとも考えられ、色んな意味で謎だらけのドジョウです。そして、2022年に、琵琶湖からかなり離れた「京都淀川水系」で生体が発見されました。京都は琵琶湖から見れば、下流です。そして、琵琶湖の下流域での発見は初めてです。よって、この発見された個体が、たまたま流されたものであるのか、外来種として移入個体か、下流での「在来個体群」か、様々な可能性が示唆される発見でした。そして、今年の発表では、どのパターンに当たるのか、その可能性について言及されていました。こういうイベントでないと分からないものだったため、これを知るだけのためでも行く価値があったと思います。
オオガタスジシマドジョウの発見された場所では、チュウガタスジシマドジョウも生息しており、彼らも展示され、その中には交雑個体ではないかというも個体もいました。シマドジョウの交雑は聞いたことがありましたが、本物は始めて見ました。





チュウガタの場合、2~3列の模様となるが、本個体には見られない。

*恐らく発表されてないであろう情報が記載されていたため、筆者の判断で隠しています。
*京都で発見されたオオガタスジシマドジョウの論文
一番最新で注目される研究成果は、京都盆地での外来種のドジョウがどれくらい侵入しているのか?についてです。まず、ドジョウは、河川改修や水田の乾燥化・減少によって、減少し、現在は環境省レッドリストで絶滅危惧ⅡB種に指定されています。貴重な生物になったドジョウですが、そのドジョウが、日本の土着の在来のものではない可能性も大きいということです。在来系統と外来系統では、背鰭の条数の本数や鰭の長さの比較などで形態的に区別することは可能で、そこから外来系統がどれだけいるのかが調べられました。

我が家の飼育個体


調査結果は、盆地内の河川、特に、下流域では外来系統にほぼ置き換わり、在来系統が上流域で優占的に棲息しているものの、盆地内では局所的に生存できているという状況です。外来系統が優占している場所では、外来系統のドジョウの直接的な放流が行われていたのではないかとされています。しかし、上流部に在来系統のドジョウが比較的多く残っており、その原因として、河川の途中に渓谷部があり、それが外来系統のドジョウが遡上する障壁となっているからだとされています。つまり、京都盆地の在来系統のドジョウは、地理的要因によって助けられているという現状です。
私は、大坂の在来系統のドジョウと比べれば、残っている場所が多いため、京都のドジョウには希望があると感じました。しかし、残念な発見もありました。それは、「始めてカラドジョウが確認された」ということです。カラドジョウは、朝鮮半島、中国、ベトナム、台湾に生息する国外外来種となります。ドジョウと比較した時、尾柄部が尾ビレから膜状につながり尾柄高が高い点、ヒゲが長い点が挙げられます。また、ドジョウと比較した時、ドジョウの方が細長く、カラドジョウの方がずんぐりとしています。説明からもカラドジョウとドジョウは、全く形質が異なることが分かると思いますし、両者は属レベルで違います。つまり、ドジョウとカラドジョウは、完全に別種です。外来系統のドジョウの場合、交雑によって、在来系統がいなくなることが問題です。ただ、カラドジョウの場合、ドジョウそのものを追いやりつつドジョウと混ざることが分かっています。つまり、「競合」と「交雑」の両方を引き起こすということです。特に、競合が酷くカラドジョウに侵入されたことで、ドジョウが消滅した例が確認されています。ドジョウを外部から内部から破壊する非常に脅威的な外来種であるということです。そして、確認されたカラドジョウは、6㎝ほどと小さいため、実際に定着しているということになります。京都盆地のドジョウは、「外来系統」と「カラドジョウ」の2つから脅威にさらされているいうことが、今回の研究調査によって、明らかにできたということです。

*先程のオオガタスジシマドジョウ、ドジョウの在来系統、外来系統についてこちらのブログでその詳細を書いています。より詳しく知りたい方は、こちらを是非、読んでほしいです。
最近、再発見されたツチフキについても京都大学淡水生物研究会が、一役買いました。1978年を最後に生息が確認されなかったツチフキを38年ぶりに再発見しました。その時のものかもしれない…という個体の標本が展示されていました。また、実際に採取された生体も展示されていました。その後、大坂の淀川水系においてもツチフキが再発見され、たまたま見つかったわけではないと思われるように見つかっています。
ツチフキが急に今になって見つかるようになった原因は、「よくわからない」が正確な解答になるのですが、ある2つの要因が重なったことで、個体数が回復したのではないかと言われています。それは、「外来種の駆除」と「気候変動」です。淀川では、ブラックバスなどの外来種の駆除が行われ、行われなかった所と比べた場合、在来種種数・個体数が増加していることが確認されています。一方の気候変動は、日本が暖かくなったからではなく、台風などが日本に来やすくなったことで、雨が激しく降ることで、水位変動が発生し、それが、ツチフキの産卵しやすい環境を創出したというものです。人為的な要因と非人為的な要因が絡まって、ひっそり生きていたものが、回復・再発見に至ったのではないかということです。執筆された論文にでは、再発見されたツチフキはどのような系統関係にあるのか、現在の生息地の状況などとここでは書ききれないことがたくさん知れます。リンク先を張るので、そちらもご覧ください。

写真の個体は展示個体ではないが、佐賀県で採取されたものが展示されていた


*ツチフキの再発見に関する論文
*ツチフキの再発見について過去にブログを書いています。再発見をどうとらえるのか?見つかってよかったで終わっていいのでしょうか?それを考えるために読んでほしいです。
6.まとめ
以上が、京都大学淡水生物研究会の展示となります。今年は、魚類学会と重なってしまったため、縮小した展示を行ったのですが、非常にレベルが高かったと感じます。テーマは巨椋池の魚で、過去に存在した池にどのような魚がいたのかを主軸に展示されていたのですが、これは、同時に京都にはどのような魚がいるのか?を知ることのできる展示になり、2重に学べる展示だったと思います。サークルということもあり、奥深いマニアの世界に入り込む展示になっていたのではないかと思っていたのですが、それは、間違いでした。こだわりがありつつもだれが見ても分かりやすい展示の構成になっていたと思います。それがよく表れたのが、解説ボードです。初めて知る人に対して書かれたものとなっており、絵が上手いだけでなく、文字も少なくどのようなことなのか、どういう特徴があるのか、的確なものが作られていました。また、展示されている生体も非常に多く、ヤリボテを始め見れて良かったと思えるものが多かったです。マニア、アマチュアの誰が見ても楽しめる展示になっていました。去年のヨシノボリ展は、規模も内容も非常に良かったと聞いています。来年以降で、そのような展示を見てみたいと思います。
以上になります。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。次回もお楽しみに。
リンク先
京都大学淡水生物研究会のリンク先を張ります。興味が湧いたら、こちらをご確認ください。
